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ソニーの報道カメラ、五輪・パラで躍進 2強に風穴

2021-09-07 14:30:00 | 日経ニュース

ソニーの報道カメラ、五輪・パラで躍進 2強に風穴

閉幕した東京五輪・パラリンピックでは金メダル候補を破るシーンが注目を集めたなか、熱戦を撮る報道カメラで躍進したメーカーがある。ソニーグループだ。2強のキヤノンとニコンに風穴を開けた。武器は性能を高めたシャッター音がしないミラーレスだ。運営面でも映像解析システムがテニスや陸上など約10競技で審判の判定を支えた。選手の骨格の動きまでデータにすることで、競技力の向上や映像の新たな楽しみ方を開拓する。

8月3日、五輪サッカー男子準決勝の日本対スペイン。後半、ゴール付近で吉田麻也選手と競り合った相手選手が倒れると、主審はファウルと判断しPKを告げた。先制点を許す大ピンチだったが主審はグラウンド外のモニターでリプレー映像を凝視し、両手を広げて判定を取り消した。

「誤審」を防ぐため、プロサッカーでは映像を用いたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が国内外で広がっている。ソニーが2011年に買収したホークアイ・イノベーションズは、その仕組みを運営する英国企業だ。

カメラがボール追跡し判定

競技場を取り囲むように約10台配置された高性能カメラが、ボールを追跡し、ボールがゴールラインを越えたか瞬時に判定する。ファウルの判断が難しいプレーがあれば素早く映像を合成し、審判はスロー映像を確認できる。

東京大会では選手が判定に異議を申し立てられる「チャレンジ制度」があるテニスやバドミントン、陸上競技など約10競技で同社のシステムが採用されたとみられる。

ホークアイが「鳥の目」とすれば、現場のカメラマンが握るミラーレスカメラ「アルファ」は、選手の細かな表情を逃さない「虫の目」だ。

報道カメラ「2~3割がソニー」

「アルファ貸してもらえますか」。ソニーがプレスセンター内に五輪・パラでは初めて設けたブースには、多くの報道陣が訪れた。

高性能なプロ向けカメラは、一眼レフを得意とするニコンとキヤノンがシェアをほぼ二分してきたが、世界中のプロが集まる東京大会でソニーの存在感が一気に高まった。関係者からは「現場では2~3割のカメラがソニーだった」という声が多く聞かれた。特に目立ったのはゴールボールなど、音を頼りにするパラリンピックの競技だ。

一眼レフの場合、撮影時にシャッター音がする。従来は選手の集中を妨げるとして、ゴルフのスイングや陸上スタート前など静かな場面では撮影を控えざるを得なかった。

ミラーレスは映像を常時とらえるため音が鳴らない。当初は初心者向けの機種が中心だったが、ソニーは世界各地のスポーツ大会にエンジニアを派遣してプロの声を集め、画質や連写性能、データ処理速度などの機能を改善した。カメラ事業部の大島正昭副事業部長は「今や一眼レフと比べて、性能で劣っている所はほとんどない」と強調する。

20年に米AP通信、21年には英PAメディアグループと連携。両社は全面的にアルファを利用するなど、着実に存在感が高まっている。パラスポーツ専門のフリーカメラマンの小川和行さんは「静かなシーンでも撮れるし、激しく動くシーンでも自動で人にピントが合いやすい。アルファじゃないと撮れないような写真も増えた」と評価する。

デジカメ市場の未来は厳しい。スマホの普及で市場規模はピークの2割まで縮小し、ソニーのカメラ事業の売上高もここ数年4000億円前後にとどまる。ただ、ミラーレスは単価の上昇が続き利益を確保しやすい。ミラーレスは2強も力を入れており、キヤノンは東京大会でも発売前の新型機種を一部貸し出した。ソニーはプロ向け製品を通じて技術力を高め、競争力を維持する。

ホークアイ、追跡結果をCG映像で提供

ボールや選手の追跡結果を放送用のCG(コンピューターグラフィックス)映像として提供する機能も強化する。ソニーは放送業界にカメラや編集機器を提供している。迅速かつ正確にデータ処理や映像編集するノウハウを生かす。

平均打球速度は4.9マイル増の94マイル(約151キロ)、打球角度は2.9度高い17.9度。米大リーグで活躍する大谷翔平選手のバッティングデータを昨季と比べた。投手として登板すれば、球の回転速度や変化球の曲がり幅がわかる。テレビ放送中にも紹介される様々なデータを計測しているのもホークアイだ。

大リーグでは選手の実力を測る指標としてプレー中のデータが選手やファン向けに公開されている。レーダー技術を応用した測定器が主流だったが、20年に映像解析式のホークアイが全30球場で一斉に導入された。

12台のカメラがボールやバット、選手を捉え、人の骨格の動きまで3次元で認識する。選手の動きが数値化されれば、投球時の肘の高さ、守備の足さばきなど、分析対象のデータが爆発的に増える。

