ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

未来の美術愛好者たちへ。

2010-10-08 18:05:36 | 文化
生前、一顧だにされず、失意のうちに亡くなった芸術家の作品が、死後、評価されるということがありますね。時代の先を行っていた作品に、作者の死後、ようやく時代が追いついた、ということなのでしょうか。例えば、ゴッホ(Vincent van Gogh)。今でこそ美の巨匠ですが、生前は赤貧の中で絵を描き続ける日々でした。

また、生きた時代にそれなりの評価を受けていたものの、時の波間にいつの間に消えてしまった作品が、数世紀を経て再び脚光を浴びるという場合もあります。例えば、17世紀前半に活躍した光と影の画家、ラ・トゥール(Georges de La Tour)。「国王付画家」の称号を得た有名画家でしたが、死後すっかり忘れ去られてしまった。それが20世紀初頭に突如、再発見された。時代の振り子が再び、ラ・トゥールの美に合致したのでしょうね。

私の作品を理解してくれる人たちは、今、ここにはいない。私の死後、100年とか200年経ってから理解されればそれでいい。そのとき、未来の人々は21世紀のエッセンスを感じる取ることができるだろう。私たちが織り上げることのできないタピスリーの織糸を受け継いでくれることになるだろう・・・こう述べるアーティストの作品が、今、ベルサイユ宮殿で公開されています、賛否両論、かまびすしい中で。

ご存知ですね、村上隆氏の作品展です。上記の村上氏の言葉も含めて、10月1日の『ル・モンド』(電子版)が簡略に紹介しています。

『ル・モンド』曰くは、「古い」、「新しい」という論争を超えて、古典主義の殿堂で行われている日本人アーティストの作品展は、現代アートの非常識と行き詰まりを仮借なきまでに白日の下に晒している!

もちろん、哲学者で美学にも造詣の深い、パリ第1大学教授のヒメネス氏(Marc Jimenez)のように、「厳格さや純粋さへの信奉に異を唱える傲慢さや奇抜さよ、永遠なれ。ベルサイユ宮殿での一時的な冒涜は、いちいち目くじらを立てるようなことではない」、と述べる人もいますが、村上隆展に懐疑的な眼差しを向ける知識人が多いようです。

歴史家・エッセイストにしてアカデミー会員でもあるフュマロリ氏(Marc Fumaroli)は、「国家とその公僕、国の文化遺産とその維持管理者に対して私たちが抱いていたイメージを揺さぶるとともに、民間部門やマス・カルチャーのマーケットと我々との関係に一撃を与えた」、と語っています。

また、画家の自伝をよく書いている作家のワット氏(Pierre Wat)は、「この作品展に関するもっとも残酷なパラドクスは、文化施設が自らの首を絞めているという印象を多くの人に与えていることだ。考慮よりも大騒ぎを、永遠よりも瞬間を大切にすることにより、自らの首に死のロープを巻いている。市場価値が尊重される世界に美術も生きているとは言え、こうした態度は、美の実践やその実践が求める美の鑑識眼を育成することに反している」、と述べています。

なぜ村上作品の展示場所がベルサイユ宮殿なのか・・・かつて『ル・モンド』のインタビューに、池田理代子作の『ベルサイユのばら』との関連性を絡めて語っていた村上氏ですが、日本のマンガに詳しくない記者や読者のためには、『ベルばら』の説明から始めなくてはならず、どこまで理解されたのやら・・・今回は、「自分の作品が伝統を愚弄しているなんていうことは、まったくない。伝統的技法と現代的イメージを結びつけて、過去と未来に橋をかけるものなのだ」と語っています。

古典主義の殿堂とも言われるベルサイユ宮殿での現代アート展。実は、今回が3回目。2008年にはキッチュな作風で知られるアメリカ人アーティスト、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)の作品展が行われましたが、この時も反対派が開催中止を行政裁判所に提訴したほどの騒ぎになりました。昨年は、フランス人のグザビエ・ベイヤン(Xavier Veilhan)の作品がベルサイユ宮殿を飾ったのですが、2年前や今回ほどの騒ぎにはなりませんでした。従って、一部には、人種差別を懸念する声も出ているそうです。

こうした騒ぎや批判にもかかわらず現代アート展を実施するベルサイユ宮殿側の狙いとは・・・思うに、「過去」を守るだけでは、新しいものは生まれてこない。「過去」に新しいものを衝突させることにより、新たなエネルギーが生まれてくる。新しいページを繰るチカラが生まれてくる。そうしたことを理解しているからではないでしょうか。こうしたことを理解し、しかも実践しているからこそ、フランスは常に文化の中心の一つでいることができるのではないでしょうか。エッフェル塔をはじめ、いくつもの建築物が、建設当時は非難や罵声を浴びました。しかし、いつしかパリの街に溶け込み、今やなくてはならないものに。伝統をしっかりと守りながら、それだけに拘泥せず、常に改革を目指して新しいものを受け入れる・・・なかなかできそうで、できません。

