"いそ"あらため、イソじいの’山’遍路’紀行’闘病、そしてファミリー

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パライソメッセージ20130719 No.20

2013-07-19 18:27:59 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.07.19 N0.20

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 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:何故日本は『壊滅的な』状況になってしまったのか④ 

 BIS規制は1988年、国際決済銀行(Bank of International Settlement)による取り決めで、バーゼル合意とも言う。この規制(合意)とは、国際業務を行う銀行の自己資本比率を8%とする、という内容である。その背景は、1980年以降国際金融市場が飛躍的に拡大し、その一方ではデリバティブ商品(金融派生商品)のリスク管理などの懸念ということである。8%という根拠も定かではない。ちなみに最近バーゼル3規制が合意されたという記事が掲載されていた(2013年7月12日 日経新聞)。バーゼル3では、経済のファンダメンタルの堅さから、3+2の5%の自己資本比率と書かれていたが、詳細な記事ではないので、後日検討。

 当時日本ではバブルの真っ只中で15行あった都市銀行は、絶好調の極みだった。世界の銀行の資産残高のトップ10のうち、日本の都市銀行が6行を占めるといった具合だった。当時は日本中の不動産が投機対象となり、やがて飽和状態になり海外にも進出するといった状態であった。マンハッタンやウォール街の多くのビルは、三菱地所、野村不動産、森ビルや今では民事再生会社となった日本総合地所などが買収するといった状態になった。なお、日本総合地所はその後民事再生法の適用をうけ、再生会社となり、当然新卒採用もゼロというのに、なぜか未だにトップ150にリストアップされている。

 熱狂的なお祭り騒ぎに浮かれるのはトップクラスのディベロッパーだけでなく、庶民・大衆も大いにバブルに踊る。普通の大衆が不動産投機に走り、物件を購入するとそれを担保に銀行は湯水のごとく追加融資を実行し、さらに不動産を買い足していく。頃合を見て物件を売り、そのときには購入時の数倍から10数倍といった値段がつく。土地ころがし、不動産ころがしで資産が何倍にも何10倍にも膨れ上がる。当時私は、会社といっても街工場の社長であったが、銀行からは融資話が良く持ちかけられた。私は性に会わないのと、本業が赤字であったのとでバブルに浮かれなかったが、同業の社長などは、

 「イソさん。わしは死ぬまでに10億円を残すことが出来る。」

 と豪語し、日経新聞などに不動産広告が出ると、やれ博多や岡山や高松やなどと、完成もしていない物件を電話一本で売買していた。その社長は飛ぶ鳥を落とす勢いであったが、バブルがはじけて暫くすると、破産も出来ず夜逃げしてしまった。

 そんな狂気じみた世の中を煽り、演出してきたのが銀行だ。金融の超緩和で溢れる資金をジャブジャブと貸し付け、融資残高は膨大に膨れ上がり、分積み・両建てで預金も膨れ上がる。当然資産残高も膨れ上がり、世界トップ10のうち6行が日本の都市銀行といった凄いことになったのだ。一方でマンハッタンやウォール街のビルをどんどんと買収されることは、アメリカとアメリカ国民の愛国心を痛く傷つけることとなったのみならず、アメリカに日本脅威論が大いに高まる。バブルに狂奔する『行け行け』の日本はアメリカのみならず、EU諸国にとっても大いに危機意識を煽った。そこで出てきたのがBIS規制(バーゼル合意)である。

 自己資本は総資産に占める自己資本の割合だ。当時の日本の都市銀行は、分母となる総資産が貸付資産の膨れ上がりで膨大になり、つまり自己資本比率が小さくなっていた。自己資本比率を上げるためには分子の自己資本を大きくするか、分母の総資産を小さくするしかない。自己資本は剰余利益の蓄積であるから、増やすのに一定の時間を要する。分母の総資産は、手っ取り早く減らそうとすれば貸付資産を減らせばよい。そのため都市銀行は『貸し渋り』『貸剥がし』を強引に進めた。そのターゲットはリスク資産と見做された中小企業であった。

 もうひとつ、バブル崩壊の原因は金融緩和による資金の超飽和状態が基本的な原因であるのだろうが、日本経済を壊滅的にしたのは、都市銀行による『貸し剥がし』『貸し渋り』による中小企業への大打撃だろう。

 BIS規制によって、北海道拓殖銀行つまり都市銀行の倒産という資本主義にとっては大恐慌に匹敵する事態が発生した。それまで15行あった都市銀行は4行のメガバンクに再編される。すべてのメガバンクに1,000億円単位で公的資金が注入され、新生銀行に至っては未だに完済されておらず、実態は国による管理銀行である。かつて、世界の預金量ベスト10に6行の都市銀行がランクインしていたのだが、現在では1行のみがベスト10である。

 銀行の『貸し渋り』『貸し剥がし』は現在も続いており、冒頭のように世界的にはバーゼル3が合意されたとのこと。アベノミクスで『異次元の金融緩和』と喧騒してもごく一部でバブルを演出しているが、BIS規制やバーゼル3の枠組の内で、日本経済が好循環に転じるとは、とても思えない。

 それにしても、日本のマスコミは、アベノミクスと囃し立てるが、全く信用していない研究者・知識人は沢山おられる。外国人の経済アナリストはもっと辛らつである。そういった世論が無視される一方、参議院選挙がらみか無批判にアベノミクスを礼賛する日本マスコミの退廃には辟易とする。

 次回のパライソメッセージは、日本はどう生きていけばよいのかについての私論を述べたい。

(続く)

 

「一押しBook」

 POSSE VOL.19...

書名:POSSE Vol.19

著者:NPO法人POSSEの定期雑誌

出版社:NPO法人 POSSE あまり市販していないが、大手書店には販売しているところも有る

内容:

 NPO法人POSSEは若者の労働問題や貧困問題に取り組み、その解決を目指して実践することを目的に、大学院生、学生、若手社会人らで設立され、実践している団体。代表の今野晴貴氏はいま話題のベストセラー「ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪~」の著者。

 6月発行の本号は、特集で「ブラック企業の共犯者たち」を組み、ブラック企業に加担のみならず自らの『商売』の為ブラック企業をも食い物にする悪徳ブラック士業(弁護士・社会保険労務士等)の告発や、児美川先生他のキャリア教育のあり方論、麓幸子さんの「親に出来る対策」、出版物紹介など、多視点からの論が載せられている。特集「アベノミクスは雇用を救うのか」では3人の経済学者の論が紹介されているが、現代経済学者・左派経済学者をバランスよくチョイスしたのだろうけれど、いささか評論的。ブラック企業大賞に選ばれたワタミの社長を、参議院選挙の比例候補に担ぎ出す安倍自民党なのだから、テーマに沿った論点を絞り込んだほうが良かったのではないかと思う。

 もうひとつの特集である「各政党に聞くブラック企業対策」は参議院選挙中でもあり、タイムリーで良い企画だと思う。対策が大変明確な政党もあれば、歯に衣を着せた煮え切らない政党も有る。ただ、参議院選挙目当てなのだろうが、各政党ともブラック企業について社会問題として取組まなければならないといったことについては、共通して述べている。運動の到達点なのだろう。

 小冊子ではあるが、内容が大変豊富でバランス感覚もよく、お勧めの一冊。

イソの評価:★★★★☆

蔵書:キャリアセンター就職資料にあり。

(続く)

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胃癌日記82

2013-07-18 17:17:09 | 闘病

胃 癌 日 記 82

-スキルス胃癌手術から1年半(2013年6月9日)の日々-

 

 -映画「遺体~明日への10日間~」を見て-

 3月11日は、確定申告のために年休を取得した。もともとこの日の午前中に確定申告書を仕上げて、午後に提出の予定であったが、申告書がすでに出来上がっており、空いた午前中に映画に行くこととした。ちょうど2年前の今日、東日本大震災が勃発し、未曾有の悲劇・惨劇が起った。今上映中の映画「遺体~明日への10日間~」は石井光太氏のルポルタージュ「遺体-震災・津波の果てに」を映画化したもので、改めて記憶を風化させないためにも、悲劇・惨劇に向き合う気持ちの原点を忘れないためにも、見に行くことにした。

 映画は石井氏のルポルタージュを映像化したものであり、ストーリーは無く、東日本大震災・津波による犠牲者を収容する釜石市のある遺体安置所で繰り広げられる人間模様を著した原作を忠実に映像化している。西田敏行が一人の軸となる民生委員を演じ、釜石市役所職員、医師、歯科医師、歯科医師の助手、僧侶、犠牲になった子供の母親等々の人間模様を、尾形直人、柳葉敏郎、佐藤浩市、酒井若菜、國村隼らが演じている。

 私は石井氏の原作を読んでおり、活字を通してでも苦悶にゆがんだ表情、姿態の遺体、人間の尊厳を踏み潰すように傷んだ遺体、悲しみや絶望に突き落とされる子供の苦しみに歪み悶える遺体、収容しきれなくなるほど隙も無く並べられた遺体やその腐臭など、およそ言葉にできないほどの地獄絵図がイメージとして心の中に焼き付いていた。果たしてこの映画はどれほどのリアリティで地獄絵図を映像化しているのか、映画を見る前はある種恐怖心のようなものを持っていた。

 映画は、無駄な描写やPTSDを起こすような津波の映像とかは一切無い。原作に忠実に映像は展開していくが、遺体の表情や姿態、寒々とした遺体安置所の中での人物描写や葛藤など淡々と映像化され、涙なしにはとても見られないのだが、直視できないような残酷でグロテスクな映像は一切出てこない節度のある画面であった。

 見終わった後で、私はこの映画に関わった製作者、スタッフ、出演者たちのメッセージは何だったんだろうと考えた。残酷な事実を節度ある画面で映像化し表現することに、私は逆に強いメッセージを感じた。この映画が問いかけるものは、自虐や過去の教訓に学ばないことへの戒め、自然に対する諌めや教訓でもない気がする。そういったモラルへの問いかけではないだろう。ましてや原発等も出てこず、告発や怒りでもない。私は、この悲劇・惨劇に対して目を背けるとか、この事実を忌避するのではなく、これからもこの事実に向き合わなければならないのだ、というメッセージをこの映画は発しているのではないだろうかと感じた。

(続く)

 

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2013-07-17 17:35:27 | 闘病

 

胃 癌 日 記 81

-スキルス胃癌手術から1年半(2013年6月90日)までの日々-

 

-友と先生の死-

 日常の仕事は、相変わらず多忙だ。私が責任であった企画は終わったが、アンケート集計のためにワークシートを作成したり、入力やグラフ作成の派遣職員との打合せ、作成中のアンケート集計やグラフのチェック、アンケート講評等の文書を纏めた会議資料の作成などばたばたとしている。そんな日々を過しているうちに3月に入り訃報を知った。

 昨年11月に経済成長をこれから遂げていこうとする時期の中国の写真展を開催していたK君が、癌が脳に転移し、癌との闘いも及ばず逝ってしまった。K君の写真は、中国の庶民の目線で庶民・農民を徹底的に写したもので、中国の実相がリアルに伝わってくる。私が写真展に訪れたのは、雨が降る11月11日。前日まで写真展会場にK君は来ており来訪の旧知たちと存分に語り合っていたのだが、急に体調が悪化したとのことで再入院したため、奥さんと積もる話をした。奥さんの話によると、まだまだ気力も充実しており、残された時間に精一杯生きてきた証を残そうと頑張っていたとのこと。

 おそらく遺作になるであろう写真集は、1966年以降の学園紛争の記録を残した写真集で、当時も今日もほとんどのマスコミによって学生運動の代名詞課のようにもてはやされ、大学の「解体」などという無責任で刹那的な破壊活動に狂奔した『全共闘』の記録ではなく、当時の文部省や大学の非民主的管理支配を打ち破り、真に大学の民主化を目指す学生、教職員達の記録であった。

 2月28日に新聞紙上でK君の死去を知り、別離の覚悟はしていたものの、空しくも残念な思いがした。3月2日に通夜に参列し、その時に遺作の写真集の解説を担当しているGさんと話をした。26日の編集会議には奥さんに支えられながらも出版社で行った編集会議に参加しており、翌27日には体調の悪化を訴えて安静にしていたが、そのまま帰らぬ人となったとのこと。編集会議は最終のゲラの校正で、棺の中にはゲラ刷りの原稿を入れるとのこと。享年65歳。

