独り合点(ひとりがてん)

きもの業界をステージとした、ビジネスと生活スタイル、および近況。

普段きもの考(13)ちょいちょい着

2010-10-17 | きもの
「ちょいちょい着」という言葉を聞いたことがあるだろうか。きもので生活していた頃、ちょっとした近所にお出かけの際に、ちょん、ちょんと家で着ていたものからこざっぱりしたモノに着替えてでかける時に着たおしゃれなきものを「ちょいちょい着」といったそうです。ちょうど普段着とよそ行きの間に位置するきものです。辛口エッセイで有名な山本夏彦は「普段着がなければよそ行きはない」と書いているが、まさにその通りでもっと普段着やちょいちょい着のしゃれたものが出てこないと、きものは広がらないと思う。

普段きもの考(12)当たり前のこと④

2010-10-12 | きもの
いつか贈ろうと憧れていたカルチェの3連のリング。ある年のクリスマスについに買いました。そのとき、感動したのがラッピング。えっまだあるのと、過剰なくらいとも思いましたが、紙袋からリングケースまで、贈られた人が1つ1つ開けるたびに、ワクワク盛り上がるくストーリーがあり、それはそれは感激ものでした。最近話題の和菓子屋、HIGASHIYA。味はともかく、パッケージに対するデザインや書体、カラー、素材へのこだわりは、お菓子以上にお店の姿勢やステイタスを明確に訴求している。HIGASHIYAに限らず、お菓子のパッケージには由緒書などしゃれた印刷物が上質の紙に印刷されて入っている。きもの関係では帯締めで有名な「道明」さんのパッケージは、海千山千?の女性たちを感激させている。しかし大概のお店は、数万円、時には数十万円もの買い物の余韻を楽しませ、誇らしげに買った自分を褒め上げるような上質なクオリティが感じられない買い物袋や包装紙が多い。数千円のチョコレートでさえ、と思うと呉服店のパッケージに対する無関心さは、買い物を楽しくさせない。「1粒で2度おいしい」というキャッチフレーズがありましたが、パッケージは買い物やその余韻を「何度でも」「いつまでも」幸福な状態に保ってくれる、一瞬に幸福な買い物をした時に戻してくれる魔法のようなものだと思うのですが、いかがですか。そんな中、取材にお伺いしたさいたま市のT呉服店の紙袋、帯のパッケージは、見事でした。お店のこだわりやスティタスをしっかり感じました。置いてある品物やサービス、店主の佇まいを非常に素敵に感じたものです。

普段きもの考(11)当たり前のこと③

2010-10-10 | きもの
マヤ文明、イースター島、ヴァイキングなど、過去に素晴らしい文明を築きながら滅亡し、現在は人も住まない、遺跡だけが残る文明が世界各地にある。 一方で長く文明を維持し、繁栄し続ける社会も存在する。 その滅亡と存続を分ける要因、法則性を著したジャレド・ダイヤモンドの「文明崩壊」。数多くの実例を精緻に研究、分析した結果、著者は森林乱伐、植生破壊、土壌問題、水資源管理問題、鳥獣の乱獲、魚介類の乱獲、外来種による在来種の駆逐・圧迫、 人口増大などなど、「自然環境の復元力、持続力の限界を超えた人による負荷の増大」にあると結論し、現代の文明に大きな警告を発している。この本の中で日本の江戸時代を通しての森林管理のシステムを分析し、この成功により日本は文明崩壊から免れたケースとして紹介している。ジャレド・ダイヤモンドの「文明崩壊」は一読するに大いに値します。この本を読みながら、思い浮かべたのが「きもの文明崩壊」ということ。

