独り合点(ひとりがてん)

きもの業界をステージとした、ビジネスと生活スタイル、および近況。

きものビジネスの課題(上)

2011-09-17 | 自学自習塾

特別掲載・自学自習塾3期講義/きものビジネスの課題(上)

 きものを着る人が求める価値の方向

きものを着る人は、きものとの関係をどう変えてきたか.

9月14日、自学自習塾の第3期がスタートしましたが、お招きした講師のお一人、繊研新聞社・季刊きもの元編集長・山里泰氏の講義をダイジェスト紹介いたします。

わずか、2591きもの市場のピークは1983年、1兆8千億円でした。当時の家計統計によるときものへの支出は1人22,607円。そして昨年が2,591円。約30年で約10分の1に縮小しています。しかし5年前の06年には6,222円ですから、この5年間の縮小には目を見張るものがあります。此処までの市場縮小は長期不況、リーマンショック、可処分所得の減少、低迷などの社会状況もありますが、むしろきもの業界特有の要因が大きいと考えます。06年の愛染蔵、たけうちの倒産による流通、産地、メーカーへの打撃、及び過量販売、次々商法など呉服業界全体がダーティなイメージで見られたこと。ローン与信枠の厳正化など金融業界からの締め付け強化。高齢顧客への販売ストップ、展示会販売や36セール、プラスワンなど企画販売の見直し、中止など、いわば今までのきもの業界の作り上げてきたビジネスモデルが、完全に崩壊した5年間ともいえます。「ハレとケ」という言葉がありますが、戦後の高度成長と共に「ハレのきもの」を売り続け、催事販売という「ハレの売場、売り方」に終始してきた業界は伸びてきました。そのため「ケ」の日常の販売、店頭が空洞化してきました。ケがあるからこそ、ハレが一層ハレやかになるのですが、業界は毎日がお祭り騒ぎで、しかも売れました。しかし顕在化してきた次のきもの世代との乖離は大きく広がっていました。1994年・繊研新聞社は成熟社会を迎え、新しいきもの需要層に向けての業界のビジネスモデルの変革を促す「きものファッション宣言」を行いました。個性を表現する最高のファッション、ワードロブの1つとしてのきものの提案です。具体的には「ケ=日常」を重視し、商いの中心を店頭にした展開の充実です。しかし業界全体は、消費者不信の状況にありながら、まだ顧客中心の古いビジネスモデルにしがみつくような状況でした。

きものの日常化の進行この5年間で呉服店や業界の思惑通りの消費行動を取らず、むしろ「きものを着る人」たちがきものとの関係を大きく変えてきました。主には4つあります。1つは「着て行く場の多様化」。一頃はきものを着て行く場がない、と言われてきましたが、普段の買い物や散歩など、日常生活の中にきものを着る場を着る人自らが作り出しています。先週原発反対のデモの中に、着物姿の女性を多く発見して驚きましたが、着る側の想像力で着る場が増えてきました。2つは「より自由なスタイリング」の広がりです。戦後呉服業界が作り上げてきた様々なきものの決まり事を、着る事により不便や不自由を感じ、リアルクローズなきものを着始めてきた。3つは「日常化の進行が、フォーマル需要拡大のファクターになる」.底辺が広がり、「ケ」が充実してくれば当然特別な日に着る「ハレ」が増えます。その兆しは実際に出ていますが、昔フォーマルは家族や親戚、世間との関係で着ていましたが、いまは「個性の演出、自己表現」で着ます。私は都市部ほどフォーマルが増えると考えています。4つは「きものや和に対する関心、学びの欲求」です。お茶など和のお稽古ごとをスクールやセミナー、教室で学ぶ人が増えてきました。ファッションとしてのきものだけじゃなく、きものを中心とした和の文化、歴史などへの興味関心への欲求が高まってきています。きものを楽しむためにお茶を始める人もいます。これは洋服のファッションにはない、きものの魅力です。

 

 


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