3月25日、無錫国際桜祭りに初めて中国人民対外友好協会の会長が出席した。南アフリカ共和国大使を歴任した外交官の林松添氏で、副大臣クラスの大物だ。それまで同協会からは副会長が参列していたが、一気に格上げされた。
(3月25日、無錫慧海湾公園・国際桜林友誼林開園式典での記念植樹。左から5人目が林松添会長、その右が磯俣秋男・駐上海日本総領事)
(磯俣総領事と林会長)
中国をめぐる国際関係が厳しい中、これは単純な巡り合わせではない。30年以上も続いた無錫での桜をめぐる日中交流の基礎があることは言うまでもない。いきなりスタートした民間イベントに全国友協会長が直々来ることは通常あり得ない。さらに、より深い理由があると受け止めるべきだ。
まず、それを理解するためのバックグラウンドに触れる。中国では政治がすべてに優先する。例えば、中国人が「政経分離」と言っても、日本人の理解で受け取ってはならない。政治が第一であり、ポリティカル・コレクトに触れない範囲で、経済交流を進めましょうと言っているに過ぎない。もっと言えば、経済交流が政治目的に合致しているという大義名分がなければならない。無原則な市場化はあり得ない。こうしたことは、中国人みなが肌で学んでいる常識だ。
いわゆる「官民」の使い分けにしても同じである。政治を担う「官」はすべてに優先する。官から離れた完全自由な「民」は存在しない。「民間交流」と言っても、それは自由、無原則ではなく、政治の目的にかなった範囲内の活動を示しているに過ぎない。「官」の態度に「民」が敏感に反応する土壌はこうした背景を持っている。
対外友好協会は、いわゆる民間外交を担う国家機関だ。すそ野の広い民間分野に、融通の効かない政治が直接かかわり、道をふさいでしまうことを避けるためのクッション役を果たす。各地方政府は外交にかかわる「外事」のほか、「対外友好協会」の表看板をもった部門があり、その頂点に立つのが全国友協だ。
だから、日本を始め外国の外交官やビジネスマンが多数ゲストとして呼ばれている無錫国際祭りに、トップの林松添会長が北京から駆け付けるのも、民間交流の推進という建前はあっても、政治とは無縁ではありえない。間違いなく中央最高指導部の了解、さらに支持がなければならない。
林会長は弁舌が巧みで知られるが、その演説も中央の事前了承がなければおいそれとできるものではない。また、現地で私が「新緑」メンバーを引率しての取材を申し込んだところ、「NHKの後に」との条件で快く引き受けてくれた。強い後ろ盾を持った自信の表れと言ってよい。
林会長の開幕挨拶には重要なポイントがいくつかあった。
1,無錫の桜林は将来にわたる日中友好の象徴である。
2,日中間には両国人民が不幸に見舞われることはあったが、友好が主流であり、困難に遭うたびに、両国民間が手を携え共通利益を守ってきた。
3,21世紀はアジアの世紀であり、日中がともにアジアの平和と安定、繁栄を守る責任があり、域外国家の干渉を排除しなければならない。
4,今年、中国共産党は100周年を迎え、幅広い対外開放とハイレベルの発展に力を注いでおり、対外民間交流も新たな発展の機会が広がっている。
つまり、周辺外交を円滑に進めるために、日本との民間交流はこれまで同様、強く推進していくことが国の基本方針であることを明言したのである。
また、「新緑」のインタビューに対し、林会長は特に青年交流の重要性を強調した。
「青年相互交流は民間友好交流の重要な方向であり、中国の青年が世界、特にアジアの青年と交流を進め、お互いを理解することが必要だ」
「メディアの報道には間違いも多く、外に出ていかなくては、真実の世界を知ることはできない。だからこそ、青年同士の直接交流が必要となる」
「中国の青年がどんどん世界に出ていくよう励ましているし、海外の青年が中国に来て交流し、学び合い、一緒に発展することも歓迎している」
34周年を数えた日中桜友誼林建設の歩みがいかに尊く、貴重なものであるか。若者の参画と直接対話がどれほど重要か。そんなことを再認識するとともに、同時に、日中の多くの人たちが、なんとそれに気づいていないか、あるいは知ろうともしていないか、を痛感することになった今年の桜祭りだった。
(完)