昨年出版した著書の挿絵です。
東京電力、大王製紙そしてオリンパスといい一流企業が仰天するような非倫理的なことをしています。しかしこれらは私にとっては十分予想されることでした。これからどんどん出てきます。安心して株を買っていられません。しかし株主のことばかりが出てきますが、実際被害に遭うのはその会社の労働者と顧客なのです。2~3年ほど前に書いた本の中でリワーク③「社格崩壊の時代到来」という章を書きました。これからの企業の社外取締役の中には、コーポレート・ガバナンスとして産業医学に造詣の深い精神科か心療内科の医者を是非入れるべきです。そうでなければ今の日本の企業はとても危険をはらんでいます。しかし日本の企業では産業医は何年たっても小間使いで、会社の重役どころか健保組合の理事にも入れてくれません。
本日は著書の15章を入れますので是非読まれて下さい。
第15章 リワーク(職場復帰について)その3
―社格崩壊時代の到来―
一般的なリワークの問題から少し離れるかも知れませんが、ラインのケアの最終版として心療内科医から見た経営精神論について述べたいと思います。社報のメンタルヘルス通信でここまで述べるのはどうかと迷いましたが、読者の中で将来役員や社長になられる方もいると思いますので、敢えて取り上げました。
精神医学では人間の「人格崩壊」という最悪の言葉があります。分かりやすく言えば人間性の喪失とか、普遍的な自分の消失とか、精神の総合的なコントロール力の消失といったところです。取りも直さず人格崩壊とは、精神的な状態が重篤なことを意味します。今これと同じように、日本いや世界の会社の「社格」が崩壊してきています。すなわち「社格崩壊」の時代の到来です。偽装表示、粉飾決算、セクハラ、パワハラ、内定取り消し、派遣切り、うつ病や在職者自殺の増加等々です。会社のために正しい事をしているのに評価されず、ゴマすり上手が出世する。会社が全てで会社のためなら法律違反も強要する上司。あるいは仕事でギリギリまで追い込まれて、とうとう精神の異常性がアクティングアウト(行動化)してしまい逮捕される部下、その他色々です。会社の社格が崩壊しないように、一体誰が会社をコントロールできるのでしょうか。会社のポリシーや正義は誰が取り仕切っているのでしょうか。会社の司法や健康は誰がチェックし修正しているのでしょうか。道徳性や倫理観、指導性や協調性が無くなり全てが曖昧になってきました。愛社精神も保てなくなっています。
株式会社では配当金を出さなければならないし、株価も高くしなければなりませんので、企業の社会的貢献よりどうしても利益を出すことが中心目標になりがちです。ましてや今のように不況の状態であれば、直接利益が出ないところは切り捨てられていきます。さらに、大株主の銀行や商社又は親会社から役員が来て、厳しくプラスマイナスを問われます。しかし、多くの出向役員は専門外の現場のことを良く知りませんので、この時に会社の重要な機能が障害されることがあります。またたとえ現場出身の役員でも、経営学や心理学を専門的に学んでいる分けでもないので、マイナス思考的な事ばかり強調し、社員のパフォーマンスを上げることが出来ずに、かえって従業員の精神不安に拍車がかかることもあります。これからは優秀な役員でも、社員の不祥事で会社が倒産したり、社長が責任を取って辞めるということもあるかも知れません。現在のメンタルヘルス障害によるコンプライアンス低下は、今後も多くなってくると考えられます。表6は会社のシステムマネージメントと従業員のパフォーマンス向上に必要なポイントです。
これらのことは、バブル前の終身雇用制度の時は結構できていた所もあります。しかし前に述べたように、現在では利益という結果が目的となってしまい、会社で働くすべての人が幸せになるという本来の目的が薄れています。それは経営者だけではなく、労働者側もそうである場合があります。労働組合も自分たちの利益ばかりを追求すると、アメリカのビッグスリーのようになる事もあります。仕事を楽しく向上心を持って充実して働き、そこで様々な技術と人格形成を獲得する事が大切です。
昔企業では性格の未熟な社員や人格障害の社員でも、上司や同僚が父親や兄の役割を担い、幼い頃に完成できなかった親子関係の失敗を先輩や同僚による再教育で代償し、無事に定年を迎えた社員も多くいました。しかし今では、そういったメンタルヘルスに困難性のある社員の面倒を見る余裕のある企業はなくなりました。その結果若い人達は職場で長続きせず、性格的に未熟な若者の離職者は増加し失業率を高めています。一方頑張っている人達も父親不在となり、子供の非行や登校拒否又は離婚も増えています。「農業の多面的機能」という言葉があります。それは農業が農作物を生産するという経済効果だけではなく、水田による洪水の防止や山林保護による肥沃な土壌や河川水の形成による魚介類の成長に役立っているということです。またそれらによる自然環境保護の貢献は、金銭で計り知れないものがあるということです。これと同様に私は「企業の多面的機能を大切に」という言葉を敢えて提唱したいのです。それは企業業績を上げ社会貢献をするということだけでなく、職業人生の中で働く人の人格を高めて人間性を完成させ、その家族も合わせて心身共に健康とし、幸せにするということを意味しています。健全な社格を持った会社が日本全体を健全にするだろうということです。
自殺大国日本が、貧乏であるが自殺がほとんど無い精神文明の高い国に莫大な経済援助をしています。パフォーマンスでなければ援助は悪いことではないでしょうが、心療内科産業医としては何かしっくりしません。国内や企業内でもっとお金を優先的にかけて、しなければならないメンタルにおける救済対策が有るのではないでしょうか。自殺をしてまで一体誰を助けるというのでしょうか。
今本当に世界で助けがいるのは日本人自身ではないでしょうか。今大不況でお金が無く、何処でもお金を得るために四苦八苦しています。本当にお金がどんどん大切になってきています(デフレ状態)。しかし、それは実は「結局お金だけでは幸せになれないよ」ということを気づかせようと、逆説的にその原点を物語っているのではないでしょうか。