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元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

「雨族」 断片30-風のなかで眠る女:「2章・パリのまねき猫」~4.雨族の謎:kipple

2010-01-01 00:28:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片30-風のなかで眠る女
           「2章・パリのまねき猫」~4.雨族の謎


 有史以来、遙かな時の裏側を、ある種の人々の間で、延々と受け継がれてきた伝承がある。

 ある種の人々とは、たとえどんなに恵まれた条件のもとで生まれようが、たとえどんなに幸福そうに見えようが、あらかじめ悲しみの雨にズッポリと湿らされているので人生に愛も楽しみも感じることの出来ない連中の事だ。

 僕は知っている。僕の身体には雨族の烙印がナスカの地上絵のようにしっかりと刻まれているんだ。少し離れて見ると分かるようにね。十メートルくらい離れて見ると僕の身体は輪郭を風景に滲ませている。

 僕が雨族なんだ、そうか彼女たちはこの事を言っていたのか、と気づいたのは二十五才を過ぎてからだ。はっきりと「雨族」と言われたのは例の二人の女の子たちからだったが、その時はそれが何の事なのか、さっぱり分からなかった。

 その後、社会をリタイアしようと決意して家に籠もってビデオで、「雨の中の女」という映画を見た。そして雨族の実在を確信した。その映画は、ごく雨族の片鱗を伝えたものだったが、はっきりと「雨族」(RAIN PEOPLE)という言葉が使われていた。

 あの時、二十五才の時、僕の全ては終ろうとしていたのではなく、始まろうとしていたのだ。二十五才の僕にとって夢に変わって現実の勝負が開始されようとしていたのだ。楽しい楽しい現実の人生がだ。放棄すべきじゃなかった。社会に参加していれば、たぶん、いい事もあった。でも待てよ。僕は結局雨族なのだ。もう、過ぎた事は、しょうがないのだ。

 雨族の人生の第一認識は「悲劇的」であり、第二認識は「過去は過去で取り消せない」であり、第三認識は「自分が何とか今後も生きていくためには絶望と開き直り以外に無い」であり、僕はこれら全てを深く深く受け入れている。

 三十三才の僕には開き直り以外に進める道がない。もし、少しでも自分の幸福を望むのならば。もう何だかんだ言っていられない。それどころじゃないのだ。世の中の汚さに反抗したり、自分の虚弱さに悩んだり、救いを期待したり、そんな事をしている場合じゃないんだ。

 僕はもう、ほんのちっぽけな幸福さえ摑めないかもしれないんだぜ。もう過ぎちゃったんだぜ。若き反抗と夢幻の時代は。自分の人生で、ほんのちっぽけなゴミみたいな幸福さえ摑める機会はもう残り少ないんだ。

 だから僕は雨族をリタイアする事に決めたんだ。しかし、そんなに簡単にリタイア出来ないのが、雨族なのだ。雨族は雨族を呼ぶ。三十才を過ぎると、もう、すぐに分かる。こいつは雨族だ、こいつもだ、ってね。

 でも、それがどうした。問題は自分が雨族であるという、震撼すべきこの事実なのだ。実に震撼すべき事なのだ。伝承が語っているのだ。「雨族はけっして幸福をつかめない」と。

 雨族が、その伝承に触れるのは簡単だ。しかし雨族以外の人々は決して触れる事ができない。遺伝子のなかに、すでに組み込まれているからだ。雨族は遺伝する。感染もする。

 感染して真の雨族になるものもいる。雨族と自分を認識した時に、その伝承は遺伝子の太古の記憶沃野の彼方から、やってくる。つまり、何となく分かるのだ。

 「雨族は人を愛せない」「雨族は精神にも肉体にも欠陥を備えている」「雨族は悲しみのまま人生を終える」、、、こういう文章が次々と頭の中をよぎるようになる。これが雨族の伝承だ。

 その伝承がやって来るときは、すぐに分かる。来るぞ来るぞ来るぞ、という気がするのだ。何だか脳味噌が三十八分の一くらいに、米粒ほどに縮み込んだような気がする。

 そして独特な匂いがやってくる。きな臭い匂いだ。気が少し遠くなり、意識が薄れる。すると、しばらくして伝承がやってくる。すべてを納得させる重量感を伴なって伝承は、そろそろと僕の脳裏を通り過ぎていく。

 それは「君は雨族だ」で始まり、「1992年七月二十八日、真に偉大な雨族が現われ世界を雨族のものとするだろう」で終わっている。

 謎である。真に偉大な雨族とは何の事だろうか?僕は雨族であるが故に三十三歳を過ぎてから、物事をあまり深く考えないように、あえてしている。1992年七月二十八日に何が起ろうと、しったこっちゃぁ、ない。

 今、問題なのは雨族の世界制覇ではなくて、僕がいかにして雨族を脱することが出来るかという事なのだ。僕は遅くなってしまった幸福への希望を希望だけで終わらせたくない。

 僕は、これからでも、ちゃんと人を好きになり、恋をして結婚をして、仲良く何かを築きあげて行きたい。生きてきた意味を確かめて死んで行きたい。駄目でしょうか?もう遅いんでしょうか?

