きつけ塾 いちき

「きもの」の袖に手を通す時に、「ときめき」を感じる日本の女性たち。
この「胸の高まり」は、いったい何なのでしょうか。

技術を盗む職人たち③/今年も衣裳方の達人がひとり…

2021-03-01 15:34:47 | 日本舞踊

ある名工がこんなことを。
名人といわれる職人さんが言っていた言葉が、印象に残りました。
「その道で上手くなるにはどんなことが必要か」、そんな設問だったと思います。
その職人さんは言います。
「この仕事が楽しくて大好きですね。お休みなんかいりません。毎日やり続けることです。それと…わずかな違いもわかるほどの目を養うことですかね。」

同じものを見ているのに…
私も職人さんの仕事を見るのが好きです。
どの仕事でも名人はいます。 そんな職人さんの手先を見ていると、ほれぼれするほど無駄のない動きをします。
とにかく形がきれいで、絵になるし、格好がいいのです。
大工さんの、仕上げのカンナがけなどは、向こうが透けるほどのカンナ屑がでて、ヒノキの表面が鏡のようになります。
石工の職人さんが、岩のような石材に数本の鉄杭を打ち込むと、見事にまっすぐ割れていきます。
木材も石材も「目」があるそうで、その道のプロだけがわかるものでしょう。
同じものを見ているのに、プロの職人にはわかるのです。

北斎漫画より、船大工

ある程度は教えるが…
しかし、どの名人も初めがあってここまできました。 技術を上げるには、どの職種でも、現場で学んでいくことを通してのみ、得られます。
駆け出しの自分が、十年、二十年のベテランから学ぶのです。
二十年の空間を超えて、ベテランが苦労の末に得たものを、盗めるのですから、こんな美味しい話はありません。

歌舞伎座の着付けの名人いわく、「弟子や後輩には、つの出しは教えても、手の内(肝心のところ)は教えない」。とおっしゃっていました。
だから、名人が隠している技を盗むしかないのです。 どうして盗むのかって…。
盗みたいものがあれば、見えてくるのですよきっと。
技を盗むためには、本当に欲しいものがあると、盗める力が備わってくるという事でしょうか。
「わかりました。これは○○○ということですよね?」といっても、盗まれた先輩は返事もしてくれませんよきっと。
※つの出しとは、江戸時代の女性の帯結び。帯締めを使わないのが特徴です。

技術を盗ませていただいた先輩に感謝しています。
私も舞踊の舞台裏で、小林衣裳や上嶋衣裳の着付けの大先輩に着付けを見せてもらいました。
普通はありえないことです。
一日中、立ったままでメモも取らず、目で技術を盗む。 言葉でなど絶対教えてくれません。「盗んでみな…」です。
もちろん質問などは出来ず、目の前で展開される着付けの表わざ・裏ワザを学びました。
いまはこのうちの一人はリタイヤされて、お会いすることもなくなりました。

松竹衣裳常務の岸田先生から教えてもらったことも大きな出会いでした。 亡くなられる一週間前まで、お電話でご指導頂いていました。
若いときに、昭和の名女優・山田五十鈴先生のお付の衣裳方でしたが、山田先生の亡くなられた年(2012年)に、あとを追うように亡くなられました。
そして令和の今年、(2021年)、歌舞伎座で岸田先生の相方だった衣裳方も亡くなられました。

お二人には、多くのことを学ばせてもらいました。
歌舞伎衣裳着付けの図書館がまたひとつなくなったのと同じ事です。

もっと早く多くのことを学んでいればと思うと残念でなりません。

盗んだもん返してや!
技術を盗ませて頂いた先輩諸氏に感謝していますし、現在も舞台裏の現場を見せて頂いています。
最近、京都の衣裳方から冗談で、「盗んだもん返してや!」と言われてしまいました。
技術はやっぱり盗むものだと思います。与えられたものはあまり力にならない気がします。
欲しい技術は、盗みたいほどの情熱があってこそ身に付くのではないでしょうか。
盗んだ技術に自分の仕事のしやすさが加わってくると、あなたのオリジナル。
盗まれる側になってくるわけでしょう。
半人前が、生意気なことを書いてしまいました。

#日本舞踊着付け #衣裳方#舞台のメイク #振袖の着付け #花嫁の着付け #美容師の着付け #演劇 #ファッシヨン 

              


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