goo blog サービス終了のお知らせ 

木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

第四問 メタスコ星人の主張適格?

2011-09-29 11:21:15 | Q&A 急所演習編
過度の広汎性ゆえに無効の法理について、
はちみつボーイさんと、アジシオ太郎さんとの間で
次のようなやりとりがされておりました。


過度の広汎性ゆえの無効 (はちみつボーイ)

 「急所」p166に、
 「過度に広汎な法文は、違憲部分と合憲部分を明確に区別できないため、
 結局あらゆる行為との関係で不明確な法文である」との記述があるのですが、
 いまいちピンときません。

 いかに違憲部分が広汎であろうと、
 合憲部分の中心に位置付けられるような行為との関係においては、
 やはり明確であることに変わりないように思うのです。

 ご回答よろしくお願いします。


はちみつ!!! (アジシオ太郎)

 おう。
 アジシオ太郎だ。

 本当にそうかな?
 例えば、『急所』にでてくる三人集会条例だと
 「合憲部分の中心に位置付けられるような行為」って、
 何になるんだ?


アジシオ太郎様へ (はちみつボーイ)

 そうですねえ…、たとえば
 「あるD高校の学生30名が、近隣に位置するK高校の学生に暴行を加える計画で、
  凶器を所持し、決起集会を行った」という事例はどうでしょうか。

  この集会行為が「三人以上の集会をした者」に当てはまることは、直知可能なほどに明確でしょう。
  また、この行為に刑罰を科すことは、十分に正当化できるでしょう。
  私の言う「合憲部分の中心に位置付けられる行為」とは、このような行為を想定しました。


はちみつボーイへ (アジシオ太郎)

 おう。ありがとう。
 では、もう少し質問させてくれ。

 三人集会条例の適用対象を
 はちみつの指摘する集会に限定する
 合憲限定解釈ができるか、考えてみてくれ?

 もし、できないと思うなら、
 三人集会条例のどの部分が合憲なのかを、
 明確な定式で示してくれ!


アジシオ太郎様へ (はちみつボーイ)

 うーん…、
 まず、法文の意味を限定するうえで、
 なんの手がかりも認められない以上、合憲限定解釈はなしえないでしょう。

 合憲部分の定式化については、たとえば、
 急所p165のように「周囲の者に極端な恐怖心を生じさせる態様での三人以上の集会に刑罰を科す部分」としてみてはどうでしょうか。
 私の挙げた決起集会がこれにあてはまることは、十分明確だと思います。


はちみつボーイへ (アジシオ太郎)

 おう。恐怖心な。
 
 では、最後の質問だ。
 三人集会条例の合憲部分って、これだけか?
 例えば、凶器を隠し持った人々の集会は?
 公務員の政治活動のための集会は?
 管理者の許可なしにやった公民会での集会は?

 三人集会条例の合憲部分を全部書き出してみてくれ!

アジシオ太郎様へ (はちみつボーイ)

 思いつくままに書き出すと…
  ・全裸で行う集会
  ・薬物を使用するための集会
  ・深夜に大音量で行う集会
  ・喧嘩をして腕っぷしを競うための集会
  ・許可を得ずに公道に座り込む態様での集会
  ・人の名誉を毀損するための集会
  ・人の営業を妨害するための集会
  ・テロ活動の実施を呼びかけるための集会
  ・未成年者が飲酒をするための集会

 うーん、僕の乏しい想像力でもこれだけのものがでてきました。
 他にもきっとたくさんあると思います。
 合憲部分を画定するのって難しいなあ…


さて、このやりとりに示されているように、
「三人以上の集会を罰する」条例の合憲部分を画定することは、
ほとんど不可能です。

さて、部分無効の処理をする場合、
違憲部分を包摂する明確な定式  又は
合憲部分を表示する明確な定式  を表示し、
法文のどの部分が合憲で、どの部分が違憲か、明確に画定する必要があります。
というのも、それができないと、法文の意味を不明確にしてしまうからです。