 3月7日には、A先生の訃報を知った。

 A先生は一貫して『平和と民主主義』を貫き通し、学生を思い、大変真面目な研究者・教育者の道を歩んでこられた。一見近づきがたそうな雰囲気が無きにしも非ずだが、実は大変心配りをされる優しい先生だった。私は、国際分野で活躍を目指す大学院生や学生の進路先とのネットワーク構築の際にA先生と連絡し、協働させていただいた。

 3月8日のお通夜への出席は適わず、9日の告別式に出席しお見送りをさせて頂いた。その時にご子息から伺った。A先生は、忙中に奥様との旅行を計画され楽しみにしておられたが、体調が悪くなり病院で受信されたところ、癌が発見されたとのこと。原発性の膵臓癌が全身に転移しており、手術は不可能で余命6ヶ月と宣告された。それでも授業があるといって大学へ行っておられる。抗癌剤治療等の闘病中も、学生や教え子のことを随分気にしておられ、学生たちとマルクスやエンゲルスの話しをされるときは大変嬉しそうだったとのこと。余命6ヶ月と宣告されながらも8ヶ月間頑張られて、ついに帰らぬ人となられたとのことだった。私はお別れにお棺の中に眠るA先生に花を捧げさせて頂き、そしてお見送りした。享年69歳。

 

 K君、A先生と二人のかけがいの無い人を立て続けに失ったことは痛恨のことだ。しかもお二人とも癌に倒れた。憎むべき病である。私自身が1年4ヶ月前にはスキルス胃癌と闘った。幸い転移も無く順調に回復し、今では以前にもまして、そして意識して充実した生き方を突き進んでいる。何か以前よりも、フェードアウトするまでに『生きている証を刻んでおきたい』といった気持ちが強くなっているように思う。私自身のスキルス胃癌体験は、無事生還できたのだけれど、残された人生を確かに歩いていかなければ、かけがえの無いほどの損失を蒙る。自分のラッキーに感謝しつつ、残された人生を、大事に、丁寧に過ごしていこう、そんな思いが実感として沸々とこみ上げてくる。

(続く)

 

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2013-07-16 17:50:10 | 闘病

      胃 癌 日 記 80

-スキルス胃癌手術から1年半(2013年6月9日)までの日々-

-忙しい日々の仕事をこなし、CD学会へ

 仕事のほうは、私が担当する企画がいよいよ本番で、私自身も15日施設Kで開催された、ダイバーシティの学生支援勉強会に引き続き、16日から18日にかけて金沢への出張、ここでは私が責任者として張り付き企画を采配した。帰阪の翌19日は京都での業務と忙しさもピークの状態である。その一山を超えると今度は22日D大学で開催された、やはりダイバーシティ学生のサポート研修会。続く23日は仕事ではなく個人であるが、市ヶ谷のH大学で開催されたCD学会に参加。学会は16時からの開催なので、22日の研修終了後夜行の高速バスで横浜まで移動し、午前中に鎌倉の姉Hを表敬訪問した。

 23日は朝7時20分横浜バスターミナル着で、モーニングサービスを食べた後鎌倉へ。8時50分鎌倉着。鎌倉駅から暫くは、次回の鎌倉土産を仕入れる予定である老舗の菓子屋の本店を確認し、確認後姉宅へ歩いて向かう。駅からは5Km強の距離がある。夜行バス旅の疲れを癒すには丁度良い距離だ。  

 10時15分に姉宅着、挨拶と近況報告を交わす。暫く家族のことや仕事のこと等を話し、11時過ぎに、一緒に昼食をと思い誘ったが、少し脚の調子が悪く、ちょっと歩くのが億劫そうだったので、本日は一緒の昼食は断念。いろんな話をして、12時25分に退出。姉宅の最寄のモノレールの駅から大船に向かい、大船駅で昼食のそばを食べ、甥のYと待ち合わせている飯田橋へと向かった。

 飯田橋でYと合流し、喫茶店でコーヒープラススィーツ。Yとはもっぱら仕事の話や、日本人は何故グローバル人材が育たないかといった話。日本人が外国人とコミュニケーションやディペートをできないのは、語学力が低いとか日本人がシャイで謙虚だからではない。日本人の多くは主張すべき理念やポリシー、いわば哲学がないからだと私が言うと、Yは哲学はリーダーだけでよいと言う。私は更に、益川先生はノーベル賞の受賞記念講演を日本語でやったけれど大変な感銘を与えた、と言うと、それでも英語は出来ないよりできるほうが良いと返してくる。まあ、トイック400点の私が国連英語級、外国の賓客の対応もしているYに言うのだから負け惜しみのようではあるが、私はいたって本気である。何やかんやと他愛もない話もしながら、全く質は違うけれど、お互いの超多忙さに生きている実感に充実感を感じたり、ばかばかしさを恨んだりのYとの一時であった。

 16時からはH大学で開催されたCD学会に参加した。

 本日の学会は、「ブラック企業」についてのK氏の講演。K氏は現役の大学院博士課程に在学中で、若者の労働相談や生活・貧困に関わる相談、東日本大震災の被災者への復興支援やボランティアに取り組んでいる大学院生、学生が主体となったNPO法人の代表である。最近「ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪-」という本を著し話題になっている。

 講演の内容は本に沿った報告である。「ブラック企業」という言葉は若者たちの間で2010年ごろから広まっているネットスラングであるが、ブラック企業を3つのパターンに分類し、ブラック企業の見分け方等、新しい実践的視点から分析し論じている。ブラック企業は法の網をかいくぐり、過酷な労働条件を強要したり、あれこれと理由をこじつけての超過勤務手当ての不払いといった違法行為やハラスメントによって若者の精神・肉体を破壊し、挙句の果てにはメンタル面で病んでしまうほどに追込んだり、自殺に追い込んだりする。これらを社会問題であると論じているのは、重要な論点である。すなわち個別企業の問題にとどまらず、いわゆる「ホワイト企業」がいつブラック化するかもしれない世の中の風潮を止めさせ、更にはブラック企業を社会から退場していただくためには、社会問題としてブラック企業を位置づけ、社会全体としての共通理解とすることが重要であると思う。

 K氏の講演に対しての質疑応答で、2点についてのコメントをした。第1には、「ブラック企業」というのは最近のネットスラングではあるが、実際にはかなり以前から存在していた。暴力団のフロント企業やら、詐欺商法やねずみ講といった反社会的行為を生業とする企業、あるいは以前存在した「日栄」といった中小企業金融会社は、債務返済でトラブルがあると『腎臓を売って借金を返せ』と執拗に脅迫的に迫り、ついには刑事事件に発展し幹部の逮捕、結果会社解散の至ったような例は、以前からある「ブラック企業」であること。K氏が提起する2010年頃からのネットスラングの「ブラック企業」はいわば「新型ブラック企業」ではないかということ。何故「新型ブラック企業」と区別するかといえば、以前から労働問題やキャリア形成支援に関わってきた人たちには、「ブラック企業」と言うと、非合法とか反社会的行為、暴力・恐喝・脅迫といった行為を生業とするといったある種のイメージを持っている人がかなりいる。一方「新型ブラック企業」は法の網をくぐり抜け、あるいはハラスメントを日常的に行うことによって、若者の身体、精神そして人格をも破壊するといった、結果的には日本の社会を蝕む存在であり、その点の認識を共有しておくほうが、ブラック企業を告発し社会から退場願うトレンドの構築にとってより有効と思えるからだ。

 私のコメントの2点目は、「新型ブラック企業」を社会問題と論述したことは重要な指摘であるということ。何故なら社会問題であると言うことを、若者のみならず広範な世代に広く認識を広めることにより、ブラック企業が藩社会的存在であるということを共通理解とする、ひいては社会から退場願うということである。あわせてブラック企業に寄生する弁護士や社会保険労務士などの「ブラック士業」にも退場願い、就職率アップのために無批判にブラック企業を受け入れる大学の「ブラックキャリアセンター」にも頭を冷やして頂きたい。といったことを述べた。

 以降のコメント、質疑応答は大変活発に行われ、コメンテーターのU先生の的確なまとめもあり、大変有意義なCD学会であった。

(続く)

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パライソメッセージ20130712 No.19

2013-07-11 18:14:26 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.07.12 No.19

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 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:何故日本は『壊滅的な』状況になってしまったのか③ 

 プラザ合意は、1985年ニューヨークのプラザホテルで開催されたので、プラザ合意と言われている。G5で行われた合意で、為替レートの安定化ということであるが、実際は当時1ドル230円位だったと思うが、円に対する徹底的なバッシングである。つまり貿易赤字の苦しむアメリカが、その原因を実態からかけ離れた円安であるとし、徹底的に円高に誘導し、自国の輸出圧力を強めようとしたことである。更には、円高誘導だけでなく、ドルの国際通用性を維持する為に日本がアメリカ国債を買い支えるといった『構造的に歪んだ』為替に関する合意であり、円のいわゆる『独歩高』といった状況が、『日本への制裁』といった国際世論を鼓舞する中で強引に進められた。

 円の独歩高はアメリカの貿易収支を改善させただけではなく、それによって勢い付いたのが韓国、中国、台湾といった新興工業国で、現代、サムスン、ハイアールや鴻海といった企業が対円の自国通貨安を梃子に急激に成長していった。それに対抗して日本企業、特に自動車、家電といったメーカーは製造拠点の海外移転を進めて行く。当初は部品製造を海外に移転し、国内でアッセンブリをしていたがやがて部品製造子会社、下請け会社の海外移転、海外で最終製品製造・販売と国内産業の空洞化がどんどんと進められた。国内産業の空洞化を進める日本企業の危機対応力は『すばらしく』、そういった状況の中でも最高利益を更新し続け、戦後最長といわれるイザナギ景気が実現する。巨大企業は内部留保を蓄え続け、260兆円もの蓄積、GDI(GDPではない。海外での利益も算入したもので、最近選挙目当てに安部首相が150万円の個人所得増などと、欺瞞的なプロパガンダの根拠になっている数値指標)の市場最高値の更新に連動している。しかし、実質賃金は20年来下がり続け、大企業の企業利益は最高値を更新するのに、生活実感は全く良くならない現象が定着する。

 しかし、日本企業の『奮闘』空しく、強烈な円の独歩高は新商品の新たな国際競争を全く無力にしてしまう。地デジへの電波の強制変更による液晶テレビの買換え需要によって空前の好況をバネにシャープやパナソニック、ソニー等は巨大規模の生産設備投資を行う。シャープの亀山工場、堺工場、パナソニックの尼崎工場等々。これらは世界戦略も視野に入れた巨大設備投資であったが、薄型TV、液晶TV、プラズマディスプレー等々はサムスンとの国際競争に木っ端微塵に敗れる。太陽光発電、スマートフォン、スマートフォンも悉く韓国、中国、台湾のメーカーに破れ、もの作り日本を支える精巧・緻密な部品メーカーが、部品を供給するだけの構図となった。自動車メーカーの没落も惨憺たる状況となったのは公知のことである。

 これらは何も日本のメーカーの技術力が劣化したからではない。正確に言うと、リストラやヘッドハンティング等の内的・外的要因による人材の流出、特にサムスンや現代の韓国企業への人材流出が大きな要因とはなってはいるが、高度成長期の日本がそうであったように、技術はいずれキャッチアップされるのは不可避である。日本企業の製品が国際競争において惨憺たる状況に陥った最大かつ決定的要因は日本パッシングによる極端な円の独歩高であろう。円はプラザ合意以降わずか1年で、1ドル230円から100円に高騰する。海外での日本製品の価格が倍以上に値上がりし、貿易による利益が一気に半分以下まで下落したのである。

