小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『石の中の蜘蛛』浅暮三文

2021年06月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
楽器修理業の立花は、防音設備の整ったマンションへの引っ越しを決めた日に車にはねられてしまう。
目覚めると聴覚が異常に過敏になっており、常人には聴き分けられない音を聴き分け、部屋に以前住んでいた女の姿をも音で判別し、彼女に惹かれていく。

2002年日本推理作家協会賞

~感想~
未読だが井上夢人「オルファクトグラム」では異常嗅覚の主人公が描かれたが、本作では異常聴覚が題材に採られる。
その描写がすさまじく、ありとあらゆる音を書き分け、音という音を無尽蔵の比喩で表現していく。
さらに聴覚を駆使した調査で謎多き女の行方を追うのだが、その調査方法がよくもここまで考えたものだと感心する、異常聴覚ならではのやり方で、作者は偏執的なまでに音に向き合い、すさまじい労力が掛けられている。
だがアイデアはすごいがそれがミステリとして面白いかというとそれは別の話だ。
丹念な音の描写は悪いけど大半は読み飛ばしてしまうし、音という要素を脇にどけると、ミステリとしてはいたって普通の出来である。
皮肉の利いたラストは素晴らしいが、個人的には高くは評価できなかった。しかし徹頭徹尾「音」に耽溺した作品で、唯一無二の個性があり、一読の価値はあると思う。
おそらくミステリ馬鹿よりも、普通の本好きの方が楽しく読めることだろう。


21.6.21
評価:★★☆ 5

コメント    この記事についてブログを書く
« 昨年6/10のNXT #567  エル... | トップ | 7月の新刊情報 »

コメントを投稿