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私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

ディラン・トマス その善き夜に粛として赴くことなかれ

2020-11-22 18:43:17 | その他 訳詩
★久しぶりに更新いたします。ウェールズの詩人ディラン・トマスのDo not go gentle into the good nightです。Rage, rageのリフレインに高村光太郎の「冬が来た」の一節、「冬よ、僕に来い、僕に来い/僕は冬の力、冬は僕の餌食だ」を思い出しました。定めに抗う人間の傲慢なる悲哀。これこそが悲劇です。


ディラン・トマス〔1914~1953〕
その善き夜に粛として赴くことなかれ


その善き夜に粛として赴くことなかれ
老いたる者は日の終わりに腹立ち喚くべきだ
怒れ 怒れよ光の死に抗して

賢い者らがその末に闇こそ義だと知ろうとも
彼らの言葉は如何なる明かりもかき立てない故に 賢者らが
その善き夜に粛として赴くことはない

善き者たちは今際の波で何と輝かしいかと叫ぶ
彼らの儚い行いが瑞々しい日に踊ったならばと
怒れ 怒れよ光の死に抗して

飛翔して太陽を捕らえて歌った荒ぶる者らは
学ぶのだ 遅すぎたと そして道の途上で嘆く
その善き夜に粛として赴くことなかれ

死の近い重々しい者たちは 眩い様を
盲た目で眺めて 流星のように燃え上がり陽気になれるのだ
怒れ 怒れよ光の死に抗して

そしてあなたよ 我が父よ その悲しい高みに坐して
仮借なき涙で今こそ私を呪い祝えと祈る
その善き夜に粛として赴くことなかれ
怒れ 怒れよ光の死に抗して

Dyran Thomas [1914-1953]
Do not go gentle into that good night

Do not go gentle into that good night.
Old age should burn and rave at close of days,
Rage, rage against the dying of the light.

Wise men at their end know dark is right,
Because their words had forked no lighting they
Do not go gentle into that night,

Good men, the last wave by, crying how bright
Their frail deeds might have danced in a green day,
Rage, rage against the dying of the light.

Wild men who caught and sang the sun in flight,
And learn, too late, they grieve it on its way,
Do not go gentle into that good night.

Grave men, near death, who see with blinding sight
Blind eyes could blaze like meteors and be gay,
Rage, rage against the dying of the light.

And you, my father, there on the sad height,
Curse, bless, me now with your fierce tears, I pray.
Do not go gentle into that good night,
Rage, rage against the dying of the light.

リチャード・ウィルヴバー 汝妹よ 全訳再掲載

2019-12-14 03:22:03 | その他 訳詩
汝妹

彼女の美は何であったのか 吾らの初めの住まいで
アダムの望みだけがすべてで もっとも少ないものばかりが
その王の賜物と産物として現れていたころ
吾らにどうして思い描けよう? 類似が

分離を待たねばならぬ そのような所で
彼女は共に在った 水と光と木々と
いずれにも似ては映らぬほどにも
彼は目覚めて見つめ尽くした 彼女の裸の顔を

しかしそのとき彼女は変わって 近づき下ってきた
アベルの群れどもとカインの原野へと
彼らの願いを纏って 彼女の楽土は優美さを隠し
穀物の塊の豊かな形を隠した

彼女はこの世で毀れた あらゆる労苦と
その果実の見せかけを受け入れたときに
襞をとる薄物の衣を纏った円柱の姿で
耐え忍ぶその掌〔テ〕に属性を注がせ

最果ての塔に囚われた輝ける虜となって
その誉れを戦いの野へと流して
黄昏時に苑を歩む
その影は弧を描く昏い扉と似て

西へと向かうすべての船のための海どもを胸に受け止め
処女の帝国へと来たりてまた変わり――
月と似た真正の蝕へと向かい
男らの夢の内で平伏す女神となった

木や寺や舳〔ミヨシ〕やガゼルや機械など
いや増しに名づけられ或いは朝の星よりも名を持たずに
いずれの形でも心惹きつけ すべては見えざるまま
吾らは敢えて願いはしない あなたをあなたのまま見出そうとは

その現れは 切望が廃れ果てて
後の世をもたらす時に至って
花開くだろう 吾らの望みの荒廃のもとに
そしてゆきのしたの花のように打ち毀された石どもを飾るのだろう


 *夜中に目が覚めてしまったため、先日訳し終えた八連の詩をまとめておきます。
 ついでにふと浮かんだ童話のような自作詩も。

 茨の城の夢

 眠れる者の睡りの醒める朝に
 吾らは滅えねばならぬ
 茨の城の幻の戦士は
 賢者と女教師は
 吾らの愛しい眠れる者よ
 百年を生きた童女よ
 お目覚め 誰かに起こされる前に
 朽ちた寝間着を脱ぎ捨てて 野のままの姿に戻って
 駆け出てごらん 窓の外へと
 お前は鹿にも白鳥にも花にも獅子にもなれる
 矢を掛けられたら戻っておいで
 薔薇の咲くこの城へと
 吾らがすでに無くとも
 お前の熱い血潮を羊歯の葉が受け止め
 陽を零す花の縁から滴る水が
 懐かしい誰かの手のように
 その傷を癒やすだろう