しかし、三人集会条例のような条例の場合、
はちみつさんがおっしゃっているように、
違憲部分が、あまりにも多く、
それを明確に表示することはほぼ不可能です。

また、逆に
合憲部分を表示する明確な定式を示すこともできないでしょう。

こういう場合、部分無効の処理をするとしたら
<社会的に許容される集会に適用される部分が違憲>とか、
<悪質な集会に適用される部分のみが合憲>といった
定式での処理にならざるをえません。

もちろん、こうした処理が可能なら
この条例を、この暴徒集会のような<悪質な集会>に適用することは合憲だから、
という理由で、有罪の結論を導けるでしょう。

しかし、これは「悪質な集会は罰する」という法文を適用しているのと等しくなります。

そして、「悪質な集会は罰する」という法文は、明らかに不明確でしょう。

よって、こうした過度に広範な法文に依拠した処罰は
不明確な法文による処罰と同義なのです!!

さて、こう考えてくると、
過度に広範な法文というのは、

<その事件を起こした者との関係では合憲だが、
 萎縮効果がひどいので第三者との関係で違憲>

なのではなく、端的に

<不明確な法文の一種だから違憲>

と考えるべきでしょう。

こんなわけで、最近の学説は、過度広汎性の場面で
第三者の主張適格を論じることは必要ない、
と言っているわけです。

びっくりです。
なんと、昔華やかだった第三者の主張適格の論点は、
今は昔の学説になりかけているのです。

さて、そういうわけで、
「過度に広範な法文」というのは、
正確に言うと

「法文だけを独立に読めば明確(三人集会)だが、
 憲法と併せて読んだ場合、
 違憲部分が明確に確定できないため
 不明確になってしまう法文」

なのですね。

はちみつさま、アジシオさま、ありがとうございました。

第四問 明確性と合憲限定解釈

2011-08-30 15:32:37 | Q&A 急所演習編
HKさまより、『急所』第四問妄想族追放条例について、
次のようなご質問を頂きました。

例によって、まだ解いてないよ。読みたくないよ。
という方は、解いてから読んでください。






 ①税関検査で示された要件(解釈内容の明確性、解釈の容易性)が、
 「合憲限定解釈の一種」(『憲法の急所』p161)の要件なのか、合憲限定解釈一般の要件なのか

 ②「合憲限定解釈の一種」と合憲限定解釈の間にどのような関係があるのか

 の二点で混乱しています。
 再び漠然とした質問で申し訳ありませんが、ぜひご回答よろしくお願いします。



どうもありがとうございます。

ええとですね、急所161頁の趣旨は、こげなものです。


まず、
関税法「風俗を害する書籍」とか、道交法「交通秩序」とか、
そうした、問題の行為との関係で、直知可能なほど明確でない法文というのは、
ふつうは、問題の行為との関係で、

 解釈A ①直知可能なほど明確な定式を示す②容易な解釈
      (「風俗を害する書籍」とは、わいせつ物を言う。
        判例はこの解釈、明確で容易だとする。)

 解釈B ①直知可能なほど明確な定式を示してはいるが、②容易でない解釈をすることも、
      (「風俗を害する書籍」とは、春という単語が三回以上登場する書物をいう。
        明確な定式だが、そんな解釈は一般人には理解不能。)

 解釈C ①直知可能なほど明確でない定式を示す解釈
      (「風俗を害する書籍」とは、モケケピロピロをすることをいう。
       示している定式自体、全く意味不明。)

     など、様々な解釈をすることができる条文です。
     
この場合、解釈Bや解釈Cをすると、不明確な法文により処罰されない権利の侵害になるので、
不明確な法文により処罰されない権利を侵害しないような、合憲限定解釈すると、
解釈Aが採用される、ということになるでしょう。


