日本ユーラシア協会広島支部のブログ

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書評 環境問題の数理科学入門 評者:津田敦(東京大学大気海洋研究所)

2011-12-08 09:21:40 | 日記
[転載]
http://www.kaiyo-gakkai.jp/main/josnewsletter02_final_low.pdf
書評
環境問題の数理科学入門

J. ハート著 小沼通二・蛯名邦禎 監訳
シュプリンガー・ジャパン、2010年発行、299ページ、2700円+税、ISBN978-4-431-10085-0
津田敦(東京大学大気海洋研究所)

訳者の一人である中本正一朗さんから献本された時、正直に
言って少し戸惑った。というのは、環境問題に関する出版物は、
取扱いの難しいものが少なからずあるからである。しかし、読
み進むうちに、この本は環境問題の本というよりは、もっとプ
ラクティカルに科学を扱う場合の入門書であることがわかった。

原題「Consider a Spherical Cow」は少しふざけた題にも思
えたが、「牛を球体として考えてみよう」は、この本の本質を
表している。我々は、海洋の物質循環や生物の個体群動態を考
える時、例えば、多くの種が混在する植物プランクトンを一つ
のグループとして考え、クロロフィル濃度から炭素量に換算し、
適当な経験式で一次生産を見積もる。まさに球体の牛を仮定し
て物事を考えているのに気づく。

本書は第 3章から構成されており、第 1章は、簡単な頭の体
操で、与えられた問題に簡単な仮定をおいてどう数理的に扱う
かを例示する。第 2章はボックスモデル、熱力学や化学平衡論
で使われる基本的な方法を紹介している。第 3章は「封筒の裏
を越えて」と題されており、第 2章で紹介した封筒の裏程度で
できる簡単な計算から、少し現実の姿に近い複雑なモデル例を
紹介している。例えば第 1章では「米国では靴直し職人は何人
いるでしょうか?」または、「地球上の植物の年間生長量全体
のうち人間が食べた割合はどのくらいでしょう?」。第 2章で
は「地球大気中における H 2Oの滞留時間はどのくらいでしょ
うか?」、「地中海の海水を死海に引き込んだら、どのくらい発
電できるでしょうか?」、「人為起源の硫酸や硝酸を考えなかっ
た場合、雨水の pHはいくつになるか?」といった問題を解
く。第 3章では、少し問題は複雑になって、「14Cをトレーサー
として、太平洋の溶存無機炭素の平均滞留時間を見積もり、大

気海洋間のガス交換係数を求めなさい」といった問題が出題さ
れている。各設問に対して、あくまで球体の牛的には、どう考
え、どこから手をつけるのかを示すとともに、背景となる原理
を簡単に説明し、手と頭を動かし解いていく手順が示されてい
る。さらに、そのあとには似たような手法で解ける演習問題が
いくつか示されている。

必要とされる数学的知識は、高校程度でほぼ理解できるので
はないだろうか。最近の高校を知らないが、簡単な微分方程式
を理解できれば、内容の 9割は理解できるはずである。くどい
くらいに繰り返されるのは、ストック、フローと滞留時間の関
係である。基本であるが、学生のうちから、これらを叩き込ん
でおくことは必要かもしれない。個人としては馴染みのあるロ
トカ・ボルテラの競争式とか、ロジスチック成長式などの項を
見ると、あまりに簡素な説明なので、多分、他の項においても、
原理とごく初歩的なさわりの部分だけが述べられているのであ
ると想像がつくが、地球の平均温度とか、海水中の炭酸系の平
衡とかを自分で計算してみるのは楽しかった。

著者が述べている本書の 2つの目的とは1)近似的な解に到
達する方法を学ぶ、2)環境科学の諸概念を、問題解決という
視点から学ぶ、である。2)には若干疑問が残ったが、1)に
関しては明らかに優れた書である。今年からでも授業で使いた
いと思った。
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ダマー 映画祭 in ヒロシマ終了しました。

2011-12-08 08:08:00 | 日記
ダマー 映画祭 in ヒロシマ終了しました。 
延べ16000名の参加で盛況でした。画像で紹介します。

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