水瓶

ファンタジーや日々のこと

ふしぎな図書館3・ウプルーとオロート

2014-10-02 08:28:09 | 彼方の地図(連作)
薄明の大陸に住んでいたさまざまな生きものたちが、小さなまとまりをつくって、ばらばらに暮らしていた遠い昔のことです。その頃はまだ、互いに他の種族をほとんど知らずに、薄明の大陸のもたらす恵みを享受して、それなりに幸せに暮らしていました。ところがある頃から、季節のめぐりが大きく狂い出し、春も夏も秋も冬もその役目を忘れたように、真夏に雪が降って秋には実りがなく、冬にはクァロールテンに雪が積もらないために、春になっても川に水が増えず、食べるものがほとんど育たなくなってしまい、飢えて死ぬものが沢山出ました。そのうえ、それまでにはなかったような大嵐や地すべり、竜巻に山火事などの、大きな災害がひんぱんに起こるようになって、種族まるごとが泣く泣く生まれ育った土地を離れざるをえなくなることもたびたびありました。そんな風に大きな不安を抱えたままの時期が何年も続いたある日、クァロールテンの山から、大きな虹がまっすぐ天にのぼり、長いあいだ昼も夜も消えずにいました。生きものたちは不思議な虹を目印に、散らばり住んでいたあちらこちらから、川をさかのぼり、時には砂漠を越え、道なき道を探し見つけ出して、大陸の中央部へ、クァロールテンのふもとへと集まって来ました。今までいた土地で、今まで通りの暮らしができなくなって困り果てている所に、山頂から立っていつまでも消えない大きな虹が何かの知らせのようにも見え、呼ばれているような気がしたからです。そうして集まって来た生きものたちは、クァロールテン近くの山に奇妙な崖を見つけました。近くまで行ってみると、翼のある人たちと大きな人たちが立ち混じって、崖を大きく造りかえているらしいことがわかりました。生きものたちに気がついた翼のある人の一人が言いました。

「われらは雲の原からやって来たウプルー、『太陽に近いもの』。季節が軸を失ってさまよっているので、われらの手で造ることにしたのだよ。」

大きな人が言いました。

「われらはオロート、『地面を支えるもの』だ。地の底からやって来た。動かぬ軸を、大地も望んでいるのだ。」

そうしてこの二つの種族は協力し合って、玉座を囲い、守るように、滝の宮殿をつくり始めたというのです。ウプルーとオロートは、薄明の大陸の生きものたちにはないようなさまざまの知恵と、大きな力を持っていました。ウプルーは道具を使って高い所を形づくり、オロートは大きな岩をも素手で動かすその力で、宮殿の土台を造りました。集まって来た生きものたちも、おのずとそれを手伝うようになりました。長い月日がたって、とうとう滝の宮殿が出来上がった時、オロートが言いました。

「この玉座に、この世界に生きる生きものたちが、かわるがわる座るのだ。」

生きものたちは言いました。

「ここに座るのはあなたがた、大きな人や、翼のある人の方がいいのではないですか?私たちの力はあなたがたにはるかに及ばないし、知恵もないのです。」

オロートが答えました。

「われらはここに座ることはできない。なぜなら、われらには雲の上と地の下と、それぞれにいるべき場所があるからだ。玉座に座る者は、みなにわかるようにクァロールテンが選ぶだろう。」

ウプルーが続けて言いました。

「玉座に座るものに望まれるのは、力でも知恵でもない。だが、それが何かをあなたがたに伝えるのは難しいのだ。しかし、玉座に座ったものには、わかることもあるだろう。あなたがたは、玉座に座るものをよく見ていてごらん。」

すると、クァロールテンの山頂からまっすぐ上っていた虹が動いて、その端が、その場にいた生きものの一人にかかりました。それが薄明の大陸の王様の始まりだったのです。玉座についた最初の王を見届けたウプルーは、巨岩の門に魔法をかけました。

「遠い先に、宮殿の動かぬ軸でも、盲目になった季節が荒れ狂うのを止めることができなくなる時が来るかも知れない。その時この門は閉じ、滝の宮殿は長い眠りにつくことになるだろう。今とは違う役目を果たす時が訪れるまで。」

そうして最後の仕上げをほどこしたウプルーは雲の原へ、オロートは地の底へと帰って行きました。

それからは、大体百年から二百年ごとにクァロールテンの山頂から虹がたち、王様が交代するようになりました。薄明の大陸の生きものたちは、まとまって暮らすことを好むものが多かったので、王様に選ばれたものの一族ごとが、滝の宮殿に移り住むようになりました。それだけの数を迎え入れ、暮らせるだけの大きさと使い勝手を、滝の宮殿は持っていました。季節はまたもと通りめぐり始め、恵みをもたらすようになって、生きものたちは、宮殿に暮らすことを選んだ者たちを残し、もといた所へ帰って行きました。宮殿はどの生きものも快適に感じられるよう造られていましたが、薄明の大陸の土地の、生きものたちをひきつける力は強く、以前に暮らしていた所へ帰りたいと望むものが多かったのです。けれど、この大工事に加わったことと、選ばれた王様とその一族がかわるがわる宮殿に住むことで、薄明の大陸の生きものたちは、自分らが暮らしているのとはかけはなれた場所にもさまざまな生きものたちが暮らしていて、たとえどんなに見た目が大きく違っていたとしても、苦しい時にはもがき打ちひしがれ、嬉しい時には喜び笑いながら、同じように生きていることを知るようになったのです。

   *

ところどころアローが憶測した言葉で穴埋めしなければなりませんでしたが、イリヤザンから渡された本には、おおよそこうしたことが書かれていました。そうして本の最後には、「東の蔓の谷から来たりし緑の王グラヴァント、これをしるす」とありました。(つづく)


最新の画像もっと見る