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黒子のJAL、融合のANA 成長の鍵を握るLCC戦略の成否は ANA・JAL 苦闘の600日(2)

2021-11-01 12:00:00 | 飛行機の話題(乗り物ニュース)
黒子のJAL、融合のANA 成長の鍵を握るLCC戦略の成否は
ANA・JAL 苦闘の600日(2)

 特集連載「ANA・JAL 苦闘の600日」の第2回。日本の「LCC元年」から約10年たった。
新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ航空大手2社はそろって、再成長のエンジンにLCC(格安航空会社)事業を据えた。
ただ、その戦略は微妙に異なる。それぞれが描く勝ち筋とは――。

 「LCCの使われ方が少し変わってきている」。こう話すのは全日本空輸(ANA)の井上慎一代表取締役専務執行役員だ。ANAホールディングス(HD)傘下のLCC、ピーチ・アビエーションのCEO(最高経営責任者)を11年の設立時から20年まで務め、同社を旅客数で国内第3位の規模まで押し上げた人物でもある。

 日本のLCCの歴史は浅い。米国最大のLCC、サウスウエスト航空は約50年の歴史を誇り、欧州拠点のライアンエアーやマレーシアのエアアジア・グループも20年ほどかけ、各地域でLCCとして大きな存在感を示すようになった。

 日本のLCC元年は2012年。日本航空(JAL)とオーストラリアのカンタスグループが共同出資するジェットスター・ジャパンやピーチが相次いで運航を始めたのだ。合従連衡や淘汰を経ながらも、日本の国内線旅客数に占めるLCC利用の割合は7年間で、10.6%に達した。

 盛り上がりを見せる半面「やはり消費者の間ではLCCに『安かろう悪かろう』という先入観があった」(ANAHDの芝田浩二代表取締役専務執行役員)。LCCは無駄なコストを極力排除し、低価格を武器にしてこれまで航空を利用してこなかった層を空の旅へいざなった。ただ、ANAやJALのようなフルサービスキャリア(FSC)が抱える顧客がLCCを使うことはあまりなく、その逆もしかり。客層がはっきり分かれていた。

 一方でLCC先進国では、FSCとLCCを利用シーンに応じて上手に使い分ける消費者が増えている。同じ消費者が出張や少しリッチな旅に出かけたいときはFSC、家族で格安旅行に出かける際はLCCを使う、といった具合だ。航空利用者のパイが広がりながら、利用頻度も高まっていく。FSCの事業規模の拡大と並行して、航空業界に占めるLCCのシェアは東南アジアで56%、北米でも30%まで広がった。

 そして日本でも、利用シーンに応じて使い分ける消費者が徐々に増えている、というのがANA井上氏の見立てだ。

 そんな中起きたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。テレワークやオンライン会議の普及で、FSCが得意としてきた出張などビジネス需要は減少。コロナ禍前の水準まで回復することはもうないとの悲観的な見立てをする業界関係者は少なくない。ただでさえ、日本は人口減少社会だ。FSCもLCCを強化して、新たな市場を開拓していかなければ成長は見込めない。そこでANAHDとJALは、LCC事業の強化にそろって取り組み始めた。

 JALは21年に中国系のスプリング・ジャパン(旧・春秋航空日本)を連結子会社化。50%出資するジェットスター・ジャパンと、20年に運航を始めた完全子会社のジップエア・トーキョーの3社で成田空港を拠点としたLCCネットワークを構築する方針を掲げた。

 ANAHDは子会社のピーチに加え、22年度後半にも新たに「第3ブランド」を立ち上げ、アジアやオセアニアと日本を結ぶLCCとして事業を始める。一見すると、ほぼ同様の戦略だ。ただ、両陣営のLCCに対するスタンスは異なる。ANAHDはFSCとLCCを一体的なネットワークとして捉えようとする。

 「関西空港と中部空港発着の国内線運航は全てピーチに移管する」

 20年初夏、コロナ禍を受けたコスト削減などを含む事業構造改革計画の策定を急ぐANAHDの中でこんな案が浮上した。

 関空は伊丹空港との兼ね合い、中部空港は新幹線との競合などもあり、国内線の収益性があまり高くない。一方でLCCが強いレジャー需要を一定程度抱えている。LCCのコスト構造なら、十分に利益を出せるとの見方だった。