 ・・・と、そんな事をグルグルと考えているうちにこの物語は始まった。


 僕が三十三歳と九ヶ月になった初夏に幕を開ける。






断片30     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片29-風のなかで眠る女:「2章・パリのまねき猫」~3:kipple

2009-12-31 00:10:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片29-風のなかで眠る女
           「2章・パリのまねき猫」~3.二十歳までの僕の二つの恋への関わり方Ⅱ


 その後、僕はボートの転覆事故で死んでしまった女の子と最後に過ごした夜について考えると、とても奇妙な心境に陥る。まるでウルトラQの1/8計画に参加したような気分になる。

 とにかく彼女は僕の人生を何らかの形で予言して死んでいった。また彼女は僕に予言的なメッセージを送るために僕と三ヶ月間を過ごしたのではないかとも思える。

 やはり彼女は、もうひとつの僕自身、コインの裏側にすでに入り込もうとしていた僕のために僕を心配している僕自身の影だったのかもしれない。これは、後々思ったことだ。

 僕は、とりたてて彼女の事も他の誰の事も好きじゃなかった。どうして誰も好きになれないのか皆目見当がつかなかった。やはり、人を好きになると言うことは面倒くさくて疲れて苦しむから嫌だったのだろう。ただ、付き合っているだけがいいんだ。恋をせずに。頭を少しはまともに保っていくためにだ。

 二十歳に近付いた十九才の秋に僕は映画サークルの合同コンパで短大一年生の女の子と知り合って週に一度か二度、映画を観に行ったり、遊園地に行ったり、ビールを飲みに行ったりした。

 僕たちは、やはり理想的なカップルに見えたと思う。前の彼女の時と同じ事を大勢の友人に言われた。進歩なし。

「やらせろ」

 彼女は、とてもゴージャスな女の子だった。贅沢で欲求が強く、誰が見ても肉惑的だった。目や口の作りがはっとするほど大きく身体もまるでゴム製のように張り切っていた。

 僕には余り性に対する欲望が無かったのだが、我々は一度だけ集中豪雨のようなSEXをした事がある。吉祥寺にあった僕の友人のアパートを開けてもらい、そこで二人きりで入り込み、一晩中激しく抱き合った。

 僕は何故だか頑強にキスを拒んだ。どうしてだか分からない。彼女は、とても困っていた。でも僕を許した。僕は誰ともキスしたくない。どうしてだか全然分からない。

 ベッドの中で夜明けを二人で眺めていると、おかしな気分に襲われた。僕は何故か「スローターハウス5」でトラルファマドール星で囚われの身となったビリーの事を思い出し、悲しくて悲しくて、たまらなくなった。僕は大粒の涙をボゴボゴ流していた。

「何を泣いているの?」

 と彼女は言い。

「キスする事くらいできないなんて、あなたは、どこか、とっても、オカシイワ」

「オカシイと自分でも思うよ」

 と僕は言った。

 夜明けの青白い月が窓から覗いていた。実に夜明けの青白い月になった気分だった。

「自分でも、どうしてそうなのか、よく分からない。たぶん、これは僕の宿命なのだと思うよ。キス出来ないようにプログラミングされているんだ」

 彼女は眉をひそめて聞いていた。そして、一度意を決したようにうなずくと、限りなく断定的な口調で言った。

「あなたは永久に自分が分からない。まるで分からない。分からない分からないで、ちっとも分かろうとせず、取り返しのつかない事になる」

 僕はビクリと身を震わせた。そして恐る恐る次の言葉を発した。

「どうなるの?」

 彼女の乳房をいじくりながら僕は食い入るように夜明けの青白い月を見つめていた。そして、ある種の予感が訪れた。一瞬の間である。僕はこれから十何年も過ぎた後にいったいどうなっているのか。

 そして、彼女の口から答えが出た。僕は実際聞いた後もまるで信じられなかった。

「雨族よ」

 彼女は、きっぱりと、そう言った。

 彼女について言えば、その後当然のごとく僕と別れて、二年間の短大生活を終え、マスコミ関係に就職をした。

 彼女にとって僕は、とても仲のいい友達という事になって、よく事ある度に電話や手紙を貰った。それは、すべて彼女の人生の報告だった。僕の事なんか一つもない。

 それから二年半後に彼女は経理事務をやっていたテレビ局のディレクターと結婚して女の子を生み再び二年半後に別れた。そして、それ以後、行方が分からなくなった。消えてしまった。

 その頃、僕も社会からリタイアして消えていたのだから、かなり彼女の失踪の気持ちが分かる。消えたい。消えたい。そういう時期があるんだ。僕も彼女も試してみたんだ。

 僕は家に篭もったが、彼女はどこかに出ていった。知っている人なんか誰もいない世界に行ったんだろう。

 僕は変な話、少し責任を感じている。彼女に僕の雨族性をうつしたんじゃないかと。あの青白い月の出ていた夜明けに。彼女は決して純粋な雨族にはなれなかったけど、いい線をいっていると僕は思う。

 雨族は人を愛せない。彼女は僕を愛した。そして僕の雨族性に感染し中途半端な雨族的人生に突入してしまったのだ。だが、それはあくまでも雨族的人生であって、雨族の人生では無い。

 雨族とはもっと悲しく虚しくひとりぼっちなのだ。できるだけ長くSEXかキスのどちらかを抑制しなければならない。


 雨族とは何か?