日本では、氏自ら認めるように、アーティストとしてよりも辛辣な評論家・コメンテーターとして知られている村上隆氏。ベルサイユ宮殿を訪れた日本人観光客たちも、作者のことは知らないけれど、日本人の作品があって、いい記念になった、と喜んでいるそうです。

未来の美術愛好家たちから絶賛される作品になるのか、サブカルチャーがもてはやされた21世紀初頭の徒花で終わってしまうのか。その作品の価値は、時の流れという冷徹な批評家の手に委ねられています。
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フィヨン首相の新たなる挑戦。

2010-10-07 19:45:51 | 政治
中間管理職・・・上司には気を使わなければならないし、一方、部下をうまく使いこなすには、これまた何かと気を使わなければならない。気苦労が絶えない立場ですね。フランス政界でこのポジションと言えば、首相。上には大統領がいますし、閣僚も数が多い。大臣、そして担当大臣。2009年6月23日に発足したフィヨン改造内閣では、実に総勢38人。

2007年春から首相の地位にいるフィヨン首相の場合、上司がどこにでも顔を出し(omniprésent)、自己流を強引に押し通すサルコジ大統領ですから、特に気が休まる暇もないのではないかと思ってしまいます。

当初は大統領の陰に隠れて存在感がないとか批判されていましたが、プライベートも含め何かと騒がしい大統領のそばで、落ち着いた対応をしているうちに、いつの間にか評価が一転、大統領を超える支持率になっています。しかし、3年半、そろそろ新たな動きを模索しているのかもしれません・・・

9月25日の『ル・モンド』(電子版)が、「フランソワ・フィヨンの新たなる果敢な行動」(“Les nouvelles audaces de François Fillon”)という見出しで、紹介しています。

最近、フィヨン首相は、この3年半を振り返って、自分なりの総括を行っている。そうした言動から、この11月末に予定されている内閣改造で、首相の地位を降りるのではないかと噂されています。

先日もテレビ番組に出演し、いつものように控え目に語り始めたそうです。サルコジ大統領との関係については、彼が大統領になるのを支援しようと決断し、大統領選キャンペーンのかなりの部分を取り仕切ったが、その結果については今も満足している。しかし、だからと言って、彼が自分の精神的指導者というわけではない・・・サルコジ大統領をして一蓮托生の仲(collaborateur)と呼ばしめるフィヨン首相からの言ってみれば謀反のような発言ですが、こう述べた後、破顔一笑、自分よりももっと控え目な人がいるのはお分かりでしょう。つまり、そんなにいつもいつも大統領の言い成りになっているわけではないと言っているのでしょうね。さらには、家族などプライバシーに関することまで発言。耳目を集めるインタビューだったようです。

そして、首相の座を去った後についても言及。政界に入って30年。首相を降りたとしても、ゼロから、一議員として再出発することはない・・・つまり、もっと上を狙った野心があるということなのでしょう。与党UMP(国民運動連合)のトップか、2014年のパリ市長選挙への立候補か。首相曰く、新たな目標を設定することが必要であり、それを成し遂げることが大切だ・・・その通りですね。最近も、サッカーの元日本代表監督のオシム氏が言っています。「それは自分のことをやっぱり信じていなかったんだろう? それが問題なんだ。謙虚は美徳でもあるが、ときに夢を観る前に諦めてしまう。日本人はサッカーについてもっと野心を持っていい。それを実現できるだけの力はもう持っている」(10月5日:スポルティーバ) 夢を持つこと、しかし同時に、オシム氏がかつて言っていたように、夢を見過ぎてはいけない。現実の自分を見失うことなく、夢を持つこと。つまり、夢を見るのではなく、実現すべき夢を持つこと。どんな世界でも言えることなのでしょうね。

さて、9月24日、与党議員を前に、フィヨン首相はUMPのリーダー然とした雰囲気を醸し出しながら、次のように述べています。我々は決して譲歩はしないし、周囲のいら立ちに左右されてはいけない。個人的な野心と党の将来を切り離して考えてはいけないし、自らの能力を属する陣営の方針に反して行使すべきではない・・・党としての団結を訴えるスピーチで、党の代表であるベルトラン氏(Xavier Bertrand)や下院幹事長のコペ氏(Jean-François Copé)に対する挑戦状とも取れますね。

