
世界経済フォーラム年次総会 (ダボス会議) で基調講演をする安倍晋三首相 (1月22日)。
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1月22日 ダボス会議で安倍首相が、「日中は “第1次大戦前の英独と同じ”」と発言したとの報道があっというまに世界中に伝えられた。 当然ながら 中国外務省は強く批判、韓国メディアから反発の声が上がり、各国メディアが安倍発言に驚いたなどと論評する事態に至った。
だが、問題とされた各国記者団との質疑応答での発言__「われわれは似た状況にあると考えている I think we are in the similar situation」は、通訳が英語で補足したものらしい。 だから、”安倍首相が発言していないものが安倍発言として報道された”、というのが真相のようだ。
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「外国メディアと懇談した際の首相発言 ダボス会議」(1月23日 日経) _ ※追加1へ
「日中 “大戦前の英独と同じ”=安倍首相発言と報道、菅官房長官釈明」(1月23日 時事通信) _ ※追加2へ
「首相発言、欧米で波紋 日中関係、大戦前の英独例に説明」(1月24日 朝日新聞) _ ※追加3へ
「”現在の日中は一次大戦前の独仏” 安倍首相の発言を英紙が歪曲か」(1月25日 Record China) _ ※追加4へ
「ダボス会議報道、安倍首相発言の力点を英紙誤解」(1月27日 読売新聞) _ ※追加5へ
「日中 “大戦前の英独と同じ”=安倍首相発言と報道、菅官房長官釈明」(1月23日 時事通信) _ ※追加2へ
「首相発言、欧米で波紋 日中関係、大戦前の英独例に説明」(1月24日 朝日新聞) _ ※追加3へ
「”現在の日中は一次大戦前の独仏” 安倍首相の発言を英紙が歪曲か」(1月25日 Record China) _ ※追加4へ
「ダボス会議報道、安倍首相発言の力点を英紙誤解」(1月27日 読売新聞) _ ※追加5へ
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安倍首相と各国記者団との質疑応答で、フィナンシャル・タイムズのラックマン記者の質問「中国と日本の間の戦争勃発は考えられるか」に対し、安倍首相は「今年は第1次大戦100年を迎える年だ。 当時英独は多くの経済的関係があったにもかかわらず 第1次大戦に至った歴史的経緯があったことは付言したい。 質問のようなことが起きると、日中双方に大きな損失であるのみならず、世界にとって大きな損失になる。 このようなことにならないようにしなくてはいけない」と答えている。 “われわれは似た状況にあると考えている” とは確かに発言していない。
だが ラックマン記者が書いた FT 記事では、「首相は実際に今の日中の緊張関係を、第1次大戦に至る数年間の英独のライバル関係と比較し、”同じような状況だ” と述べたのだ」となっている。 通訳が余計なことを加えたからだ。 安倍首相か関係者がその場で訂正すべきだった。
けれど もうこの件は英語のニュースで世界中に配信されてしまった。 あとから、「あれは通訳の凡ミスです」などといい繕っても、先にすっかり流布してしまったことのほうが、世界中の読者の脳裏に残ることだろう。
1月25日のブログでも書いたが、当事者の首脳としては 比喩的にせよ、過去の戦争当事国になぞらえることは避けるべきだった。 「戦争はありうるか?」などと聞かれても強く否定し、「そうならないように外交努力している」と門切り型でもいいから、答えるべきだった。
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うがった見方をするなら、ジャーナリズムが与えた “エサ” に安倍首相が見事に引っかかり、ジャーナリストはこれを記事にすることができたわけだ。 多くのインタヴュー映像では、訓練を受けた記者が何とか話題の主から “通り一遍ではない発言” を引き出そうと、刺激的な質問を次々に浴びせ、話題の主ははぐらかしたり、返答に困るケースがよく見受けられる。
政治家という種族は、よくよく効果を計算して発言しなくてはならない。 これは、政治家の “宿命” だ。 だからこそ 政治家もスピーチの訓練をしているし、時々刻々と移り変わる様々な内外情勢にも目を通し、情報蓄積を欠かさない。 それを止めるのは政治家を引退する時だ。
マスコミ受けがいいからといって、マスコミが喜ぶような発言ばかりする政治家になっても、これは本末転倒だ。「政治家 Statesman の本分は国民を信頼し、そして安心させ、自らの政策を実行することである」(ウィキペディアから)。 一方で 地位や立場を利用し、みずからの利害に重きをおいて行動する政治家を軽蔑していう “政治屋 Politician” といういい方もありますが。
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こういった観点から、今回の安倍首相のダボス発言で、指摘すべき点が幾つかあります__
1) 対外関係において 過去の戦争当事国を例に取り上げるべきではなかった
2) メディアの刺激的な質問にそのまま反論 返答すべきでなかった
3) 通訳が誤訳したり、問題化しそうな補足をしたら、直ちに訂正すべきだった
4) 後から色々といい繕っても後の祭り
政治家の発言と行動は、”地雷原を一歩一歩と歩く” ようなもので、眼を皿のようにして よくよく注意して足を踏み出さないと 地雷を踏んでしまいかねない、といういい事例ですね。 今回は踏まなかったのかも知れませんが、隣の通訳が地雷に接触して爆発、安倍首相はトバッチリのススで顔が真っ黒になってしまったようなものでしょう。
かろうじて一命は取り留めたものの、今後はさらに慎重に発言してもらいたいものです。 しゃべり過ぎて問題発言が多かった、イタリアのベルルスコーニ元首相や、日本にも “失言王” 諸氏がいっぱいいます。 最近は 某放送協会会長の失言が取りざたされましたね。
もっとも イタリア人などにペラペラしゃべるな!と注文を付けるのは無理かも … 昔 イタリア旅行でレストランに入ったら、若いウエイターは客そっちのけで若いウェイトレスに向かってしゃべりっぱなしだったのを見たことがある。 あれが普通のイタリア男なのか、それとも特異な男だったのか?