断片29     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片28-風のなかで眠る女:「2章・パリのまねき猫」~2:kipple

2009-12-30 00:23:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片28-風のなかで眠る女
           「2章・パリのまねき猫」~2.二十歳までの僕の二つの恋への関わり方


 大学に入ってすぐ、僕がまだ十八才だった頃、コンビニエンス・ストアのアルバイトで知り合った女の子と蓼科の伯父の別荘に二人だけで旅行した事があった。

 その頃、僕は凄く退屈していた。おそらく今までの人生で一番、退屈を感じたのは大学時代の四年間だったと思う。退屈であるというのは、元気と体力に、とても重要な要素を置いている。

 精神的にも肉体的にもタフではないと退屈である事を余り気にしないのだ。

 今の僕は十八歳の頃の僕に比べて状況的には一万倍位退屈だと思う。ところが僕は退屈さを感じていない。何故だ?ただ生きていること自体が、もう充分苦しい事に気づいているからだ。

 今の僕は雨上がりの道路に吹き出す下水のようなもんだ。何の価値も無く、苦しんで苦しんで生きて行く、ドブ水。退屈なんて発想さえ消え失せた。

 ところが大学時代の四年間は退屈という幻想に目一杯、覆い尽くされていた。まるで途方もなく広く深く真っ白い空間に、たった一人で今にもパチンと弾けそうなくらいの元気とともに置き去りにされたスーパーマンのような気分だった。

 何でもしたいが何も起こらないのだ。何でも出来るんだが何もしたくないのだ。起こってくれるのを、ひたすら待つ。その根性が巨大な退屈を招いた。

 世の中、何もしないで、そうそう刺激的な出来事が起る訳がない。得てして待ってる時には何も起らず、待つのをあきらめて身体中に虚無がはびこった時に何かが起る。その時は、起きた出来事に対処する元気が消え失せているのだ。

 まあ、話をもとにもどさなきゃ。とにかく僕は十八才の夏休みに蓼科の緑山ロッジというところにある親戚の別荘を借りて女の子と泊まり込んだ。

 その女の子の顔は凄くよく憶えている。

 目と唇がとても大きくてスキッ歯をしていた。色が白く顎がきゅっと細かった。全体的に卵形の顔で直線的な短い髪の毛が、彼女の透明感があり、かつ野性的でアンバランスな雰囲気を際立たせていた。そしてスリムでとてもスタイルのいい女の子だった。

 僕は、その女の子の事が少し好きだったけど、何だか面倒くさかった。僕を強烈に求めてくるようなので、とても疲れたし、だから、とても面倒くさかった。その女の子が僕の事をどんな風に考えていたのか、想像もつかなかった。

 実を言うと面倒くさいので想像さえもしたくなかったのだ。しかし外面的には僕たちは、人の羨むような輝く恋愛のただ中にあるように見えたと思う。友人たちに僕はいつも羨ましがられていた。

「お前は、いいな、やりたい時にすぐできる穴があってよぅ。それもあんなに上玉の女だろぅ」とか言われてね。

 たいていの恋人のいない若い男は、そういう考え方をする。そういう奴らの中で「ちょっとお前の女を貸せよ」と言う奴がいる。「俺にもやらせろよ」と言う意味だ。

 僕は、そういう言い方は、女の子をとても侮辱していると思う。女の子は僕のものじゃないし、僕にやらせろと言うのは筋違いで彼女に自分で言うべきなのだ。

 でも僕に頼むという彼らの気持ちもよくわかった。奴らはシャイなのだ。そして、まさか僕が本当に彼女を与えるとは思っていないのだ。

 空想と刺激的な言葉で彼らはかなわぬ望みの一部分を吐き出しているだけの事だ。そして、そんな時期もすぐに消え去る。たいていの者はどこかにきちんと納まって行く。

 若き日の自然な空想と刺激的な汚い言葉は現実的なローンの返済や子供の養育なんかに押し潰され、狭苦しい家族世界の中で収縮していく。粉微塵になる。

 とにかく僕は、その上玉の女の子と三ヶ月間、仲むつまじくキャンパスのあちらこちらに出没したり、山手線の気の向いた駅で適当に降りて、あても無く歩いたり、自主上映の映画を巡ったりしながら交際し、とうとう二人きりで親戚の別荘に泊まり込んでしまったのだ。

 と、外面的にはとても順調で相思相愛のありふれた恋愛に見える。しかし違った。彼女は魔女だったのです。とは言わないが、それに近い。僕は三十三才になった今でも彼女の存在を疑っている。

 その夜、・・・つまり別荘に泊まった最初で最後の夜・・・我々は限りなく二人きりで、電気を消して、テーブルの中央に蝋燭を立てて、その光にお互いの顔を寄せ合いながら、いろいろな話をした。その殆んどが、今の我々の恋についてだった。

 彼女は、こう言った。

「私たちは神聖な輝くような恋に、じっと息を潜めて向かい合っているのよ。大きな金色の火の渦の真ん中にいるの。誰か、他の人が近付いてくればメリメリと私たちの秘めた若き恋の青い炎に身を焦がされ燃えちゃうのよ」

 僕は、とても馬鹿馬鹿しくなって目をきょろきょろさせながら、あくびのような微笑みを浮かべて女の子を観察していた。「僕は何をしているんだ」という気持ちが粘着質の黒い大気みたいに僕をギュウギュウと包み込んでいた。

 彼女は何を思っているのか?想像もつかない薄気味悪さがあった。こうして交際する事が異性観察という目的だけではない。何か論理的でない強烈な感情のうねりを、僕は彼女の中に感じて身震いした。この女は狂っているのじゃないか、とまで思った。

