本の感想

本の感想など

瀧本哲史連載集 2013-2016 (星海新書)を読む。①

2022-12-07 21:24:16 | 日記

瀧本哲史連載集 2013-2016 (星海新書)を読む。①

「そのニュースが君の武器になる」とのキャッチコピーがある。ロスジェネ世代の人に対する優しい言葉であると推測する。このようにすればまたは考えれば儲かりますよと言っている。著者は有名なエンジェル投資家である。しかしこの本は例えばジムロジャーズさんのような投資で名を成したヒトのいわゆる自慢本(まあそれでも役には立つけど)とは全く異なる。

 ネットビジネスの細かなところをよく研究しその将来を予言なさっている。そこには思わぬ見通しがあって本当にそうなるのか疑わしいのだけど、論理の立て方としては実に正しそうに思える。例を挙げると著作権の問題になるかもしれないから興味のある方は是非読んでください。私は、その論理の正しさからこれ買ってみようかなという分野が一つ見つかった。

 易しい言葉で、易しい文体で、よくある偉そうに上から目線のこうすればいいんじゃーしないやつはアホなんじゃーみたいな気持ちではなく、こう考えられますよねという目線で書いておられてとても共感できる。どういうわけか投資で成功した人の本はやたら偉そうで読んでいて嫌な気分になるものが多いが、この本は嫌な気分になることなく一気に読むことができる。

 嫌な気分になる本を読むと今度はこちらが嫌な気分をあちこちにまき散らすみたいで、自分の周囲の人間関係を悪くするところがあるがこの本は、読んで賢くなってかつ嫌な気分にならずかつ周囲の人間関係を悪くしないといういいところがある。多分それは著者の人柄であろう。人柄がそのまま内容にも文体にも言葉にも表れている。

 著者は、滅茶苦茶頭のいい人で大卒後すぐ東大の民法の助手になったという。(大学院へ行かずにそのまま)世の中にはすごい人が居るもんです。そんな凄い人の本がなんだかコミック風の造りになっていて安っぽく見えるんだけどこんなことでいいのかなと思うし、今風の売り方なのかなとも思う。是非投資に興味があって偉そうに書かれている本に腹立てているヒトご一読ください。そうでなくてもIT業界ネットビジネスに興味のある方ご一読ください。


 日出づる国 留唐外史  (宮﨑市定全集22) 

2022-12-03 12:19:59 | 日記

  日出づる国 留唐外史  (宮﨑市定全集22) 

  久しぶりに面白い本を読んだ。歴史家の書いた本であるから脚色はない。小説ではない。だから自分の常識と思っていたことが覆る。ということは自分の人生観が変わるということで、自分の人生が新しくなることを意味している。古人の言う「日に新た。日に日に新た。」の状態になるので、気分としてこんないいことはない。

 まず自分は小さいころの教えで、お坊さんは性欲を持たず超人的に立派な人であって凡人の立ち至らない境地にある人と思い込んでいた。少し世間に出てまあそうでもなさそうなとの認識を持ったがそれでも我々とはかなり違うとこれを読むまでは思っていた。強靭な意志力とかすごい人生観をお持ちで近寄りがたい人だと思っていた。それが、我々と同じであることもさりながら我々でさえちょっと望まぬほどの俗界の波乱万丈に巻き込まれた人生であった。

 真言宗の留学僧円載というお坊さん(この本ではこの人だけが主役というわけでもないが)が、留学中に尼僧と恋仲になり還俗して町中で暮らした。ただ還俗した理由は武宗の会昌の廃仏令によるもので本人にとってちょうどよいタイミングであったようだ。この時日本政府からの費用を流用している。その後長い期間還俗生活を楽しんだようだが、地方の反乱に遭い奥さんを失った時点で日本への帰国を試みる。日本に帰れば相当の地位につけるはずと見たようだ。この時仏典とか仏具とかを携えて難破して亡くなったようだが当時としては滅茶苦茶長命の70歳であるという。

 戦乱に巻き込まれたとはいえかなり良い人生じゃないかというのと、権力欲は歳をとってもなくならないなというのもある。あるとは思っていたがお坊さんの権力欲はモノ凄いものであることが分かるしいったん捨ててもまた歳を経て頭を持ち上げてくる。この権力欲の源は何であるのかはフロイトさんの説明では何か十分でないような気がするが万人に多少はあってもありそうである。権力欲に従って出世しても、うっかり倒れる組織のトップに立つと貧乏くじじゃないかと思うんだけど。

