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奈良・妊婦転送死亡 理想の体制築けるか--周産期医療の現状と課題

2006-11-08 00:40:49 | Weblog
奈良・妊婦転送死亡 理想の体制築けるか--周産期医療の現状と課題 2006年11月7日 毎日
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/bebe/news/20061107ddn010100049000c.html
 奈良県大淀町立大淀病院で意識不明になった妊婦を転送する病院がすぐに見つからず、大阪府内の病院で死亡した問題は、地域によって周産期医療の体制に差がある現実を示した。この問題を受け、国は来年度中に緊急かつ高度な治療が必要な母子に対応する「総合周産期母子医療センター」を整備し終えることを明言した。誰にとっても身近な問題だけに、報道に対し、さまざまな意見が届いている。理想的なシステムは築けるのか。周産期医療の現状と課題を考えた。

◆奈良
◇後方病床少なく、集中治療室の回転率低下 新生児受け入れ、悪循環
 今年8月8日午前0時ごろ、奈良県五條市の高崎実香さん(32)が大淀病院で分娩中、意識不明に陥った。病院は同県内の拠点病院となっている県立医科大付属病院(橿原市)、次いで県立奈良病院(奈良市)に受け入れを打診したが、いずれも満床だった。この2病院を含めて19病院(奈良県2病院、大阪府17病院)で受け入れが不可能とされ、高崎さんは約6時間後、約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に収容された。男児を出産したが、高崎さんは同月16日に死亡した。
 高崎さんの死因は脳内出血だったが、大淀病院は、妊婦が分娩中にけいれんを起こす子癇(しかん)発作と診断。大淀病院の原育史院長は、問題発覚後の会見で「子癇発作の疑いとした点で、判断ミスがあった」と話した。
 今回のケースでは、全国トップレベルの周産期医療体制を誇る大阪府でも17病院が受け入れられなかった。病床数不足や医師不足などを背景に、高リスクの患者の受け入れが大都市でも厳しい状況であることを示した。毎日新聞が17病院のうち9病院に取材した結果、大半が「満床」や「処置中」などだった。
 一方、奈良県の柿本善也知事は「速やかな医療提供が出来なかったことを、誠に残念に思います」とコメントし、未整備の総合周産期母子医療センターを来年度の早期に設置すると明言した。
 同県の周産期医療体制は、他の自治体に比べて立ち遅れている。母体・胎児の集中治療管理室は、02年度に設けた3床だけ。出生1万人当たりで見た新生児集中治療室は全国平均のほぼ半数にとどまる。
 また、新生児集中治療室を出た新生児を受け入れる後方病床数は全国ワースト1の6床しかなく、ただでさえ少ない新生児集中治療室の回転率を下げている。結局、母体の緊急搬送の約4割を平均約1時間をかけ、県外に運んでいた。

◆診療相互援助システム先進地・大阪
◇母体の死亡率、20年で激減
 大阪府では、緊急かつ高度な産科救急と母体搬送に対応する独自の「産婦人科診療相互援助システム(OGCS)」を運用、約20年で、母体の死亡率を激減させるなど、効果を上げている。
 大阪府ではかつて、母体の死亡率が高かった。80年には出産10万件当たり27件に上り、全国平均の19・5件より悪かった。これを改善するため、大阪産婦人科医会が中心となって設立したのが同システムで、87年から運用を始めた。当初34病院だったが、現在は43病院に増え、新生児集中治療室の空床状況などの情報も共有。母体の死亡率は著しく改善し、04年は出産10万件当たり、母体死亡は2・4件まで減った。
 課題もある。システムの周知が進むと共に、システムの利用率が伸び、救急搬送の取扱件数が年々、増加。96年に963件だったのが、05年は1779件にまで増えた。このため、満床になる病院が多くなり、母体搬送の依頼に十分に応えられなくなってきている。リスクの高い産科救急に余裕を持って対応するためにも、産科医や病床数の増加が必要だという指摘がある。

◆国が目指す体制とは
◇総合周産期母子医療センター、未整備8県「来年度中に運用開始」
 「周産期」とは、妊娠22週から生後7日未満までの期間を指す。妊娠に伴い母体が病気になったり、早産で低体重児が生まれるなどの危険性があり、周産期では緊急事態に備え、医療体制を整備する必要がある。国が目指す周産期医療体制はどんなものなのか。
 未熟児の増加などに伴い、国は96年、周産期医療システムの構築に乗り出した。整備指針で、総合周産期母子医療センターの整備や、周産期医療従事者の研修などを盛り込んだ。04年の「子ども・子育て応援プラン」では、同センターを中心とした周産期医療ネットワークの整備を、08年3月までに完了するよう全都道府県に求めた。
 総合周産期母子医療センターは、母体・胎児の集中治療管理室(MFICU)6床以上、新生児集中治療室(NICU)9床以上を備えた施設。奈良県のほか、秋田、山形、岐阜、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の7県が現在も未整備だ。このうち奈良など4県で国の方針を満たす計画が策定されていない。
 同センターの整備には数億円程度かかるが、リスクの高い母体や胎児の救命には不可欠な施設だ。この問題について柳沢伯夫・厚生労働相は先月27日の衆院厚生労働委員会で、「適切に救急搬送されなかったことは明らか」と答弁。そのうえで「助言、指導や、補助金支給で(総合周産期母子医療センターの)早期構築を促す。08年3月までに実施し、動かす」と述べ、来年度中に運用を始めることを明言した。

