ゆめ未来     

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トマス・クイック/ハンネス・ロースタム

2017年02月18日 | もう一冊読んでみた
トマス・クイック   2017.2.18

 そしてもちろん、探し求める者は見つけ出すのである

副題は、「北欧最悪の連続殺人犯になった男」。

本書は、「スウェーデンのハンニバル・レクター」「人食い」と呼ばれた男、トマス・クイック(本名ストゥーレ・ベルグワール)についてのノンフィクション。
30人以上を殺害したと自白し、そのうちの8件で有罪判決を受けた連続殺人犯の真実を追求する話です。
著者のハンネス・ロースタムは、スウェーデンテレビの調査ジャーナリスト。

著者のロースタムは、「関係者の取材を進め、裁判の資料、病院のカルテ、警察の取り調べ記録、現場検証を収めたのビデオなど」膨大な関係資料を分析し、トマスの告白、「俺は一人も殺していない」を信じるにいたった。

2008年から約2年わたる地道な調査の過程が記されています。

物的証拠がなく、犯人の「やった」という告白に関係者がみな「あいつがやった」と流されていく過程の不可解さと恐ろしさがp564にわたり述べられています。
ぼくに言わせれば、強制されてもいないのに、自分から「やった、やった」と自ら進んで告白した者を弁護する必要もないと感じるのですが、当人が精神を病んだ薬漬けの患者であり、それをいいことにして、医療関係者、捜査関係者が自らの利益のために利用し、陥れたとなれば、ジャーナリストとして、これを黙って見過ごすことは出来なかったのでしょう。

 <アメリカ無実プロジェクト>は一九九二年設立以来、DNA鑑定を用いて二百八十二人の冤罪を晴らしてきた。プロジェクトの報告によれば、こうした人々のうち二十五パーセントが警察による取り調べの最中に犯行を完全に、または一部認めており、その後自白を撤回しても、裁判所で認められることはなかった。
 未成年者、精神障害者、知的障害者、薬物乱用者が圧倒的に多く、なぜ自白したのかとのちに質問された際に最も多かった答えは「家に帰りたかったから」だった。


クイックの生育歴と殺人の関係は

 「クイックは四歳から父親にレイプされ、子供時代を奪われてしまった。恐怖に耐えられず、その恐怖をほかの誰かに受け渡そうと試みた。他人の人生を壊すことによって、自分の人生を再生できるという幻想を抱いたのだ。しかしこの効果は長続きせず、彼は殺人を繰り返さなければならなかった」

連続殺人犯を身内に持つということは、どんなことだろうか。

 おまえはその発言を正当化する理由があるのだろう。私は理解していなかったのだ。おまえを、「トマス・クイック」を弟に持つということは私にとって、生涯続く苦闘を意味していることを。
 今の私は、自分が苦闘のただなかにいるということを受け入れられる。おまえを私の心のなかにとどめ、兄弟の絆を信じつづけ、われわれが血を分けた兄弟だという事実を否定しないように努力している。……
 だがおまえは私の弟であり、私はおまえを愛している。


2012年1月12日、本書の原稿が完成した直後に、ロースタムは肝臓および膵臓癌で死去した。享年56。

 「連続殺人犯についていろいろ調べてみたところ、その手の犯人というのは特定のタイプの人間しか殺さないことがわかったわかったんだ。だがクイックの場合は、少年も少女も、子供も大人も殺していた。おまけに、目撃者もいなければ、物的証拠もなかった。すべてが謎めいたクソサーカスだったんだ」

 目眩がしてきた。つまり、そういう単純な話だったのだ。これは信仰だったのだ。
 信仰を持っているか、いないか。それだけのことだった。


 人がよく言うように、それは「何の変哲もない日」だった。最悪のことはいつだって、何の変哲もない日に起きる。

 『 トマス・クイック/ハンネス・ロースタム/田中文訳/早川書房 』

コメント
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