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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

池澤夏樹著「日本文学全集19」を読んで

2016-05-06 09:24:35 | Weblog


照る日曇る日第862回


 本巻では石川淳、辻邦夫、丸谷才一の中短編を8本収めている。

 石川淳の「紫苑物語」は「今昔物語」「宇治拾遺」泉鏡花などを踏まえて練達の擬古文を駆使し、中世への浪漫を自由奔放にときはなった佳作であるが、「焼跡のイエス」は今更ながら詰らない凡作。「小林如泥」や「鈴木牧之」などの歴史小説はやはり鴎外、荷風に迫らんとしてなお遠く及ばない。

 辻邦夫の「安土往還往還記」は、その晴れやかで抒情的な文体で読者を酔わせながら一大の領袖、織田信長の生と真実に異教徒の視線から迫る快作。

 丸谷才一の「横しぐれ」は、恐らく彼の最高傑作だろう。主人公の父親と漂泊の歌人山頭火とのミステリアスな遭遇を、著者の博識と博引傍証、国文学の知見と作家的想像力の限りを尽くして追究した力量は、まことに尋常ならざるものである。


  メーデーメーデーと救助信号を発しつつ労働者たちはとぼとぼ歩く 蝶人