 それでも利益を維持しようとする巨大企業は、猛烈なコストカットに踏み込む。原材料費の買い叩き、下請けの徹底的な締め付け、正社員の非正規社員への置き換え、季節工の解雇等あらゆる手段を講じて利益を確保し、内部留保を増やし続け、逆に表面的には戦後最長のイザナギ景気となった。あの好景気は、働くものや下請けを収奪することによって作られてきた「景気」であって、手段を選ばず利益を追求する『株主資本主義』の本性を露にしたものであった。新自由主義者が言う、徹底的に企業利潤を最大限にすることによって、やがて労働者も潤うということなどには全くならず、逆に企業は極限以上の下請けの締め付け、人件費をコストとして大幅なカット等によって利潤の追求を進め、挙句260兆円もの内部留保を蓄えた。共産党などは内部留保の1%を取り崩し、人件費に充足せよと提言しているが、全く正論だと思う。

 プラザ合意による円の独歩高は急速に日本の製造業に打撃を与え、日本に『壊滅的』打撃をもたらす象徴的施策となった。プラザ合意が欧米、特にアメリカによる日本パッシングであり、これが日本の企業に壊滅的打撃を与えているのは、学者、評論家、企業家、少し勉強している政治家、要するに誰もが分かっていることなのに、共産党など一部を除けば、何故誰も異議を唱えずに甘受しているのか。アメリカと同盟どころか、まるで属国ではないか。何も言えない理由はまた別の機会に述べたい。

  日本を『壊滅的状況』に陥れたもう一つの事由であるBIS規制については、次回に述べる。

(続く)

 

「一押しBook」

書名:何者

著者:朝井リョウ 1989年生まれ早稲田大学文化構想学部在学中に『桐島、部活やめるってよ』でデビュー、小説すばる新人賞。他に『チア男子』他。サラリーマンをしながら書いた『何者』は、直木賞受賞。

出版社:新潮社 本体1,500円(税別)

内容:

 私は小説をあまり読まない。読むのは司馬遼太郎の歴史小説と、社会の歪みを直視し告発する山崎豊子の小説。両氏の小説は殆ど全て読んでいる。それと、やはり社会性に富んだ問題提起を投げかける松本清張の小説。『何者』は図書館に貸出予約をして、借りるまでに3ヶ月以上かかった。

 『何者』のストーリーは、4人の若者の就職活動を通して展開していく。4人の若者はそれぞれの理由で5年生。「俺」は去年就活に失敗して5年生になったが、他の3人は就活1年生。それぞれの個性で就活を進めていて、ノリが良かったりたまにはギクシャクもするけど、彼らのコミュニケーションは若者らしくフランクで一見良好。彼らはまたSNSで繋がれており、ツイッターでつぶやいたり、フォローしたりする。そして最後の最後の意外な結末で、若者の心の機微を描いている。

 作者は、NPO法人POSSEの雑誌『POSSE Vol.19』の対談で「(就活)独特の強迫観念と、他人を笑うことが主体となっているSNSの存在に対する違和感」がこの本の着想と言っている。

 私は、ストーリーのバックグラウンドが就活ということで、ある種『社会を告発する社会派小説』の期待を持って一気に読んだ。ところで、私が小説をあまり読まないのは、どの小説も結果は人の心の機微を描くもので、『みんな同じ』といった思いがあるからだ。

 その意味では『何者』も他と同じ小説だった。作者はまだ若い現役の『サラリーマン』だ。文章力、着想力、感性は若々しいしテーマも斬新。今後に期待。

 

イソの評価:★★☆☆☆

 

蔵書:茨木市民図書館

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パライソメッセージ20130705 No.18

2013-07-05 20:19:02 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.07.05 No.18

         Mail : isokawas@goo.jp

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  「パライソメッセージ20130705」を送ります。「不要だ」「余計なお世話だ」といわれる方は、お手数ですがその旨ご連絡お願いします。

 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:何故日本は『壊滅的な』状況になってしまったのか②

 朝鮮戦争特需以降の日本経済は、未曾有の高度成長を遂げていく。終身雇用、年功序列、企業内組合の日本型雇用形態は、最大限のメリットを発揮し、男は一家を支えるために身を粉にして働き、女は出産・子育てで家庭を守った。その結果1960年代から1970年代にいたる高度成長によって、所得倍増が実現し、3種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)は各家庭に普及し、経済の成長が裏づけを担保し手、国民生活は飛躍的に向上した。しかし一方では水俣病や喘息などの公害も頻発した。今、M2.5などに苦しんでいる中国では当時の日本が辿った道を、上書きしてなぞっているように見える。

 1970年代の世界的な基幹産業は、今では信じられないけれど繊維産業。いまでこそ新素材や水ビジネス、総合・専門商社等いわゆる繊維業界は多様な事業展開を繰り広げているが、当時はアパレルも含めた総合繊維産業であった。当時の社名は、東洋レーヨン(東レ)、日紡(ユニチカ)、日清紡、帝国人絹(帝人IN)、等々でいずれも学生の就職人気企業の上位にずらっと並んだ。

 その繊維産業が重大な日米貿易摩擦の原因となる。当時の為替レートは1ドル360円(?固定レートだったと思う)で、経済成長の日本と、双子の赤字に苦しむアメリカとの勢いの差は、今の中国・韓国と日本の勢いの差と同様に歴然としており、日本は世界各国に対して大きな輸出超過であった。輸出超過はアメリカに対して極端に大きく、アメリカは不毛・不正義のベトナム戦争での膨大な軍事費支出とあわせ、未来に至るまで果てしなく続きそうな貿易収支、経常収支の膨大な双子の赤字構造が定着した。

 1070年代の苦悶のアメリカが取った対抗措置のひとつが、ドルの金兌換停止。これにより国際通貨の機軸であったドルが、ただの紙くずになってしまうのだが、40年たった今でも国際基軸通貨のごとく見えているのは、バンバン印刷するドル紙幣を米国債として膨大に買い支え、ドルの信用を支えている日本と中国の役割が大変大きい。ドルが買われるのだからドル高(円安)にならなければならないのに、右肩上がりの円高であった仕組みは、別の機会に述べる。アメリカがとったもうひとつの対抗措置が、日米繊維交渉。日米繊維交渉は膨大な貿易赤字を抱えるアメリカが日本に対して繊維製品の輸出規制をゴリ押ししてきたのを、当時の通産大臣田中角栄が真正面から受け止め、反駁した交渉で、最終的には大部分は妥協するのだが、どう見ても大義は日本にあることが国際的に認識された。田中角栄は結局国内繊維産業に膨大な損失補償をする。高度成長をバックに、桁違いの金で政治を切り開いていくのが田中角栄の政治哲学であったのだろう。しかし、後にアメリカの世界戦略に呪縛されること無く、電光石火にアメリカに無断で日中国交回復を実現したように、対米従属ではなく自主独立の気概を持った政治家でもあった。日中国交回復は、当時のキッシンジャー国務長官に「ケーキ盗人のジャップ」と言わしめたようにアメリカの逆鱗に触れた。その後のロッキード事件はアメリカの言いなりにならない田中角栄に対する徹底的な報復措置として仕組まれたものである、ということは情報通の間ではよく認知されている。

 

 話を本論に戻すと、日本の経済成長は基幹産業が、家電、自動車等に移り変わりながらも右肩上がりが継続していく。その一方で、アメリカ経済は貿易収支、経常収支の双子の赤字が改善しない。圧倒的な軍事力を支える軍需産業や、アフガニスタンやイラクやら最近でもイスラム過激派などを敵とし、常に戦争を行なわなければならない政治・経済状況によって、経常収支も膨大な構造的赤字体質に陥る。1980年代に入るとアメリカでの意識調査で、『世界で最も脅威となる国』として、日本を挙げるアメリカ人が圧倒的に多くなってくる。何が脅威かと言うと日本経済で、このまま行くとアメリカの産業は日本経済によって壊滅させられてしまうといった脅迫概念が、圧倒的なアメリカ国民の意識となってくる。今の日本や日本人が中国・韓国に対して抱く感情と似ているのかもしれないが、全く違うのは、アメリカは日本に対して徹底的で具体的な報復攻撃を仕掛けてきたことである。

 その第1弾が1885年の『プラザ合意』だろう。アメリカは『プラザ合意』だけでは収まらない。1888年には『BIS規制』その後バーゼル規制など、一連の対日制裁を立て続けに押し付けてくる。BISとは【バンク・オブ・インターナショナル・セツルメント:国際決済銀行】の略で、ほかにもIMFなどアメリカの意向を濃く反映する国際金融機関等を通じた、日本バッシングがアメリカ主導の世界規模で行われる。プラザ合意は、『為替レートの安定化』を大義に当時のG5(アメリカ、西ドイツ、フランス、イギリス、日本)で結ばれた協定だが、アメリカのハイパーインフレ、高金利、膨大なドル買い、ドル高、アメリカの貿易赤字を是正するとの名分ではあるが、実質は単純な円高ドル安誘導。但し、そんなに単純でもない。日本はドルの国際信用を維持するために、ドル買いも進める。つまり円のひとり高への強引な誘導の一方、ドルの買い支えによって信用を担保する。1ドル360円が1年の間に230円程度になるといった、猛烈な円高誘導であった。プラザ合意の時期は日本においてはまさしくバブル前夜であって、国民生活にまであまり影響が届かなかったように見えるが、実は強烈なボディ・ブローとなって、今日の日本経済の惨憺たる状況の序章となる。

 次回は、プラザ合意の内容とその結果日本の産業・企業、経済がどうなって行ったか、バブル経済の真っ只中、BIS規制によって、世界の金融市場を席巻していた日本の都市銀行(当時15行)がどうなって行ったかを述べて、本当に言いたい『パライソのメッセージ』に繋げたい。

(続く)

 

「一押しBook」

書名:日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか

著者:今野 晴貴 一橋大学院社会学研究科博士課程在籍、NPO法人『POSSE』を設立し、現在代表。

『ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪-』の著者

出版社:株式会社星海社 20134月第1刷 840円(税別)

内容:

 著者の今野氏は、ベストセラー「ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪-」の著者。今野氏の研究分野は労働法で、本著は日本の労働実態や、カウンセラー、労働組合の在り方等の問題に関して現場での様々なケースを取り上げ、いろんな視点から問題を提起し、告発している。今野さんは多くの労働相談に対応しているので、取り上げているケースはリアリティが有る。パワハラや退職強要、弁護士や社労士などの士業の実態、労働組合の重要性と問題点、後半では日本の労働・雇用の歴史と問題、それをどう変えていくのかのメッセージとなっている。

 全体を通して、違法労働を様々なケーススタディで検討し告発しており、実際に働くものにとっての有効な理論武装になると思う。今野さんの若き研究者としての心意気を感じる著書である。ただ、私の率直な感想を言わせていただくと、『ブラック企業』でデビューされたときに思ったが、若き、新しいタイプの『市民運動家』とでも言うようなパワーと、研究者としての論及が混在している感じで、メッセージのベクトルの軸がはっきりせず、少しパワー不足の思いがした。

蔵書:イソ蔵書(何時でも貸し出しOKです)

イソの評価:★★☆☆☆

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パライソメッセージ20130628

2013-06-28 16:17:06 | メッセージ

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  パライソメッセージ 2013.06.28 no.17

        Mail : isokawas@goo.jp

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 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:何故日本(経済)は『壊滅的な状況』になってしまったのか①

 このテーマで論述すれば、分厚い本が一冊できる。悲しいかな今日の日本の文化・経済・政治、いずれを見ても、『壊滅的』ともいえる状態になっており、多くの大衆は不安感・閉塞感に苛まれているのではないだろうか。ツイッターなどでは『何者』状態が蔓延して、『負け組』がより弱いものを攻撃したり、観察者となって主体的には何も行動せずに、息を潜めていたりする。一方ではメリハリを利かせて喋れる者、橋下市長やユニクロの柳井会長やワタミの渡邊会長やらは、なにを言ってもヒーローのように許され、崇められそしてポピュリズムが形成されていく。安部首相と高級料亭で『懇親』を重ねて恥じることの無い大手マスコミは退廃の極みで、日本の思想・文化を蝕んでいる。一方では憲法改悪の企みや、2011年の大震災によって未だに多くの人たちが故郷を離れて苦しみ、将来の展望が暗澹である原因を作った原発事故のトラウマを抱えているというのに、他国への原発セールスや亡国のTPP協定に狂奔する総理大臣を見ていると、政治の世界も『壊滅的』状況に陥ろうとしているのを感じる。