 それが恋という感情なのだとは、その時の僕の理解の許容度を越えていたのだ。僕は全く毛穴一つ程も彼女のことを愛しては、いなかった。なぜ、僕が彼女と交際していたのか?答えは簡単だ。退屈と好奇心。それだけだった。SEXの事も殆んど考えなかった。SEXと性欲については、のちのちを考えると、凄く面倒くさかった。

 それでも、やはり僕は彼女の身体を蝋燭の灯かりの下で調べた。彼女は完全に処女だった。僕が無理矢理、指を突っ込むと、べとつく血を流した。彼女は、そうされながら僕に言った。

「あなたは特別な人よ。本当に特別な人よ」

「どういう意味なの?」

 と、血を拭きながら僕が聞くと、

「そういう意味よ。特別な人だってこと。あなたは、それをうまく摑んで使うのよ。どこが特別かをね。しくじると、ひどい事になるわよ」

 僕は彼女が何について何を言いたいのか、まるで分からなかった。僕は彼女の身体から手を放し、彼女に衣服を着せて再びテーブルの蝋燭越しに向かい合ってから尋ねた。

「どうなるの?」

 彼女は高貴に、すんっと鼻を斜め上に向けて表情にシャープな影を作って言った。

「雨族」

 僕のからだから、あらゆるパワーが抜け落ちていった。何だか、ぞっとした。

 夜明けまで僕と彼女はテーブル越しに向かい合い、それぞれ自分の腕の中に顔を埋めてうとうとと過した。

 彼女は、次の日、僕と一緒に諏訪湖でボートに乗り、転覆して死んでしまった。僕は泳いで泳いで泳ぎまくって助かった。彼女は泳ぐ間もなく心臓マヒで、ほぼ一瞬にしてこの世から去ってしまった。後処理が、とても面倒くさかった。

 僕は警察で事情聴取を受け、彼女の両親に会い、葬式も最後の焼却まで付き合った。しかし、今だに彼女という実体が、この世に存在していたという確信が持てない。

 彼女が死んでから一年後にやはり、そういう思いにかられて彼女の住んでいた家を訪れた事がある。しかし、そこには何もなかった。いや、何もない訳じゃなかった。あってはいけないものが、あったのだ。

 雑木林である。一年前には確かに僕は、そこで葬式に立ち合ったのだ。しかし、そこには何十年もの風雨にさらされた朽ちかけた雑木林が否応なく実在していた。戦慄の雑木林である。

 そういえば彼女が僕にくれた何通かの手紙もどこかに消えていた。彼女は何か違う世界の幻影だったのじゃないのか、そんな気がする。でも、彼女は十七才で処女のままだったのだ。






断片28     終


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(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)


「雨族」 断片27-風のなかで眠る女:「2章・パリのまねき猫」~1.三十三才になって最近考える事:kipple

2009-12-29 00:24:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片27-風のなかで眠る女
            「2章・パリのまねき猫」~1.三十三才になって最近考える事


 最近、よくこう考える。僕は、あまりにも複雑に、深く広く細やかに構造化されてしまった弱いものいじめの、この巨大な網のなかで、このまま朽ち果てるしかないのか。

 僕の走るべき時代は終わったんだ。もう取り返しがつかないんだ。僕は何もしなかった。少なくとも二十五才から五年間は無に等しかった。

 ほぼ完全な空白。寝て起きて映画を見に行って本を読んでビデオを見て音楽を聞く。

 五年間、ひとりきりで毎日、そうしていた。ある日突然、社会からリタイアしたくなったのだ。消え失せていたかった。役目を放棄したかった。でも、僕の役目とは、なんだったんだろう。役目なんか、そもそも無かったんだ。誰かに騙されていたんだ。

 君には、ちゃんと決められた役目があるんだ。無駄な人間なんていないんだ。フェリーニの「道」の中で、そんなセリフがあったが、それは違う。皆、平等に無駄な人間である。

 役目なんか、この歪んだ宇宙のどこを探したって、あるわけがない。そう思うと救われる。僕らの存在は現在・過去・未来、宇宙全体、時間の永劫の彼方に渡って途方もなく無駄である。

 しかしだ。僕が自ら失った若き時代を、他人どもがごく普通に一生懸命、社会と関わり合って生きてきたのを今に至って確認してしまうと、強烈な嫉妬の渦に沈潜し、悲しくて震えて涙してしまう。

 僕は世の中や他人と付き合いたくなかったからリタイアしたのに、実はあまりにも世の中や他人と付き合いたかったからリタイアしてしまったのだ、と思える。コインの裏表なのだ。たまたま投げたコインは裏を出した。

 それは僕が望んだというよりも、何者かの見えざる手が「はい、君は今から家に五年間、篭もりなさい。それが社会のバランスを保つのよ」と僕をコインの裏側に押し込んだのだ。

 僕は世の中というのは、こんな事がよくあるんじゃないかと思う。人類の個々の意志ではなく何か大いなる者による調整作業の一環として動かされているとしか考えられない事がだ。

 誰かが人の気も知らずに僕らを、「はい、君は闇側、君は光側」なんて風に、いいかげんに振り分けて何とかバランスをとって人類を長続きさせようとしているような気がする。

 まあこのように僕は近頃、取り留めの無い事を考えている。それは、どこへも行かないかに見えた。

 しかし、これから始める、ちょっと長きに渡る物語の発端となったのは、僕の失われた五年間が、他人の失われなかった五年間に対して抱いた強烈な嫉妬だった。

 特に、その五年間に熱烈な恋愛を送った者たちに対する羨望の念はチラノザウルス・レックスとトリケラトプスの絶滅覚悟の全面戦争よりも凄まじかった。竜巻と並んで滑走する巨大な巻貝の群れよりも凄まじかった。

