私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

雑記:楽園の復活 ⑮

2009-12-22 20:28:51 | 自作雑文 楽園の復活
  楽園の復活―マイ・コールド・プレイス― ⑮


 こうして景気よく罵るのはなかなか楽しいもののようだが、罵ってばかりいてもらちがあかない。「だれかこんなの書いてください」とお願いするためにも、昨今の探索の数少ない成果を挙げると、宇月原晴明の『安徳天皇漂流記』などは、わが切実な欲求をかなりよく充たしてくれた作品のように思う。ファンタジー――というより、漢字で幻想譚と呼ぶほうが似つかわしいようなこの華やかな物語には、まさしく――文字通り!――「琥珀のなかの楽園」が存在している。それはもう、何の喩えでもなく。壇ノ浦に沈んだ幼帝が「蜜色の琥珀」に閉じこめられたまま生き続け、宋の浜辺に流れ着いて、同じく追われた幼帝である宋の少年皇帝とともに石の内で遊んでいるのだ。「琥珀の内に閉じこめられた永遠の日暮れのような」という私の求める「楽園」的要素から「ような」だけを外した状況である。ゆえに私にはこの上なく魅力的だったが……正直、あまりに濃密すぎる気もした。何というか、詩情のカルピスの原液である。まだ半ばほど「素材のまま」という印象がある。個人的な趣味としては、あと少しばかり薄めて、なおかつ、「琥珀の外」の世界をもう少し色褪せたものにしていただきたかった。この素敵に詩情ある作者の物語は内も外も濃く鮮やかすぎる。ここにもうひと匙「日常性」が加わってくれたら、私はのどを鳴らして酔うだろう。

 続

 ※この雑記もあと一回で終わりそうです。次からはキーツにしよう。