 20年10月に発表した構造改革計画では結果的に「(ANAとピーチの)両ブランド間で連携して路線分担の最適化を図る」(ANAHDの片野坂真哉社長)と少しトーンダウンしたものの、大きな方向性は変わっていない。それが垣間見えるのが、ANAとピーチが21年8月から始めた、成田空港と中部空港を発着する計5路線でのコードシェアだ。ピーチ運航便の座席をANAが買い取り、ANA便として販売する。

 ANAとピーチのコードシェアはかつてのピーチCEOである井上氏、そして現CEOの森健明氏もその可能性に否定的だった。森氏は「LCCのビジネスモデルが崩れるのではないかという懸念があった」とその理由を説明する。ANA便として利用する乗客に対して、飲料の提供などFSC並みのサービスを提供すればコストが上昇し、存在意義である「圧倒的低価格の実現」(森氏)を阻害する要因になる。

 ただ今回のコードシェアは基本的にピーチ従来のサービスをANA便としても提供する形だ。「それであれば断る理由はない」(森氏)

 ではコードシェアの狙いは何か。

ANA、一部空港から撤退も



ピーチの森氏は「顧客の回遊性を高めるきっかけにしたい」と話す。ANAの顧客にはピーチを利用したことがない人も多いが、コードシェアを通してピーチ運航便に搭乗すれば、LCC利用への抵抗が減るきっかけになるかもしれない。そもそも、ANA便を予約する際にピーチ運航便の選択肢があるだけで、ピーチの認知度向上につながる。

 収益力の向上も狙いだ。マイルがたまるなどのメリットを上乗せしてANA便として販売すれば、ピーチ便としてよりも航空券を高く売れ、グループの収益を最大化できる。

 グループとしてネットワークを補完する狙いもある。例えば、コードシェアを実施している成田発着の国内線は、ANA運航便が全面運休している。ANAの路線網の穴をピーチが埋めているとの見方もできる。

 ネットワークの補完という視点の延長線上にあるのが、10月末から始まった、レジャー需要が中心となる中部空港・福岡空港と北海道・沖縄を結ぶ路線の一部便の運航を、ANAからピーチに移管する取り組みだ。

 「今後は路線ごとピーチに任せるという選択肢もあり得る」。こう話すのはANAHD経営企画部の鈴木大輔担当部長だ。現状、一部便の運航をピーチに移管した路線のほとんどはANAとピーチの運航便が混在している状態。ANAはコロナ禍を経て機材数を大きく減らした。収益性の高い路線に集中したいところだ。

 一方でピーチは小型機を使用しており、運航コストが抑えられている。レジャー需要が根強い路線であれば、FSCで採算が取れなくても、ピーチにとっては「ドル箱」に化けるかもしれない。そうした場合は、ピーチに運航を完全に任せるという選択肢もあり得る。「グループの全体最適を図るということだ」(鈴木氏)

 そしてその先には「空港単位で運航をピーチに移管する可能性もある」(鈴木氏)。ANAとしてはその方がコスト効率が高まる可能性もある。昨夏に浮上した案に突き進む可能性も残されているわけだ。

 路線や空港ごとピーチに移管すれば、それらを使うANAの利用者は競合に流れるかもしれない。ピーチとしても「空港での地上支援業務(グランドハンドリング)などはANAに委託しており、ANAが撤退すればコスト増につながる。同じ空港・路線で共存している形は心地良い」(森氏)。

 それでも、メリットの方が大きいと判断すれば、運航移管の深度を増す決断に至る。これまで、ANAとピーチは互いに干渉せず、それぞれで成長を続けてきたが、「第3ブランド」を含め「今後はグループ間のシナジーを考えていくフェーズにいる」とピーチの森氏は話す。

 一方、JALはどうか。「我々は(JALとLCCの間で)一線を引いている。FSCはFSC、LCCはLCCだ」。こう話すのはJALの豊島滝三取締役専務執行役員。FSCとLCCのシナジーはあくまで機材調達などの面でのスケールメリットを生むのみで、互いに路線網を補完し合うなどという発想はない。

 これはグループのLCC間も同様だ。「結果的に3社間でシナジーが生めればいい」(豊島氏)

 LCCの競争力の肝はいかに機材の稼働率を高める運航ダイヤ設定ができるかだ。3社はそれぞれ狙う路線が違う。ジップエアは太平洋(北米)路線を中心とした国際線中長距離路線、スプリング・ジャパンは中国の中堅都市と日本を結ぶ国際線、ジェットスターは国内線と近距離国際線だ。

