今年度の芥川賞に磯崎憲一郎、直木賞に北村薫の二人が受賞したが、二人のコメントで印象的だったのが、「次の作品の発表の場が確保できたのが嬉しい」と語っていたこと。文芸誌も休刊が続き、小説を書いても、特に新人には発表の場が少なくなってきている現状だから、受賞の言葉も今までとは違ってきていた。話は変わりますが、先日政治家の世襲制が問題になっていましたが、2世、3世は、継ぐべき基盤があるというのは、全くの新人が立候補するのに比べて遥かに有利。親の築きあげた地盤があれば、プラスもマイナスもあるが、全く独自で地盤を作るのと比べると遥かにスタートダッシュが効く。政治家の継承は微妙な問題があるが、先日お会いした備前焼の森一洋さんは、子供の頃から仕事場で遊んでいたので、轆轤の扱い方はじめ、一切習った記憶がなく、自然に覚えたという。父親の備前焼の巨匠・森陶岳さんも著作の中で、やはり同じように生まれた時から実家が工房だったので、いつのまにか自然に覚えてきて、という。[場」があるという意味ですごいなあと思うのは、重要無形文化財に指定されている歌舞伎。数歳で初舞台を踏み、それこそ生活は常に歌舞伎と職住同居で、発表する「舞台」が確保されている。向き不向きもあるのかもしれないし、職業の選択に自由がないことに反発もあるようですが、有形無形の財産を受け継いで行くことは、本人にとっても、親や家にとっても大きい。考えてみたらきものも歌舞伎と同じように、大変な知識と教養が必要な仕事。マクドナルドのように研修を受け、マニュアルを読み、本部から支給された食材を調理すればいいという商売ではない。子供には自由に生きて欲しい、親と同じような苦労をさせたくないと家業を継がせない親の気持ちもわからなくはないが、いまやきものを専門に取り扱うのは、重要無形文化財と同じで、本人の努力だけではできない、看板もお客も仕入先も「受け継がなければできない仕事」になってきたように思います。きものを身近に扱う人がいなくなれば、歌舞伎もお茶も、踊りも、また冠婚葬祭やお祝い事も、先達が伝えてきた文化や日本人そのものの「価値観」が消滅してしまいます。これからは呉服屋の子息には、日本の文化の一端をになっている、すごい仕事なのだ!という自覚を大いに持ってもらいたいものだし、子供をそのように育ててゆく時代になってきたと思う。
写真は備前焼の陶芸家・森一洋氏。今回初めて知ったのですが、森氏は年に1回か、2回しか窯詰めをしないので、出来上がった作品は、ほとんどが決まった画廊やデパート、愛好家に行ってしまい、ご本人も1回個展が出来るかどうかの作品数しか確保できないとのこと。しかし、しかし今回Nさんの熱意が稔り、初めて森氏の窯出し作品を選んで、購入するチャンスを頂きました。森氏の備前焼の個展を開くのはNさんの永年の夢。こんなチャンス10年以上のお付き合いで初めてとのことで、これはやるっきゃないかと、緊急に有志でファンドを組んで、予算がもっと欲しかったのですが、なんとかギリギリに実現。Nさんの夢、森一洋氏の初の備前焼作陶展が、今月末にいよいよスタート。ドンナ結果になるか、ワクワク、ドキドキです。
会合が終わった後、何かの拍子に話題が祇園祭になった。「祇園祭といえば、かみさんと恋人同士のとき、ゆかたを縫ってくれて、2人でゆかたを着て、祇園祭の宵宵々宮に手をつないで以来、祇園祭に行ったことがないな」とNさん。「浴衣を縫ってくれるなんてすごいですね」と若手がはやし立てると、「最後にかみさんと手をつないで歩いたのはいつだったかな」、と視線を遠くに飛ばしながらNさんがポツリといった。一瞬会話が止まってしまった。
昨夜は初めて代々木のオリンピック研修センターに行ったが、大きな大学キャンパスという感じ。緑が濃く、4階から見下ろすと樹海の中に浮かんでいるようなイメージでした。その会場で新プロジェクトのために学生とOBら10人と2班に分かれてグループ面接。応募者1人1人に電話してくださって、振るいにかけたということもあってさすが、という面々。活発に議論やロープレも行い、物怖じせずに、積極的に発言する様子に、「いま時の学生は、もう少しギャル的で幼いのではないか」とそれまで少し危惧していたが、そんなイメージはすっ飛んでしまった。約2時間の面接、人を採用するにはトコトン、自分の欲しい人材を探さなければいけない、こだわらなきゃ、ということを再認識。中野先生からも言われたことがありますが、最初に妥協して人を採ると「一生の不覚」という事態も。グループ面接修了後のアンケートで、1人辞退以外は、全員参加したい。どのアンケートにも仕事への思いがびっしり書き込まれていて、熱い思いが伝わってきました。14日にも2回目を開催するが、もしかしたら絞り込まないといけないかも、という嬉しい悩みが生ずるかもしれない。しかし、「何のためにこの仕事をやるのか」という根本理念を互いに考え方をオープンにして語り合うことスタッフとして絶対欲しい人間を探し出すのに必要ですね。益々新プロジェクトが楽しみになってきました。あと3週間弱でスタートです。