Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

クビ切り不要!?

2009-05-03 11:04:21 | 
クビ切り不要! (Voice select)
Voice編集部
PHP研究所

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『Voice』誌の注目された論を集めた新刊に、僕の「労組不要論」も収録されているので紹介。
これもオムニバスなのではあるが、それなりに書き手を選んでいるので整合性がある。
先の本がフェーズ1で騒いでいるとすれば、この本はほぼフェーズ2でまとまり、政策に
ついて触れている。

ただタイトルの“クビ切り不要論”というところに若干無理がある。
というのも、首切りというのは雇用調整しないとやっていけない会社がやるものであって
そういう会社に「クビキリ不要ですよ」という処方箋は物理的にありえない。
無理なものをやれというと精神論しか出てこないというのは、大戦以来の日本のお家芸である。
しょっぱなの丹羽さん(伊藤忠会長)伊丹さん(東京理科大)対談はまさにそれで、結局
「絆を大切にしよう」という美しいが身の無い響きのスローガンに落ち着く。

余談だが「(雇用維持と企業存続の両立は)物理的に無理なので税金で何とかしてください」
と言っているのが今の電機だ。
50代はもろ手を挙げて賛成だろうが、それ以下の世代は近い将来、何らかの形で負担
することになるから取られ損である。これも世代間格差の生産装置だ。

だが、一番の注目は中谷巌の『北欧型「転職安心」社会』。
なんと、フレクスキュリティに言及しているではないか。
グローバル化で終身雇用は文字通りには維持できないから、流動化と再就職支援をセットで
やって労働力の移動を促進しろという論旨だ。
これはそのまま、構造改革派のいう労働ビッグバンそのものだ。
というか、僕が言っていることをオブラート5枚くらいで包むと、そうなる。
めんどくさいから包まないけど。

フォローすると、中谷氏と言う人は90年代構造改革派のブレーンの一人で、昨年
『資本主義はなぜ自壊したのか』という本を出して決別を宣言。あちこちで話題となった人だ。
本自体には特にコメントする価値は無い。米国型の構造改革はダメですね、日本は
日本の伝統に基づいた和の精神でやっていきましょうという、保守派の守旧派に見られる
論法に過ぎない。経済にしろ雇用にしろ、現状の諸問題はすべてそのご自慢の日本型
システムが破綻しかけている結果に過ぎず、それをどうするのかというビジョンは皆無だ。

彼の主張を若者視点で言えば、
君たちは我々老人を支えるために、未来なんか捨てて下支えしろ、となる。

そういう著書の出し方をしておいて、ある程度の読者リテラシーの予想される誌面では
上記のような主張をするというのは、はっきりいってずるいでしょ中谷さん。
そりゃ御本人はいろんなメディアに引っ張りだこになったろうが、その負の影響を
考えたことがあるのだろうか。
週刊金曜日からVoiceまで、彼の言説は現状維持を望む守旧派に向けて、盛大に
垂れ流されている。あと数年で逃げ切れる世代にとって、中谷氏はマルクスや田中角栄
よりもご利益のある免罪符だ。

そういえば、先週の週刊文春でも、トンデモ精神科医の香山リカが性懲りも無く
「ホリエモンが台頭する一方で、格差が拡大した」と改革批判を繰り広げ、
「中谷先生もそれを悔いてザンゲしているのよ!」とちゃっかり理論武装に使っている。
というか、なんでホリエモンが上場したら格差が拡大するのか。
若年層の格差でせっせと商売しているのは、香山リカ本人だろう。

この手の印象論でしか語れない門外漢は、具体的な事例は何一つ示せないので
説得力は皆無なのだが、中谷イズムがブレンドされることで、オバちゃんのヨタ話
も信じてしまう人がいるかもしれない。