また、問題の法文が
解釈Aのような①②を充たす解釈ができない法文だった場合には、
その法文の適用を受けることが明確な行為との関係で有効、
その他の行為との関係では無効と処理します。

例えば、「土足厳禁」という規定については、
「外履き」で入ることがアウトなのは、
解釈しなくても、あるいは、「土足」を明らかに汚れた靴ないし足で、
と解釈すれば分かる。

しかし、埃のついた裸足で入ることは、アウトかどうかよくわからないし、
   「土足」を他の言葉で言い換えるのは難しい(とする)。
また、「土足」を外履きに限定する解釈もムリ(だとする)。

この場合には、「外履き」に適用される部分を除き無効と処理。


そして、およそありとあらゆる行為との関係で不明確な
「レムカカタプモケを禁ず」などの法文は、法文全体が違憲。

こんな感じになります^-^/。



PS
HKさまより、ご質問の続き。

 ところで話が変わるのですが、
 ブログや急所を拝見して、木村先生のお考えは
 高橋先生の「適用上判断」をさらに深化させたものなのかなと感じました。
 具体的に言うと、実体判断を通じて憲法上保護された事実を画定した上で
 違憲範囲を画定する点に「適用上判断」に通ずるものがあると思いました。
 その上で法令の具体的処理方法について明示されている点で、
 木村先生の考えはさらに「深化」していると感じました。
 (もしこの考えが木村先生のお考えと相違していたらご指摘お願いします。)


どうもありがとうございます。
そのように評価して頂きうれしいです。

私は、憲法判断の方法に関する学説について、
基本的に芦部先生や高橋先生の見解を誤りと断じ、
新説を述べる、というつもりで、書いてはおりませんで、
両先生の発展された学説のあいまいな部分を整理し、
概念を明確にした改良型を提出したいという気持ちで書いております。

なので、おっしゃる通りに評価していただけますこと、とてもうれしいです。

第7問について

2011-08-30 15:02:30 | Q&A 急所演習編
『急所』第7問について、ご質問いただきました。

まだ解いてないよぉ!という方は、 この記事、
あとまわしにしてください。






 第7問の育児手当の設問についてですが、
 p.263に木村先生が不合理な区別を解消するいくつかの選択肢を検討する中で、
 「制度自体の遡及的廃止によって区別の合理性を解消する選択は合憲的ではない」
 と述べたものと解すべきであろう、との記述がございます。

 制度自体を遡及的廃止にすると、他の者の財産権を侵害し、
 かえって違憲となるという趣旨で書かれているものと思いますが、
 これは第三者にも違憲の効力が及ぶこと及びその効力が遡及することを
 前提としている考え方だと思います。

 そこで、付随的違憲審査のもとで違憲無効となった場合には、
 訴訟の当事者だけでなく第三者にも違憲の効果が及ぶのであるか、
 また、その効果はそもそも遡及するのか、という疑問を持ちました。


ご連絡、ありがとうございます。
ご疑問ごもっともと思いますので、お答えいたします。

平等権については、よくわかっていないところが多く、
保障の根拠、保障内容、審査基準など、ほとんどあらゆるパーツで、
ややこしい、そして極めて技術的な論点がわんさかあります。

その膨大な技術的論点に挑戦するのが、平等権研究の醍醐味だと思っています。
(木村一基永世解説名人も、
 「矢倉については、膨大な優劣不明の変化がある。
  それに挑戦するのが矢倉を指す醍醐味だ。
  矢倉研究は、
  憲法学で言うと平等権研究に相当する。」
 と述べておられました。最後の二行は嘘です。)

・・・さて、無駄話はこの辺にして、

平等権は、日本の通説的枠組みによれば、
「区別されない権利」であり、
当人の状況は同じ(例、国籍もらえない)でも、
「他人がどう扱われているか?」によって、
侵害の有無が変わる、とても珍しい権利だということになります。

