旅つづり日々つづり2

旅のような日常と、日常のような旅の記録と記憶。

「もういいよ」がきこえた日 

2018年10月12日 14時11分14秒 | 日々のこと
青之介が1歳になった。

体重がなかなか増えず心配したが、離乳食が始まると「待ってました!」と
ばかりに大きくなった。何でも食べる。いくらでも食べる。顔の横に「モリモリ」という
吹き出しをつけたらぴったりな感じ。

身体が安定してくると動きも一気に活発になった。全ての引き出しをあけるのは当たり前。
段差はのぼるもの、ふたは開けるもの、ひもは引っ張るもの、ごみ箱はひっくり返すもの。
イスは押すもの、テーブルはのるもの・・・数え上げればキリがない。

「あおー!!」と叫ぶことも多々あり、この間はカメムシを口の中に入れてもぐもぐしてた。
トイレのブラシをどこに隠しても見つけ出してなめようとするのは本当にやめて欲しい。

青の動きと表情をみていると、もうおっぱいは必要ないな・・・としばらく前から考えていた。
いつおっぱいをやめるかは本当に人それぞれで、どれが正解でどれが間違っているかはどこにもない。
その子どもとお母さんが決めることで、3歳で飲んでいる子もいれば半年たたずにあっさり飲まなくなる子もいる。
これが最後の授乳になると分かっているのでなおさら焦る気持ちはどこにもなかった。

授乳。
子どもが産まれたその日から待ったなしでやってくる授乳。こればっかしはやってみないとわからないと
断言できる。(やったから偉いわけでも、全てを語れるわけでもないが)
「私が乳を飲ませなければ死んでしまう」という存在が目の前に24時間いることのプレッシャー。
それはもう重たくて、重たくて、何度押しつぶされそうになったことか。
私の都合なんてお構いなし、それが夜中であろうが、全く睡眠がとれない中であろうが、外出中であろうが
とにかく乳をやらなければ何もできないのだ。食事も睡眠も排泄も全て赤子の授乳次第だった。
自分が乳マシーンにしか思えなくなり、寝ても覚めても乳のことしか考えることができなかった日々。
離乳食が始まった時、毎回私は心の底からホッとした。「ああ、これでこの子は私がいなくなっても
生きていける」と。あれほどの安堵感を私は他に知らない。

そんなこんなの乳ライフ。誰にもひとつやふたつのとっておきのエピソードがある乳ライフ。
そのおしまいの日は自然にスッと突然やってきた。

昨日は私が歯医者だったので青を一時預かりにお願いしていた。
迎えに行くと、青は黙々とおやつを食べておりチラッと私と目が合うとニッと笑ってまたおやつを
食べることに集中していた。先生は「朝から全力で遊び、食べ、眠り、一日ニコニコしていましたよ」と
青の様子を教えて下さった。青の満足そうな自信に満ちた横顔とイキイキと遊ぶ姿が目に浮かぶようだった。
「ああ、もう大丈夫だな。保護するだけ、ケアするだけの時は終わったんだな。」何かがストンと胸に落ちた。

眠る前に青と話をした。(もちろん私が一方的にしゃべっただけであるが)
たくさんおっぱいを飲んでくれて本当にありがとう。この時間が心から幸せだったこと、青を産んで
よかったこと、こんな時間をくれてありがとう。これからはおいしいものをいっぱい一緒に食べよう。
でも始まりにおっぱいを飲んでくれて本当に本当にありがとう。・・・そんなことをたくさん。
青は聞いていた。絶対に理解していたと思う。言葉でのやりとりはできないけれど、でも何かもっと
大事なものをやり取りした感触が確かに私にはあった。青に語りかけていると「ああ、おしまいなんだな。
この子はもう二度と私のおっぱいを飲まない。」と何故か確実に分かって涙がハラハラ落ちてきた。

青は話が終わるとくるっとまるまってそのままスヤスヤ眠ってしまった。そのまんまるの背中から
「もういいよ」が伝わってきた。いつまでもなでていたい夜だった。

四人の子どもたちよ、私にこんな時間をくれて本当にありがとう。
夜中の授乳はこの世界に私たちしかいないような、海の底で静かにたゆたうような時間だったよ。
ふたつの「命」が響きあう、強くてそれでいて儚くて淋しくて孤独だけど無敵な時間だったよ。
あんなに暗い夜はなかった。あんなに長い夜もなかった。だけどキラッと光る星はいつもそこにあった、
優しい月がいつも私たちを照らしてくれていた。

きみたちはどんどん前に進めばいい。忘れることは素晴らしいこと。
私だってまだまだ前に進んでいく。ずっとここにとどまるわけにはいかない。
だけどね、きっといつか何かの拍子に思い出すのは私のおっぱいだけで生きていたあの頃赤ちゃんだった
子どもたち。24時間おっぱいマシーンだった私に神様がくれたごほうびがこの記憶なのだとしたら、
私はそれを抱えてこれからも素晴らしい人生を歩いていける。絶対に。

授乳が終わっても子育ては続く。(もちろんだ)
さあ、またがんばろう。





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