しかし、こうした今までにない大胆な発言が、本当に首相辞任につながるのかどうかについては、「?」マークが付くようです。フィヨン首相は、次のようにも語っています。今フランスは危機から脱出しつつあり、大統領の任期、5年の新たな段階に入る。大統領が明日どのような決断を下そうが、我々はそれを支持し、2007年以来行ってきた改革を断行する義務がある。皆さんの信頼があり、自分でそれができると思う限り、いつの日か皆さんがチームとしての結束や共通の関心事が約束と違っていたと言わざるを得ないような状況には絶対にさせない・・・首相継続を考えた上での発言とも取れますね。

ただ、フィヨン首相は、この夏の治安や不法移民に関する強硬な対応とは一線を画していることを明かしています。左派であろうと右派であろうと、不法移民に対する取り締まりを政争の具にすべきではない。

さて、11月の内閣改造で、フィヨン首相は辞任をするのか、あるいはサルコジ大統領の任期が切れる2012年春まで継続するのか・・・大統領の陰から這い出した首相の将来が、大きな注目を集めています。

蛇足ながら、日本で、その将来が注目されている政治家は? 強制起訴される民主党の元代表でしょうか・・・いつもながら、日本の政界、前向きではありませんね。残念。
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パリにアパルトマンを持つ・・・夢のまた夢。

2010-10-06 20:23:19 | 社会
パリにある自分のアパルトマンに暮らす。おしゃれですね。カッコいいですね。憧れますよね。例えば、作家の辻邦夫。パンテオンの裏にある名門リセ「アンリⅣ」のすぐ東側の通りにパリ滞在時用の住まいを持っていました。その建物には、「日本人作家・辻邦夫がいつからいつまでここに住んでいた」というプレートが壁に貼られています。もちろん、一般の日本人の方々でも、ご自分のアパルトマンに住んでいる方が多くいらっしゃいます。

ところで、例に出した辻邦夫。高校から大学時代によく読んだのですが、今や歴史の彼方に消えてしまいつつあるようです。『天草の雅歌』、『安土往還記』、『嵯峨野明月記』、『サマランカの手帖から』、『北の岬』、『春の戴冠』、『背教者ユリアヌス』・・・タイへ赴任する少し前、1990年頃は、その全作品六巻を古本屋に出すと、すごく喜ばれたものですが、6年後、中国赴任時に他の辻作品を古本屋に出そうとすると、もうこういう本は売れないんですよと、二束三文。そして、今や、ウィキペディアに「辻邦夫」の項目は見当たりません。歌は世につれ、小説も世につれ、ですね。

さて、そのパリのアパルトマン、異常に値上がりしているそうで、一般のフランス人にすら高嶺の花になってしまったとか。9月27日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

今、パリのアパルトマン、1㎡単価、いくらくらいだと思いますか・・・平均で7,000ユーロ程度。1ユーロ=115円で計算して、805,000円。80万として、70㎡の物件が、5,600万円。しかもこれはあくまで平均で、高級住宅地を持つ3つの区(たぶん、6、7、8区、あるいは16区?)では、9,000ユーロを超すそうで、1㎡あたり約100万円。

こうした中、若くてもアパルトマンを購入する人がいるそうです。しかし、ほとんどが、パリと言っても周辺部の小さなアパルトマン。しかも、親の援助があって、はじめて買えるそうです。例えば、フリーでダンサーをしている女性。親が1995年に6万ユーロで購入した、13区にある40㎡のこじんまりとしたアパルトマンに住んでいるそうですが、所有権の半分は妹のもの。それを買い取ることにした。そのアパルトマン、今では22万ユーロ(約2,500万円)に値上がりしているそうで(15年で3.7倍です!)、その半分11万ユーロを妹に払うことに。貯金23,000ユーロを頭金として払い、残金は毎月600ユーロの18年払い。年収は22,000ユーロ(約250万円)だそうで、そこから年間7,200ユーロ(約82万円)の支払い。贅沢はできないかもしれませんが、親のお蔭でパリに自分のアパルトマンが持てました。フランスの親子関係、もう少しドライなのかと思っていたのですが、子に美田を残す親もいるんですね・・・