この他人がどう扱われているかによって、侵害の有無が変わるという点は、
他の権利については、全く考えられないことであり、
自由権であれば、他の人がどうあれ、その人を自由にすれば権利実現、
生存権などの請求権も、やはり他人がどうあれ、その人の請求に対応すれば権利実現。

しかし、平等権を実現するには、
その人に対する扱いをいじるか、別の人に対する扱いをいじるか、
という二つの方法があります。

もう少しいうと、平等権というのは、

 <(もし私に・・・くれないなら)他の人を・・・と扱え> と要求できる権利であり、

 原告の<(略)他の人を・・・と扱え>という権利を実現するために、

 他の人の扱いをいじることは、違憲判決の第三者への効力云々の問題ではなく、

 単なる原告の権利実現だということになります。

 但し、もちろん他人の扱いをいじる場合には、その人への権利や手続の保障も考えなくてはならず、

 訴訟の場で採れる原告救済策には限りがある。

このような論理になります。


そして、この論理は、違憲判決の相対効説と矛盾しません。

平等権に基づく請求を認容する違憲判決も、
もちろん当事者に対する関係でしか効力を持たないのですが、
その肝心の当事者の権利を実現するためには、
第三者にちょっかいを出さざるを得ない、というような感じになります。

うーんと、事例はちょっと違いますが、
 XがYに対し、第三者Aのためにする契約の履行を求める事例
(XはYに対し、第三者Aに・・・することを求める権利を持っている事例)
 とよく似た構造になると思います。

 この場合、YがXに対する債務を履行しているかどうかは、
 YがAに対し何をしているかを画定しないと判断できないし、
 弁済の抗弁を出すには、Aに対し・・・をする必要がある。
 裁判所も、Yに対し「Aに・・・しろ」と命令を出せる。
 但し、この訴訟の既判力は、あくまでX・Yにしか及ばない。

 (例を出して、よりわかりにくくなってないとよいが・・・?)

なので、平等権に関する訴訟の中で、
第三者に対する取扱いをうんぬんしているのは、
違憲判決の効力の問題ではなく、
あくまで、平等権というケッタイな権利の内容の問題だとご理解ください。

こんな感じでどうでしょうか?

質疑応答(第八問について・2)

2011-08-05 15:54:26 | Q&A 急所演習編
先日のご返信に対し、shiga様から ご返信を頂きました。

まことにまことにありがとうございます。

分かりやすくご意見・ご疑問が示されていて、

とても勉強になるとともに、読んでいてとても楽しかったです。

幾つかの点について、お返事のお返事をば。



以下、やはり『憲法の急所』第八問の内容にわたることが書かれますので、

「いや、まだ第八問やってないんだよなー」という方は、

第八問が終わりましてから、お読みください。







1 お小遣い

ご指摘いただきました通り、第八問の争点は、

生活保護の額に含まれる「お小遣い」

=文化活動のための費用分の理解にかかっております。


原告は、
   「お小遣い」は宗教活動の分も含めて算定してよね。
    それって、憲法25条1項の要求でしょ。

被告は、
   いやだからさー、もともと「お小遣い」額は
   そういう分も含めてあるからさ。

と主張していくことになるはずです。


憲法25条1項については、

 何が最低限度か?  という問題と、

 最低限度を下回っている場合に、何(解釈?立法?金銭支給?)
 が要求できるか?  という問題の二つがあって、

学説は後者ばかり論じてるけど、大事なのは前者だろう、

という意識をもって、第八問をつくってみました。

お小遣いというのは、とても適切な比喩かと思います。

どうもありがとうございます。


2 政教分離

政教分離については、あんまり自分の論文ばっか引用するのも気が引けて

さらっと流してしまったのですが、

結果として分かりにくくなってしまったかもです。

ご指摘ありがとうございます。

はい。というわけで、この番組をご覧の方々に宣伝です。

 自治研究87巻4号133頁以下の論文を読んでください!
 行政判例研究会判例評釈、末広がりの888本目。

 ・・・やはり、政教分離については、補足したいと思います。

豆男論証についても、いずれ公開したいと思います。
(批判、再反論含めて、構想はあるのですが・・・。)