 言いたいことは山ほどあるが、このパライソメッセージでは、とりあえず『日本経済』について焦点を当てて考えてみる。

 何故、日本経済が『壊滅的』ともいえる状態になってしまったのか、ほんの2008年のリーマンショックまでは、戦後最長の好景気で、いざなぎ景気といわれていたのはたいていの人は覚えている。企業の利益は膨れ上がりGDIは史上最高を更新し続けた。企業の内部留保は230兆円を越え、これはさらに更新し続けている。しかしその一方ではパナソニックが2期連続7000億円超の赤字や、ソニーの家電からの撤退や、電機業界の20万人にも及ぶリストラ、解雇規制の緩和、ホワイトカラーエグゼンプションなど、まるで働く者にとっては、殺伐とした荒れ野のような状況である。日本経済のドメスティックの部分だろうが、このように惨憺たる状況に至った背景を知るには、戦後の日本経済の歴史を見なければならないだろうし、歴史を振り返ることによって惨憺たる日本経済の構造が分かり、それを打開するいくつかの道筋も見えてくるのではないか。

 当然のことであるが、世界の誰もが日本に好意的で、日本経済の自立的・持続的発展を祝福してくれていたのではなく、今後も好意的に見守ってくれるなんてことは一切ない。世界の国々は、生き馬の目を抜くような厳しい国際間競争の歴史を繰り広げてきた。その大きなトレンドの中心は、第2次世界大戦後、軍事的には圧倒的優位に立つアメリカだが、アメリカ経済の一貫した劣化つまり資本主義の構造的矛盾の深化とそれに対する軍事力をバックグラウンドとした『アンチ・インフェリア』としての世界経済戦略の中で日本が歩んできた道を見る必要がある。

 日本は、戦後一貫して『属国』と言われるほどに、アメリカに従属してきた。対米従属という重たい鎖に繫がれた戦後史を辿り、その中で日本経済は完全な自主・自立ではなく、アメリカ経済のあるときは捨石、あるときは強力なサポーターとして『成長』してきた。

 戦後の日米関係の歴史を辿ると、3つのステージがある。以下、ごく簡単に説明。

 日米関係の第1のステージは戦後から朝鮮戦争時頃まで。この時期の日米関係は、戦勝国と敗戦国、占領国と被占領国の関係であった。全ての権力はGHQに集中され、戦後日本の施政方針は『英語を標準語とする』『日本の生活水準はかつての植民地国の水準より低いものとする』等々であった。日米行政協定(現日米地位協定)では『米国は何時でも何処でも在日基地を持てる』といった関係であった。

 第2のステージは朝鮮戦争以降。当時のソ連を筆頭とする社会主義国との冷戦時代の日米関係である。朝鮮戦争の休戦以降、核兵器開発競争などの大愚行を競い合い、アジア・アフリカの民族独立運動の抑圧にCIAが暗躍、米軍が介入、キューバでの一触即発の危機など、人類の滅亡に関わる国際紛争が頻発した。この時期、当時の中曽根首相は日本のことを「(アメリカのための)不沈空母」と呼び、反共の防波堤の役割を積極的に果たそうとする。一方経済のほうでは朝鮮戦争特需で、復興の基盤が築かれ、その後高度経済成長を成し遂げGDP世界第2位へと躍進する。

 第3のステージは、経済大国日本に対する、日本潰しのバッシングが猛烈に行われる時期で、それが今日まで至っている。日米関係で言うなら、1985年のプラザ合意から始まるが、その後88年のBIS規制やバーゼル合意など、アメリカを先頭として世界からの日本潰しの嵐に晒されることになる。

 

 全てを論述しようと思えば、政治・経済あるいは文化をも含めた大論文になってしまうので、パライソメッセージでは、今回のテーマ「何故日本(経済)は『壊滅的な状況』になってしまったのか」に即して、第2ステージの後半から、第3ステージと現在について、「これからの道」の私案も含めて概略的に書いていく。

 次回のパライソメッセージは、プラザ合意のバックグラウンドからBIS規制まで書く予定。

(続く)

 「一押しBook」

※ 紹介したい本は沢山ありますが、今週も以前紹介の「一押しBook」の説明と蔵書場所案内です②

 書名:20130426「過労自殺と企業の責任」

著者・説明:川人 博 ・過老死事件や自殺の労災認定や判決の紹介と告発

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

署名:20130510「ニッポンを幸せにする会社-あってよかった応援したい-」

著者・説明:鎌田 實 ・医師、ルポライターの著者が出会った心の憩う会社のルポルタージュ

蔵書場所:茨木市民図書館

 

署名:20130517「日本でいちばん大切にしたい会社」

著者・説明:坂本 光司 ・MBAの経営学者が紹介する『良い会社』。心洗われる珠玉のエピソード

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

署名:20130531「哲学の自然」

著者・説明:中沢 新一、国分 功一郎 ・若き哲学者の対談。自然(フェシス)と原発、開発等

蔵書場所:イソ蔵書(いつでも貸し出しOK)

 

署名:20130607「若者は何故「就職」できなくなったのか?」

著者・説明:児美川 孝一郎 ・法政大キャリアデザイン学部教授著。若者の雇用問題に深く切込む

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

次回の【一押しBook】は「日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか」他の予定

(続く)

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パライソメッセージ20130621 no.16

2013-06-21 17:49:43 | メッセージ

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   パライソメッセージ 2013.06.21 no.16

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     Blog : http://blog.goo.ne.jp/isokawas

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 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:新聞記事から読み取る、もはや避けることが出来ない『グローバル社会化』への対応②

 『グローバル社会化』への対応を、キャリア教育の中でどのように落とし込んでいくのかを考える前に、そもそも「キャリア教育」や「キャリア形成支援」について考えたい。

 私が日常取り組んでいる、「キャリア形成支援」の一環としてのキャリアカウンセリングやコンサルタントは誰のため、何のためのものだろうと考えることがある。いかに世の中の雇用情勢が大変厳しい、ブラック企業などの社会問題が若者の周辺に覆いかぶさってきているとはいっても、私が関っている若者の多くは、『正社員』『巨大企業・大企業』『有名企業』『教員・公務員』がモデルである。いわゆる『勝ち組レール』に乗っかって、その延長で就活に取り組んでいる学生が殆どではないか。それでもたまには自らのキャリアをデザインできなかったり、更には学校から社会への移行について自己決定の自覚すらできていない学生もおり、丁寧に関らなければならない若者もいるが、割合からいうならそう多くは無い。私はそれが自分にとって、少し違和感として感じている思いがある。与えられたタスクとして現状にだけ対応していればいいのだろうかといった問題意識はずっとあったし、それなりの勉強や研究も個人的には取り組んできた。そのことと、ライフワークとしての『若者のキャリア形成支援』については、別の機会に書かせていただくとして、今回は『グローバル社会化』への対応とキャリア形成支援をキャリア教育を通して、どう実現するかについて、考えてみたい。

 「パライソメッセージ20130614」で、グローバル化は、優秀でガッツのある若者だけの課題ではなく、すべての若者に関ってくる課題となるだろうと書いたが、どういったキャリア教育を通してすべての若者に関っていくのか、私案というかアイデアを考えてみたい。その前に二人の若者を紹介する。総合商社でもグローバル・インフラ企業でも国際機関でも多国籍企業でもなんでもない、普通の企業・職業である。

 A君。有名大学理工系出身。32才。現職は中国料理中堅チェーン店の基幹店店長。飲食店ではあるが和民のようなブラック企業ではなく11時閉店。現在は基幹店店長として正社員・アルバイトを含め50名以上の調理場・ホール・バックのスタッフをマネージメントしており、スタッフの半数以上は留学生も含めた外国人。彼は、有名大学理工系出身で『勝ち組の就活』が十分に出来たのだが、当時の店に請われて、自分の意思で中国料理店に就職した。現在は人望の厚い店長として多くの外国人にも慕われている。店の売上げはチェーン店でもトップクラスで、スタッフとともに新しいチェーン店の展開に意欲的に取り組んでいる。彼が信頼するスタッフには外国人が多い。

 Bさん。看護師。学校卒業後大手病院に就職したが退職して1年間の外国留学。特にTOEIC800や900なんてことはなく、ごく普通のレベル。留学から帰りしばらくは、国境無き医師団の活動に参加して、途上国や紛争地域に看護師として参加した。やがて大手病院に復職し、そこでも貧困国や地震災害国への医療支援の一員として率先して参加している。

 A君もBさんも、『勝ち組』のように見えるかもしれないが、彼や彼女は特別な若者ではなく、ごく普通の好感の持てる若者である。何よりも言いたいのは、ただ自分が主体的に自分のキャリアをデザインし、実現していったこと。そして彼や彼女はこれからの『グローバル社会化』の中でも揺らぐことなく、昂ぶることなく、ごく自然にリーダーシップを発揮して行くだろうということである。

 さて、キャリア教育として試行したいことは以下のとおりである。

★ 講義授業・・・グローバル社会化の理解と対応

-若年労働力の世界的な流動化の実態、世界比較、バックグラウンドとなる世界経済、アジア動向特にASEANなど東アジア経済圏諸国の動向理解-

★ 日本人若者によるプレゼンテーション・・・テーマ:ボーダレス世界で日本の果たすべき役割

 -グループワーク→文化・経済・政治の分野でグループ分け→プレゼン 

★ 外国人留学生とのワークショップ・・・テーマ:日本の近未来予測

 -ワークショップ→文化・経済・政治の分野での近未来予測→プレゼン

★ 外国人労働者とのワークショップ①・・・テーマ:日本への期待と若者の可能性

 -ワークショップ→プレゼン→レポート

★       外国人労働者とのワークショップ②・・・テーマ:日本が担う役割と若者のタスク

 -ワークショップ→プレゼン→コンペ→表彰

 など、A君やBさんにも参加していただいて、世界の若者とのコラボレーションを通して、日本人若者が社会のグローバル化に対応する資質を培うのをサポートしていきたい。勿論これらは『キャリア教育』の一環として行うのであり、さまざまな機会を通して、あるいは活用してグローバル社会化をポジティブに受容する若者を輩出するのをサポートしたい。

 (次回以降別テーマ)

 

「一押しBook」

 

※ 紹介したい本は沢山ありますが、今週は以前紹介の「一押しBook」の再説明と蔵書場所案内①

 

書名:20130320「ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪~」

著者・説明:今野 晴貴 ・子や孫にも読ませたい話題の本。現在ベストセラー。

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

署名:20130322「人権としてのディーセントワーク」

著者・説明:西谷 敏 ・人間らしい働き甲斐のある仕事とは

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

署名:20130405「私たちはなぜ働くのか(マルクスと考える資本と労働の経済学)」

著者・説明:佐々木 隆治 ・資本論入門書であり現代資本主義の分析にも論及

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

署名:20130412「『属国ニッポン』経済版 アメリカングローバリズムと日本」

「『属国ニッポン』経済版② 新自由主義の犯罪」

著者・説明:大門 実紀史 ・共産党国会議員の実践的・実証的で分かり易い新自由主義批判の力作

蔵書場所:大学図書館(衣笠図書館2階、分類・経済)

 

署名:20130419「就活前に読む-会社の現実とワークルール」

著者・説明:宮里 邦雄、川人 博、井上 幸雄(いずれも弁護士)・ワークルールについて必読書

蔵書場所:キャリアセンター資料(部長室・自由開架)

 

次回の「一押しBook」は「説明と蔵書場所案内②」

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パライソメッセージ20130614

2013-06-14 19:01:46 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.06.14

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【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:新聞記事から読み取る、もはや避けることが出来ない『グローバル社会化』への対応①

 2013年5月18日の日本経済新聞の朝刊に、『若者雇用世界で深刻』という記事がかなりのスペースをとって書かれていた。記事の内容は、国際労働機関(ILO)のまとめが紹介されており、『世界の若年層(15~24歳)の失業率は13年見込みで12.6%と、全年齢の6.0%を大幅に上回』り『世界で7300万人が働きたくても仕事がない』。具体的には2012年の若年層失業率は『アメリカ16.3%、EU22.6%、東南アジア13.1%』で一方『日本8.2%』(主要地域、日米欧は第2四半期時点、他はILO集計)といったことが書かれてある。

