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ゆめ未来     

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動く標的/真実の10メートル手前/

2016年09月03日 | もう一冊読んでみた
 今週は、この2冊。
 動く標的/真実の10メートル手前/

動く標的/ロス・マクドナルド   2016.9.3

ハメット、チャンドラーとすすんできて、今週は、いよいよロス・マクドナルドです。
動く標的』を読みました。

読んでいると、電話交換手がたびたびでてくるのですが、今の若い方は、電話交換台を知らないでしょうね。
ぼくは、幼い頃、住んでいた田舎の郵便局で実際にみたことがあります。
昔は、田舎では郵便局が、電電公社の業務を一部請け負っていたのでしょう。
当時は、電電公社の電話交換手さんは、若い女性のあこがれの職業でした。
技術革新の速さ、時代や社会の変化の激しさには、今更のように驚かされます。
もうまもなく、公衆電話が分からない子供たちになるかも知れません。

ロス・マクドナルドが、ジョン・マクドナルドの筆名で本書を書いたのが、1949年だそうですが、今回読んでみても、全く古さを感じません。

 彼女のいうとおりだつた。しかし、仕事とは別に、わたしは彼女に興味がもてた。栄華を極めてから長い凋落の月日を送り、その苦しさを彼女は身にしみて知っているのである。

 彼女の車のドアをあけて、乗るのに手をかしてやった。彼女の胸がずっしりとわたしの肩にもたれかかっている。わたしは身を引いた。枕としても、もう少しあっさりした羽根のはいっているやつのほうが、思い出や敗北などのつまったややこしいものよりいい。

 「退屈したときにとばすのよ。きっと何かに出くわすぞと、自分をだますようにしてね。何か新しいものに出くわすぞと思わせるのよ。むき出しの光り輝いている、路上の動く標的とでもいうようなものよ」

 「金が人間に影響を与えるからといって、金のせいにするわけにはいかない。悪いのは人間のほうだよ。そういう人間は、金に頼ろうとするんだ。人間は自分のほかの値打ちがなくなると、必死になって金をほしがるんだ」


ぼくも書いてみたい、このような一言。

 暗い夢のなかから聞こえる柔らかい声だった。つづいて来る静寂に、夢が彼女の心から溢れ出して、夕日に落ちる影のように、長い影を落とすのだった。


 『 動く標的/ロス・マクドナルド/井上一夫訳/創元推理文庫 』



真実の10メートル手前/米澤穂信   2016.9.3

米澤穂信氏の『真実の10メートル手前』を読みました。

太刀洗万智、切れ長の眼が印象的(筆者がきまってこのことにふれるから)で、背は高く髪は長い。
魅力的な女性と連想させるための表現。
一見、表情に冷ややかな印象を与える顔。
しかし、細やかな配慮の出来る、実際は、心あたたかい優しい女性であることが、すぐに示される。
ならば、なぜ直球の真っ向勝負といかないのか。
お相手は、太刀洗の優秀さを際立たさせるためか、ぼくに言わせれば、可もなく不可もなく、存在感が全く窺えない。
それにどうしても理解できないのは、太刀洗は何故、コーンフレークに、あれほどもこだわったのか。
ファンのひとよ、許せ。

最近つめて、ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドを読んでいるせいか、今回のように日本のミステリーを読んでみると、ハードボイルドの乾いた文体のすごさ、面白さ、真っ向勝負のほどがよく実感できます。
どちらがより優れているということではありません、誤解のないように。

 『 真実の10メートル手前/米澤穂信/東京創元社 』
コメント
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