■見知らぬ人/エリー・グリフィス 2021.9.21
エリー・グリフィスの 『
見知らぬ人 』 を読みました。
大矢博子氏の「解説」が、本書の特徴をよく捉えているので紹介します。
視点人物を変えてその人しか知らない情報を提示することで読者だけが全体を俯瞰できるようにする、というのは決して珍しくない手法だが興味深いのは三人の話には個人的なエピソードが多く事件の進行が極めて遅いことだ。特に前半は、うっかり殺人事件のことを忘れそうになるくらい、彼女たちのプライベートが綴られる。
三人とは、次の女性達です。
クレア・キャディ 中等学校タルガース校英語教師
ジョージア・ニュートン クレアの娘。十五歳
ハービンダー・カー サセックス警察犯罪捜査課部長刑事
三人の話は、英国の社会、文化、日常生活、自らの職業について、職場の噂話、家族の話など多岐にわたります。
少し、変わったところでは、人は、「
なぜ日記を書くのか? 」 との考察。
実は、このミステリーでは、日記が上手に舞台回しに使われています。
隣に座った、美しい女性が興味深い噂話を問わず語りする。それに聞き耽る感じで、このミステリを読み進めることが出来ました。
ぼくだけの感じかも知れませんが、日本語訳とぼくの文章を読むリズムが合わない。
慣れるまで、すごく読みにくく感じました。
われわれ人間は夢と同じもので織り上げられている(シェイクスピア「テンペスト」第四幕第一場)
「地獄はからだ」(シェイクスピア『テンペスト』第四幕第二場)
この世の成り行きを見るのに目などいらない(『リア王』第四幕第六場)
“この世には永遠に隠しておけるものなどひとつもない”(ウィルキー・コリンズ『ノー・ネーム』)
「このあとはどうつづくんですか?」ハービンダーは言うが、きっと調べたはずだ。
「“地獄はからだ”」わたしは言う。「“悪魔どもが総出で押し寄せてきた”」
彼は同情しつつも、ホメロスのぞっとすることばを引用しました。強くあれ、と私の心は言う。
“完全に取り憑かれている”のだとエラは言った。「わたしに病んでいるんですって」
「酔っているんだと思ったのよ。でも、翌日彼はわたしの家の外に現れた。そして、わたしに恋をしてしまったと言ったの。
彼が言ったのは『きみに病んでいる』だけど」
「すてきなフレーズだこと」
あなたは人よりすぐれているわけじゃない。退屈なだけよ。
現実と向き合うのを避けるために物語を作るのだ。
そう、あなたならおわかりだと思います。若さは傲慢です。それが本来あるべき姿なのです。
「ハロー、クレア。あなたはわたしを知らない」
『
見知らぬ人/エリー・グリフィス/上條ひろみ/創元推理文庫 』