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日経新聞に溢れる企業広告は読者無視で紙の浪費

2022年11月30日 | メディア論

 

紙離れを自ら招く新聞経営の暴走

2022年11月30日

 30日(水曜日)の日経新聞が分厚く、どっしりと48頁もありました。ページをめくっていくと、「ひどい。なんだこれで新聞といえるのか」と絶句に次ぐ絶句です。企業から広告費、協賛金、参加費、会費などを集めて作った企業広告、イベント広告、シンポジウム広告で膨れ上がっています。

 

 この種の企業広告の乱用、乱発には、私の周辺にいる日経読者の多くが怒っています。30日付の48頁のうち、約半分地近くが企業広告関連なのです。コロナ危機で3年ほど前から急増しています。

 

 さらに5頁相当が株価などの相場表で、一般的な読者は読んでもせいぜい数行でしょう。こんなものはネットで簡単に検索できます。相場紙面を含めると、日経は読みたい頁は半分にもなりません。他の全国紙には、こんなにひどくありません。日経が並はずれて異常です。

 

 「その部分は読まずに捨てる」、「新聞用紙の浪費だ」、「最も購読料が高い日経(月額4900円)は値下げしろ」と悪評が噴出です。

 

 30日の紙面で、まず目についたのが「日経統合報告書アワード(日経賞)」で10頁もあります。えんえんと、387企業・団体の報告書の表紙がカラー印刷で10頁にわたり掲載されているのです。報告書の表紙だけを並べているのです。すべて全面広告と表示されています。

 

 「国際的なESG(環境・社会・企業統治)投資への高まりから、法的な開示が義務付けられている財務情報に加え、社会的パーパス(存在意義)やミッションなどを盛り込み、すべてを統合した報告書です。気候関連、脱炭素への取り組みなどが開示されています」との説明文があります。

 

 こうした情報を開示することには意義があります。愕然とするのか、「報告書の表紙だけをカラー写真で387社も掲載することにどんな意味があるかという点です。掲載された社から掲載費(広告費)をもらうというために10頁も浪費している。あきれる。読者はたまったものではない。

 

 企業名だけを記載し、ホームページにリンクできるようにしておけばよい。三菱グループは12社、三井住友グループは7社、ほかの電力、建設、商社、銀行、薬品、住宅、鉄道などが名を連ねています。

 

 東京五輪で汚職、談合の主役となった「電通グループ」も載っています。「ESG」でいう「企業統治(G)」に背いた企業です。最大の収益をあげているトヨタを探してみても見当たりません。日経紙面に溢れる「ESG教」に沿う電気自動車(EV)がトヨタに不都合なのでしょうか。

 

 先週の24日(木曜日)も絶句しました。「日経Well-beingシンポジウム」の全面広告です。幸福度や暮らしやすさの実現をテーマにしています。「施策の検証・開示が重要」、「多面的な指標を作り活用」、「市民目線で幸福感を追求」の見出しです。3頁にわたります。

 

 続いてこれもまるごと一面を使った「日経脱酸素プロジェクト/エネルギー分科会」の特集で「安定供給と両立を論点に」の見出しです。さらに「中小企業と未来を拓こう」の2頁広告特集で、中小企業基盤整備機構主催で「中小企業の経営力は生産性向上がカギ」の見出しです。

 

 まだ終わりません。中部経済特集2頁、「日経バーチャル・グローバルフォーラム」の特集1頁、続いて「日経エデュケーションチャレンジforSDGs」特集2頁です。もういい加減にしてくれないか。

 

 ざっと数えて32頁中なんと15頁がこの類の紙面です。相場表も除くと一般記事は半分にも満たない。広告特集、編集特集が次々と並び、どういう基準で区別しているのか紛らわしい。大半の読者は読まない。そんな日の新聞は半値にしてほしい。月間では3割引きして当然です。

 

 新聞広告が急減しているところに、コロナ危機の追い打ちで、「ESG」とか「SDG」とか「脱炭素」とか「デジタル化」とかで、企業を釣り上げた広告、企業絡みの編集企画を乱打している。載せられる企業もどうかしている。内部留保がかなりあるのでしょうか。

 

 私はこれまでにも2回のブログで、日経の広告について苦言を呈してきました。「企業広告の乱用にすがる前代未聞の日経新聞」(20年12月18日)、「日経の『SDGs教』企業広告は新聞用紙の浪費」(22年1月14日)です。その後も改まるどころか、全く変っていません。

 

 新聞社は経営は非公開ですし、株式はほぼ全員、現在の役員、社員、持株会の所有ですから、外部からのチェックが全くききません。つまり不祥事を起こさない限り会長、社長の身分は安泰です。

 

 日経の内部では、こうした広告営業のやり方に批判的な人も多いでしょう。新聞社の中核は編集記者ですから、「まず読まれない広告、会議、イベント特集」、「行き過ぎたSDG教への疑問」、「企業資金に依存しすぎた広告集め」、「紙新聞離れの一因」という批判があるはずです。

 

 私は日経をもう何十年も定期購読しています。新聞界では、特に政治記事は親権力、反権力に分断され、中立性、客観性に欠けることが多い。その点、日経は自由な立場から記事を書いていて、信頼が置ける。

 

 それだけに経営主導と思われるこうした広告営業を続けていると、産業、企業に対する批判精神が衰弱し、日経の屋台骨である経済、産業記事が劣化いていくのを懸念しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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Unknown (学生)
2023-01-13 19:14:01
就活や投資で日経を購読している大学生ですが、広告欄で企業名や企業の取り組みを知ることが多く、かなり参考になります。
このため、企業広告は読者を無視しているという意見には全く同意できません。
テレビやYouTubeなどのcmもとても面白いものだと思いませんか?新聞広告も同じで、読むと勉強になりますよ。

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