内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

パリ郊外の快適なドライブ、しかし、パリは一筋縄ではいかない、長い一日 ― 夏休み日記(19)

2015-08-20 08:06:47 | 雑感

 昨日は、かなり盛り沢山な一日だった。
 朝八時に北駅地下の駐車場からレンタカーで出発。九時には最初の目的地シュヴルーズの谷に着く。ポール・ロワイヤル修道院の博物館もシュヴルーズの谷を一望の下に見渡せる Château de la Madeleine(十一世紀から十四世紀に建てられた中世の城塞の遺跡。見学は無料)も開門は十時からなので、車と徒歩で近くを散策しながら十時を待つ。
 城塞を観てから、博物館へ。週末以外遺跡は公開されていないので、修道院の博物館周囲の広大な庭から修道院の遺跡を見下ろしながら、早めに昼の弁当を軽く食べる。
 博物館見学後、そこから車で十五分くらい南に下ったところにある Abbaye de Vaux de Cernay (かつてはシトー会の修道院であったが、現在は残された建物と遺跡を改修してホテルとレストランになっている。それら建物・遺跡とよく調和した広大な庭園の変化に飛んだ景観美が見事。こんなところで一週間くらいシンポジウムでもしたいものである)を少し散策。
 そこからさらに車で二十分ほど南下して、ランブイエのお城(残念ながら、現在改修中で大半は白い幕で覆われている)と庭園を見学。
 そこから方向を一転して北東に向かい、最後の目的地である La ferme de Viltain に急いで向かう。ここは広大な農場に多種・多様な野菜・果物が栽培されていて、利用客は自由にそれを収穫できる。収穫した分だけを出口にある販売所で計量してもらって代金を払う。一般の店で買う野菜・果物よりはるかに新鮮で安くて美味。家族連れも多い。自分の手で苺を摘んだり、林檎をもいだりするのは、子どもたちにとっても楽しい。少しくらいなら、収穫した果物や野菜をその場で「ただで」かじってしまったっていい。屋根付きの市場も併設されていて、その農場の収穫物や加工食品なども買える。
 ここまでは、ちょっと駆け足ではあったが、まあ予定通りであった。レンタカーの返却時間の午後七時まで残り一時間に迫ったところで、農園を後にする。パリの北駅付近に到着したのが七時五分前。やれやれ間に合ったかとホッとする。が、甘かった。パリで物事がそう思い通りに運ばないことを忘れていた。
 そもそも駐車場等の入口などの表示は、その付近について不案内な人たちのためのものであるはずである。わかりやすいことがその第一の設置条件たるべきである。ところが、その表示が不親切極まりない上に、後からできた建物や茂った樹木等のせいで、それが車に乗った状態ではほとんど見えない位置にあったりする。その上、駅周辺は一方通行が張り巡らされ、来た道をそのまま引き返すことができない。おかげで北駅地下の駐車場入口を見つけるのに周囲を何回もグルグル回るはめになった。
 それでもやっとのことでレンタカーを返すべき北駅地下駐車場の入口を見つけてホッとして、その目の前まで車で来ると、なんと入口が閉鎖されているのである。
 車から降りて、掲示を見ると、「当入口は工事のため閉鎖中。もう一つの入口は利用可」と、(もちろんフランス語で)書いてあり、その下にただそのもう一つの入口の住所が記されているだけ。地図もない。カーナビもない。どうやってその入口を探せというのだ。仕方なしに、同乗の留学生を車に残し、レンタカーの受付まで徒歩で問い合わせに行く。以下は受付での会話(の和訳)である。


「駐車場入口が閉鎖されているんだけど」(憮然たる表情であろう私)
「ああ、やっぱりそうでしたか」(受付のアジア系女性と黒人男性の反応。「わかっていたのなら、朝一言言ってくれればいいだろう!」、と心の中で叫ぶ私。しかし、朝の担当とは別人だから、彼らの落ち度ではないよなあ)
「どうすりゃいいんです?」(かなり苛立っている私)
「もう一つの入口から入ってください」(冷静なアジア系女性)
「それってどこ?」(怒鳴りたいのを必死で抑える私)
「ここですが、この付近は一通だらけで、ちょっと道順が複雑です」(と言いながら、アジア系の受付の女性は、やおら取り出した地図にラインマーカーで道順をなぞりながら、丁寧に説明してくれる。「この地図を閉鎖された入口に貼っておくとか、気がまわらないのかねえ」と呆れつつ、もう怒る気力もなく、その地図をもらって車に戻る。)


 この後、同乗の留学生に地図を見ながらナビゲーションしてもらって、やっとそのもう一つの入口を見つけ、駐車場に入ることができた。メデタシメデタシ...ではないのである。
 地下六階がレンタカー専用の階なのだが、その階まで降りても全然空きがないのである。どこにも駐車しようがない。係員を呼び止めて聞くと、「地下五階に行け」と言う(「だったらそう表示しておけよ」、もう泣きたくなる)。
 その地下五階はガラガラで、どこに止めたらいいのかとまどうほど。知るか、あとはお前たちで探せ、とばかり適当に止めて、鍵を受付に返す。
 さあ、後は今日の締め括りのレストラン(ここも午後七時半に予約を入れてあったが、駐車場のことで間に合いそうになかったので、電話で一時間予約を遅らせておいた)に行くだけだと、北駅から東駅に徒歩で移動する。ところが、これは私のまったくの勘違いで、地下鉄五番線に乗るなら、北駅から乗れたのである。しかも、その方が下車する駅に一駅近かったのである(この時点で私はもうほとんどアホになっていた)。
 しかし、何はともあれ、レストランには八時半には到着。このレストラン L'ATLANTIDE は、パリでも指折りの美味なクスクスを食べさせる店で、すでに五回ほど友人・知人や娘と来ている。値段もきわめて良心的、店の人たちの対応も感じがよく、ワインも料理によく合うアルジェリアとモロッコのワインが揃っている。長かった一日を振り返りながらの楽しい会食。終わりよければすべてよし、ってことにしておきますかね。
 Cité Internationale Universitaire に帰る留学生と東駅で別れて、徒歩でホテルに戻ったときには、時計は十一時半を回っていた。
 思い出に残る長い一日であった。