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イタリア男はさておき、寡黙な人物は政治家向きではない。 しゃべらなければ大衆に声が届かないし、自分の政策も理解してもらえない。 外国に行って気遅れして黙っていると、主張のない人と見られてしまう。 さらに相手が勝手に主張することに反論しなければ、相手の主張に “異議なし” と取られてしまう。
主張するからには 国益を踏まえて、他国を傷つけないよう 誤解されないよう 慎重に、なおかつ 毅然とした態度で主張しなくてはならない。 そのために訓練をし、選挙で選ばれているわけだから。 ホント 政治家も大変ですね。 でも それぐらいの “気概を持って” やって欲しいものです、政治家さんたちは (裏で関連業界などからカネをもらって部屋に札束を積み上げたりする政治家は “政治屋 Politician” と呼ばれます)。
以上
※追加1_ 日中は互いに最大の貿易相手国で、日本企業の進出で中国の雇用を創出してきた。 切っても切れない関係。 1つの課題で門戸を閉ざしてはならず、戦略的互恵関係の原点に戻るべきだ。 条件をつけずに首脳会談を行うべきで、首脳会談を重ねることで両国関係の発展の知恵が生み出される。
(記者「日中が武力衝突に発展する可能性はないのか」)今年は第1次大戦100年を迎える年だ。 当時英独は多くの経済的関係があったにもかかわらず第1次大戦に至った歴史的経緯があったことは付言したい。 質問のようなことが起きると、日中双方に大きな損失であるのみならず、世界にとって大きな損失になる。 このようなことにならないようにしなくてはいけない。
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※追加2_ 沖縄県・尖閣諸島や歴史認識をめぐり対立が続く日中関係について、安倍晋三首相が第1次大戦直前の英独関係と「同じ状況だ」と発言したと外国メディアに報じられた。 菅義偉官房長官は23日午後の記者会見で「第1次大戦のようなことにしてはならないという意味だ。 おかしいところはない」と釈明に追われた。
首相は世界経済フォーラム年次総会 (ダボス会議) 出席のため訪れていたスイスで、外国メディアの取材に応じた。 英紙フィナンシャル・タイムズや英BBC放送は、首相発言について「首相は現在の日中の緊張関係を、大戦前の英独対立に例えた」(同紙) などと相次ぎ報道した。
これに対し菅長官は会見で、首相の現地での発言内容を詳細に説明。 それによると 首相は日中が軍事衝突する可能性を問われ、開戦から100年を迎える第1次大戦に言及し、「英独は大きな経済関係があったにもかかわらず大戦に至った」と指摘。「このようなことにならないようにしなくてはならない」と日中対話の重要性を強調しており、「同じ状況」との表現は使っていない。
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※追加3_ 安倍晋三首相が、世界経済フォーラム年次総会 (ダボス会議) での各国メディア幹部らとの会合で日中関係を問われ、第1次大戦前の英独関係を引き合いに出して説明した。 大戦を教訓に、衝突を避ける手段を構築すべきだという意味合いだったとみられるが、欧米メディアが「日中間の緊張が極度に高まっている」と受け止めて報道し、波紋が広がっている。
特集「尖閣諸島 過熱する主張」
菅義偉官房長官は24日午前の記者会見で「真意をしっかり伝えたい」と述べ、大使館を通じて発言の意図を海外メディアに説明する方針を明らかにした。
会合は22日に主要メディアの幹部ら約30人が出席して開かれた。 安倍首相は質問に日本語で答え、通訳が英語で伝えた。
安倍首相は「日本と中国が尖閣諸島を巡り武力衝突する可能性はあるか」との質問に、「軍事衝突は両国にとって大変なダメージになると日中の指導者は理解している」と説明。そのうえで「偶発的に武力衝突が起こらないようにすることが重要だ。 今年は第1次大戦から100年目。 英国もドイツも経済的な依存度は高く最大の貿易相手国だったが、戦争は起こった。 偶発的な事故が起こらないよう、コミュニケーション・チャンネル (通信経路) をつくることを申し入れた」と述べた。
