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日出づる国 倭寇の本質と日本の南進 (宮﨑市定全集22)を読む

2022-12-10 11:58:07 | 日記

日出づる国 倭寇の本質と日本の南進 (宮﨑市定全集22)を読む

  世界史を習った当初から、なぜ明は海禁政策をとったのかとか倭寇は何を商いに行った船が海賊化したのかとかの疑問があった。日本の鎖国(今はこう呼ばないとの話も聞くが)は大変分かりやすい理由だけど、明には同じような事情があったとは思えない。それに、いくら自分が大金持ちでもさらに儲けたいはずなのに、貿易という一番おいしいものを自ら禁じるのはよほどの事情がないと説明がつかない。

 読めば一行の説明に納得できた。「天下一統ののちもその余党が海島に逃匿して沿海地方を・・・・・」とあります。その残存した国内の敵がうるさかったので、海禁策をとることは掃討作戦の一端だった。経済政策ではなかった。わが江戸幕府も一つには貿易の利は自分が握り、国内の大きな大名には利をあたえない作戦でもあったからかなりマイルドだけど似たようなところがある。

 倭寇の持参した商品は、銀であったらしい。日本では銅の値が高く銀の値が低かった。しからば銀を持参して銅を持って帰るだけで大儲けできるし、日本国内で売れる商品(多分絹と思う)にして持って帰ると一回の航海で種銭の十倍になったという。足利義満さんが花の御所とかを営むことのできたのはこの利益があったせいだろう。さらに秀吉さんが大阪城に巨万の富を積み上げたのもこの利益ではないのか。決して農民から搾りとったおカネではない。皆さん今でいう為替取引みたいなもんでお金持ちになった。これで、醍醐の花見もできたんだし金閣銀閣も建ったようだから悪い話ではない。

 してみると秀吉さんが朝鮮出兵して大明国討ち入りとか言ったのは本気とはとても思えない。恩あるところへ討ち入るとはどうも変である。多分国内に余った軍隊の始末に困ってあんなことをしたんだと思う。棄軍じゃないかと思う。さらに昔元が日本に討ち入った元寇も元にしてみれば棄軍だと思う。棄軍と分かっておれば対応の仕方が少し変わっていたのではないか。

 商人が海賊化したのは、賄賂を払えなかったために取引ができなかった商人(と言っても地方の有力大名らしいが)が手ぶらで帰るわけにいかないから荒らして回ったということらしい。なんだか今でも起こりそうな話である。

さらに、京都の大寺院がなぜお金持ちになったのかもこれで推測することができる。リスクをとれる種銭を準備できれば、千倍にも万倍にもできた時代であったんだ。決してちまちました金融(これだって十分儲かるけど)だけで儲けていたのではない。京都の寺院をみていつも発展の不思議を感じていたが氷解した。荘園とか寄付それもあったとは思うが大きな柱はこれであったと思う。こんな風に書いてないけど他の疑問もこうではないかと推測させてくれる本であった。

さらにこうも推測できる。シルクロードも主な商品は金銀ではなかったか。ローマから銀を持ち込み金を持ち出す。シルクも少しはもって出たかもしれないが、重くなくともずいぶんかさばる商品だし輸送費がかかって仕方ない。金ならラクダも運んでくれたんじゃないか。現に「金の砂漠を・・・・キーンとギーンとの鞍を載せて・・・・・・・・」と童謡にも歌われていることだし。