日本の文明を多彩に彩る幾つかの日本固有の文明の1つは、きもの文明。今や崩壊の危機にあるのか、変革の時期なのかその人の立ち位置により判断が分かれるところでしょうが、業界としては「崩壊直前」にあるといえそうです。生産1つとっても、職人や技術に敬意やお金、応分のリスクをはらわないことにより、百年、二百年と受け継がれてきた大切なモノを失いつつある。後継者が育たないのは、自助努力、自己責任が足りない、市場が求めていない、などと他人事にして傍観し、「畳ときものはなくならない」との根拠のない自信は、単に崩壊を傍観し、後押しするだけ。またきもの文明への軽視、無関心は確実にきもの文明を崩壊させ、当然市場の崩壊に直結する。きものを「カムバックサーモン」に例えるのは、適切ではないかもしれないが、水質の浄化、卵のふ化、稚魚の放流、漁獲の制限、遡上を妨げる川の障害物の撤去、産卵場所の自然環境の確保、改善など多岐にわたる工夫や努力があり、さらに多くの人に理解を深め、応援、参加してもらえる情報活動、などなどが半世紀も継続してきた結果、北海道札幌市の豊平川に鮭は戻ってきた。今の呉服業界をみていると、稚魚でさえ捕ってしまいかねない、危うさがある。経済活動とともに市場を枯渇させないために”きもの文明の持つ知恵”を緊急に学び、伝えることが必要なのは誰にでもわかること。自分1人くらい、自分のお店1軒くらいではどうにもならない、などと考えずに今すぐ「カムバックサーモン」に習って、行動を起こして欲しいもの。他人任せでは、10年経たずしてきものは崩壊してしまいます。いまこそ、きものを着る人たちをさらにステップアップすることのワクワクドキドキ、楽しい、素敵な事であると魅せるもの。心豊かな暮らしの術を教えてくれる古今のきものの知恵や知識、多彩なきものの環境があってこそ、日本文明は成り立っていることを再認識すべきではないか。30年以上前に汚染や護岸やダムなどにって鮭が遡上しなくなった豊平川に鮭を取り戻そうという小学生(多分?)の一言により活動が開始され、その後のさまざまな自然環境の復元運動に影響を与えた「カムバックサーモン」運動きもの文明を持続し、さらに豊かなモノにしてゆくために何をすべきか、きものを着る人たちに後れを取らぬよう、業界側に自覚と責任を持った行動がいまこそ求められている。

うれしい!

2010-10-08 | 月刊アレコレ
真夜中、FAXが舞い込んできました。えっ、こんな時間にと思いながら印刷してみると「Vol.63 30部追加発注します。充実した良い内容でした」とコメントがあり、思わずジーンときてしまいました。創刊からずっと月刊アレコレをお取扱頂いているS呉服店の店主からのFAXですが、その前は、余りにもひどいと、こちらが落ち込むような酷評で、部数も5部でいいとお怒りのFAX。それだけに、このFAXはとても嬉しい。こうして隅から隅まで読んで頂き、時には着る人目線のアレコレとの立場の違いや、きもの観が違うこともありますが、きものが好きだからこそ。やりとりは心臓に悪いけれど、きものの話をするのは心地いい。最近丁寧に作っているね、とお褒めの言葉(取り扱って頂けるとうれしいのですがー)を多く頂きます。読まれているコトを実感します。直言頂き、本当に嬉しい限りです。声が聞こえると、とても励まされます。お褒め頂いた月刊アレコレ・Vol.63、ぜひ、きもの熱に流行しないようにご注意しながらお読み下さい。なにしろ、きもの熱によく効きまから。

普段きもの考(10)当たり前のこと②

2010-10-07 | きもの
今年の夏の甲子園を制覇し、沖縄勢として春夏連覇した興南高校の野球部監督・我喜屋優(がきや・まさる)氏は、東京新聞(10/8・夕刊)のインタビューで「普段の生活が何よりも大切」と、選手たちに本当に小さいことを大事にすると大きなコトが出来ると教えてきたと、コメントしています。おはようこんにちはの挨拶、ゴミをしっかり拾う、時間を守る、整理整頓やご飯をしっかり食べるということなど。そういう面倒くさいことから逃げるとどこまでも追いかけてくるけど、1つ1つやっていけると大きな力になって帰ってくる。技術から心をつくるんじゃなくて、心から技術がついてきたということだと思う、と。いわれてみれば生活していく上で、どれも基本というカ、当たり前のコトばかり。しかしこの1つ1つの積み重ねが大事だと。商売も、人生も、一発逆転、魔法の杖などは、ありません。1つ1つのことを丁寧に、きちんと、やり続けることが、唯一のお客様の信頼、安心を醸し出してゆく道で、何百年も変わらない真理です。