15年で3.7倍といった不動産価格の急上昇は、平均的世帯のアパルトマン購入という夢を情け容赦なく打ち砕いています。今年パリで住まいを購入した人に占める労働者の割合は、2000年の2.4%から1.1%へ。サラリーマンの割合は、16.0%から7.6%へ。多数は、経営者、自由業、芸術家、商店主といった人たちで、49.3%とほぼ半数を占めているそうです。特に、ストック・オプションや高額なボーナスを手にする経営者や芸能界のスター、IT産業や金融界の新興富裕層が、高級アパルトマンを購入しているとか。どこの国も、同じですね。

パリに住む人の、住宅に関する負担は重く、収入の22%が住宅関連に割かれているとか。全国平均では18%だそうで、いかにパリでは住宅費が負担になっているか、分かりますね。パリに住む人の収入は、全国平均を34%上回っているそうですが、それでも庶民にとって住宅取得は容易ではないようです。

不動産価格の急上昇の一因は、リーマン・ショック後の株価急落に懲りて、資金を不動産に回す投資家が増えたこと。ロンドンのシティで働くあるフランス人が、手持ちの株をすべて売り払い、その1,500万ユーロ(約17億2,500万円)という資金をパリの不動産に投資。12戸ほどのアパルトマンを購入し、賃貸に出しているそうです。株よりもパリの不動産、という判断なのでしょうね。確かに、パリの不動産はロンドンなどと比べて割安感があり、オイル・マネーが狙っていると数年前から言われていました。今やオイル・マネーだけではなく、様々な資金がパリの不動産に流入している。不動産バブル・・・

7区の病院跡地に建てられたアパルトマン191戸の建物。その半分近くが投資用だそうです。また、地方に住む人で、パリにアパルトマンを購入し、自分がパリに行ったときに滞在するとともに、空いている期間は旅行者などに貸し出す人も増えているそうです。自治体では、こうした住民登録しない不動産所有者が増えることを懸念しているとか。ウィークリー・アパルトマンなどが増えると、その地区に住む学童も減少し、教育にも影響してくる・・・日本でも、沖縄県が同じような悩みを抱えていると聞いています。別荘としてマンションやコテージを購入する人が増えている。結果、住民税は増えないが、住民サービスにかかる費用は増えてくる・・・

高嶺の花のパリのアパルトマン。その中でも特に高嶺の花の例も紹介されています。立地は高級住宅地で、広さ150㎡から200㎡のアパルトマン。価格は200万ユーロ(約2億3,000万円)ほどするそうです。こうした物件を購入できるのは、50万ユーロ(5,750万円)ほどの頭金があるか、すでに別の物件を所有している人でないと無理だそうで、しかもローンを払い続けるためには月収が2万ユーロ(約230万円)ないと苦しいとか。従って、こうした豪華なアパルトマンを購入できる層は、フランス国民の1%以下しかいないそうです。当然と言えば、当然ですが・・・

10月4日の『ル・モンド』(電子版)が、不動産融資の金利が3.3%と戦後最低レベルになったと伝えています。2005年第4四半期に3.36%だった金利が、2008年の第4四半期には5.07%にまで上昇。そこから一気に下落し、ついに戦後最低の3.3%へ。しかし、数パーセントの動き。不動産価格はここ15年で3.7倍。金利の低下は投資家にとってはいいニュースかもしれないですが、パリのアパルトマンが高嶺の花となってしまった庶民にとっては・・・

ということで、パリは不動産価格急上昇の真っ只中。以前からパリにお住まいで、ご自分のアパルトマンをお持ちの方、羨ましい! 中国の不動産バブルははじけ始めているとも言われます。今後パリの不動産はまだまだ上がるかもしれませんが、いつかは終わりが来る。投資をお考えの方は、どうか、ババを引きませんように。高嶺の花と眺めているだけの人間にとっては、ババを引く心配がないのが、せめてもの救いです、さびしい話ですが。
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アヌシーの夢、アヌシ―の抗議。

2010-10-05 19:50:35 | スポーツ
ローヌ・アルプ地方、オート・サヴォワ県の中心地、アヌシ―(Annecy)。フランス東南部、アルプスに近く、ジュネーブとシャンベリーの間にある、人口5万ほどの歴史ある都市です。パリからはTGVで3時間半ほど。風光明美な自然、そしてウィンター・スポーツを存分に楽しめる施設、ということで、語学留学先としても人気がありますね。

この町が抱いて夢とは・・・2018年の冬季オリンピック(Jeux Olympiques d’hiver)を誘致することです。今まで、フランスは冬季オリンピックを3度、開催しています。1924年のシャモニー、68年のグルノーブル、そして92年のアルベールビル。特にグルノーブル・オリンピックは、その記録映画『白い恋人たち』(“13 jours en France”)で、今も多くの方の記憶に残っているのではないでしょうか。監督は『男と女』でも有名なクロード・ルルーシュ。そして、すぐ蘇ってくるフランシス・レイ作曲のテーマ曲。