ドーヴァーの浜 全文〔再編集〕

2014-11-15 12:47:55 | その他 訳詩
    
              ドーヴァーの浜

                   マシュー・アーノルド

          海は今宵は凪ぎはてて
          潮はみち 月はまつすぐに
          海峡に映つてゐる 仏蘭西の岸でひかりは
          きらめいて消えさり 英国の崖は
          ほのひかりながらはてなく 静まりかえつた入江からきりたつてゐる
          およりよ窓のそばに 夜の空気が甘い
          あわだつ長いみぎわで
          海と月に白んだ大地が出会つてゐる
          耳を澄ましてごらん ただそのみぎわから 擦れあふ小石の
          うねりがきこえる 波によせもどされ とびちり
          引き残されて 高いなぎさへあがり
          はじまり とまり そしてまたはじまり
          ゆつくりとをののく抑揚とともに
          果てしない悲哀〔カナシビ〕のしらべをもたらす

          ソポクレスはとほいむかしに
          同じ音〔ネ〕をエーゲの海できき 澄みやらぬ
          潮のおとろへと ひとの惨めさのながれとを
          こころにもたらされた 吾らも
          このひびきのうちにひとつの想ひをみいだす
          はるかな北の海辺で同じ音をききながら

          信仰の海も
          かつてはみちきり くりたたねた輝く帯のひだのやうに
          地の岸をとりまいてゐたのに
          いまやただきこえるのは
          ものうく 長くさかりゆくうねりが
          夜風の息吹からはなれて 此岸〔コノキシ〕の漠たる丘のへりと
          むきだしの礫の浜へと落ちる音ばかりで

          愛よ 吾らをおたがひに
          信じあわせてくれ 吾らのまへに
          よこたわるこの世は さながら夢の地のやうに
          くさぐさにうるわしく あたらしく思われるけれども
          じつのところはよろこびも 愛もひかりも
          たしかさも 憩ひも痛みからの救ひもないのだから
          そして吾らはただ此処で暗い野にあるやうに
          あがきと飛翔の惑はしい怖れに薙がれるほかないのだから
          夜のかげで ものをしらない軍勢がぶつかりあふところで


              反歌〔※自作〕

             ひとすじの月のひかりの道をみる 漕ぎゆく果てに天はなけれど




           Dover Beach

                 Matthew arnold

         The sea is calm tonight.
         The tide is full, the moon lies fair
         Upon the straits; on the French coast the light
         Gleams and is gone; the cliffs of England
          Glimering and vast, out in the tranquil bay.
         Come to the window, sweet is the night-air!
         Only, from the long line of spray
        Where the sea meets the moon-branched land,
         Listen! you hear the grating roar
        Of pebbles which the waves draw back, and fling,
        At their return, up the high strand,
        Begin, and cease, and then again begin,
        With tremulous cadence slow, and bring
        The eternal note of sadness in.

         Sophocles long ago
        Heard it on the AEgean, and it brought
         Into his mind the turbid ebb and flow
         Of human misery; we
         Find also in the sound a thought,
         Hearing it by this distant northern sea.
  
         The Sea of Faith
         Was once, too, at the full, and round earth's shore
         Lay like the folds of a bright girdle furl'd.   
          But now I only hear
         Its melancholy, long, withdrawing roar,
         Retreating, to the breath
         Of the night-wind, down the vast edges drear
         And naked shingles of the world.

         Ah, love, let us be true
         To one another! for the world, which seems
         To lie before us like a land of dreams,
         So various, so beautiful, so new,
         Hath really neitherjoy, nor love, nor light,
         Nor certitude, nor peace, nor help for pain;
         And we are here as on a darkling plain
         Swept with confused alarms of struggle and flight,
         Where ignorant armies clash by night.

フロスト 雪の日暮れの森の辺で 全文〔再編集〕

2014-09-20 11:41:35 | その他 訳詩
雪の日暮れの森の辺で

         ロバート・フロスト


だれの森かは知るけれど
村の屋にすむもちぬしは
雪のふりつむ森をみる
おれがあるとは気づくまい

小馬もきっといぶかしむ
家もないのになぜとまる
森と凍てつく湖〔ウミ〕の間で
年にいちばん暗い夕

なにかまずいかと馬のふる
鈴よりほかにひびくのは
微かな風とやわらかな
雪のながれる音ばかり

森は美〔クワ〕しく暗く深い
けれどなすべきことがある
眠りの前にたどる道が
眠りの前にたどる道が



Stopping by Woods on s snowy evening

            Robert Frost

Whose woods these are I think I know.
His house is in the village, though;
He will not see me stopping here
To watch his woods fill up with snow.

My little horse must think it queer
To stop without a farmhouse near
Between the woods and frozen lake
The darkest evening of the year.

He gives his harness bells a shale
To ask if there is some mistake.
The only other sound's the sweep
Of easy wind and downy flake.

The woods are lovely, dark and deep;
But I have promise to keep,
And miles to go before I sleep,
And miles to go before I sleep.


       2014年9月6日~9月20日

無明 16-21行目

2012-05-27 15:12:16 | その他 訳詩
Darkness Lord Byron

[ll.16-21]

Happy were those who dwelt whithin the eye
Of volcanos, and their mountain-torch:
A fearful hope was all the world contain'd;
Forests were set on fireーbut hour by hour
They fell and fadedーand the crackling trunks
Extinguish'd with a crash―and all was black.


無明   バイロン

[16-21行目]

幸あるは火山のひとみの 峰のともし火の
うちに住まうものたち
ひとつのおびえたのぞみがこの世に充ちて
森には焔がはなたれ――けれど一刻一刻と
しずまり衰えてゆきーーぱちぱちと爆ぜる
幹らが裂けて燃え落ちたあとにはー―すべてが暗みはてる