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 日出づる国 留唐外史  (宮﨑市定全集22) 

2022-12-03 12:19:59 | 日記

  日出づる国 留唐外史  (宮﨑市定全集22) 

  久しぶりに面白い本を読んだ。歴史家の書いた本であるから脚色はない。小説ではない。だから自分の常識と思っていたことが覆る。ということは自分の人生観が変わるということで、自分の人生が新しくなることを意味している。古人の言う「日に新た。日に日に新た。」の状態になるので、気分としてこんないいことはない。

 まず自分は小さいころの教えで、お坊さんは性欲を持たず超人的に立派な人であって凡人の立ち至らない境地にある人と思い込んでいた。少し世間に出てまあそうでもなさそうなとの認識を持ったがそれでも我々とはかなり違うとこれを読むまでは思っていた。強靭な意志力とかすごい人生観をお持ちで近寄りがたい人だと思っていた。それが、我々と同じであることもさりながら我々でさえちょっと望まぬほどの俗界の波乱万丈に巻き込まれた人生であった。

 真言宗の留学僧円載というお坊さん(この本ではこの人だけが主役というわけでもないが)が、留学中に尼僧と恋仲になり還俗して町中で暮らした。ただ還俗した理由は武宗の会昌の廃仏令によるもので本人にとってちょうどよいタイミングであったようだ。この時日本政府からの費用を流用している。その後長い期間還俗生活を楽しんだようだが、地方の反乱に遭い奥さんを失った時点で日本への帰国を試みる。日本に帰れば相当の地位につけるはずと見たようだ。この時仏典とか仏具とかを携えて難破して亡くなったようだが当時としては滅茶苦茶長命の70歳であるという。

 戦乱に巻き込まれたとはいえかなり良い人生じゃないかというのと、権力欲は歳をとってもなくならないなというのもある。あるとは思っていたがお坊さんの権力欲はモノ凄いものであることが分かるしいったん捨ててもまた歳を経て頭を持ち上げてくる。この権力欲の源は何であるのかはフロイトさんの説明では何か十分でないような気がするが万人に多少はあってもありそうである。権力欲に従って出世しても、うっかり倒れる組織のトップに立つと貧乏くじじゃないかと思うんだけど。

 このようにこの円載さんの人生は面白いし他にも兄弟弟子との確執とか学問をサボるとかもうお坊さんは普通も普通大普通である。これじゃ人生に行き詰ったときに誰に相談に行っていいもんやらとなってしまう。(たとえ実際に役立たなくとも、あそこへ行けば何とかなると思わせるものところまたはヒトがあること存在することは、社会の安定のために大変な価値があるだろう。しかしそこがこうじゃな。)

 この物語だけで一巻の小説が書けそうだし、(是非井上靖風の文体で読みたいと思う。)美しい中国の自然を背景に映画にすればかなりの大河映画ができそうに思った。