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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

津野海太郎著「かれが最後に書いた本」を読んで

2022-10-09 08:46:08 | Weblog

 

照る日曇る日第1797回

 

1938年生まれの作者が新潮社の「考える人」に連載したエッセイであるが、もうすぐ死にゆく人が、すでに死んじまった数多くの人々の思い出を記憶の羽根を遠くまで伸ばし伸ばし綴った書物で、ある種の感慨なしには読めない。

 

例えば、書中の「かれが最後に書いた本」というくだりに出てくるのは2019年5月に亨年71で亡くなった加藤典洋で、彼がそれまでの重箱の隅をつつくように神経衰弱的ミニマム思考で書き綴った「敗戦後論」などの一連の思想書と決別し、もうひとりの自分に思いっきり語らせるように自らを励起しながら書いた平明な遺作の「大文字で書くこと」などが取り上げられている。

 

しかしながら、加藤が戦時中特高の主任であった父親について初めて告白した衝撃の事実は、彼の早すぎた晩年をくまどった暗欝の中核にあったのだろう。

 

ケストナーなど数多くの独逸物の翻訳を世に送った高橋健二が、戦時中はアチスの熱烈な賛美者で、なんと大戦翼賛会の文化部長を欣然と務めていたことなどを知ると、岩波から出たこやつの「飛ぶ教室」なぞ、もう二度と読んでやるもんか、とどたまに来る。

 

さはさりながら、旧知の若きドキュメンタリー作家、濱田研吾さんのダイナミックな活躍ぶりを知ると、まだまだこっちもくたばるまではぐあんばるぞお、という気持ちが盛り上がってくるのだった。

 

 

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