ホークアイ・アジアパシフィックの山本太郎バイスプレジデントは「新しいデータ分析や可視化ツールを開発し、選手の競技力向上やファンが楽しむ手段を増やしたい」と話す。

ソニーグループの十時裕樹副社長は「各社がそれぞれ対処し長期的に成長できる体制になった」と強調する。カメラがソニーを支えるピースになるためにはスマホ、画像センサーなど他事業との連携によるシナジーも欠かせない。

カメラから「感動」どう提供、担当者に聞く

閉幕した東京五輪・パラリンピックではミラーレスカメラ「α(アルファ)」と撮影システム「ホークアイ」が、スポーツの感動を伝え、支える役割を担った。ソニーグループが経営理念として掲げる「感動」をカメラを通じてどう提供するのか。ソニーの大島正昭・カメラ事業部副事業部長と、ソニー傘下で映像解析システムを手掛けるホークアイ・アジアパシフィックの山本太郎バイスプレジデントに聞いた。

ソニー 大島正昭・カメラ事業部副事業部長

プロ向け、ミラーレスが主戦場

報道機関のカメラは長年キヤノンとニコンの2強でしたが、最近は国際大会でもソニー製が多く利用されるようになりました。

「2013年に業界で初めてフルサイズのミラーレスを投入した頃から『プロに使ってもらうこと』を目標にしてきた。模索を続けてきたが、17年発売の『α9』から徐々に広がり、ようやく成果が実りつつある」

「プロがどんなカメラを欲しているのか、とにかく現場に足を運んで声を集めた。スポーツの国際大会のサポートブースでは、営業担当者だけでなく、製品を開発するエンジニアにも積極的に参加させた。プロの仕事を実際に見て学ぶことは多い。例えば、屋外の過酷な状況で長時間使い続けるとか、撮ったらすぐに写真を送る必要があるとか、現場の切迫感を肌で感じられた。ボタンの位置やメニューの表示順なども要望を受けて見直した。社内にこもっていたら開発の優先度はわからなかった」

――競合が主力とする一眼レフに対し、ミラーレスの撮影音がしない点は評価されていました。

「ゴルフのスイングや陸上競技のスタート時、スポーツ以外だと王室の厳粛な式典中など、音を出せないシーンでも撮れるようになった。さらに高速連写中も画面が暗転しにくく、激しい動きでも顔に自動でピントが合いやすいなど機能面も評価されている」

――市場全体の一部でしかないプロ向けに注力する意義とは。

「要求が厳しいプロの期待に応えようと機能を極めることで、我々も進化する。開発した機能は一般向け機種やスマホにも反映できるし、『プロが使っているなら』とブランド力も高まる」

「デジカメ業界は今やミラーレスが主戦場だ。業界の先陣を切って開発を進めてきて、技術的にも一眼レフに劣っている所はない。デジカメでは動画ニーズも高まっている。ソニーはビデオカメラが得意分野なので、さらに強みを生かせる」

ホークアイ・アジアパシフィック 山本太郎バイスプレジデント

データ、「楽しさ」の新要素に

「競技によって異なるが、1秒で100枚程度撮影できるような高性能カメラを10台前後設置し、会場内で映像やCG合成を行う。テニスで選手が判定に異議をとなえる『チャレンジ』の場合、映像からボールの軌跡を特定して数秒でCG映像を流す。サッカーのVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)では複数のカメラの映像を合成して、審判は死角からも選手の動きを再確認できる」

――国際大会など、多くの競技で利用されています。

「カメラだけでなく運営とセットで提供している。試合前には設営や通信環境の整備が必要で、試合中は専門のオペレーターが主催者や放送局と連携し、スムーズな運営につなげる。他社に比べても国際大会でも相当な数をこなしている自負はある」

「その場で判定を下したり放送したりするため、正確性と迅速さが求められる。ソニーは放送業界で多くの撮影用カメラや通信システムを提供しており、リアルタイムのデータ処理や映像作成など、ノウハウがいきている。陸上競技、バレーボール、バドミントンなど採用される競技も広がってきた」

――判定以外にどんな使われ方がありますか。

「選手のパフォーマンスを上げる目的での利用も増えている。野球で投手が投げたボールの回転数や曲がり幅など球の質をデータ化してきた。米大リーグでは球団にデータアナリストがいて選手の調子や実力を正確に把握している。レーダーで球を測定するサービスが主流だったが、大リーグでは映像で分析するホークアイに置き換わった」

「データはファンが楽しむ新しい要素にもなる。テレビですぐCGが放送されるし、解説者もデータに基づいて説明する。データを分析して披露するファンも多い。映像だと選手の骨格を認識して動きを3次元でデータ化できる。今後データの量が増え、活用の手段も広がるだろう」




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