水瓶

ファンタジーや日々のこと

奇妙な薬屋

2014-03-21 19:14:34 | 彼方の地図(連作)
クァロールテン南部にあるこの町は、ちょうど真ん中あたりで二つの川が合流し、交易の中心地になっている水運の町だ。両岸にいくつもの船が寄せられ、そのすき間を器用に小舟が行き来している。二つの川に挟まれるように突き出た三角の土地は、大きな市場になっていて、馬車や荷車が所狭しと並んでいる。沼地の手前にある最後の町になるので、旅にいる物をそろえがてら、沼地についての情報を集めていた。季節はもう秋の雨期に入っていた。ポランは、大きな雨粒が石畳の間につくる小さな細い川の流れを、あきもせずに眺めている。

「こんなに人が多い場所は初めてだろう。お前には、少しせわしいかも知れんな」

ぬげかけたフードをかぶせ直してやったが、雨はまったく気にならないらしい。いつものぼんやり顔が、心なしかうれしそうにさえ見える。やはり水の種族なのだ。この分なら沼地に行っても心配ないように思えるが、熱病は別だ。沼地のいやな熱病に効く薬を入手しておかなければ。そんなわけで、宿屋の亭主にこの町で一番だと教えられた薬屋を、雨の中探しているのだった。

その薬屋は通りに面した窓に、乾燥させたさまざまな植物を飾っていた。店内は薄暗く、独特の匂いがしみついている上に、ヘビやイモリなどが入れられたアルコールのビンが棚に並べられており、異様な雰囲気だ。そういったものを過去に扱い慣れていた私には、一見雑然とした店内には、それらのものがある種の秩序に従ってきちんと並べられているのだとわかった。この町で一番という言葉にうそはなさそうだ。ひときわ暗い片隅にある机の前には、銀縁眼鏡をかけた初老の男が座っていて、ギョロリとした目がものめずらしげに私とポランとをいったりきたりしている。

「南の沼地の熱病に効く薬はあるかい?」

「あちらへ行かれるんで?」

「ああ。ちょっとした事情があってね」

店主はおっくうそうに立ち上がると、後ろの棚をごそごそと探しながら言った。

「そちらのぼっちゃんもご一緒に?」

「そうだ。見た目よりはずっとしっかりしているよ」

「___ああ、すいません。店に置いてた分が切れちまってる。今二階から取って来ますんで、少々お待ちを」

そういうと店主は、狭い階段をキイキイきしませながら上っていった。店主の足音がしなくなると、ポランが私の袖をつかみ、洟をしきりにすすり上げた。さすがにこの店の雰囲気は気味が悪いようだ。私はポランの気をまぎらせようと、窓辺に飾られた植物の話をした。

「これは強い毒を持つ植物だ。葉と実の形をよく覚えておくんだよ。だが、これを粉末にすると、心臓の痛みにとてもよく効く薬になるんだ。ある人にとっては毒であるものが、ある人にとっては薬になる。毒と薬は、必ずしもはっきり分けられるものじゃないのさ」

だがポランは植物の方を見ようともせず、私の顔をまじまじと見つめたまま、きつくつかんだ袖を離そうとしない。

「どうしたポラン。この店が気味悪いか?___そうだな。いや、泣き出さないだけ大したもんだよ、お前」

と、突然頭に激しい痛みを感じて、私は意識を失った。(つづく)


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