 一方、世界の大学卒業者の就職率は、世界の工場といわれる地域の中国が30%(中国教教育省)、韓国が58.6%(教育科学技術部)、台湾でも70%以上(教育部)など、日本の94%と比較すると若者の就職率は極めて低いのが現状である。諸外国は日本のように新卒一括採用ではなく通年の採用とはいえ、鴻海、現代、サムスンやハイアールといった巨大多国籍企業を擁する国でさえそういった状況である。私は先の新聞記事を見たときに、BRICsや周辺の発展途上国の若年労働力の状況に思いが行き、『日本社会のグローバル社会化』は避けられない、もはや泣いても笑ってもグローバル社会へとならざるを得ないと、強く実感した。

どういうことかというと、先進諸国や中韓台は生産拠点をアジアやさらにはアフリカ新興国に進出し、途上国・新興国の多くの労働者が多国籍企業に就労する一方、国内過剰労働力は移民として先進国や中韓台等へと『出稼ぎ』に行く。ところが中韓台での労働力、特に若年労働力はすでに飽和・過剰状態で、多国籍企業はコストカットの一環として劣悪な条件で移民労働者の雇用を進める。そのことが若年労働力の更なる過剰流動性をもたらす。世界的な教育レベルのアップやグローバリズムの中で過剰流動性は製造現場の現業労働力のみならず、トップクラスの技術者、管理者等にも拡がる。それらが要因となって中韓台諸国の大卒就職率に見るように厳しい状況として現れてくる。中国では、更に農民層が製造労働者として流れ込み、いまやユニバーサル化した大卒の中間層はますます溢れてしまう。そういった社会の仕組みが世界的規模で顕在化してきており、今やこれは世界資本主義の構造的問題となっている、と私は思う。若年労働力の過剰による流動性は資本主義社会の構造・骨格に関わる問題だろう。『それでは一体どうすれば良いか』の私論については、別の機会に述べる。

 そういった状況の一方では、日本国内の外国人労働者の就労状況はどうなっているか。日本は『鎖国』といわれているが、実際は日本で働く外国人労働者は、東日本大震災と福島原発事故以降一旦減少してはいるものの、多い。外国人労働者の数は2012年10月682,450人(2008年比140%)で、企業規模別では100名以下の企業が53.7%、500名未満の企業が24.1%(厚労省)となっている。職種で見ると、かなり以前から自動車産業等で働く季節工など、劣悪な雇用条件下で、生産工程を担う外国人労働者が多かったが、近年は介護や看護師、サービス業、飲食店などより広範な職域で外国人労働者の雇用が拡がってきている。

 日本企業の外国人留学生の雇用動向を見ると、かなり積極採用が見られる。ユニクロなどでは2015年卒業の求人予定600名のうち半数の300名が外国人留学生枠となっている。パナソニックでは『国籍に関係なく優秀な人材を採用する』などと言い、留学生枠240名のほか、現地採用の外国人労働者の日本国内での基幹社員としての登用も進めている。たまたまブラック企業やリストラ企業が例えに上ったが、このトレンドは大小の企業規模を問わず、グローバル展開を目指す企業の殆どが、外国人留学生の採用の方針を持っているために、若年労働力はより一層ボーダレス化してくるだろう。

 こういった世界の労働力市況、分けても若年労働力市場の世界的な流動化は、加速度的に日本にも押し寄せてくるので有り、それに対する日本の若者のグローバル人材の養成は、優秀でガッツのあるトップ層の若者だけの課題では無く、全ての若者にとっての必然的な課題となるだろう。

 日本社会のグローバル社会化の中で、全ての若者はどう対応しなければならないのか。『グローバル人材になるためのキャリア教育』ではなく、『日本社会のグローバル社会化に一人ひとりがどう対応するかのためのキャリア教育』が必要なのではないだろうか。

 次回は、キャリア教育の中身ついて、考えてみる。

(続く)

 

 

「一押しMovie」

題名:奇跡のりんご

出演:阿部サダオ 菅野美穂 山崎努 笹野高史 池内博之

監督:中村義洋

内容:

 青森県弘前のりんご農家の木村秋則さん家族が、絶対不可能・神の領域と言われた無農薬りんごを11年間かけて作った実話の映画。最初は、題名からして『子供向き』のハートフルな映画かと思っていたが、結果はなかなか見ごたえのある映画であった。

 りんごはあれほど甘くて、ジューシーなのに虫が食わない。当たり前と思っていたが、大量の農薬のおかげであった。その農薬が妻の健康を蝕む、それが無農薬のりんごを作ろうと思った原点。当初はりんご農家の若者たちも、ともに作ろうと熱くなって取り組んでいくが、木が病気になったり虫が大量に発生したりして、遅々として進まないどころか、やがて私財をつぎ込み、蓄えも使い果たす。他の若者たちも、挫折していく。

 そのうち木村さんは畑の一部も売り、電気代、税金も滞納し『竈(かまど)消し』と言われ、村八分のような状態にもなる。それでも妻や子供、妻の父親(山崎努が好演)に支えられ続ける。無農薬りんご作りを始めて10年目には万作尽きて、ある夜に死に場所を探して山中を彷徨う。人手の入らない自然のままの夜の山中で、虫も食わず病気にもならない元気な胡桃の木を見つけ、自然農法のヒントを得る。それが起死回生となり、独特の自然農法で11年目に無農薬りんごの栽培に成功するといった話しである。

 この話の中で、弱そうに見えても図太いほどに強い家族の愛情に、自分の家族の姿を投影し、感慨。私も好きなことをやって、家族にずいぶん心配と迷惑をかけたことが、心をよぎる。

 私がこの映画で心に残ったもう一つのことは、自分が思ったことはそのイメージが適うまで粘り通す、イメージ通りならなければパニクってしまうようなタイプの人が、それを成し遂げるなんともいえない爽快感が、十分に共有できたこと。これは前回の【一押しMovie】の『舟を編む』にも共通した感覚でもある。単に感動ドラマというだけでなく、そういったメッセージも伝える映画であった。

 

パライソの評価:★★★★☆

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パライソメッセージ20130607

2013-06-07 18:00:07 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.06.07

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 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:【良い会社】の見つけ方(4)-『物』『金』『人』『情報』から見る【良い会社】③-

 【良い会社】かどうか、『金の』面から見るのは幾つかの普遍的な指標はある。ただしこれにしても価値観次第ではどうともいえない場合もある。中には、『自分は過去の自己資本の蓄積や内部留保はどうでもいい。要は利益が出るかどうかだ』とか『事業というのは一発勝負で、ハイリスク・ハイリターンが良いのだ』『自分が会社を作っていくのだ。全て自己責任だ』といったような考えもあるので、比較的普遍的な【良い会社】の指標であるかもしれないが、『正解』はないだろう。

 【良い会社】かどうかの指標を『人』からアプローチするとどうなるか。いろんな指標があるだろう。例えば、

・社員を育てる・・・OJTや研修が充実していたりメンターなどの制度がある

・評価制度によって待遇が決まる・・・自分が正当に評価されたい。それが報酬に直結すべきだ。

・年功賃金・・・長く働き続けたい。年数に応じて報酬も上げて欲しい。

・下請けや協力会社を大事にする、育てる・・・下請けや協力会社にも社員や家族がいる。

・福利厚生が充実・・・自分のワークライフバランスを大事にするために、待遇を考える。

・家族的な雰囲気・・・助け合う仲間的雰囲気がいい。

・希望する人の殆どが正社員・・・実際にこういった会社がある。中小に多いが、大手企業にも。

・多様な雇用形態・・・非正規社員の活用などでコストカットを優先するべき。

・徹底的な実力主義・・・コミッションセールス、完全歩合給で実力が報酬に現れる。

等々。これも個々の価値観によって【良い会社】の指標が異なってくるだろう。

 『情報』からアプローチすればどうなるか。

・情報受容拒否・・・外部の情報には影響されない、鵜呑みにしない。信念で行動(仕事)する。

・情報の活用・・・イノベーションの為に、積極的に情報を活用する。

・情報を発信する・・・リスポンスを期待してあるいは実益の為情報を発信する。

・情報を開示する・・・情報を共有することによってアイデンティティを形成。

・企業情報が社会に公開されている・・・会社のCSRが明確。社会的説明責任を果たす。

 等々。その会社が情報にどう関わり、どう処理しているかは自分にとって【良い会社】かそうでないかの判断の指標になるだろう。

 ブラック企業の対極に有る【良い会社】の探し方はその会社を物、金、人、情報のそれぞれから見て、そしてそれらが自分の価値観にどれだけ重なってくるか、ということになるだろう。それではどのようにして、物、金、人、情報を調べるかということだが、これは前に述べたように、会社のHPから業種、取扱品目、トップの話、企業理念、CSR等を見る、また会社四季報、就職四季報、日経テレコン21就活版、学校・ハローワークのウェブ、イントラネット等を読み込むとかなりイメージが出来る。しかし、非常に有効な方法はOB・OGや先輩社員を訪問し話を聞くことではないか。仕事の内容、その仕事の働き甲斐、夢の実現、ワーク・ライフ・バランスや、福利厚生について、社員教育や研修について、など自分が働くことに際してのイメージが随分具体的になるのではないか。

 勿論、OB・OG訪問して話をすれば全てがクリアになるわけでもない。『この会社はひょっとするとブラックではないか』と思っていても、ブラックに染まった先輩の話を聞くと、生き生きと確信を持って仕事をしているかのように話すかもしれない。それはそれで話を聞いて、違和感があったり自分には出来ないなあと思えば、その会社を選択しない判断をすれば良い。

 【良い会社】の判断は、そうして集めた情報を重ねてみれば良い。物、金、人、情報が、なるべく多く重なるのがいいのではないか。例えば『人を幸せにする物』を扱っていても超過酷な労働条件の企業も沢山ある。ハウジングメーカーなど、『お客様の夢を実現する商品』を扱っているというのに、極めて苛酷な労働条件であったり、ハラスメントまがいの研修があったり、といった話は珍しくない。また、また、『従業員や下請けを大事にする』が経営状態は実は火の車といったことも時々は聞く話である。自分にとって【良い会社】としての指標が重なる会社をリサーチするのが、【良い会社】の探し方ではないか。

 物、金、人、情報全てに自分の価値観に適った会社を探すのは、なかなか手間がかかるかもしれないし、考えているうちに就活の時間も過ぎていく。そういったときにもう少し『能率的に』就活をすすめるには、とりあえず大体イメージの適う企業の採用選考にどんどん挑んでみる。そして幾つかの内定がもらえたら、それからOB・OGあるいは会社訪問をして、より自分にとって主体的なキャリアデザイン形成の実現に結びつきそうな企業を選んでいくことも有効である。ただし、そうして会社選びをしてうまくいったときには複数内定があるのだから、内定辞退もしなければならない。その時には、ルールとマナーを守って、丁重に辞退しなければならないことは、いうまでもない。

(次回は「新聞記事から読み取るグローバル社会化への対応」)

 

「一押しBook」

書名:若者はなぜ「就職」できなくなったのか?

