旅とエッセイ 胡蝶の夢

ヤンゴン在住。ミラクルワールド、ミャンマーの魅力を発信します。

今は、横浜で引きこもり。

ISとチンギス汗

2016年10月30日 17時16分46秒 | エッセイ
ISとチンギス汗   

 IS(イスラム国)が崩壊する。イラクのモスルを失えば、彼らには首都と称するシリアのアレッポしか残らない。原油という資金源を失っては、傭兵に給与を支払うことが出来なくなるし、武器の調達も困難になる。急速に弱体化するだろう。一度落ち目に入ったら、立て直すことは難しい。
 元来ISは軍事的にモスルを奪えるような集団ではなかった。モスル駐留のイラク軍が戦わずに逃げ去った後に入ってきたに過ぎない。イラク軍は「ISが来る!」の一言でパニックを起こし、100万都市モスルを一戦もせずに放りだして逃げた。酷い、給料分は働けよ。
 まるで水鳥の羽ばたきに驚いて逃げ出した平家(富士川の戦い)のようだ。少人数でジープに乗り、小火器とロケット砲位しか持っていないISを恐れ、兵数も武器も遥かに上回る軍隊が一日で自滅した。ISは市内の銀行から多額の現金を取り出し、軍隊からは大量の武器弾薬、戦車から大砲までも手に入れた。イラク兵が将校まで逃げてしまったのは、ISが首を切るところ、捕虜を無造作に射殺するところを映像で流したのを繰り返し見ていたからだ。
 それにしてもアメリカが旧フセイン政権、バース党の優秀な人材を新政府から全て排除したのは、致命的な過ちだった。軍人を含め多くの人材がISに流れた。街のゴロツキのような連中に権力を与えるなら、実務に精通したスペシャリストを残すべきだった。元来アメリカが主張した大量破壊兵器は、イラクには無かったのだから。
 恐怖を武器にしたのは、モンゴル軍の方が先輩だ。人口の少ないモンゴルが短期間にいくつもの国を滅ぼし、大帝国を作り上げたのにはカラクリがある。例えばホラズム帝国は、平原での会戦ではなく籠城戦を選んだ。モンゴル軍の機動力には勝てなくても、蒙古兵の兵数には限りがある。不慣れな城砦都市攻略戦に手を焼いている内に、モンゴル軍の勢いは先細りになるに違いない。そう考えた。
 何故なら一つの城砦都市を陥落させたら、そこに駐留部隊として小さい街なら3千人、大きな街なら2万人と残しておかなければならない。そうしないと一度は降伏した都市の住民が、主力が去った後で蜂起するかもしれない。武器はこん棒でも数万、数十万の民衆を抑えるだけの人数は必要だ。ところがモンゴル軍は画期的な方式を採った。
 降伏しない街は見せしめに皆殺しにしたのだ。少数の美女と技術者を残し数十万人を殺し尽くし男・女・子供の首のピラミッドを築いた。今でも廃墟になっている都市がある。次の都市を攻める時は、住民を前面に出して矢避けに使った。また技術者を厚遇して攻城具の開発を進めた。
 降伏しなければ皆殺し、という恐怖を武器として使い、降伏した都市には行政官と部下10人ほどしか派遣しなかった。もしこの10人が殺されたら戻って皆殺しにする。この方式で遠征するから戦力が減らない。これを合理的と言うのか、随分とドライな戦略である。
 そんな彼らも中国に長く居るうちにしだいに軟弱になっていった。うまい物を食い、美女を抱いて文学を語ったらバッさバッさと首は切れない。
コメント
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