3 LRA

ご指摘いただいた判例がLRAの基準を採ることを避けているという議論ですが、

判例一般がLRAの基準を採ることを否定している

=必要性がなくても防御権制約を正当化できるとしている

と考えるのは、ちと違うような気がいたします・・・。


まず、猿払事件判決ですが、この判決

表現行為に刑罰を科すことは「必要やむをえない」場合でない限り、許されないとしているようであり、

LRAの基準を排していないように思うのですが・・・。

ええと、この判決が、第一審のLRA理論を退ける議論も

「懲戒処分と刑罰とは、その目的、性質、効果を異にする別個の制裁なのであるから、

 前者と後者を同列に置いて比較」することは妥当ではない、

つまり、懲戒処分は刑罰のLRAではない、というところにあり、

LRAの<基準>自体は排斥していないかと、思うのですが、どうなのでしょうか。


また、森林法違憲判決や薬事法違憲判決では必要性の有無を基準としてますし

後者は、必要性が欠ける=より制限的でない方法があるから違憲という議論をしてるように読めます。


というわけで、まず、LRAがある場合にはその規制は違憲だという理解は、

学説はもとより、判例も承認している議論だと、私、強気にそう考えております。

(憲法判例をめぐる学説・判例の対立のほとんどは、
 設定された基準ではなく、基準へのあてはめにかんするものだ、
 というのが、私の基本的なスタンスです)

なので、答案や準備書面でLRAの基準をたてても、別に、何の問題もないだろうと・・・。



また、刑事手続に対し民事手続がLRAになるというのは、

憲法学説というより、刑法の教科書で刑事罰の謙抑性という項目で語られることで、

誰かの説というより、法学部的な常識としてお話ししたつもりなのです。

確かにこの点、説明不十分な点がございました。反省させて頂きます。


ご指摘の通り、ある規制に対し、これがLRAになるでしょう、という議論って

水掛け論になりやすくって、私個人としてはあまり好きではありません。

とはいえ、LRA=必要性の議論まったくやらないのは、

それはそれで問題かなとも思い、ああいう論証にしてみました。


というわけで、貴重なご指摘の数々、まことにありがとうございました。


質疑応答(第八問について)

2011-08-02 22:27:18 | Q&A 急所演習編
先ほど、知人からメールにて連絡をもらいました。

shiga_kenkenさんという方が、ブログ
『急所』の感想をかいてくださったとのこと。

幾つかご質問もいただきました。

他の方にも参考になるかと思いますので、記事としてお便りさせて頂きます。
(大岡さまへのご質問への回答継続中なのですが、
 ちと山場でございまして、考えをまとめております。
 というわけで、shiga様のご質問に、まず回答させていただきます)


はい。それでは、以下、『急所』第二部第八問の内容にわたる議論をいたしまする。

まだ、

「第八問はまだ読んでないなぁ。先入観なく、自分で答案構成とかしたいなぁ。」

という方は、以下の記事、第八問を終えてからお読みください・・・。


>shiga_kenken様

まずは御礼から。

私の本を真剣に読んで頂き、まことにありがとうございます。

自分の書いたものを、ここまでしっかり読んで頂ける方がいて、とてもうれしいです。

また、誤植のご指摘や、生活保護の説明について不足があるというご指摘、

まことにありがとうございました。

今後、もっと正確で、分かりやすい文章を書くよう心がけたいと思います。




さてさて、その上で、幾つかご質問にお答えしたいと思います。

まず、次の点。

 原告は、結局のところ、本件変更処分が「最低限度」に必要な額を下回ると主張しているけれど、

 それは、「最低限の衣食住に必要かつ十分な経費」を無視しており、

 「主張する際の前提」にはしていないように思えます(勘違いかもしれませんが。)。

 「触れる」必要はないのでしょうか?


