大聖堂の庭に咲いていました
日本聖公会東北教区 加藤主教が説教されました。
林駐英大使、 Mayor of Southwark夫妻
当日は、四方第一書記官、英国日本人会の佐野会長、ロンドンで、日本語礼拝をされている各グループの代表者たち、宣教団体 Us とCMSからの代表者、ロンドン教区からも代表が参加されました。
加藤主教のお説教
日本周辺の地域において観測史上最大と言われる東日本大震災が発生し、巨大な地震と津波、そして原子力発電所の事故による大規模な汚染という三重の苦難が日本を襲った日から3年が経ちました。その直後から世界中の国々、とくに世界の聖公会の交わりの中から、非常に多くの祈りと支援が届けられました。ことに英国教会と、ロンドンの教会や日本人会衆の皆様からのお祈りと支援に心から感謝を申し上げます。またご一緒に祈るために、皆様、とくにSouthwark Cathedralのお招きによって、この礼拝に参加することが出来ましたことを心より感謝いたします。
カンタベリー大主教ご夫妻は、昨年の10月、韓国で開催された世界教会協議会(WCC)の大会に参加される途上、わざわざ日本に立ち寄られ、被災者と語り合い、大きな励ましを与えてくださいました。またマイケル・イプグレイブ主教は2012年の夏に、もっとも激烈な被災地の一つである釜石を訪れてくださり、深い共感を示してくださいました。
地震と津波、原発の事故・爆発により多くの人々が家と愛する家族を失い、また家族がいても離れ離れの生活を余儀なくされ、故郷を失い、仕事を失い、いまだにもとの生活が回復される見通しを持てずにいます。大きな問題は、3年を経た今、希望の見えない中で、孤独死する人、自死をする人、復興作業の過労のために死亡する人が、むしろ増えているということです。最近の新聞は、福島県において震災後の亡くなった犠牲者の数が、震災当日の犠牲者の数を上回ったと伝えています。
大震災の後、多くの言葉が語られ、本も書かれ、そして歌も作られました。ある時、わたしは日本の大変有名な歌手、桑田佳祐のCDを偶然聞きました。そしてある歌を聞いて、衝撃を感じました。それはこんな歌詞で、明らかに大震災のことを歌ったものでした。
「あの日起こった未曾有の出来事を、目の当たりにして僕らは学ぶ。想像を遥かに超えた力が、特別な季節を連れてきた。振り向かず、歩き出そう、涙の虹を渡って。胸躍る大好きな舞台(ステージ)に、みんなで駆け上がれ、新しい夜明けを信じて、今こそ立ち上がれ」。
Let’s Try Again という曲でした。その歌手は大震災の被災者に大変共感して、被災地でのコンサートも行っていました。わたしは何度も繰り返して聞いて、涙が止まりませんでした。しかし、そのうち、聞きながらどうしても気になってきたことがありました。
「胸躍る大好きなステージに、みんなで駆け上がれ」。
駆け上がる、みんなは誰なのだろう? 犠牲者を取り巻く悲しみに年齢は関係ありませんが、しかしやはり将来への夢をたくさん持ちながら津波に押し流されていった若者たち、子どもたちを思うとたまらない気持ちになります。ある小学校では、津波からの避難が遅れて、74人の生徒、10人の教師が死亡、また行方不明となりました。
生き残った人たちが希望を取り戻して、もう一度「大好きなステージに駆け上がる」ことはもちろんそう願うことです。しかし聞きながら、亡くなった多くの子供たちや若者たちも、やっぱりいっしょに「大好きなステージに駆け上がる」のでなければ、この悲しみが癒されることはないという思いが頭から離れなくなりました。そして辛くてこの曲を聞けなくなりました。
日本の宗教学者、山折哲雄は、仏教のことから語っているのですが、生きている者同士の関係だけでなく、死んだ人々との連帯が大切であること、それがむしろ人間関係を深いものにしていくことを語っています。
「生きている者との連帯と同時に、死者との連帯」、それは非現実的な考え方でしょうか。しかしそれは信仰的な希望です。そうでなければ皆救われないのです。新約聖書の最後の書、『ヨハネの黙示録』第21章は、最後の希望をこのように書きます。
「見よ、神の幕屋が人の間にあって、神が人と共に住み、人は神の民となる。神は自ら人と共にいて、その神となり、彼らの目の涙をことごとくぬぐい取ってくださる。もはや死はなく、もはや悲しみも嘆きも労苦もない」。
「新しい天と新しい地」のヴィジョンです。生きている人間のための回復・支援の努力が最大限になされなければならないのと同様に、教会はやはり死者を覚え続け、最後の時の希望に向って祈り続けなければならないのだと思います。
今夕、読んでいただいた新約聖書にあるように、被造物全体が呻いています。若い人も、老人も、そして人間だけでなく自然も。原子力発電所の事故によって人間が立ち入れなくなった地域では、大切にされていた牛たちも犬たちも野生化し、やがて飢えて死んでいます。美しい自然も、すべての被造物が、共に呻き、全体が贖われることを待ち望んでいるのです。
日本聖公会は大震災直後から、「いっしょに歩こう!プロジェクト」と名づけた被災者支援活動を開始しました。日本聖公会の全教区、北海道から沖縄までの11教区が連帯して一つの大災害への支援活動を展開したことも、初めてのことでした。多くの聖職・信徒のボランティアの方々がこの活動に参加されました。物理的な支援だけでなく、被災地に立って共に祈る「巡礼」も大切にして、日本各地や海外からの訪問者を受け入れてきました。それは「祈り続けること、忘れないこと」こそがもっとも大切なことと思うからです。
2年が経過し、現在活動は新しい段階に移り、日本聖公会は「原発・放射能に関する特別問題プロジェクト」が福島を拠点に新しい活動を開始、また東北教区は「だいじに・東北」と称する被災者支援活動を継続しています。「互いに愛し合いなさい」という『ヨハネ福音書』の主イエスの御言葉に基づいた名前です。
それらのことを心に留めながら、この礼拝をご一緒に続けてまいりたいと思います。キリストの平和が皆様の上にありますように。