この発言を通訳が伝える際、英独関係の説明に「我々は似た状況にあると思う(I think we are in the similar situation)」と付け加えた。 首相が英独関係を持ちだした意味を補ったとみられる。 この通訳は、日本の外務省が手配した外部の通訳だったという。
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※追加4_ 24日 フィナンシャル・タイムズ中国語版は、安倍首相のダボス会議出席について取り上げた。
話題になったのは安倍首相と各国記者団の質疑応答での発言だ。 司会を務める FT の外交主席コラムニストのギデオン・ラックマンが、日中の戦争勃発は考えられるかと質問したところ、安倍首相は一次大戦前の英仏のような状況だと回答。 日本の首相が日中は戦争の間際にいると発言したと解釈された記事が FT に掲載され、世界的な話題となった。
もっとも その場にいた同僚記者によると、安倍首相は一次大戦当時の英独は経済関係は緊密だったがそれでも戦争になったと指摘し警告しただけ。 日中関係が当時の英独関係と似ているとの発言はなかったと話している。
たとえ そうだったとしても安倍首相の発言は矛盾しているのではないか。 日本は二度と戦争を起こさないといういう一方で、軍事衝突の可能性はありうるとはどういう意味だろうか?
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※追加5_ 25日に閉幕した世界経済フォーラム年次総会 (ダボス会議) で、安倍首相が現在の日中関係を第1次大戦で戦う前の英独関係になぞらえたとする英メディアの報道は、瞬時に世界に広がった。
だが 実際の首相発言は、英メディアの当初報道とは力点が異なっている。 発言は22日 首相と、同会議に出席していた内外報道機関代表者との懇談で出た。 筆者も出席していた。
司会を務めた英紙フィナンシャル・タイムズ (FT) のギデオン・ラックマン主席外交解説委員が、「尖閣諸島をめぐり、日中が武力衝突することはありうるか」と尋ねたのに対し、首相は「日中間で軍事衝突が起きれば、両国にとって大変なダメージになる」と日本語で答えたうえで、次のようにつけ加えた。
「今年は第1次大戦 (の勃発) から100年目。英国とドイツは、戦争前に貿易で相互に関係が深かった。 日本と中国も今、非常に経済的な結びつきが強い。 だからこそ そうならないよう事態をコントロールすることが大事だ」
この発言をめぐり、ラックマンはその日の同紙ブログで、「首相は興味深いことに、紛争は論外だといわなかった。 日中間の緊張を、第1次大戦前の英独のライバル関係と比較し、『同じような状況だ』と述べた」と、首相が軍事衝突もありうると示唆したと受け取れる表現で伝えた。
同紙はさらに24日付の社説で、「安倍首相の欧州の1914年との比較は、恐ろしく 怒りをかき立てる」と批判。 25日付では、中国の王毅外相が「時代錯誤で当惑した」と酷評した同紙インタビューを1面で報じた。 英 BBC 放送なども「1914問題」として相次いで報じた。
しかし 首相は実際には、日本語で「同じような状況」とは発言していない。 素直に聞けば、「英独のようにならないよう」という点に力点があったのは間違いない。 懇談は日英同時通訳で、粗い意訳だった可能性があるが、FT 紙の突出した反応が騒ぎを広げている面は否めない。
ただ 首相も不注意だった。 欧州人にとって第1次大戦は、甚大な犠牲者を出した悲惨な戦争の歴史である。 欧州の国際会議でそれを引き合いに出すのは、いかにも配慮不足だ。
会議に出席していたドイツ人の大学院学長は、「戦争を軽々に比較に使うのは危険。 首相は、第1次大戦の歴史問題まで自ら引き寄せかねない」と警告した。
日本の経済再生を柱にすえた安倍首相の演説は、会議出席者におしなべて好評だったが、世界の注目が集まるほど、注意深い言動が求められるといえる。(スイス東部ダボス アメリカ総局長・飯塚恵子)
以上