 >ここですが、憲法25条は「健康で文化的な最低限度」の保障を要求しており、

  最低限度の「衣食住」の保障以上のものを要求しているように読めます。

  なので、原告の主張は、上記前提と矛盾しないと考え、あのような書き方になっています。


続いて、次の点。

 本件宗教活動に直接関係するのは、生活扶助基準のみのような気もするのですが、

 「生活扶助・住宅扶助の各基準の合計額」に焦点を当てるための「誘導」なのでしょうか?


 >うーん、言われてみると、そう考えることもできるかなと思いますが、

  家賃だって一定ではなく、住宅扶助の分をきりつめて宗教活動にまわすこともあるだろうと思い

  合計額に焦点を当ててもらいたいと思いました。

  というわけで、誘導といえば誘導です。


さてさて、続いて。

 例えば、8条違反、もっというと12条・14条違反だと主張すると、

 「適用条項の誤りで減点」とかにされないのでしょうか?


 >はい。ここは、確かに一言断りを入れるべきでした。

  この問題のポイントは、生活保護法の何等かの条項をテコに

  憲法論を組み立ててください、というところにあるので、

  9条以外の条項でも、もちろん可という前提で作りました。

  9条で議論を組み立てているのは、あくまで一例です。


  宗教上の理由で、余計な支出があるなどという生活保護の判例は

  見つからなかったので、判例がこうしています、というものでもないかと。


  私が、本務校でこの問題を出題したときは、

  8条で組み立てても減点という基準にはしませんでしたし、

  受講生の何人かは、実際、8条で議論をしてくれました。

  というわけで、この問題で、9条以外の条項を排除するのは、

  採点基準として不適切だと思います。

  (もちろん、実際の試験で、非常に硬い採点基準が立てられる可能性もありますが、

   この問題で、9条以外アウトというような硬直的基準を立てると、

   採点する方も、明らかに優秀な答案が没になったりして、

   やりにくいだろうと思います・・・。)

  重要なご指摘、ありがとうございました。


続いて、この点。


 まず、(本問には直接関係しないけれど、そういう意味で、

 論証例ではなく最初の解説の段階においてですが)被告・裁判所は、

 生活保護の基準額の決定において宗教活動についても考慮の対象としていることが

「政教分離原則」に違反しない、という説明をする必要はないのでしょうか?


 >ふむふむ。確かに、このような疑問をもたれるのも、ごもっとも。

  では、少し解説をば。ええ、一般に、

  <対象の非宗教的な要素に着目した措置>の結果、

  宗教団体や宗教者が利益を受けるケースは、政教分離原則に抵触しません。

  例えば、<火事>という要素に着目して、お寺の火事に消防車が出動したり、

  <子育て>という要素に着目して、キリスト教徒の方に子ども手当が支給されたりしても、

  そして、消火されたお寺で宗教活動が行われたり、

  子ども手当の一部が宗教教育に使われたとしても、

  それは、非宗教的な要素に着目してなされる行為なので、

  政教分離原則に違反しないわけです。(詳細は、自治研究87巻4号135頁参照!)

   ちなみに、私は、shigaさんがご指摘されている宗教法人非課税も、

   <私人が自発的に形成する団体への援助の一種>として、

   宗教的性質に着目してない措置として正当化できると考えていますし、

   現在執筆中の教科書でも、その筋で整理しています。


  で、生活保護の基準額の決定において、

  衣食住以外の活動のための費用も必要だよね、と考慮することは、

  <その人が自ら選択する衣食住以外の活動の援助>と言う要素に着目した

  非宗教的要素に着目した考慮なので、政教分離原則は問題にならないはずだ。

  このような考慮があり、被告や裁判所は、あまり議論をしていないわけです。

  もちろん、このあたりをきっちり論証した方が良い、というのはその通りかなと。

  再び、重要なご指摘ありがとうございました。

  この本を使って講義するときは、そのあたりしっかり補充したいと思います。

   (余談ですが、 ――政教分離原則は客観法原則なので、

   「権利論を組み立てる」に入らないのは当然といえば当然なのですが――

   『憲法の急所』の政教分離に関する記述がややさびしいという点は

    若干気になっておりまして、何等かの形で補足しようと思っています。 

    とはいえ、安易に補訂版とか新版を出すのは、最初に買ってくれた方に失礼なので、

    web公開できればよいなぁ・・・。)