◆反響
◇明らかな人災。人ごとではない/出産には危険が伴う
◇過熱報道で“萎縮防衛医療”が始まっている
 一連の報道を受け読者からの反響は100件を超えた。周産期医療の早急な体制整備を求める声や、問題の背景に疲弊した医療現場の現状があるとの指摘があった。一方で、報道に対する批判も4割近くあった。
 緊急搬送体制の不備に対する不安の声は多い。メールで感想を寄せた女性は「今回の問題は明らかな人災。奈良での出産を考えていたので人ごとではない。実態を明らかにして、対策を立ててほしい」と訴えた。
 また、奈良県に住む40代の主婦は「本当に痛ましいこと。県外に搬送されることのないよう奈良の病院は態勢を考えて」と注文を付けた。
 出産には危険が伴うことを報道するべきだという声もあった。福岡県の医師は「出産は危険な側面をもち、100%の安全を保証できるものではない」。別の医師は「合併症を併発した分娩では(出産は)命がけの仕事だ。しかし、患者と家族は、元気に赤ちゃんが生まれ、母親も健康に退院できるのが当たり前と考えている」と訴える。
 一方、報道への批判も。ある読者は「人手不足で過酷な勤務が続く中、こまやかなケアができないのが日本の産科医療の現状。力を出し切っても結果が悪ければ犯罪者として糾弾されるから医学生が少なくなる」と指摘。米国在住の外科医は「司法判断、マスコミの過熱報道のため、医師は一か八かで頑張って患者を助けようということができなくなっている。“萎縮(いしゅく)防衛医療”は既に始まっている」と記した。

◆一つの病院では完結しない--出産ライター・河合蘭さん
今回の問題について、出産ライターの河合蘭さんに聞いた。
 お産は、一般の病院では対応できないことが何の前触れもなく起こる。しかし、その怖さは、なかなか現場の医師ら以外には伝わらず、「安全」と高をくくる行政と温度差が生じているのではないか。
 奈良県が、緊急で高度な治療を要する母体の約4割を県外搬送していた現状は深刻だと思う。周産期医療体制の整った大阪府に頼っていたのだろう。東京と隣県との間でも同様の関係がみられるが、最近は各県でも総合周産期母子医療センターが整備され、改善に向かって努力がなされている。高齢出産の増加などでこれからハイリスク出産は増えると考えられるし、県内の体制整備は急務だ。
 周産期医療は一つの病院では完結せず、地域で支える必要がある。大淀病院のように、総合病院でも麻酔医が常勤でなく、すぐに手術が出来ない病院も珍しくない。だからこそ、ここと定めたセンターに、迅速に送れる仕組みを整えることが求められている。

◆医師助ける体制改善を願う--青木絵美(奈良支局)
 「緊急かつ高度な治療が可能な病院に搬送するシステムが機能しない現状を、行政も医師も私たちも直視すべきだ」。私は、10月26日朝刊「記者の目」でそう訴えた。これに対し「記事は医師、医療機関を悪者に仕立てている」という意見が寄せられた。だが私を含め担当記者は当初から、医師1人の責任で終わる問題ではないと考えてきた。
 待合室が患者であふれ、妊婦1人の検査、診察が2時間以上かかる現実を、奈良県内の病院で目の当たりにした。休みなく診察室と検査室を動き回る医師には、頭の下がる思いもした。お産に絶対の安全はない。だからこそ、万一の場合に備えた体制づくりは必要だと思った。それが現場の医師の助けにもなるからだ。
 県は高リスクの妊婦搬送のあり方を議論する検討会の設置方針を明らかにした。現場の医師の参加も求めており、双方が意見を出し、体制の改善が進むことを願う。


 つい先日、内科医さんから、医師側の事情を含めたコメントを頂いたばかりですが、先日の奈良県の妊婦転送死亡事件について、複数の立場から取材した、中々興味深い記事がありましたので、こちらにも載せたいと思います。
 私はついつい利用者側の立場にたってしまいがちですが、出産ライターや医師の意見もあり、中々興味深い内容です。


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