春夏秋冬

日々流されないために。

親切

2007年05月05日 19時57分13秒 | Weblog
道に迷った。柳橋界隈を散策していたら、ぐるぐる回って現在位置を確認できなくなった。浅草に行きたいが、ここからはて、何処のように行けばよいか。地下鉄駅の浅草橋を目指せばよかろうと思うが、一寸訊いた方がよさそうだ。ふと前に食堂の親父さんらしいひとが見えた。
 
「浅草に行きたいのですが、地下鉄の駅はどう行けば宜しいですか。」
「浅草ですか。駅は東日本橋の方が近いですが、浅草に行くのでしたら、浅草橋の方がよいです。」
親父は奥から大きな地図を出してきた。各家まで書かれている近所の詳細地図だ。
 
「この道を真っ直ぐ行って、この柳橋を渡って、それからこちらの道を…。」
「ありがとうございます。ここをこう行って。大体分かりました。」
「そこまで案内しますよ。」
「いけそうです。」
 
「いや、結構わかりにくいんですよ。」
「そうまでして頂かなくとも、大丈夫と思います。」
「いや、そこまでですから、ご案内します。」
「え? よろしいんですか。」
「私は案内したいんですよ。」
「悪いですね。」
 
奥から、おかみさんの声が飛ぶ。
「親切の押し売りになっちゃうよ。」
 
そうか、親父は親切に道を教えるのが生き甲斐なんだ。でも、助かるし、押し売りという程でもあるまい。親父は、駅が近くに見えてくるまで付いてくれた。私はお礼の言葉も底をつくほど、礼を言って別れた。
 
こういう親切心にあふれた人って、元来が人好きなんだろう。好意でする親切の押し売りは相手が少しどうかなと思っても、納得するもの。親父さんも困っていた私のお役に立ったわけで、親父さん自身も満足しているに違いない。