 時に失語症になり、コンビニでインスタント食品を買うたびに手と言葉が震えた。不眠症にますます磨きがかかった。

 まあ、そんなして、この話は始まる。僕は今、三十三才と九ヶ月で独身で強度の不眠症で薬物中毒者だ。僕は三十三才と九ヶ月で、ここにきて自分の恋愛との関わり方についてを考え始めた。

 どうして他人の五年間の恋愛に対して、あたかも恒星の爆発のように嫉妬するのか。そもそも、僕の恋愛とはなんであったか。

 僕は僕の二十五才以前の恋愛への関わり方について考えてみることにした。しかし僕は二十才を過ぎてから恋愛らしきものをしたという記憶がない。もっと過去の恋愛なら憶えている。まだ僕が十代の頃だ。

 二十歳までに僕は二人の女の子と、とても仲良くなった。その二人と僕の間には、おそらく恋愛という要素が、たとえ一方的なものであったにせよ入り込んでいた事は確かだと思う。

 その二つの恋への関わりについて、まず話しておくべきだと思う。僕が三十歳を過ぎてから、この二人の女の子の事が、僕のこれまで、またこれからの人生において非常に重要な関わりを持っている、と思わざるを得なくなったからだ。

 二人の女の子は何かを僕に伝えようとしていたんだと思う。それが、どうしてなのか、何のためなのかは、全く理解を越えている。





断片27     終


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「雨族」 断片26-風のなかで眠る女:「1章・風の高原」:kipple

2009-12-28 00:32:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片26-風のなかで眠る女
            「1章・風の高原」


 高い丘だ。あらゆる方向から強い風が吹き、無数の細かく丈の低い草が不揃いに揺れている。太陽が世界からあふれだしそうなくらいに輝き、丘を照らしている。

 僕は滑空してゆく。大空の遙か天辺から物凄い勢いで空気を滑っていく。その丘を目指して。

 雲間を次々と過ぎ、丘は次第に僕の視野を占領していく。ぐんぐんぐんぐん下りていって丘が僕の視野の全てになった時だ。僕は綺麗な女を見つける。

 彼女は丘の風に揺れる草原の中で、すやすやと午睡をとっている。僕はどんどん彼女に近づいていく。

 ふいに、僕自体の存在感が消失し、彼女を取り囲む現象だけが広がる。僕自身の存在感が消えたせいで、僕はどんな位置からでも彼女を観察する事ができる。真上からでも、真下からでも、内臓の中からでも。

 僕は真上から観察することにした。

 彼女は完全に眠っている。いったい、いつからここで眠っているんだろう。なんて気持ちよさそうな寝顔だろう。こんなに気持ちよさそうな人の顔なんて見たことが無い。輝いて眠っている。

 彼女は痩せてもいないし太ってもいない。背も高くないし低くもない。顔だって、それほど美人じゃない。でも、彼女は僕が今まで見たこともない輝きを有している。それも完全な輝きだ。これ以上は存在を許されない。

 世界で一番輝いて風の丘で眠り続けている女がいる。僕は彼女を知っている。いつも観察を続けている。ずっと、ずっと。生まれて以来、そうしている。彼女が目覚めない限り、僕はここから出られない。ずっと前から分かっている。僕は気が遠くなる程、滑空を繰り返し、彼女の風の丘に到達し、じっと見つめる。彼女はいつも、すこやかに眠り続けている。僕の事なんか少しも気にしてくれない。

 彼女は夢を見ている。長い長い夢を見ている。

 僕は来る日も来る日も滑空して彼女を見つめて目覚めることを期待している。閉じた輪だ。フィンガー・トラップだ。僕は僕が生れる以前から、これを続けているような気がする。ずっとずっと前から。何十億年も前からだ。宇宙の発生からずっとだ。たぶん、宇宙の終わりまで、ずっと。

 僕は何だ?彼女は何なのだ?再び、僕は雲間を滑空している。また彼女に、風の丘で眠り続ける彼女に会える。それは、それで永遠にうれしい事だ。

 僕は何とか物質世界で生きている、もう一人の僕に働きかけなくちゃいけないなと思う。彼は、この永久ループを解除するキーを握っているんだ。





断片26     終


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「雨族」 断片25-創世記:kipple

2009-12-26 23:22:00 | 雨族(不連続kipple小説)

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               「雨族」
     断片25-創世記


皆の者、聞くが良い・・底知れぬ悪転に終わりは無い、

神も悪魔と交じわり、混濁の中に人の子よ、気楽な笑いを見出すだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――――

底無しの腐敗は空虚な快楽へと続いてゆく。

上なるものは終わることなく、さらに上まで続き

下なるものも同じく続く、、、、、、、

よって中間なるものは無い。よって上と下という概念も無い。

(自家撞着という言葉があるが、すでに言葉という者はイミディアの中の幻覚で、それ自体は無 い)

―――――――――――――――――――――――――――――――

終わり無きものの、どこかで、まばたきがあった。

まばたきの内にポンと暗闇が生まれた。

(まばたきが、終われば当然それは失せる)T×Sというものだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――