著者:児美川孝一郎 1963年生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授(現在学部長)。著作は『権利としてのキャリア教育』『若者とアイデンティティ』『ニート・フリーターと学力』等。

出版社:日本図書センター 2011年2月初版 本体1,500円+税

内容:

 法政大学のキャリアデザイン学部は、創設メンバーとして主要な役割を担われた清宮先生をはじめとして、一貫して学生が主体的に自らのキャリアをデザインしその実現を目指すための教育・研究を進めてきた。その中でも、児美川先生は一貫して学部のミッションの実践を推進してこられた。学部教員は他にも上西充子先生や宮城まり子先生等活躍されている先生方が多くおられる。

 本著において問題意識の軸となっているのは『若者たちの「学校から仕事への移行」プロセスの変容をめぐる諸問題の構造を、できる限り客観的に描き出し、若者たちはそうした変化にどう向き合い、学校や教師たちはどのように若者を支援していけばよいのか』といったことである。

 内容は『学校はいつから『職業人養成所』になったのか』の章では「エンプロイアビリティ」に論及し、現在盛んに行われている文部科学省や経済界が主唱する「キャリア教育」に対して根本的に疑問を呈している。その背景となっている、雇用状況の厳しさ特に若者の雇用環境の厳しさの分析や、従来型の新卒一括採用の功罪の特徴とその問題点の分析も、次章で論及されている。その上で若者が自らのキャリアをデザインしていく上での学校教育の課題を述べている。

 全体を通して、雇用環境の劣悪さを分析・論述し、若者の自己責任への追い込みという社会のトレンドや「エンプロイアビリティ」「就職基礎力」を批判し、若者の主体的な自立を支援する教育の課題について述べられている、極めて実践的に即した問題提起の本である。

 本書は、教員・研究者、先生方の立場からの論述である。現場にいる職員は如何にあるべきか!!

 

イソの評価: ★★★★☆

(続く)

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パライソメッセージ20130531

2013-05-31 17:50:39 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.05.31

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【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:【良い会社】の見つけ方(3)-『物』『金』『人』『情報』から見る【良い会社】②-

 【良い会社】かどうかの判断の指標を『金』の面から見ると、以下のような指標もあるだろう。

◎ 売上・経常費支出・人件費対自己資本比率(自己資本÷売上・自己資本÷経常費支出・自己資本÷人件費)は自己資本比率と連動するが、これも重要な指標になる。つまり、会社が緊急事態に陥った場合どれほど(何年間)耐え抜くことができるか、を見る指標になる。売上ゼロになってもどれほど会社が維持できるか、人件費をみるとどれほど社員に給料を払い続けることができるかがわかる。自己資本は公開されている場合は容易に計算が可能であるし、公開されていなければ○○準備金や□□引当金などの内部留保を合算すればよいが、公表される財務諸表では分かりにくいことが多い。

 「まさか売上が0になることは無い。」

 と、誰でもそう思うかもしれないが、そんなことは無い。ほぼ100%下請け仕事で、元請が倒産したとか、単価の安い競合先が出てきて発注が0になったとか、天変地異の可能性も考慮する必要がある。この指標は業種によって異なる自己資本比率より、その会社の実態がよりリアルに分かる。

 かつてトヨタは売上がゼロになっても3年間従業員に給料を払い続けることが出来るといわれていた。ただし今はもっと自己資本を溜め込んでいるかもしれない。R学園は自己資本(内部留保)が1,000億円以上といわれている。それを公開されている経常費支出、あるいは人件費で割れば、R学園の安全度が分かる。R学園は、収入が0になっても約3年間教職員に給料を支払い続けることが可能なほどで、大学基準協会の大学評価では『磐石の財務』といわれているのだが、OIC展開の大投資や移転学部と学園一部トップが癒着した『物取り』のような大浪費によって、維持継続する以上は『手を付けてはいけない』減価償却引当金(引当特定資産Ⅱと言っている)を500億円(50%、シナリオCの場合)を残すのみとなる。しかもその場合は、毎年30億円のリストラが必要で、その場合でも新たな内部留保の蓄積は0、つまりリスク対応度が限りなく0に近づく。

 この指標は、中小企業を見る場合には有効だ。中小企業ほど下請け仕事を切られたり、得意先の倒産といったリスクが大きいからである。

◎ 従業員一人当たりの売上(売上÷従業員数)を見るのも有効な指標となる。つまり、営業(粗)利益、製造(粗)利益に対して、一般的に人件費率は30~50%である。粗利益は売上-営業・製造原価(仕入れや工場原価等々、要するに売って支払って、残る金)。業界によって粗利益率は変わる。商社・流通で物を売って右から左だとすると10%~30%だろう。つまり1人当たり1億円売って、粗利益率20%とすると仕入原価は8,000万円で粗利益は2,000万円となる。そこで人件費は粗利益×30~50%だから、2,000万×0.3~0.5だから、600万円~1,000万円となる。製造業の場合粗利益率は30~50%位だから、一人4,000万円の売上で粗利益率50%と仮定すると、600万円~1,000万円の人件費となる。そのようにして算出した人件費で【良い会社】を判断することも有る。つまり商社の場合一人当たりの売上が1億円、メーカの場合2,000円は一定の目処か。ただし、特に製造業の場合は特殊技術を持つ等付加価値の高い商品を扱う場合と、競争が厳しく安売りの低付加価値商品の製造メーカーとでは、粗利益率にかなりの差があるので、注意が必要。今をときめくベンチャー企業の中には一人当たりの売上げから計算した人件費が100万~200万円そこそこといった会社もあり、要注意だ。

 いずれにしても商社で一人当たり2億円以上の売上や、メーカーでよく知った会社で言うと日本スペリアやチョーヤ(梅酒の)やヒロボーやらイシダ、一人当たりの売上が1億円以上やそれに近い売上を計上している会社は、その指標から言うと【良い会社】であることは間違いない。

◎ 過去5年間(10年間)経常利益を出し続けているかどうか。これも分かりやすい指標となる。ただし注意が必要なのは『純利益』ではなく『経常利益』であること。『経常利益』は本業での損益を示している。ここに特別損益を加減したものが『純利益』となる。例えばパナソニックは3月決算で7,500億円の赤字だが、これは約9,000億円の減損処理という特別損を計上したからであり、本業では1,300億円の黒字であることは以前に説明した。逆にサッポロビールホールディングは2012年度30億円の純利益であるが、これは前年の10月にR学園の一部トップが学内の反対を押し切って190億円で茨木工場跡地を取得し、土地売却益という特別利益が発生した為で、本業は深刻な赤字であったということも、身近な例だ。というと経常利益はそんなにコンスタントに出し続けられないと思うかもしれないが、そんなことは無い。昨年の地方優良企業へのアンケートで、「継続して5年間経常利益を出している」と答えた企業は結構多い。プレイスメントデータ地方版に載っている。

◎ 他に、流動負債比率(流動資産÷流動負債)も参考になる。キャッシュフロー表はあまり参考にならない。例えば、2020年のR学園のキャッシュフロー表のように、いかに楽観的展望を言おうが、実際に行き詰っていればよほど深でに酷いといった状況。他にも指標はいろいろあるが、書くスペースが無いので、機会があれば説明する。

(続く)

「一押しBook」

書名:哲学の自然

著者:中沢新一(1950年生、明治大学野生の科学研究所長、著書多数、近著は『野生の科学』『大阪アースダイバー』)、国分功一郎(1974年生、高崎経済大学経済学部准教授、著書は『スピノザの方法』『暇と退屈の倫理学』等)の対談

出版社:太田出版

内容:

 私事ながら、胃癌の手術をして酒を止めて何が良かったかというと、本をよく読むようになった。従来の倍以上は読んでいるし、量だけでなく哲学書のように論理的思考を張り巡らせなければ読めない書物も、何とか読み込めるようになってきた。酒が入っていれば、到底無理だろう。

 この本は自然科学と哲学の関わりから事象にアプローチする気鋭の哲学者と、形而上倫理を脱し行動する若き哲学者が2011年1月~12月にわたって4回の対談をしたものを纏めてある。対話の出発点は福島第一原発の事故。中沢は〈原子力技術の存在論〉という課題に着手し、国分は哲学に携わる者として何ができるかを考えて対話にいどんだとのこと。「自然」(フェシス)を軸に古代ギリシャの哲学者や、古代民主主義の評価からハイデッガー、ニーチェにいたる哲学の歴史を解釈し、現代の技術と自然(フェシス)への関りを説明する。一番典型的な民主主義は里山である、とか「どんぐりと民主主義」とか、脱書斎の哲学者らしい感性で自然と民主主義の関わりを語るのは面白い。国分は、先日新聞を賑わした、小平市の計画道路の是非を問う住民投票に、率先して取り組むという、従来の哲学者とはまったくイメージが異なった行動派である。住民投票は残念ながら50%の投票率に届かず、開票もしないということになったが、挫折することもなく、また行動を起こすのだろう。

 少し読みづらいところも無いではないが、全編を通じて面白かった。アマルティア・センやマータイさんやアガンベンなど、現代思想家へのアプローチなどあれば、もっと面白いと思う。

 

イソの評価: ★★★★☆ 

(続く) 

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パライソメッセージ20130524

2013-05-24 18:04:56 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.05.24

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【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:【良い会社】の見つけ方(2)-『物』『金』『人』『情報』から見る【良い会社】①-

 良い会社かそうでないかの判断は、前号でも言ったようにその人の価値観によって異なる。したがって絶対的な基準とかありえない。『物』からその会社が良い会社かどうかを判断する場合、ある人は『高く売れる(売れそうな)商品』が判断の基準であったり、ある人は『お年寄りや困っている人が役に立つ商品』『人が幸せになる商品』であったりするだろうし、その正誤は言えない。そこで今回のシリーズでは『物』『人』『金』『情報』からアプローチして、良い会社かどうかを判断する指標について例示してみたい。その指標の中から、あるいは自分の価値観に合った指標を考えて、自分にとって良い会社かそうでないか判断すれば良いのではないかと思っている。

 ある会社が扱っている『物』について考えてみる。一般論であるが、次のような商品を扱っていれば、【良い会社】と思う人が多いのではないか。

・お客様を幸せにする物・・・お菓子、食品、ギフト、化粧品、ジュエリーなどなど

・お客様の夢がかなう物・・・ブライダル、家(ハウジングメーカー)、セールス・プロモーション関連、リゾートなど

・暮らしの安心が充たされる物・・・生命保険、損害保険、金融商品、福祉、セキュリティ関連など

・命と健康の安心・・・医療、薬品、生命保険、福祉関連など

・日本経済を支える・・・日本銀行、メガバンク、世界銀行、JETROなど

・社会貢献・・・公務員、インフラ、JICA、地方銀行、教育など

 そのほか、地方の経済・文化を振興、日本企業を支える、などなど『物』から見る多くの指標が考えられる。少しネガティブな印象だが、以下のような『物』はどうだろうか。

・ハイリターン商品(広い意味では夢かも)・・・投機、高配当期待の出資、投機・投資顧問、ファンド・マネージャー等

・自分が儲かる物・・・投機・投資の手数料、マルチ販売、詐欺商法など

  【良い会社】の探し方を、その会社が取り扱う商品からアプローチする場合には、自分の価値観に適った指標からの業界探しをするのが良いのではないか。但しそれぞれの価値観に正解はない。正誤は本人の問題だ。マルチ販売や詐欺商法といった旧型ブラック企業の会社であっても、自分の価値観は金=自分が儲かること、といった思いを持つ人にとっては、そういった会社はブラックでも何でもなく、【良い会社】なのだろう。ただし、めったにない事だろうけれど、そういった価値観を持つ若者が『進路についての相談』に来たときはどう対応するべきか。これは、ケースカンファレンスで検討したいと思う。『金が欲しい。金が要る。世の中は金。』といった思いを持つ若者にも、その背景はいろいろとあるだろうし、彼・彼女の主訴はじっくりと聞かなければ解らないのではないか。

 【良い会社】かどうか、これを『金』の面からアプローチして指標を定めるのは、これは比較的普遍的な指標が示される。ただし、その指標を判断材料としてチョイスするかどうかは、やはり本人次第ではあるが。指標としては以下のようになるのではないか。個別の給料・報酬は『人』からアプローチする指標なので、ここでは指標としない。しかし、全体の人件費は財務戦略なので指標とする。

・自己資本比率を見る

 この説明だけで、論文ができてしまうほどだが、ここではごく簡単に述べる。自己資本比率とは、自己資本/総資産である。自己資本とは自分が出資した資本金+企業が利益を上げ、その利益に何らかの会計科目を付けて内部留保として蓄積している資産であり、一般的には株主総会で利益処分として承認される。○○預金/□□準備金・△△引当金などと仕分けられ、資金の裏づけが有る。R学園では今喧々諤々の議論になっている『引当特定資産Ⅱ』といった減価償却資産の更新の為の引当金勘定も自己資本である。

