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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

立花隆著「武満徹・音楽創造への旅」を読んで

2016-04-15 14:04:03 | Weblog


照る日曇る日第858回



 バッハやモーツアルトの音楽が、最初の一小節でそれと分かるように、武満徹の音楽も、彼以外の何物でもない音で鳴っている。それは彼がまぎれもない世界的な作曲者である証左だが、ではその独創性はどのようにして生成されたのか。

 これが本書のライトモチーフである。

 武満徹の音楽は、よく日本的・東洋的な音楽といわれる。確かに彼の出世作「ノヴェンバー・ステップス」などを聴けば、彼が惹かれた尺八や琵琶の調べが高らかに奏されており、そこでは邦楽と西洋音楽との対峙や混淆といういつか見た時空が展開されているといえるだろう。

 しかし武満のその後の歩みは、単純なものではなかった。命をかけた音と音楽の本質への切り込みは、東洋・西洋の2極対立や融合という通俗的な次元を超えて、より複雑で多義的な世界音楽、絶対音音楽、そして普遍的な超宇宙音楽の創造へと向かう。

 そこでは十二音音楽も、ミュージックコンクレートも、かつて否定された調性も相対化され、自然と宇宙に偏在する無数無限の音の大河大海の中から、一滴の音を取り出して“一音成仏の響き”をもたらすことが、この孤高の芸術家の見果てぬ宿願と化して行ったようだ。

 1996年2月、突如65歳でこの世を去った武満徹の生涯を、その藝術活動の軌跡を中心に長時間インタビューと徹底的な取材をもとに18年間の歳月をかけてまとめあげた著者渾身の力作であり、代表作であり、まぎれもない最高傑作である。

 とこう書けば、この2段組780ページの超大作をまとめたことになるだろうか。「Never!いや、ならねえよお」と思われる方こそ、どうか騙されたと思って本書を手に取って頂きたい。

 作曲家タケミツのファンはもとより、著述家タチバナ選手のファン、さらにはこの2人にさして興味もない方々がお読みになっても、絶対に面白くて為になる、どんな不人情な読者も最後に一掬の涙を溢さずにはいられない、2016年度前半の極私的ナンバーワンブックである。



*参考までに
https://www.youtube.com/watch?v=S1HlEwBPn3M


          不揃いの餃子を喰うや爺五人  蝶人