暗闇は、塵芥を生み、塵が動いて時と空間が生まれた。

だが、それはホログラム。

塵と供に時と空間は交互に入れ代わり次第に広がり分岐した。

その終わり無きもののどこかで、まばたきの間に光が暗闇に侵入した。

―――――――――――――――――――――――――――――――

光は圧倒的に闇より微少なり。

―――――――――――――――――――――――――――――――

微少なる光は光の裏に非なる光を隠し、

非なる光は光を通してイミディアをもつ両性具有存在を 創った。

イミディアをもつものは時と空間を統一し、

そこに中間(グレーゾーン)という概念があらわれ た。

そして上なるものと、下なるものが・・・。

イミディアをもつものにより時と空間はピタリと一致したので、

それは消滅した。

―――――――――――――――――――――――――――――――

時と空間はイミディアをもつモノのイミディアの中にのみある。

この最初にしてイミディアをもつモノは、大いなる者、創世者である。

世界の源なり。

それはイミディアスである。

―――――――――――――――――――――――――――――――

イミディアスが無から空想する時と空間のホログラムは、

ドリーム・コスモスとも言う。

時と空間は無い。全てイミディアスの夢である。

ドリーム・コスモスがイミディアスの空想によって、

時と空間の錯覚をドリーム・コスモスに生ま れたものに与えられる。

イミディアスは自己と交わる事により、

ドリーム・コスモスの中にミニイミディアスを生む。

―――――――――――――――――――――――――――――――

ミニイミディアスはイミディアスのドリーム・コスモスの中に「ミニイミディア」により世界を 創った。

ミニイミディアスは時を空想し空間を空想し次に他者を空想した。

ミニイミディアスは「ゾロアスター」とイミディア内の空想された他人に自分を呼ばせた。

ミニイミディアス=「ゾロアスター」は、そして世界と時と空間の全てを創った。

―――――――――――――――――――――――――――――――

全てが創られると、再びイミディアスは自己と交わり、

又一人、又一人とミニイミディアスを生 んだ。

ミニイミディアスたちは全て「ゾロアスター」の全ての中に散らばった。

かくして全ては初めの創世者と後から来た創世者たちによって、

7つに分割され再編成された。

7つのゾーンが重なり合うにつれ、ミニイミディアスたちは記憶を徐々に失い、

創世者たる事を 忘れた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

ミニイミディアスたちは死なない(消滅しない)。

彼らは今も生きている。

しかし、遙か昔、7人目のイミディアスをうみしのち、

非なる光は闇にフィルターとしての光の通路を押し戻され、供にイミディアスは消失した。

―――――――――――――――――――――――――――――――

故に全ては根源を断たれ、無の中に浮遊する死んだ夢の残留物となった。

かくして全ては本質的に無い。

全ては、かつてあったものの夢の中の夢である。

初まりと終わりは一緒である。

―――――――――――――――――――――――――――――――

世界はヴァリアブルに死んでいる。

―――――――――――――――――――――――――――――――

皆の衆、しかと心得よ。我々は無により創出され見捨てられた無である。




断片25     終


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「雨族」 断片24-焼却場Ⅶ~死海文書と呪文:kipple

2009-12-26 20:33:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片24-焼却場Ⅶ~死海文書と呪文


僕はよくわからなかった。

そこで、今の話に対して二つの質問をした。

「死海文書ってのはなんなのですか?」

「死海文書というのは1947年に発見されキリスト教以前にメシア再臨をとなえた古代宗教の教団の存在を明らかにしたもので、{えふ}ぼっちゃまは、それ以前の古代の文献を探しに出向いたのです。人類以前に何らかの文明があり、それが死海文書以前の何かに表されているはずだという前提にたちましてね。{えふ}ぼっちゃまは何もかも知り尽くしている動力ぼっちゃまの言葉に絶対耳をかしませんでな。夢を追っておったのです。人類の起源は邪悪な文明の伝承であるという事を信じたくなかったのですわ」

「ふうん」

と僕は言った。

そして、次の質問をした。

「その呪文っていうのは落合さんが、唱えるんですか?」

「そう。どんな呪文なのかは、後でわかりますよ。動力ぼっちゃまが、ちゃんと日本語ワープロで打ってくれました」

落合さんは、そう答えると胸ポケットからきれいに折り畳んだA4用紙をつまんでチラリと出して、すぐにしまった。

そして品の良い笑みを浮かべ再び話し始めた。

「それから動力ぼっちゃまは、今からいろいろと準備をしておかなければならないので、これから一緒に箱根に行ってほしいと言いました。
 {落合、実はね、僕は一週間後に箱根の山の中で死ぬんだよ}
と、ぼっちゃまは言いました。私はショックを受けましたが内心うれしくもありました。なにせ、市外に出るのは十三年ぶりにりぶぶぶブブブブブりりりりりぃぃだだったったったのでのので、でのののののの、ぼぼぼぼぼぼっちゃまは、芦ノ湖の逆さ杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉杉仕掛をををををを仕掛ををををををんじゅうぇこにふぐよきゅいぬあ



ズズズズズズズズ・・・
ズズズズズズズズズズズズズズズズ・・・
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ・・・



担当地域でスタンバってる3天使、異変に気づく。


“ん?何?”“何これ?”“変よ!”

“来る!”“来るわ!”“来るわよ!”

“共振ゾーンに集中して!違う世界の私達が、これを経験してる!”

