私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

頌歌 ―不死なる幼きころに 七連目① および雑文[時事問題]

2013-11-28 16:50:07 | 英詩・訳の途中経過
Ode:
Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood

William Wordsworth

VII [ll.86-90]


Behold the Child among his new-born blisses,
A six years' Darling of a pigmy size!
See, where 'mid work of his own hand he lies,
Fretted by sallies of his mother's kisses,
With light upon him from his father's eyes!



頌歌 ―不死なる幼きころに

ウィリアム・ワーズワース

VII[86-90行目]
 

幼きものをしかと見よ 生のはじめのことほぎを
七つにみたぬちっぽけな 愛でのさかりの身のたけを
みずからの 手による技にかこまれて
母からの ふいの愛撫になやまされ
父のまみからそそがれる ひかりのなかに在るさまを


 ※86行目「生」はアレ、88行目「技」は「ワザ」です。



※以下雑文[時事問題]

 この場で述べることか迷いましたが、どうも心がもやもやするので吐き出させてください。
 多分にもれず、私もこのところ例の特定秘密保護法案が気になって仕方ありません。
 某新聞に載っていた法案全文を一応読んではみましたが……長すぎて、正直あまりよくは分からない。
 しかし、特定秘密を保持できる人物の適正評価の基準と、なにより処罰規定の二十四条とに、漠然とした不安を感じました。適正評価のほうは、本人以外の身内の経歴や思想傾向までが調査対象に含まれている点、処罰規定は情報漏えいの実行者のみならず、「扇動者」も刑事罰の対象に含まれている点。この二点は、万が一悪用しようと思えばどこまでもできてしまう気がするのです。[念のため、二十四条および二十二条を下記に引用します。出典は東京新聞のHP〕。

   第二十四条 第二十二条第一項又は前条第一項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、五年以下の懲役に処する。
         2 第二十二条第二項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、三年以下の懲役に処する。


   第二十二条 特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏らしたときは、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。
         特定秘密の取扱いの業務に従事しなくなった後においても、同様とする。

  懲役刑や罰金の軽重はこの際問題ではありません。問題は、「扇動者」あるいは「教唆者」の範囲が明確ではない点だと思います。ここに拡大解釈の余地があると、仮にいつか政府が利己的な情報統制に走ったとき、合法的に任意の人物を拘束できてしまう。私ももちろん今の内閣がいきなり治安維持法の再現をするとは思っていません。今現在、何らかの必要があるからこそ、倫理観のある良識的な人たちが手を尽くしているのだと信じてはいます。しかし、この先もずっとそうであるとまでは信じられない。
 ……どうも話が大きくなりすぎました。私はどうも物事を大きく大きく悩むのが趣味のようです。自分ながら「もっと個人的なことで悩めよ」と茶々を入れたくなりますが、悩ましいものは悩ましい。とりあえず、あまりよく分からない法案をもう少し読んでみようかと思います。
 繰り返しになりますが、タイトルとは無関係な話題をすみません。うっかり目にしてご不快になられた方、いらしたらご容赦ください。また、もしご意見などありましたら是非お聞かせください。

頌歌 ―不死なる幼きころに 六連目

2013-11-20 23:14:20 | 英詩・訳の途中経過
Ode:
Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood

William Wordsworth

VI [ll.78-85]

Earth fills her lap with pleasures of her own;
Yearnings she hath in her own natural kind,
And, even with something of a Mother's mind,
And no unworthy aim,
The homely Nurse doth all she can
To make her Foster-child, her Inmate Man,
Forget the glories he hath known,
And that imperial palace whence he came.



頌歌 ―不死なる幼きころに

ウィリアム・ワーズワース

VI[78-85行目]

みずからの ひざをおのれの歓びで
みたすならいのあめつちは 思いこがれをさがとして
うみだすものの心根と
よこしまならぬ手管とで
ともに住まう うぶやしないのめのと子に
あたうるかぎり忘れさす かつて知ったるかがやきと
そのみなもとの高みとを




 ※このあたりの擬人化は妙に物語性があります。私はなぜか平安朝っぽくイメージいたしました。落魄の貴人の落としだねを抱えて東下りした乳母があるじの子を盲愛、あえて出自を教えずにいたが、成長後、かつて亡父に恩義を受けた新任の常陸介かなにかに見出されて都へ復帰する、といったところでしょうか。…どうも無益に詳細ですね。「みなもと」という言葉のセレクトが良くなかったのかもしれません。

頌歌 ―不死なる幼きころに 五連目②

2013-11-13 21:45:05 | 英詩・訳の途中経過
Ode:
Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood

William Wordsworth

V [ll.67-77]

Heaven lies about us in our infancy!
Shades of the prison-house begin to close
Upon the growing Boy,
But he beholds the light, and whence it flows,
He sees it in his joy;
The Youth, who daily farther from the east
Must travel, still is Nature's priest,
And by the vision splendid
Is on his way attended;
At length the Man perceives it die away,
And fade into the light of common day.




頌歌 ―不死なる幼きころに

ウィリアム・ワーズワース

V[67-77行目]

天はまとわりついている 吾らの幼きころに
そだつにつれてしのびよる
獄屋の影があろうとも
見つむ光のみなもとに 
子らはよろこび見いだして
日をおうごとに日の出から 
離るさだめの若人も うぶすなの つちに仕える心もち
光きらめくまぼろしの
ともなう道を来るけれど
ついには覚るときがくる 天なるものが衰えて
ありふれた 日々の光に消えるのを


 ※72行目「離るさだめの若人」は「さかるさだめのわこうど」です。
  そして「うぶすなのつち」=Nature。かなり無理やりです。

頌歌 ―不死なる幼きころに 五連目①

2013-11-07 00:17:06 | 英詩・訳の途中経過
Ode:
Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood

William Wordsworth

V [ll.59-66]

Our birth is but a sleep and a forgetting:
The Soul that rises with us, our life's Star,
Hath had elsewhere its setting,
And cometh from afar:
Not in entire forgetfulness,
And not in utter nakedness,
But trailing clouds of glory do we come
From God, who is our home:


頌歌 ―不死なる幼きころに

ウィリアム・ワーズワース

V[59-66行目]

生まれてくるとは眠ること そして忘れてくることだ
吾らとともに明けそめて 生をみちびくたましいは
此処ならぬ 彼方できざし
来たるもの
すべてを忘れ果てはせず
なにもまとわぬことはなく
輝きの 雲のもすそをたなびかせ 吾らの来たる
みなもとは 神のみもとのほかになく




 ※60行目「生」はアレとお読みください。吾。在れ。生。我が最愛の単語その①。
 そしてやはりGODか…。この語だけは神としか訳しようがありません。
 日本の八百万の神とは根本的に違う概念なのだから「神」と訳すのはおかしい! と独りさみしく息巻いたこともありましたが、考えてみますと、英語でもギリシア・ローマの八百万の神々はgods and goddessなのですよね。大文字のGODも初めから唯一無二の抽象概念だったわけではなく、きっと一柱の天空神だったのでしょう。光に充ちた虚ろな天にGODは独り坐したもう。……具象化するとあまりにもさびしい。聖母が被昇天するわけです。