普段きもの考(9)当たり前を考える①

2010-10-05 | きもの
入った瞬間に店選びを間違えたと、出たくなるお店ってありますよね。私の場合、知らない町で入る飲食店、けっこう失敗が多い。どうも外観からの店選びのセンス、嗅覚がないので、予めネットで調べるか、人に聞くようにしています。皆様も同じだと思いますが、失敗か!と思うのは瞬間的で、勿論味ではなく、お店の活気、雰囲気など、すべてを数秒で判断します。それは照明の明るさや店内の清潔さ、内装や食器、カウンターやテーブルなどのセンス、さらに元気な挨拶、らしい服装、安心など、ほんの数秒、一瞬の判断です。人も同じで、第一印象は一瞬だそうです。陰気なお店や店員が無愛想なお店、やたら威張っているお店、間の悪いお店など、もうそれだけで食欲がなくなってしまいます。スポーツ紙や週刊誌がカウンターやテーブルにおいてある、先客の後片付けができていないお店も期待できないですね。昔、銀座のバーのママが、トイレはピカピカに磨き、心地良い空間にしておかないと、酔客の気分が醒め、里心が付いて帰ってしまうのだそうです。それぞれの業種によって多少の違いはあるものの、客商売の基本は同じだと思います。まして呉服店のような夢や美を売るお店は、なおさらです。お店は、コミュニティの場であり、多くの人が出会い、集まり、情報交換し、人と商品との触れ合いの場です。お店をプレゼンテーションし、相談を承る場でもあります。最近、新規に多くの呉服屋さんを訪問していますが、商売の基本、案外出来ていないお店が多いのが気になります。毎日、言い訳をせずに、お客様目線で自分のお店をチェツクしてみてください。

学ぶ

2010-10-03 | 日々雑感
字が下手なこともあり、欧米のようにタイプがあれば恥を掻かないのにと思っていましたので、ワープロが市販されたとき、真っ先に飛びつきました。以来パソコンまで、我流でどうしても必要な機能だけを使って、なんとか使いこなしてきましたが、いまだに1本指タイプ。先日機会があってタイピングコンテストにチャレンジしてみました。1本指でも早さは負けないと自負していましたが、どうやってもBが限度。いまがタイミングかと、9月からWebクリエイターの研修に通い始めましたが、これが面白い。本を読みながら、ネットで調べながらの独学も可能ですが、やはり人から学び、仲間と学ぶおもしろさは素敵のひとこと。週5日、毎日5時間があっという間で、学ぶコトの素晴らしさをいま改めて実感しています。同時にイロハから学ぶこと、これは大事ですね。必要なこと、結果だけを追求していては、次につながらない。応用がきかないし、ステップアップも出来ない。12人の教室に先生が2人。で私が最高年齢なので、一緒に学ぶ若い人たちからは、六十の手習いとは、偉いですね、なんて冷やかされますが、どうしてどうしてそんなかっこいいものではないのですが、表現できるスキルを持つことにより、新しい扉が1枚開かれる、押し開ける?ことができると確信して、みんなに遅れないように勉強、勉強です。

普段きもの考(8)トレンド

2010-10-03 | きもの
「ライフステージ」と「ライフスタイル」という言葉があります。昭和の時代までは「ライフステージ=誰もが通過する冠婚葬祭、晴れの日が生活の中で大きな意味を持ち、晴れ着を着て祝ったり、喪服などフォーマルを着て家族や親戚が集ったものです。しかし平成に入り、日々、普段の暮らしを大切に考える流れは定着し、個人の生活スタイル=ライフスタイルは多様化し、続く景気低迷が今までとは違う、平成時代の「ライフステージ」と「ライフスタイル」を創出してきています。きものも当然「ライフステージ」の晴れのきもの一辺倒だったものが、日々の暮らしの中できものを着る、「ライフスタイル」に応じたきものが求められるようになり、リサイクルきもの、ゆかた、木綿,手入れが簡単で、気分的にも気楽に普段の生活シーンで着る「普段きもの」が1つの潮流になりつつあります。しかし、新しい試み、例えばデニム生地のきものやファブリックきものなどがあるものの、全体としては洋服に比べファッションセンスが追いついていません。依然として民芸的なものや縞、格子と無地感覚など、余り面白くない色柄が多い。もっとおしゃれ感が欲しい。「洋服の流行を取り入れて!」「洋服の中でも浮かない色柄が欲しい」という意見はかなり多く寄せられる。普段着るからこそ、もっとトレンドを意識して、毎年増やしてゆけるようなきものを作って欲しい、というのは当然。木綿やウールが、ネットで売れるのは10年一日のごとくのモノ作りにも一因があります。店頭でしか見ることが出来ない、となれば足を確実に運びます。ぜひ流行を取り入れ、ファッションとして、センスアップして作って欲しいものです。今年の冬~来春にかけてのファッションは「レッツ・プラグマティック&ポジティブ」。「実生活、実用の中での元気の源探し」なのだそうですが、普段の暮らしを元気に!という感じなのだと思います。トレンドカラーは、ピンク、ベージュなど、明るい洗練された透明感のある淡い色。パステルカラー、木漏れ日のような心地よい色だそうです。もっと明るい色のきもの欲しいですね。