そういう氏の二枚舌ぶりを鑑賞する上でも、有益な一冊である。
途中から脱線してしまったが、書評だけで新書一冊書けそうなくらい充実。

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10 コメント

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日本のお家芸といえば (Unknown)
2009-05-03 22:45:09
むしろ「無限先送りループ」では無いですか(笑)
①問題発生⇒②改革必要⇒③既得権益保持者の抵抗⇒④じゃ、そこは触れずに置いておこう!⇒⑤次の世代にツケ回し⇒①に戻る
こうやって既得権益者のおねだりを容認してしまうことで次の世代も同様のおねだりをし、それでもどこかにツケをまわさないといけないので使い捨ての階層を作る必然が生まれてくるのでしょう。
だれも未来のための「英断」を下すことをためらい、いつか自分も前任者と同じ甘い汁にありつこうと問題を先送りしつづける。ほんとうに情けない民族ですね。
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Unknown (JFK)
2009-05-04 00:57:47
ただ、こういったものを書く人って、自分の世代に都合のいいことを書きたがるもので・・・。

城さんもひょっとしたら、20年後には雇用維持側に回るかも。。。と一抹の不安はあったりします。無論、それまで体制が維持できていれば、の話ですが。
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何があったんでしょうね? (松本孝行)
2009-05-04 08:48:44
 資本主義はなぜ自壊したのかは、結構書評で手厳しく言われていたりしてましたが、彼は何があって方針転換したんでしょうね。というか、元々主たる主張はなく、周りに合わせる方なのでしょうか。あまり詳しく知らない方なので、深いコメントは出来ませんが日和見の意見が信用できないというのは言わせてもらいたいところです。
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お札もいろいろ ()
2009-05-04 09:41:56
昨年、知り合いの社民系の地方議員がやたらこの人の本を薦めるので「そんなのモリタクがいっぱい書いてるじゃない」と言ったら
「いやモリタクは胡散臭いから」と言っていた。
免罪符にもいろいろランクがあるらしい。
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  ( )
2009-05-04 14:23:45
香山リカに執筆家としての資質はありません。
それは誰もが知っている事でしょう。
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Unknown (おさむ)
2009-05-04 15:36:19
VOICE WAVEのSEASON1-アーカイブから小島鐵也氏が消えていますがどうしてでしょうか?
また、TVドラマはほとんど観ないとのことですが「ハケンの品格」はご覧になりましたか?
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城さんの人物評価に共感します。 (アンチナベツネ)
2009-05-04 16:36:26
 モリタクと香山リカは本当に最悪言論人の双璧だと思います。自らが「格差」で儲けるために、格差社会の頂点のテレビ局にこびまくり、また残念ながら、いまだモリタクや香山たちが弱者の立場にたっていると信じている国民がいかに多いことでしょう。香山の同業者ですが、香山がまともな医師だと思っている人は自分の周囲のまあまあ、まともな人の中ではまずいません。こんな奴らが社会の成功者になる世の中はやっぱりおかしいですし、そういう雰囲気を感じ取る心優しい人たちが心を病んでいくような気がいたします。
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いろいろ ()
2009-05-04 19:55:35
>何があったんでしょうね?

最新号のVoiceで飯田泰之氏が「拠って立つ理論がない人だから節操が無い」と評しています。要するに、気分屋さんなんでしょう。

>VOICE WAVE

あれ、定期的に入れ替えてるそうです。
そういえば新シリーズが限定再開してたかも。

派遣の~はチラチラ見てたけど、あまり印象に残ってない(笑)
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サタカ (J)
2009-05-05 01:27:24
モリタクも香山も中谷もぶったぎったところで次は佐高信氏とガチンコ対談でもしてください。
楽しみにしています。
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中谷氏について (Ruli)
2009-05-09 06:43:06
はじめまして。

http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~amatsui/PR2009.html
(東大の松井教授のウェブサイト)に中谷氏についての東大の澤田教授のコメントが載っていました。学者の視点からの憤りが感じられて参考になります。

もうご覧になったかもしれませんがご参考まで。
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