ゴリウエスの思い出
僕は街に出る時は、いつもゴリウエスを連れて行った。
そうしないと気が、しぼんじゃって死にそうな気分になるんだ。
身体がバラバラになって灰になって消えてしまうんじゃないかと。
一人で笑ってみろ。笑って見ろと自分に言い聞かせる。
一人じゃ笑えない。明るくなれねぇんだ。走れねぇんだ。
でも、僕はゴリウエスを連れてると、彼と肩を組んで歩く時、とてもすがすがしい気分になれるんだ。
ゴリウエスは何も喋らないし、何も気にしない、いっつも何だか単純で楽しそうで真っ直ぐだ。
ゴリウエスは喋らないけど、うなるんだ。こんな具合に。
“ごぉぅりぃぅぅうぇぇぇっすぅぅぅぅ・・・ぐぅうう”
何故、ゴリウエスと一緒だと爽やかかって?
それはね、本当は彼は、僕の意のまま、奴隷のような奴なんだ。
それでも僕は彼に対して、彼を奴隷のようにあつかうって事に負い目を感じてたね。
実のところ、僕も善人なんだろうねぇ。
それでも、表面は奴に対して、いかにも主人然と、ふるまっていたんだ。
彼に対して発した言葉のうち、約半分は命令調だったもんね。
彼は、その言葉の内にどんな虚栄が、見栄が、過剰なる自意識が、優越感が、どんな悪意が、どんなにみにくい欺瞞が潜んでいるのか、そんな事、全然気にもかけないのだ。
おそらく分からないのだろう。それでも僕は、その彼の無垢さに嫉妬したね。
ゴリウエスは喋らずにギゴギゴと身体を揺らして唸るんだ。
“ごぉぅ・・ごぉう・りぃぅぅぅすぅぅ・・ぐぅげぇげぇ”
ゴリウエスと僕は二卵性の双子で、彼の方が兄だった。
僕らは昨年、20才の誕生日を迎えるまで、2人が兄弟だなんてぇ事は、まったく知らなかったし、砂つぶ一つ程の可能性を考えた事もなかった。
違いすぎるからだ。いや、だからこそ一対でまっとうな人間という事なのかも知れない。
僕は、あらゆる暗黒なる人間性破綻を引き受け、ゴリウエスは、あくまで純粋、真っ直ぐ明るい神聖ささえ漂う人間性を引き受けているのかもしれぬと思う。
僕らは500mくらい離れた灰色で、ところどころ壁に亀裂の入った同じようなアパートに住んでいた。
性格やIQは違っても生活趣向は、けっこう似ていたりするものだ。
僕と彼は2人とも(もちろんの事だが)私生児で幼い時、援助交際パンパンだった母親に孤児院に入れられて、そのまま育った。
僕は、ある日、父だという人に引き取られる事になった。
その頃、僕はゴリウエスの事を非常に嫌っていた。
まさか血がつながっているなんて思いもよらなかった。
彼の白痴みたいな動作の遅さに、腹が立って仕方がなかった。
こうして大人になって彼によって僕の暗黒精神が少しでも癒される事になるなんて思いもしなかった。
孤児院の中で他の仲間みんなにブランコにくくりつけられたゴリウエスは、石ころを投げつけられながらもニコニコして唸っていたっけ。
“ごぉぅ・・ごぉう・りぃぅぅぅすぅぅ・・ぐぅげぇげぇ”
今は大事なパートナーだぜ!親愛なるのろまのゴリウエスよ!けけけ!
ありがとう、ありがとう、君のおかげでなんとか僕は前を見て歩いていけそうだよ。
ありがとう、ありがとう!
ああ、またイライラしてきたカタルシスのため殴らせろ!
***** バゴン! *****
ありがとう!ありがとう!今度は優越感に浸りたいから、僕の尻の穴を舐めろ!
@@@@@ぺろん、ぺろ~ん!@@@@@
ああ~!少しは、すっきりしてきた。ありがとう!ありがとう!これで少しは皆が僕のことを変だと思ってるんじゃねいかとか、僕のことを影で笑ってるんじゃないかとか、色んなことを少しの間、気にしなくてすむよ!
あああ!今、僕のドッペルゲンガーを3人もいっぺんに見てしまった。何て事だ。頼むよ、ああ、頭が苦しい・・・過去の罪業が僕を締めつける。
“ごぉぅりぃぅぅうぇぇぇっすぅぅぅ・・・ぐぅううぇげぇ”
ちきしょう!心配してくれてるのか!ゴリウエスの糞たれアニキよぅ。
ありがとうよぅ!ありがとぉよぅ!今度は気が狂いそうだから、殺させろ!
僕は手にした大きなダンビラでゴリウエスの腹を引き裂き、腸を引きずり出し、もう一度、ダンビラでゴリウエスの頭蓋をまっぷたつに叩き裂いた。
∑∑∑ ズザッ!ザクッ!ザクッ!ザズズズッ! ∑∑∑
ありがとう!にいちゃん!ありがとう!これで少しの間は僕もまっとうな人間でいられそうな気がするよ。
最後にグロテスクな肉片となりながらも善良な笑顔を絶やさずに彼はうめいた。
“ごぉぅ・・ごぉう・りぃぅぅぅすぅぅ・・”
“ぐぅげぇげぇげぇげぇええ・・”
ありがとう!本当にありがとう!ゴリウエス!
君のことは忘れないよ!しっかりと僕の思い出の中に生きて行くんだからね!
大丈夫、また、頭が重く暗く苦しくなったら、他のゴリウエスを探してカタルシスするから。心配すんなよぉ。
もう死んじゃったね!じゃぁ!本当に有り難う!
あれ?おかしいなぁ、僕の体までバラバラになって消えてしまうみたいな気が・・・
kipple