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その働き方、あと何年出来ますか? 小暮太一著 講談社+α新書

2022-12-02 14:29:41 | 日記

その働き方、あと何年出来ますか? 小暮太一著 講談社+α新書

 ケインズが2000年には労働時間が週15時間になると予言して外れていたことはもちろん知っていた。まあ一つくらいは外しがあってもいいんじゃないかと思っていた。しかし、この本を読むとケインズの15時間は大げさとして20時間でいけるんじゃないかと思うようになった。

 これが日本だけなのかどうか知らないのだけど、仕事をしているというより競争させられているまたは人間関係の処理に職場へ行っているという感じが常にしていた。競争または人間関係の処理の作業の隙間に瞬間的に仕事が入っているという感じである。外部の○○(会社名)または社内の○○に(○○には部署名や個人名が入る)負けるな、 とかこれをこうしないと○○がいい顔しないとかの理由で仕事は無限に広がっていく。これが日本人の労働生産性がひどく低い理由になっている。

 そうして悪いことに日本人は小さいころから競争しかつ人間関係に必要以上に過剰に反応しかつ同調圧力に服従するように教育されてきている。これが、みんながおかしいと思いながらもどこを変えるべきなのかが分からなくなっている原因であると説く。日本には数百万人のうつ病患者がいるのは、多分この教育のせいだと思われる。

 このように原因になるものを列挙しているがじゃあ解決はどうすればということは、この本にはあまり明瞭には書かれていない。原因除けばいいじゃないですかと言いたいんでしょうがどうやって皆で寄ってたかって一番いいシステムに持って行くかが明瞭じゃない。多分著者もそれが分かってないでしょう。個々の企業の特殊性もあるしというお考えでしょう。これではなるほどと納得してそれで終わってまた次の日競争と人間関係にもみくちゃにされに出かけるということになる。

 思い返すと昭和50年代くらいから組織論の本は花盛りであった。多くは旧日本軍はなぜ決断を間違えたかから始まっている。その次に堺屋太一さんの「組織の盛衰」というのが大変ヒットした。なるほどこうすればうまくいくんだなと思わせるものがあった。当時はまだ組織内の競争というのが貫徹せず、派閥や陰湿な人間関係によって能力あるまたは自分は能力あると思い込んでいる人は損をしている時代であった。堺屋さん達の努力あってこれが改善されるとなんともっとひどい時代がやってきたもんである。際限のない競争が泥沼の人間関係によって助長され、長年の教育の結果同調圧力には一応従うという人間にとってはどうあがいても出られない構造になっている。是非著者には、事象だけ原因だけではなく改善策を指示してもらいたいと思う。

 もう今の生産力で必要を十分満たせる。労働時間はわずかで足りる。ケインズの説は本当は正しかった。これからは遊び方を学ばねばならなくなるだろう。無駄な競争をやりすぎなんだという主張には大いに同感する。

 読後昭和50年台であったかに流行ったソング「おおきいことはいーことだ。」の音楽で、「ながーいことはいいことだ、くるしーいこともいいことだ。」のソングが頭の中を何度も流れた。いずれも主語が「働くのは」である。私どもは、そんな風に教育されてきたのであるし、今もそれが続いている。まずここから改めるべきじゃないか。長くて苦しいほど立派とは、昔スパルタというギリシアの小国で行われた教育である。注意すべきは、この小国は事情あってそうせざるを得なかったという気の毒なところはもちろん配慮するとしても結局は勝ち残れなかったということである。わが国は、長年の教育方針を変更すべき時に来ているんじゃないのか。もう物資は足りているから、教育は個人の幸せに立脚するようにである。