旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

手のひらは熱くなった。

2016年06月13日 23時23分16秒 | エッセイ
手のひらは熱くなった。

 変なシチュエーションだった。セールスの会社に応募した男女4-5人が、一室で研修を受けていた。結局自分を含め大半が数日でその会社を去ったが、初対面とはいえ運命共同体の集団だ。「この会社、どう思う?」と真剣に話していた。
 休み時間か空き時間かに太った男が言った。俺の高校は不良校で、2年と3年の時俺は番長だったんだ。その後仕事で挫折して何年も引きこもっていた。こうやって仕事に出るのは本当に久しぶりなんだが、引きこもりの中でこんなことが出来るようになったよ。ちょっと手を出してみて。女の子が素直に応じて手を出した。太った男は15cmほど離して手の平を彼女の手に向ける。うわっ熱い、と彼女は手を引っ込めた。
 でしょ、あなたもやってみる?デブは、何だか一人斜に構えて投げやりな男に言った。俺はいいよ。まあまあ、みたいなやり取りの後で、気のなさそうな男が試すが、うーん、何ともないな、何も感じない。じゃあ俺、自分が手をデブに向けた。するとブワっブワっと、デブの手からエネルギーが伝わり、手の平が熱くなる。かなり熱い。女の子が手を引っ込めるわけだ。凄いね。他に出来ることは?残念ながらこれしか出来ない。
 数日後にこの会社に残ったのは、気のない男だけで他の連中のその後は知らない。太った男の顔すら覚えていないが、手の平にボっボっと伝わってきた熱の感触は、今でもリアルに残っている。

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