水瓶

ファンタジーや日々のこと

ふしぎな図書館2・魔法の本

2014-09-30 08:58:18 | 彼方の地図(連作)
その日からアローは、毎日のように地下深い図書館へ通って、魔法の本を調べるようになりました。そして、真昼の大陸の文字は、薄明の大陸の文字がそのまま発展したとは言えないけれど、少なくともどこかで源を同じくしているようだということについては、イリヤザンと意見が一致しました。イリヤザンは、アローが真昼の大陸の文字を読めることにとても喜んで、これは読めるか、これはどうじゃ、と次々と本をひっぱり出して来たので、落ち着いて一冊読むのもままなりませんでしたが、おかげでアローは大ざっぱに沢山の本を見ることになりました。それでわかったのは、図書館にある本は、どれも真昼の大陸の文字で書かれていながら、書かれている内容は、薄明の大陸のことについてだけで、真昼の大陸について書かれたものはないということでした。

「不思議だ。まったく不思議だ。」

「ふんふん、さもあらんよ。この図書館で、おかしなことが起こるという話は聞いたかな?___実はな、ずっと昔からのことなんだそうじゃが、本がなくなるんじゃ。ぽつ、ぽつ、と。」

「それは、誰かが黙って持ち出したとか、盗んだのではないですか?そうしたことがあったとこの間おっしゃっていたが。」

「あれはな、あいつが興味を持っていた本がある日いっぺんにごっそりなくなって、それっきりやつめが姿を見せなくなったんで、盗まれたと見当がついたんじゃが、それとは違うと思うておるのは、なくなった本が、しばらくすると戻って来よるからなんじゃ。」

「本が戻る?」

「ああ。なくなったとおぼしき場所に、ある日ひょっこり戻っておるんじゃ。けっしてわしの勘違いではないぞ。前の司書からそういうことがあると、言われておったからな。一度、その司書と確かめたことがあるんじゃ。ここは扉に鍵をかけない習わしなんじゃが、特別に王様に許しをもろうて頑丈な鍵をかけ、わしとその司書が泊まり込んで、誰も入れんようにした時期があったんじゃ。はたして、本はなくなり続けた。そうしてどの本も、何ヶ月かすると、戻って来よった。」

「いったい___?」

「わしらは冗談まじりに、この図書館のどこかに、ねずみ穴のような誰も知らない秘密の抜け道があって、そこから本が出入りして旅をするんじゃ、と言っておった。旅して、また宮殿に帰って来るんじゃとな。いったい、本が魔法なのか、それとも図書館が魔法なのか、わしにはどちらともわからんね。」

「この図書館は、いや、宮殿は、どんな人たちが中心になって造ったものだろう?___こう言っては何だが、薄明の大陸のものたちはみな素朴で、これほど大がかりなこととは無縁のように思えるのだが。」

「そうじゃ!ごく最近見つけた本なんじゃが、もしかしたらそれに、この宮殿を造った人々について書いてあるかも知れん。なにせえらく古い本で、虫食いだらけで破れはひどいし、文字もかすれてよう見えなんだで、ほとんど読めておらんのじゃ。ここへあんたが来たのは、まさに僥倖というもんじゃ!」

そうしてイリヤザンは、古い中でも特に古く見えるその本を、慎重にアローに渡しました。すれて白っぽくなった皮張りの表紙には、上からは模様のある大きな翼をつけた人が、下からはがっしりとした大きな人が太い手をのばして、中央にある一つの光る球らしきものを二人の手のひらで包み込んでいる絵が、皮の表面をひっかくようにして描かれていました。

「大きい人はオロート、翼のある方はウプルーという種族らしい。今はもう、この大陸にはおらん人々じゃ。」(つづく)


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