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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

谷崎潤一郎著「谷崎潤一郎第24巻」を読んで

2016-05-27 16:23:44 | Weblog


照る日曇る日第866回



「瘋癲老人日記」「台所太平記」「雪後庵夜話」の3本を柱として雑編をコラージュした本巻です。

「瘋癲老人日記」はマゾ小説の傑作。嫁の悪魔のように美しいおみ足に欲情し、頬っぺたを平手打ちされて興奮する老爺の哀れな晩節を悦びと共にあらわにする老作家のいきざまは見事である。

「台所太平記」は、谷崎家の歴代の女中群像を生き生きと描いてまことに面白い。むかし丹波で下駄屋を営んでいたそれほど裕福でない我が家にも田舎からやってきた女中さんがいましたが、この小説を読みながら、彼女たちはその後どんな人世を歩んだんだろうなあと思ったことでした。

 昭和42年に刊行された「雪後庵夜話」は遺作集ゆえいろいろな思い出話がごった煮のように並んでいるが、京マチ子と淡路恵子を比較した話などは面白い。

 映画「春琴抄」での京マチ子は、自分の夢の中の美女がそのまま生きて出てきたようだった、と称えているのだが、「痴人の愛」ではどうして淡路恵子にしてくれなかったのかと恨んでいる。京への賛美を惜しまないものの、谷崎の理想の女体はどうやら若き日の淡路恵子らしい。

 源氏物語は偉大な小説ではあるけれど、女とみれば見境なしに調子の良い台詞を囁いてあっけなく落としてしまう光源氏は、フェミニストである自分は好きになれないと告白している「にくまれ口」での発言も興味深い。

 余談ながら、谷崎は遅筆で丸1日かけて3枚しか書けなかったそうだ。御蔭でその時間を遊びや勉強に費やすことが出来なかったと嘆いているのだが、彼と親しかった芥川龍之介は1日やっと1枚の超遅筆だったのに、たっぷり遊んだり勉強していたのはなぜだろう。

    全身をガンに冒された老人が今日もリストを弾いている 蝶人