“どうなるの?”“滅ぶわ!”“嘘!でもだって、雨族化の臨界点は突破されてない!”“そうよ!ちゃんと生きてる人だってまだまだ沢山いるじゃないの!”“何故?”“違うわ!”“雨族化じゃないわ!”“この系統の世界は全部、外道に落ちてるのよ・・・”“真っ当な人間も雨族も外道に落ちたのよ・・・”“外道化臨界なの?じゃ全然ダメじゃん”“私達も消えるの?”“全部、無くなるわ!”“この世界は消滅するのよ!”

“何故?”“どうして?”“分からないわ!納得できないわ!”

“そうよ!神様に聞いてみよう!そうよ!”



だめだよ。



“誰?”“だ・誰?”“誰よ!”


全ての主観の最奥に潜む紡影。

君たちは感じているはずだ。

狭間を泳ぐものたち。

神様なんぞ、己の事は何も分からぬ。

己の内も外も。

自らが無限宇宙の内包者にして、自らが無限宇宙の構成者たる事も。


“人間?”“やっぱ、そうなの?”“神様って人間自体?”


人間は内に無数の宇宙を連ねた存在。

人間は外に無数の宇宙を連ねた存在。

人間は、一つの宇宙を包み込む神として存在し、又、一つの宇宙の内部の一人として存在し、全ては無限に連なっている。

故に一つの宇宙が消滅すれば、全宇宙が消え去る。


無限宇宙の外部記憶部からイレギュラー発生以前にコピーされた全データ投入。


プレイバック開始。。。




断片24     終


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「雨族」 断片23-焼却場Ⅶ~落合さんによる説明:kipple

2008-02-02 00:45:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片23-焼却場Ⅶ~落合さんによる説明


落合さんは、よく見ると、とても疲れた顔をしていた。

彼は、もう自分のすべての役目は終わってしまい、あとはただ何となく運命どおりに訪れる死を待ちながら生きるしかないんだ、そんな顔をしていた。

若々しく見える微かな笑顔の裏に僕は悲しい老いの顔を感じた。

まばたきの間に僕は、いたるところに肝斑に覆い尽くされ、極度に老化し、皺だらけの千匹のみみずが蠢く様な醜悪な死の素顔を垣間見た様に思った。

彼のクラウネン家に仕えてきた長い長い生は、D・クラウネンの死によって終焉を迎えようとしているようだった。

落合さんは、死の影を潜め棲ませながらも、いつもながらの静かな微笑と落ち着いた紳士的なトーンで僕に言った。

「こうして、また、あなたと会えるなんて。奇跡みたいです。ずいぶん久しぶりですね。まるで世界が終わって、生き残った二人が偶然再会したような気がします」

落合さんは、ぽつんと雨の中で佇んでいる子供のようだった。

僕はしみじみとした。

いみじみ、しみじみ。

落合さんは、きっと「メステル」たちのいる深海世界に戻りたいのだろうな、と僕は思った。

永遠で誰も欲せず誰も傷つかず誰も歳をとらず誰も死なない究極の数学の向こうにある理想の地に。

F・クラウネンは、そのどこを見ているのかわからない目で死体の隅々を、まるで毛穴のひとつひとつを封印するかのように観察していた。

外の雨が次第に烈しさを増してきたようだった。

ボバババババァァと、時折、樹木からごってりとした葉をつたわって大量の雨水の落ちる音が聴こえた。

F・クラウネンを無視して、僕と落合さんは話し続けた。

僕が落合さんにいろいろ短い質問をし、それに落合さんがとても丁寧に答えてくれた。

僕は、D・クラウネンが射殺された状況とその後の処理の事を尋ねた。

「私は長い間、小平の屋敷でいろんな事をやりくりしていて市外には、ほとんど出る事がなかったのです。つい、一週間前の事です。三ヶ月ぶりに動力ぼっちゃまが帰っていらして、
-{僕は死ぬからね、すべては弟の{えふ}が引き継ぐ。{えふ}は死海のクムラン洞窟から帰っている。彼は死海文書以前の写本を見つける事はできなかった。がっかりして帰ってくる。彼の怒りをわかってやってくれ。彼は僕みたいに全知能力は持っていないが希望を持っているんだ。あらゆる希望は大切なものだ。もしかしたら宇宙の白痴プログラムをひん曲げる事ができるかもしれない。大切なのは物質的な様相が、どうということではなく彷徨える意識の方向なのだ。僕は物理的な成り行きのすべてを知っているが彷徨える意識の成り行きはわからない。僕は最近、絶対法則・・パラダイム・・に逆らってインド洋くらいの反吐をはいてもいいんじゃないかという気持ちになっているんだ。しかし、自分の死には逆らえない。僕はね、落合!一週間後に死ぬんだ。でも一石を投じておく。僕の後継者となるシリウスへのデータ通信者に対してね。いいかい、落合、これから伊豆の辺鄙な山の中にいく、そこで僕は死ぬ。後処理を頼む。警察を近づけるな。そして火葬にしろ。完璧に僕が灰になるまで焼き尽くせ。そこでだ、僕が焼かれていく時にこの呪文をとなえるのだ。僕の脊髄が焼かれる時、データはシリウスに送信され、次のデータ送信者への引継ぎがおこなわれる。この呪文はデータ送信者に待ったをかける事になる。わかるか?これは僕の既決宇宙の法則に対する唯一の反逆なんだよ}-
 と言われました。なんだか、とてもウキウキしているようでした」





断片23     終


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「雨族」 断片22-焼却場Ⅵ~F・クラウネン③

2008-01-29 01:07:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片22-焼却場Ⅵ~F・クラウネン③


僕は今し方、抱いた針の先ほどの好感を撤回し、唯一の肉親を撃ち殺し客観的で不敵な笑いを浮かべる、その神経に驚愕し嫌悪した。

こいつは蛇だ。

地の底の悪鬼に魅入られた蛇だ。

僕は、まじまじと蛇男F・クラウネンを観察した。いったい、どういう奴なのだ?

