東京 DOWNTOWN STREET 1980's

東京ダウンタウンストリート1980's
1980年代初頭に撮影した東京の町並み、そして消え去った過去へと思いを馳せる。

「地図で読む戦争の時代」今尾恵介著を読む

2014-05-03 18:57:51 | 書籍
「地図で読む戦争の時代」
今尾恵介著 白水社刊


アマゾンの内容紹介より
「《隠された日本のかたち》
「地形図を作り始めたのは、どの国でもたいてい陸軍である。もちろん海図は海軍が作った。陸であれ海であれ、国を守るために正確な地図が必要であることは当然である。しかし一方で、他国を侵略するにも、先立つものは地図であった。」(本書「はじめに」より)
軍港や飛行場などの軍用地、重要な工場や発電所、ダム、鉄道操車場といった場所の地図は、敵国の目から隠すために、ときに別のものとして描かれたり、まったくの空白とされることもあった。
とはいえ、正確に描かれた地図のなかでこのような改描は逆に目立つことも多い。呉や佐世保、横須賀といった地の空白が意味するものは、歴史を知るわたしたちにとっては明らかだ。
この本では、さまざまな用途や時代の地図をもとに、日本がかかわった「戦争」の痕跡をさぐっていく。
軍用地や軍用鉄道は戦後どのような変遷を遂げたのか。また、日本の支配下にあった朝鮮や台湾、満洲国の地図はいかに描かれていたのか。
地図から日本の歩みが立体的に浮かび上がる。掲載地図130点以上。領有をめぐって揺れる尖閣諸島や北方領土の地図も掲載。」

 地図を見るのは単純に楽しいと思うのだが、戦前には軍事関連施設などは地図上には描かれなかったことは知っている。東京の地図は復刻されたものなど、いくつも見ているが、明治期には建物の配置まで書かれていた軍関連施設が、昭和に入ると空白になってしまっている。そういったことを知ってはいたものの、戦時改描といわれる意図的な地図の改竄について、数多くの地図の現物を例示してまとめてみせてくれているのが本書である。
 中に出て来るところには、私にとっても馴染み深いところも出て来るので、興味深く読むことが出来た。

 さらには、一部の関係者だけが見ることの出来た、軍事機密であった地図も一部掲載されており、それらはより興味深く見た。一般向けに地図が出せなかったところでも、軍事上必要な事は言うまでもなく、通し番号で管理される形で製作されていたことなど、その実態も書かれている。戦前という時代がどんな時代であったのか、地図を通してみることが出来るという点でも面白いアプローチだと思う。

 空襲などの戦災被害で焼失した町の描かれ方も触れられている。私は、gooから提供されているgoo地図の古地図のページから見ることの出来る昭和22年に撮影された空中写真を参考に、いつも戦災被害を受けていない町を探して歩いてみると言うことをやっている。この空中写真は米軍によって撮影されたもので、国土地理院のウェブサイトから全国のさまざまな時代のものを見ることが出来る。東京エリアでは、地図と同じようにまとめられているので、goo地図を参考にすることが多い。
 強制疎開で建物が壊された跡も、同様にこの空中写真でその痕跡を見ているが、地図でどう描かれていたのかというのも気になるところだった。

 本書に出ていた地図で、とりわけ興味深かったものを見てみよう。まず、これはこのブログでも何度も取り上げてきている、私の地元を含んだ北区、板橋区エリアの陸軍造兵敞が描かれた地図である。妙に広い敷地が、日本の町並みと懸け離れた住宅として描かれているのが特徴的。私の手元の地図では、明治末の地図で描かれていた構内の様子が、昭和の地図では白紙になっていたというのはあるが、偽装されていたというのは初めて見た。更に貴重なのは、この地図をよく見ると十条駅と東十条駅、当時は下十条駅であったのだが、これが旧カナでひらがな表記されていること。十条を旧カナで書くというのは、なかなか難易度が高くて難しい。これは旧カナを使いたがるような人に書かせてみると意地の悪いテストになる様な気がする。ちなみに「じふでう」が正解。


 こちらは、陸軍成増飛行場の図。終戦後の地図だが、その後にここは接収されてグラントハイツになってしまうので、飛行場の様子が分かる貴重な地図と言えるだろう。


 そして、これは現在の西東京市のひばりヶ丘団地辺りの地図である。左下に墓地が描かれているのだが、ここは我が家の墓地もあるところ。関東大震災後に浅草周辺の寺が多数移転を余儀なくされ、墓地がここに大きな敷地を共同で確保して移転してきたものである。父親の小さい頃に、祖父に連れられて炎天下を駅から墓参に、中島飛行機の工場の横を延々と歩いたのを覚えているという話を聞かされたことがある。その工場の跡地が、今はひばりヶ丘団地へと変わったわけである。その団地も、我が国の団地の始まりと言える存在であったのだが、今は初期のものは全て取り壊されており、建て替えられた新しい高層住宅が建ち並ぶ様に変わっている。工場への引き込み線があったことも、この図で知ったのだが、その跡など訪ねてみるのも面白かもしれないと思っている。


 最後に、これは文京区弥生の東大裏の射撃場の載っている地図、この町は、以前このブログの「文京区弥生二丁目~その一」で取り上げた、まさにその場所のことである。この射撃場の形そのままに、今の町が出来ているのがまた面白かったりする。


 と、本書の内容も読み応えがあってお勧めできるものだが、掲載されている地図を見ていても、それだけで楽しめるという所もあり、一粒で二度美味しいという楽しみ方も出来る。是非、手に取ってみて頂きたいと思う。
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