 自己資本が充実しているかどうかは、着実に将来計画が遂行できるか、緊急事態に対応する力量がどれくらいあるかとか、何よりも安定して持続できる経営状態かどうかを見る解りやすい指標となる。一般的に社歴にもよるが、メーカーの場合で50%以上、流通商社で25~30%以上、銀行で1桁の上のほうぐらいが安全の基準か。メーカーの場合は設備投資が大きく、減価償却引当金が多いといったこと、銀行は貸付金といった分母となる総資産が大きい、特に昨今のアベノミクスでジャブジャブの金融緩和では更に大きくなるが、そういったことが業界ごとの自己資本比率の差異になっている。最近では、会社四季報にも自己資本比率は殆ど掲載されている。以前はNA(No Answer)が多かった。

(以下続き)

 「一押しMovie」

映画名: 舟を編む

出演者: 松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、小林薫、八千草薫、渡辺美佐子、加藤剛、他

内容:

 ある出版社が「大渡海」という辞書を出版することになり、その企画から出版までの15年間のロングスパーンを、辞書の製作に関わる人たち特に若者を中心にしたストーリーで2時間15分程度に纏めた映画。

 辞書の編集に関わってのストーリーということで、出版といっても時間も手間隙も経費もかかる、かなり地味なもっともアナログといっていいような作業がこの映画の背景に流れる。主人公は松田龍平で、かなり地味で本オタクで人とのコミュニケーションが殆どできない青年。社内で殆ど存在感のない彼が「大渡海」の企画・出版に伴い、辞書編集部長に「拾われ」編纂のメンバーに加わる。辞書出版のコストパフォーマンスやそのための先輩社員の異動、下宿屋の孫娘との恋愛、辞書製作といった気の遠くなるような年月をかけて、地味で正確さを求められる繊細作業をこつこつと積み重ねていく、そして主人公も人間的に成長していく、そういった話を絡めながらストーリーが進んでいく。なんと言うことはない。ストーリー自体が地味な話ではあるが、なぜか時間を長く感じさせない映画だった。

 映画を見ての感想だが、まず、加藤剛、八千草薫、渡辺美佐子、といったバイプレーヤーの大俳優が、ごく自然な演技なのだがさすがに存在感があり、この映画そのものの『重し』となっているように思えた。小林薫やオダギリジョーも好演。そして、三浦しをん原作の同名の小説が昨年の本屋大賞一位となった本の映画化であり、ウェブ辞書が大流行の現在、現場の書店員の紙・活字のアナログ媒体である本への愛情がこの映画を通して伝わってくる。

 なによりもこの映画でよかったメッセージは、私たちの周りにも少なくない、内気でオタクでコミュニケーションがとても苦手な青年が、自分にあった自分の好きなそれでもって成果が人の役に立ち喜ばれる仕事に出会ったとき、着実に人間的に成長していくということだ。

 私はそういった意味で、この映画は意外とメッセージ性の高い映画だなあという感想を持った。

 パライソの評価: ★★★☆☆

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パライソメッセージ20130517

2013-05-16 19:08:25 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.05.17

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 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:【良い会社】の見つけ方(1)-【良い会社】とは-

 ブラック企業の対極にある「よい会社」とは、についても述べなければ、一方的な単なる『文句言い』になってしまう。 

 ブラック企業特集が掲載された日経ビジネス(2013.4.13)に、【「離職率0%企業」に見る 逆ブラック企業5つの共通項】いったコラムがあって、なかなか興味深かった。「新卒定着率から推測した逆ブラック企業TOP10」として、1位から順にキリンビール、大豊工業、YKK、住友重機工業、三機工業、日立造船、電源開発、四国旅客鉄道、日産化学工業、富士機械製造が挙げられている。逆ブラック企業の「ポイントは5つ」としており、それは1.成熟市場に位置する、2.小粒でも高シェア、3.メーカー、4.独自技術を持つ、5.自己資本比率が高いことであるとしている。考えれば当たり前のことのようであり、また5つのポイントは相関連することでもある。

 成熟市場でなくベンチャー企業がどんどんと出てくる新しい産業分野で社歴の浅い会社は、どうしても【地力のある自己資本】の蓄積は薄い。【地力のある自己資本】とは、本業できっちり利益を計上し、内部留保として堅実に積み上げている自己資本のことをいう【イソ理論用語】だ。ただし新興企業などでも市場価格やバブリーな評価の資本金額によって財務諸表を作成していれば、自己資本比率が高く見える場合があっても【地力がある】とはいえない。

 また5つのポイントに適合する企業は独自技術を保有していたり、その分野でのシェアが世界トップクラスであったりすることも珍しくない。またメーカーとしてもの作りを生業にし、現在も堂々と社業を営んでいる企業は、非常に過酷な競争を勝ち抜いてきており、地力・体力が優れている企業が多い。

 それにしても、TOP10の財務体質は強い。例えば自己資本比率で言うなら、「富士機械製造で85.3%(2012年9月時点)」「2番手が、日産化学工業で自己資本比率は67.2%(同)」「表中の10社のうち6社の自己資本比率が50%を超え」と書かれている。一般的に自己資本比率は減価償却引当金等が大きいメーカーは高く、商社等は20~30%台、金融は分母の総資産が大きいので1桁といった傾向はある。ちなみにパナソニックは23%で(会社四季報)メーカーとしては大きくはない。

 このコラムでは高シェアの代表としてキリンビール、独自技術系の代表として大豊工業や住友重機工業、日立造船などが挙げられている。ただ、ここに書かれているのは超大企業あるいは大企業である。実は、5つのポイントに適合する企業は中堅・中小企業にも結構多い。われわれと身近なところにも、例えば日本スペリアとかヒロボーとか、社員数100名規模の会社でも、TSR評点で70点台後半以上の企業が結構あるし、先週や今回の【一押しBook】で紹介するような企業も日本国中に沢山有る。ただし、こういった逆ブラック企業が即【良い会社】かどうかは、後で述べるが少し違う。

 逆ブラック企業の5つのポイントは面白い指摘だが、それならブラック企業とはこの逆か、ということになる。逆の逆、つまりブラック企業の5つの共通項は、新しい産業分野・ベンチャー、シェアが低く競争が厳しい、もの作りではない、独自技術やノウハウが無い、自己資本比率が低い、といったことになる。自己資本比率は、中小零細企業でオーナー社長が資産家であれば払込資本金を大きくすれば高くなるし、大手企業でも自社株をバブリーな評価額で試算計上すればある程度は高くすることができる。しかし、全体としてみればこのブラック企業5つの指標(仮説)は面白い指摘である。最近多いITコンサルと自称する、実態は派遣会社でカリスマ社長が采配するベンチャー企業などは逆の逆の指標に当てはまる典型であるし、ユニクロなども幾つかの共通項を持っている。

 さて、本題の【良い会社】について。

 その前に、何故逆ブラック企業と【良い会社】は少し違うかというと、【良い会社】の基準は、選ぶ側の若者や学生にとっての価値観が決めることであるから。若者や学生にはそれぞれ価値観がある。もし自分の価値観を自覚していなければ就職という転機に、考えてみる必要があるだろう。価値観は、例えば『他者からの尊敬・敬愛』であったり、『社会での存在感』『地位・名誉』『自己達成感』等々、それぞれに持っている。中には『金』といった価値観を持つ者もいる。『金』が価値観の若者なら、ゴールドマン・サックスかメリルリンチの投資顧問になるとか、仕事の厳しさは半端ではないがキーエンスに就職するのは、価値観に適った進路選択である。もっと言うなら詐欺商法やマルチ販売の会社、お年寄りに高額商品を売りつけたり不当なリフォームを施したりする悪徳商法の旧型ブラック企業であっても、金が価値観の持ち主にはブラックでも何でもなく、その人にとっての【良い会社】なのかも知れない。

 次回は、【良い会社】の見つけ方、【良い会社】であるとの判断の仕方について、『物』『人』『金』『情報』からアプローチする【イソ理論】を述べたい。

(以下続く)

「一押しBOOK」

  

書名: 日本でいちばん大切にしたい会社

著者: 坂本 光司 法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授、法政大学イノベーション・マネージメント研究科(MBA)兼担教授。国、県、市町、商工会議所等団体の審議会や委員会の委員を多数兼務。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論。

出版社: あさ出版 2008年4月初版、2009年4月35刷  1,400円+税

内容:

 私は、この本を寝る時間も惜しんで一気に読んでしまった。節々でついつい涙があふれ出てきた。それは、ここに紹介されている5社が、いずれもすばらしい会社・社長であり、また自分がかつて作りたかった会社とイメージが重なり、それが適わなかった自分の至り無さが恥ずかしく、そして日本国中に沢山あるこういった会社や経営者に、心からエールを送りたい気持ちになったからだろう。

 筆者は、MBA大学院で指導をしている経営の専門の研究科である。その筆者が、『会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動』といっている。五人とは優先順に1.社員とその家族、2.下請け先・協力会社とその家族、3.地域社会の人々、4.顧客、5.株主・出資者。

 一見、『何を「青臭い」ことを』とか『会社は株主の皆様のためにある』言われそうであるが、筆者はMBAの専門研究家である。ここに紹介されている会社は、『障害者がほめられ、役立ち、必要とされる場』であったり、寒天メーカーという斜陽産業の中で『「闘わない経営」を貫き、四八年間増収増益』

『市民が憩う、開かれた会社』であったり、他にもそういった会社を「五人」と一緒に作り上げてきた人間ドラマが紹介されている。

 弱肉強食、信じがたい格差と「負け組み」の自己責任といった殺伐とした世の中である。そんな中で、ユニクロの柳井社長や橋下大阪市長・日本維新の会代表ら、『歯切れのいい』喋り屋は弱者をパッシングし攻撃し、何を言っても許される。それをマスコミは面白おかしく、無批判に持ち上げもてはやす。その一方、日本には人間を大事にする多くのいい会社・いい社長が沢山いる。若者たちがそういった会社や社長とよき出会いができればいいと、心から思う。そんな思いを改めて自覚させてくれた『人間ドラマ』の一冊だった。

(続く)

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パライソメッセージ20130510

2013-05-09 19:22:58 | メッセージ

 

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パライソメッセージ 2013.05.10

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 なお、パライソメッセージも今回で10発目となりました。10回を記念して名前を変更しようと思います。というのも、とある淑女から、「『パライソ』は私のシンボルだ」というクレームが入りました。気に入っていたのですがやむを得ません。なにか、よい名前があれば、ご教示ください。いまのところ『イソカラ・メッセージ』くらいかなとも思っています。

 【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:私がブラック企業を告発する理由(4)-誇りと活力のある日本を取り戻すために-

 私の本意は、ブラック企業に対するリベンジとか、彼らを社会的に『抹殺』するなどといったことでは決してない。新型ブラック企業は、建前はあくまで合法的装いで社会に登場してきたのであり、社会的存在である以上は、社会的責任を自覚して頑張って頂きたい。但し、ユニクロも他のブラック企業も、『新型ブラック企業』としてではなくて『ホワイト企業』として。

 ブラック企業を告発するシリーズも4回目だが、私がブラック企業を告発する理由は3点ある。

 第1の理由は当たり前のことだが、一番重要なこと。つまり新型ブラック企業は、未来がある若者の精神・肉体を蝕み、破壊し尽くし挙句使い捨てにしてしまうということである。今日の厳しい雇用情勢は若者の非正規雇用が40%を超えるとか、大学新卒で非正規雇用も含めて全く就職ができない若者が3万人、モラトリアムと決め留年・進学などを含めると一説によると毎年10万人の若者が就職できないといった現状である。特に偏差値中位以下の大学で就職難は深刻であると言われている。若者たちと触れ合う現場で実感するのは、『人間力』は、偏差値には関係がないということだ。そんな中で『正社員と言えば、変わりはいくらでもくる』と公言する経営者が少なくなく、そういった経営者は若者に対して容赦なく『使い捨て』『選別』『モラルハザードなハラスメントやいじめ』を浴びせる。若者の精神・肉体を蝕み、破壊し、使い捨てる権利など、ブラック企業はおろか誰にもないのは当然であり、人間として許されない。