 このようにこの円載さんの人生は面白いし他にも兄弟弟子との確執とか学問をサボるとかもうお坊さんは普通も普通大普通である。これじゃ人生に行き詰ったときに誰に相談に行っていいもんやらとなってしまう。(たとえ実際に役立たなくとも、あそこへ行けば何とかなると思わせるものところまたはヒトがあること存在することは、社会の安定のために大変な価値があるだろう。しかしそこがこうじゃな。)

 この物語だけで一巻の小説が書けそうだし、(是非井上靖風の文体で読みたいと思う。)美しい中国の自然を背景に映画にすればかなりの大河映画ができそうに思った。


その働き方、あと何年出来ますか? 小暮太一著 講談社+α新書

2022-12-02 14:29:41 | 日記

その働き方、あと何年出来ますか? 小暮太一著 講談社+α新書

 ケインズが2000年には労働時間が週15時間になると予言して外れていたことはもちろん知っていた。まあ一つくらいは外しがあってもいいんじゃないかと思っていた。しかし、この本を読むとケインズの15時間は大げさとして20時間でいけるんじゃないかと思うようになった。

 これが日本だけなのかどうか知らないのだけど、仕事をしているというより競争させられているまたは人間関係の処理に職場へ行っているという感じが常にしていた。競争または人間関係の処理の作業の隙間に瞬間的に仕事が入っているという感じである。外部の○○(会社名)または社内の○○に(○○には部署名や個人名が入る)負けるな、 とかこれをこうしないと○○がいい顔しないとかの理由で仕事は無限に広がっていく。これが日本人の労働生産性がひどく低い理由になっている。

 そうして悪いことに日本人は小さいころから競争しかつ人間関係に必要以上に過剰に反応しかつ同調圧力に服従するように教育されてきている。これが、みんながおかしいと思いながらもどこを変えるべきなのかが分からなくなっている原因であると説く。日本には数百万人のうつ病患者がいるのは、多分この教育のせいだと思われる。

 このように原因になるものを列挙しているがじゃあ解決はどうすればということは、この本にはあまり明瞭には書かれていない。原因除けばいいじゃないですかと言いたいんでしょうがどうやって皆で寄ってたかって一番いいシステムに持って行くかが明瞭じゃない。多分著者もそれが分かってないでしょう。個々の企業の特殊性もあるしというお考えでしょう。これではなるほどと納得してそれで終わってまた次の日競争と人間関係にもみくちゃにされに出かけるということになる。

 思い返すと昭和50年代くらいから組織論の本は花盛りであった。多くは旧日本軍はなぜ決断を間違えたかから始まっている。その次に堺屋太一さんの「組織の盛衰」というのが大変ヒットした。なるほどこうすればうまくいくんだなと思わせるものがあった。当時はまだ組織内の競争というのが貫徹せず、派閥や陰湿な人間関係によって能力あるまたは自分は能力あると思い込んでいる人は損をしている時代であった。堺屋さん達の努力あってこれが改善されるとなんともっとひどい時代がやってきたもんである。際限のない競争が泥沼の人間関係によって助長され、長年の教育の結果同調圧力には一応従うという人間にとってはどうあがいても出られない構造になっている。是非著者には、事象だけ原因だけではなく改善策を指示してもらいたいと思う。

 もう今の生産力で必要を十分満たせる。労働時間はわずかで足りる。ケインズの説は本当は正しかった。これからは遊び方を学ばねばならなくなるだろう。無駄な競争をやりすぎなんだという主張には大いに同感する。

 読後昭和50年台であったかに流行ったソング「おおきいことはいーことだ。」の音楽で、「ながーいことはいいことだ、くるしーいこともいいことだ。」のソングが頭の中を何度も流れた。いずれも主語が「働くのは」である。私どもは、そんな風に教育されてきたのであるし、今もそれが続いている。まずここから改めるべきじゃないか。長くて苦しいほど立派とは、昔スパルタというギリシアの小国で行われた教育である。注意すべきは、この小国は事情あってそうせざるを得なかったという気の毒なところはもちろん配慮するとしても結局は勝ち残れなかったということである。わが国は、長年の教育方針を変更すべき時に来ているんじゃないのか。もう物資は足りているから、教育は個人の幸せに立脚するようにである。