 JALとしては成田を拠点にグループLCCを乗り継いで移動する利用者も獲得したい。ただ「LCCのターゲットは多少不便でも安さを求める層」(豊島氏)。乗り継ぎの利便性を高めるために運航ダイヤを調整するよりも、個々で最適なダイヤを組んだ方が価格の低減につながる。プロモーションなどでの連携は図るものの、基本的には各社が自由に事業を進め、結果的にシナジーを得られればいいというスタンスだ。

 「放任主義」のJALだが、LCCへの業績面の期待は大きい。グループのLCC3社合計で2024年3月期にEBIT(利払い・税引き前利益)で120億円、売上高に占めるEBITの割合が10%を超える水準を目指すという。その上で豊島氏が特に期待をかけるのがジップエアだ。利益の大半を稼ぎ出し、売上高も半分以上を占めると想定している。これらを総合すれば、ジップエアは24年3月期に売上高700億円、EBIT100億円程度を目指す計算になる。

 ジップエアのように中型機を使い、国際線の中長距離路線を手掛けるLCCの成功例は少ない。多くのLCCは小型機を使い、国内線や国際線の短距離路線を組み合わせながら運航し、FSCに比べ機材の稼働時間を増やすことで低価格でも利益を生む。一般的に、運航距離が長くなればなるほど、乗客1人に対する距離単位当たりの旅客収入(イールド)は下がる。LCCと中長距離路線の相性は悪い。

 ただ、ジップエアの西田真吾社長はむしろ「(中型機を使った)太平洋路線だからこそ、勝ち目がある」と見ている。

「片道10時間」で機材稼働率向上

ジップエアが就航を目指す米西海岸と日本を結ぶ路線の所要時間は10~11時間ほどだ。空港での駐機時間は小型機を使うLCCの場合、数十分が一般的だが、中型機を使うジップエアは給油や旅客の乗降に時間がかかるため、1時間半を標準としている。

 するとちょうど24時間で往復できる計算になり、機材の稼働時間は1日に何往復もするLCCに比べ、むしろ長くなる。機材が大きい分、乗せられる客数も多い。「イールドは下がるが、その分コストも薄まっていく」(西田氏)。駐機時間を長く取る分、貨物を積み下ろしする時間も取れる。小型機を使うLCCではなかなか取り組めない貨物事業も手掛けられ、収入を下支えする。「LCCの新しい成功モデルをつくる」と西田氏は意気込む。 過去、世界のFSCはLCC事業に参入し、失敗する歴史を繰り返してきた。米FSC大手のデルタ航空やユナイテッド航空は00年代、相次いでLCCに参入したが、数年で撤退に追い込まれた。それでも、ANAHDとJALはLCCなくして再成長はないという覚悟を決めたと言ってよいだろう。

 一方、グループ内で複数のブランドを運用するマルチブランド戦略はかじ取りが難しい。ファーストリテイリングの「ジーユー(GU)」も、立ち上げ時は「ユニクロの廉価版」とのイメージから抜け出せず、黒字化に3年を要した。

 一橋ビジネススクールの阿久津聡教授はFSCとLCCの関係性が深まる中「ブランド間の切り分けができていないと、消費者との『ブランドの約束』を裏切る可能性もある」と指摘する。例えば、ANA便に比べサービスレベルは落ち、欠航時などのフォローも少ないピーチ便をANAグループであるという信頼感を基に消費者が利用し、期待を裏切るとANAブランド自体が傷つく可能性もある。その点、FSCとLCCをしっかり切り分ける考えを示すJALは比較的その心配が少なくて済む。

 阿久津教授は「親ブランド(FSC)がサブブランド(LCC)に対して信用の付与などの価値を提供するだけでなく、活気あるサブブランドが親ブランドに対して活力の付与といった価値を提供できるのが一番良いシナジーの生み方だ」とも話す。この理想型にはANAHDの戦略の方が近いだろう。 「大手2社は『既得権益』ともいえるドル箱、羽田空港の発着枠を使って飛行機を飛ばせば一定の収益を生み出してこられた。そこにマーケティングなどという発想はなかった」。こう話すのはある国土交通省OBだ。阿久津教授は「外からどう見えているかを戦略的に考える『ブランド経営』に取り組むべき時期が航空会社にも来ている」と話す。コロナ禍を機に経営のレベルを高められるか。LCC事業がその試金石になる。

高尾 泰朗
日経ビジネス記者



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