 第2の理由は、第1の理由がいささか情緒的ではあるのだが、具体的な問題としてブラック企業は、未来の日本の政治・経済・文化をことごとく駄目にしてしまうということである。著作「ブラック企業」(今野・2013)にも論述されているように、若者を廃疾の状態にしてしまうことによって、例えばうつ病の罹患や過労による疾病等が広がることによる医療費や、労働不能による生活保護費、失業による失業手当などの社会的コストが膨大に増える。さらに年金等の社会保障を支える若者の層が極端に薄くなり、日本の社会存立の基盤が実際に危うくなってくる。このことは、社会保障費、医療費の切り詰めや、世界的に見ても極端に劣悪なレベルの生活保護費の更なる削減といった形で、具体的に進んできている。更に、文化は本来人間の営為であるが、文化をたしなむ余裕すらなくなってくる。若者の閉塞感は新型ブラック企業の蔓延と大いに関係があるだろう。いじめや弱者に対するバッシング、逆に公務員への攻撃や非正規雇用の若者による正規雇用者への攻撃など、およそ文化とは縁も所縁も無い、無責任な罵詈雑言がツイッターやSNSに大量に書き込まれている。新型ブラック企業は、日本の政治・経済のみならず文化をもことごとく駄目にする。

 第3の理由は、日本の雇用情勢が若者に限らず、全ての被雇用者にとって大変厳しい状況にあることと関連する。電機業界では13万人のリストラ、パナソニックでは2万人、関連会社を含めると4万人のリストラである。殆どの会社は新卒採用もしながら、派遣社員や有期雇用社員のリストラも進めているので、この数字は若者に限らずベテランも含めて多くの現職の正社員にかかってくることになっている。併せて今や日本企業の多くでは、人件費をコストとして大幅な削減がなされている。マスコミ等では『雇用の流動化』『衰退産業から成長産業へ』『終身雇用・年功賃金から能力給へ』『閉鎖的雇用関係から開放的雇用』など、政府委員会の委員、経済団体、学者、評論家、識者等々の大合唱である。それをマスコミは無批判に垂れ流し、それどころか煽り立てるような報道をしている。

 そういった状況の裏では、法制化の動きも強引に進められ『解雇制限の自由化』『裁量労働制(ホワイトカラー・エグゼンプション)』等が声高に言われている。キャリアアップ支援、転職支援などの理屈を付けて、一定の金銭でもって自由に解雇できたり、ホワイトカラーには残業代が支払われないことが合法化されようとしている。但し現在でも、リストラに伴う『追い出し部屋』での退職強要やサービス残業の強要、あるいは『甘い若者を鍛える』名目でのハラスメント等は横行している。新型ブラック企業はこういった『普通の会社』がブラック化へと進んでいく旗振り役、いわば『突撃隊』としての役割を果たしているからだ。

  以上のような理由で私はブラック企業を告発する。誇りと活力のある日本の対極にある、卑屈と低迷の象徴であるブラック企業は退場願わなければならない。ただ、私は冒頭に行ったようにブラック企業が『抹殺』されれば良いなどとは思っていない。ブラック企業の所業を、幅広い日本人が声を挙げることによって改めさせなければならないと思っている。ブラック企業は他の先進諸国には無い日本特有の現象だ。このままでは、“Karoshi”に次いで“Black Kigyo”も恥ずかしくも国際語になってしまいそうである。

  次回のパライソメッセージ(ひょっとすると、イソカラメッセージ)は、『良い会社とは』をテーマに考えたい。

 

ニッポンをし... 

【一押しBook】

書名:ニッポンを幸せにする会社-あってよかった!応援したい-

著者:鎌田 實(1948年生まれ。東京杉並区出身の医師。現在、諏訪中央病院名誉院長で、作家、エッセイストとしても活躍中。)

出版社:集英社 29012年4月初版 ¥1,260

内容:

 著者の鎌田實氏はこの本を書いた動機について、東日本大震災での医師、看護師らと診療・物資の支援チームを組み、食べ物などを支援してくれる会社を探すうちに、多くの『ニッポンを幸せにする会社』に出会ったことと言う。紹介されている会社は、超大手企業というわけではなく、どちらかというと中堅・中小、地方企業が多い。

 「世界に誇れる技術とサービスで、復興にも貢献する会社」「安全でおいしい「食」を追及する会社」「環境にやさしい省エネ技術を開発する会社」「高齢化社会で伸びが期待される医療と薬品の会社」「社員を大事にして、業績アップにつなげる会社」としてそれぞれ2~3社紹介されている。全ての会社の社長に、著者が直接取材して纏めたもので、社長の人柄もよく紹介されている。

 紹介されている会社は、菊池製作所、ヤマト運輸、パスコ、ホクト、ツムラ、六花亭、ケーズホールディング等々で、よく話題に上る会社もある。著者の人の良さに、書いてあることを多少割り引いて読まねばならないかとも思うが、そのことによってかえってインタビューされる社長の方も本音が出ているのではないか。

 いずれも「いい会社の探し方」には大いに参考になる本である。

(続く)

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パライソメッセージ20130503

2013-05-02 18:50:14 | メッセージ

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パライソメッセージ 2013.05.03

        Mail : isokawas@goo.jp

     Blog : http://blog.goo.ne.jp/isokawas

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 「パライソメッセージ20130426」を送ります。「不要だ」「余計なお世話だ」といわれる方は、お手数ですがその旨ご連絡お願いします。

【主張・意見・コメントのページ】

テーマ:私がブラック企業を告発する理由(3)-ユニクロ・あのブラック企業の本質-

 ユニクロの柳井社長は、保守的で閉鎖的で国際競争に大きく立ち遅れ危機にひんしていたアパレル業界に、家業の中小企業から勇躍登場し、徹底した合理的経営と海外展開、価格破壊といった戦略で大成功を収めた時代の寵児である。ユニクロはいまや業界国内ナンバーワンの地位を築き、自身も過激な発言を続け、それに対し新聞・テレビを始めウェブ等のマスコミはまるで『革命児』『救世主』のような扱いである(あった)。

 「大学教育が日本を駄目にする」「日本型新卒一括採用ではグローバル人材は育たない」「大学1年から内定を出し、学生のときにトレーニングを課し卒業後すぐに店長」とか言いたい放題で、それをまたマスコミは、無批判に垂れ流し記事やちょうちん記事を書きまくっている(た)。自身は、ソフトバンクの孫社長を抜いて、2年連続日本一の大富豪となり、まさしくベンチャーの鏡であり、立志伝中の英雄である。

 その柳井社長が最近マスコミに頻繁に顔を出し、「ユニクロはブラック企業」と言われている世論に対して、それを否定する言い訳と居直りの発言を連発している。ユニクロの実態については、『出退勤時間を上限内に収まるよう日々「調整」し、残業代が出ない「サービス残業」の毎日』『繁忙期の勤務は300時間を越え』『半年おきの「店長代理資格」の取得試験も苦痛だった。何回受けても通らず、「次第に給料を下げられ、最後は入社時より年収で50万円ほど減った」。』『「詰められ方が非常に厳しい。僕たちは『追及』と呼んでいた」周囲には、うつ病になって突然出社できなくなる同僚がいた。「このままでは自分も精神状態が持たない」と退社を決めた。』『休日も暇があれば厚さ10㌢ほどのマニュアルの勉強(注:店長代理資格取得に必須)に費やし…入社8ヵ月後に「うつ状態」と診断され、退社した。』『新卒者員が入社後3年以内に退社した割合(離職率)は…08~10年の入社組は46~53%…休職している人のうち42%がうつ病などの精神疾患で、これは店舗勤務の正社員全体の3%にあたる』(2013年4月23日、朝日新聞朝刊)等々。また有名な話だが、柳井社長自らが作った23か条の社訓を、一字一句違わずに句読点も含めて丸暗記させるとか、10㌢以上のマニュアルを丸暗記させる、それを店長代理資格取得を目指す新入社員をグループにして、全員が出来るようになるまで連帯責任とするなど、まるで戦前の軍人勅諭か教育勅語かのような時代錯誤な精神主義もまかりとおっている。

 柳井社長のカリスマ性に魅かれ、ファーストリテーリング=ユニクロを志望し、採用される学生は、早稲田、慶応、上智など早々たる大学で、ガッツが人一倍有り、TOEICも800~900といった学生たちである。R大学からも毎年一定の学生が就職しているが、就活時の彼らは輝いて見えた。挙句、現実はそういった学生の半分以上が心身にダメージを受けて、3年以内に退社しているのだ。

 そういった現実や告発に対して、柳井社長は『日本の若い人は今後、海外の若い人と競争しなくてはなりません。それも競争相手は先進国だけでなく、新興国の人も含まれる。その中で、旧来型の制度を守っていては、やっていけない』『「ブラック企業」という言葉は、旧来型の労働環境を守りたい人が作った言葉だ』『我が社が本当にブラック企業であれば、社員の数はもっと減っている…会社は発展しないし、社員も白けて仕事なんかしなくなる』(2013年4月15日号日経ビジネス)とか『将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない』『グローバル経済というのは『Grow or Die』(成長か、さもなければ死か)。非常にエキサイティングな時代だ。』(同上、朝日新聞)などと言っている。

 柳井社長のコメントを聞くと、もし本当にユニクロがブラック企業なら、もっと減っている、つまり52%どころかもっと減っているということか。52%でもかなり問題な離職率であるが、一体どれだけの離職率になれば本当のブラック企業というのだろうか。あるいは、柳井社長の言うグローバル化というのは国際競争に打ち勝つために、100万円の年収にフラット化することなのか、10㌢以上のマニュアルや23か条の社訓の丸暗記とグループ連帯責任がグローバル化に資することなのか。まるで児戯のような言い草と振る舞いである。

 さて問題の本質を2点指摘したい。

 第1には、いかに言い訳や居直りを言おうが、グローバルビジネスの夢を持ち、優秀で人並みはずれたガッツを持つ多くの若者の心身を蝕み、挙句の果てに遣い捨てるということである。『私がブラック企業を告発する理由(1)』で述べた、「使い捨て型」と「選別型」の複合したブラック企業の典型が、ユニクロである。

 第2には、若者の非正規雇用者の割合が40%を超え、『若者の変わりはいくらでもいる』といった雇用環境の厳しさを背景に、バッシングやハラスメントで若者の心身を蝕み、普通の会社がブラック化していく最近のトレンドに、『ユニクロでさえやっていることだから、うちでも取り入れよう』とユニクロはその突撃隊の役割を果たしているということ。『われもわれも』とばかりに、定見の無い企業が続々と後に続いてくる。

 ユニクロ、柳井社長がどのような理念やポリシーを持とうがそれは勝手である。日本がグローバル経済の怒涛の中でもがき苦しんでいるのはそのとおりだろう。何故、1980年代前半までは世界に確たる存在であった日本の企業や金融機関が危機に陥ったのかについては、プラザ合意やBIS規制といったことも含めた歴史的な検証も必要であろうし、そのことは大事なことであるし、後日のパライソメッセージで伝える。

 しかし、日本はブラック企業ばかりではない。圧倒的といっていいほど多くの企業は、その企業の未来を担う若者を求めている。トレーニングが厳しい企業も多くある。日経ビジネス同号にもそういった企業の紹介記事がある。そういった企業は、その目的は決して『選別』・『使い捨て』ではなく、その企業の未来、ひいては日本の未来を託す若者を育むためのものである。中堅・中小企業であっても働き甲斐のある企業は沢山存在しているし、われわれも日々の出合いの中でそういった企業と働き甲斐がある企業を探している若者との出合いやマッチングに寄与できれば嬉しい思いである。

 ユニクロをブラック企業として取り上げたマスコミは、ブラック企業のことを社会的に「知らしめる」という意味では積極的意義もある。しかし、柳井社長に弁明と居直りをさせるところに、また違った世論誘導の意図、つまり若者をバッシングしたり揶揄したりといった品の無い意図にも注意が必要であると思う。

 次回は『私がブラック企業を告発する理由(4)』を掲載する

(続く)

 

※今回は「一押しBOOK」はお休み。次回に掲載。

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