東京 DOWNTOWN STREET 1980's

東京ダウンタウンストリート1980's
1980年代初頭に撮影した東京の町並み、そして消え去った過去へと思いを馳せる。

「東西書肆街考」脇村義太郎著を読む

2014-04-26 18:20:09 | 書籍


「東西書肆街考」(とうざいしょしがいこう)
脇村義太郎著 岩波新書 1979年刊 現在絶版
アマゾンの内容紹介より
「江戸時代に日本の出版業の出発点となった京都と、近代以後その集中の規模と総合性において世界でも比類のない巨大な書物同業者街となった神田。愛書家として知られる著者は、厖大な文献を探査し、多くの聞き書きを行なって、この東西二都の書肆街(本屋街)の経営史を描きだした。『図書』連載中から好評をもって迎えられた。」

 岩波新書だが、目下絶版になっている。京都と東京の書店街の成立から今日に至る経過をまとめ上げた内容で、非常に興味深い。紙数から言えば、東京神田の書店街の成立について、それ以前の段階から述べられていることと、併せて駿河台の変遷も描き出されているところが貴重ではないだろうか。私の興味も、もっぱら神田の方にあったので、そちらについて重点を置いて書いていきたいと思う。

 神田と言っても、元々神田っ子の住まう神田は、江戸時代には神田駅の周辺から東側辺りのエリアで、駿河台から神田神保町に掛けては武家地であったところ。武家地というのは、武家屋敷が並んでいて、町人はいないということになる。その名残というのは今でもあって、神田駅から西に歩いて行くと、神田橋の北側のエリアというのは大きなビルばかりが並ぶ地域になる。この辺りは元々が、武家地で大きな屋敷が多かったので、いまもその影響で大きな敷地のビルが多くなっているわけである。
 そして、駿河台は、その名の通り、家康の直属の家臣達が静岡から移り住んだところなので駿河台と名が付いたと言われている。ここも武家地であり、旗本の中でも重要なポジションのものが多かったところでもある。
 これらの武家屋敷は、明治維新によって政府へと返還されたところが多い。元々が武家屋敷は、好きなところに構えたわけではなく、幕府から指定されたところを屋敷にしていたわけである。町人も同様で、町と定められたところに住んでいたわけで、好きなところに家を構えることなど出来なかった。

江戸時代の駿河台、小川町の切り絵図。


 その状態から、維新後には薩摩長州を中心にした新政府の役人が上京してきて住まいにしたり、大きな商人が買い取っったりといった具合に変化をしていくことになる。武家屋敷から、高級官僚やお雇い外国人の町へと変わった駿河台の様子が生き生きと描き出されていて、こういった江戸から東京への移り変わりの中、今では失われてしまった町のことが詳細に描かれていることだけでも、非常に貴重な資料になっていると思う。

明治36~37年頃の神田古書店の地図。


 また、この武家地であり、大きな屋敷が多かったところから、大学設立の地となるケースが多かったわけで、これも江戸の名残と言える事象だろう。東京大学も、その発祥は神田の武家地跡である。そのことが、書店をこの地に呼び寄せることになっていった。書店の発展というのも、本書のテーマの一つになっていて、書籍の販売のみならず、出版までを含んだ形で神田の書店が発展したことが出ている。これも、興味深い店である。

震災後の昭和14年頃の神田書店街の地図。


 出版社、取次、そして書店という、今日の書籍の流通の基本がどんな形で発展していったのかと言うことも、具体的に名を上げて記されているし、その変遷を追っていくだけでも面白い。そんな中で、文京区の白山上の南天堂書店の話が出ていて、これは驚いた。私は小学校がそのエリアであったから、白山上の南天堂書店は時々覗いていた馴染みのある書店だが、古い歴史を持つ店であるとは知らなかった。そんな風に知っている書店の名が出て来るだけでも感心させられるし、驚かされることがあって貪り読むことになる。

戦後の昭和22年の神保町書店街の地図。


 旧神田区でも西側の武家地エリアの江戸から明治、大正、昭和の歩みを知る上では実に素晴らしい内容で必読と言えると思う。また、類書がないという点からも貴重な一冊であると言えると思う。分かりやすいようにと思い、地図を少し掲載したが、本書にはもっと年代の違う地図が収められていて、これを見ているだけでも面白い。これは読むべき一冊。これ程の本を絶版しておくべきではないと思う。
 本書のことは、ツイッターでカワイ先生のお陰で知ることが出来た。多謝。

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