さて、続いて。

  Xとは異なりN教信者ではないが、他の状況についてはXと同一の人であっても、

  同一の処分がなされるのではないか?

  このような仮定が正しいとすると、宗教的には中立的ないし無関係であって、

  「すでに含まれている」とは言いにくいのではないか?


  >うーんと、すでに含まれている、というのは、

   生活保護の額の中に、宗教・芸術・スポーツなど、

   自分が好む「文化」のための活動費が含まれているはずだ、

   というもので、宗教活動専門の費用が算入されている、といっているわけではないのです。

   不注意だったかもしれません。失礼いたしました。


というわけで、

 仮に、生活保護の基準の決定に際し宗教活動に関して考慮しているとした場合、

 原告のような主張を採用することは、「政教分離原則」(憲法20条3項、89条)

 違反になるのでしょうか?


 >私個人としては、宗教的要素に着目して、それを特別に援助するようなこと

  第八問で言えば、生活保護費に宗教団体への寄付の分を

  宗教活動のための費用だからという理由で、上乗せする措置は、

  やはり20条3項違反かなと思います。

  但し、ここまで述べてきたように、衣食住以外の文化的活動一般のための費用を上乗せして、

  自分が選んだ芸術や宗教など、好きな文化活動に使えるようにする、のはOKかと。


  一連のご指摘についてのポイントは、やはり、

  <宗教的要素に着目した援助>と

  <非宗教的要素に着目した援助が宗教活動に有益な場合>の区別なのかなと思います。




  うーん、やっぱり、政教分離原則は難しいなぁ。

  先ほど書いたように、政教分離原則については、何らかの形で補足したいと思っています。


  ええと、『憲法の急所』という本の名前の方が有名なくらいで、

  知られていないのも当たり前なのですが、  

  私、実は政教分離関係の原稿、二本書いております。

   空知太神社上告審判決 自治研究87巻4号133頁

   首相の神社参拝行為に関する違憲確認・差止・損害賠償請求が棄却ないし却下された事例

              自治研究81巻9号125-154頁

  私の政教分離に関する考え方については、こちらをご覧いただければと。



その他のご感想についても。

 第1問の「裁判官の判断」は、判例との共通性の高さ・「判例は神」・

 最初の問題という理由から、判例ベースにしたほうがよかったのでは。


  ありがとうございます。ピアノ伴奏のケースについては、

  判例ベースにすると論証がうすっぺらいものになってしまうだろう、

  という考慮から、ああいう書き方を選択してみました。


 第4問、(1)別の視点からの検討として、ジュリスト1400号100頁を持ち出しているんだから、

 それも解説・論証例に反映してほしかったな…。

 (2)裁判官の判断、(検察官の反論に沿う形で)代替手段の検討をしているけれど、

 そういう比較をするものかな。


  (1)これもありがとうございます。ジュリスト論文(豆男論文と呼ばれています)

  の筋の答案は、さすがにアクロバティックと思い、自重した経緯があります。

  ご要望があれば、豆男論文をもとにした論証例(豆男論証)も公開いたしますので・・・。

  (2)ごめんなさい。ちょっと、ご指摘の内容が分かりませんでした。

  もし気になる点ございましたら、コメントなんかでお知らせください。


ではでは、本当に参考になるご感想ありがとうございました。

また、気になることがあればご連絡いただければ幸いです。