年齢不詳。

彼はD・クラウネンの双子の弟なのだから確実に三十三歳であるに違いないのだが彼から年齢を読み取るのはクラゲの年令を読み取る様なものなのだ。

彼の着ているメタリックなぴったりとしたブルーのスーツがまた訳のわからない異界的なスクランブルな印象を与えていた。

どうして僕は、この男の相棒にならなければならないのだろう。

できたら、それは避けたい。とても避けたい。

僕は視線をずらし、窓から細かい雨に打たれて小さく震える灰色の風景を眺めてから、落合さんに笑いかけた。

落合さんも優しく笑った。

そして小さな声で僕に言った。

「{えふ}ぼっちゃまの言うことは、気になされないように。{えふ}ぼっちゃまは、とても変わっていますから。{えふ}ぼっちゃまは自分の事をデウス・アブスコンディタスだと言っておるんです。そういう風に理解すれば良いのですよ」

デウス・アブスコンディタス。

神は愛を怒りの中に隠して表現する。

こいつは神か!

「それに{えふ}ぼっちゃまは三年間イスラエルの死海で一人で過ごしておりまして、ついこの間帰ってきたばかりなのです。まだ日本人社会の人間関係に馴染めないのです」

死海?

僕は、これ以上の混乱を避けたいので、とりあえず彼の性格をこう規定する事にした。

デタラメ。

彼は無神経で冷酷でデタラメなのだ。

とりあえず、そう思っておく事にした。

その方が彼を、デウス・アブスコンディタス的性格と考えるより、ずっと理解しやすい。

生後、すぐに政府のラボに隔離されたり、三年間、死海で過ごしたり、双子の兄を撃ち殺したりした謎が明らかにされていけば、それはまた変わってくるかもしれない。

僕はさっきから彼を完璧に嫌悪しながらも妙な魅力を感じていた。

ひょっとしたら彼は冷酷な運命の力によって、僕には想像もつかないような精神構造を形成してしまったのかもしれない。

でも、今はデタラメなんだ、と考えよう。

精神異常者だとだけは考えたくなかった。

F・クラウネン。デタラメな男。

彼はいつもデタラメな行動をして人を驚かす。

デタラメの為に死海で三年間一人で過ごし、デタラメの為に兄貴を撃ち殺した。

デタラメという目的のために。メチャクチャだ。

僕だって、デタラメなんだ。

皆、メチャクチャでデタラメで何もわからず、そうして、ある日突然、死んでいってしまうんだ。





断片22     終


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「雨族」 断片21-焼却場Ⅴ~F・クラウネン②:kipple

2007-12-01 01:21:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片21-焼却場Ⅴ~F・クラウネン②


僕は何も言わずに、お棺に近づき、死体の顔を見て鼻をすすると深呼吸を三回して気分を落ち着かせた。

しかし、あまりにも、F・クラウネンの印象が腹立たしいものだったので、僕の、黒い綿をいっぱい胸に詰め込まれたようなムカムカする気分はおさまりそうもなかった。

そこで僕は、D・クラウネンの獅子と豚をまぜた様な死に顔を見つめながら、本日43本目のサムタイムを取り出して火をつけた。

そして、それはもっと悪い結果を招いた。

F・クラウネンが重く静かに激しく言った。

「俺の目のとどくところで、煙草を吸うな!消せっ!一刻も早く消せっ!」

僕は指先が震えるのを感じた。

彼は僕の怒りにとどめを刺した。

僕は空想した。

空想の中で、F・クラウネンの顔面をフレディ・クルーガーから借りてきたカミソリで、1ミリ単位に切り刻み、タイソンから借りてきた腕力で百万回ぶん殴り、首から下を巨大なシュレッターに押し込んだ。

僕は、空想の中で完全に彼を始末すると、静かに微笑み、すっきりとして煙草を窓際にあった平凡なブリキ製の灰皿の中で揉み消した。

僕は自分の感情を空想の領域で抑制する傾向がある。

素直に煙草を揉み消した僕を見て、F・クラウネンは、さらにぶつぶつと喋り続けた。

「俺は煙草は好かない。アルコール飲料も飲んだことはない。それらは、人間の本来の神秘的な能力を破壊し堕落させる。物質社会に呑み込まれ自己を見失う。いけないことだ。俺は兄貴の友人だったお前だからこそ、忠告するのだ」

驚いたことに彼は僕に気を使ったようだ。

兄貴の友人として僕に何らかの評価をしているようだ。

僕は、どうしてD・クラウネンを殺したのか?、聞きたかったが気持ちを押さえた。

落合さんがいるし、死体を目の前にしては聞きづらかった。

僕は、お棺を離れて、落合さんの方に近づきながらF・クラウネンに向かって、

「ご忠告、ありがとう」

と言うと彼は、再び、三十七人の女を強姦し皆殺しにしてきた様な恐ろしい笑みを浮かべて不愉快なセリフを吐いた。

「こいつの死に様はみものだったぜ。全身から凄まじい恐怖の雄叫びをあげやがった」




断片21     終


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