しかも、競技面でも、ジャン=クロード・キリー(Jean-Claude Killy)がアルペンの3冠王に。フランス国内はもちろん、世界中で大きな話題となりました。

あの興奮を再び・・・という夢を抱いて、アヌシーが18年の開催地に立候補したのですが、もちろん、競争相手がいます。ドイツのミュンヘン、そして韓国の平昌(Pyeongchang)。アヌシーは選ばれるでしょうか。競争相手は、それぞれ手ごわいですね。

今までの開催した回数と獲得したメダルの数を国ごとに見てみると、面白い結果になります。

<冬季オリンピックの開催回数>
・4回:アメリカ
・3回:フランス
・2回:日本、イタリア、スイス、オーストリア、ノルウェー、カナダ
・1回:ドイツ、ユーゴスラビア、ロシア(2014年の次回大会)

<冬季オリンピックで獲得したメダル数>
・ノルウェー(303)・アメリカ(253)・オーストリア(201)・ソ連(194)・ドイツ(190)・・フィンランド(156)・カナダ(145)・スウェーデン(129)・スイス(127)・イタリア(106)

これら10カ国だけが100個以上のメダルを獲得しています。フランスは・・・94個でこれら10カ国に次いでいます。メダル獲得数では11位ですが、開催回数ではすでに3度の2位。4度目の開催、どうでしょうか・・・

その点、ドイツのミュンヘンは有利。ドイツは戦前(1936年)に1度開催しただけですが、競技面では実績十分。ぜひ、戦後初の冬季オリンピックを、という立候補理由は、説得力を持ちますよね。

また韓国は、アジアで2カ国目の開催を! スケートのショート・トラックを中心に、すでに45個のメダルを獲得し、アジアではトップの座に(2位は中国で44個、日本は3位で37個)。しかも、キム・ヨナ選手のフィギュアの金も記憶に新しいですね。さらに、日本以外のアジアの国々にも、スケート以外のウィンター・スポーツを広めたいというIOC側のマーケティング上の目論見もあるでしょう。

というわけで、アヌシーの夢実現には、強敵が立ちはだかっているのですが、今度はなんと、足元にも障壁が・・・9月25日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

600人を集めた開催反対のデモが行われた! デモを呼び掛けたのは、反オリンピック委員会(le comité anti-olympique:CAO)。環境保護団体、左派の政治グループ、農業団体などを中心とした委員会で、40台のトラクターを先頭に、600名が続くデモを実施したそうです。

反対理由は、オリンピック競技施設の新設・拡充により、ただでさえ減少している貴重な自然が破壊されてしまう! 山のリゾート地にこれ以上の設備は要らない! そして、横断幕に曰く、「コンクリートか、農民の生活か」・・・

コンクリートから人へ、という我が国・民主党の政策は、どうなってしまったのでしょうね。

さて、さて、オリンピック開催にあたっては、近年つねに環境保護との両立が大きな課題となっていますが、アヌシーも例外ではないようです。環境を守るべきか、オリンピック開催による経済の活性化や雇用の改善を選ぶべきか・・・日本でなら、どこかの研究所が経済波及効果はどれくらい、とすぐ算盤をはじいているところでしょうが、フランスでは公表されているのかどうか、この記事には出ていません。短期的には経済効果も大きいのでしょうが、長期的に見た場合はどうなのか。オリンピック開催を自分の実績として歴史に残したいとか、自分の任期中だけでも経済が活性すればそれでいい、というような首長でしたら、何が何でも開催へ向けて努力をするでしょうが、環境にも目配せできるような人なら、どうでしょうか、開催にこだわるでしょうか・・・

提案書の修正をIOCから指示されたアヌシー。冬季オリンピック開催という夢は、実現するのでしょうか。決定は、来年7月6日のIOC総会でなされます。
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大統領夫人の陰謀。

2010-10-04 19:48:33 | 政治
(夏の疲れが出たのか、単に歳のせいなのか、風邪とぎっくり腰で、ちょっと間が空いてしまいましたが、今日から再開です。)

昔、『大統領の陰謀』(“All the President’s Men”)というアメリカ映画がありました。ご覧になった方も多いかと思いますが、1976年制作で、ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードが主演。ウォーター・ゲート事件を追求した『ワシントン・ポスト』紙の二人の記者の手記を映画化した作品で、助演男優賞などアカデミー4部門を受賞しています。

大統領になるのも大変なら、その地位を守るのも並大抵ではない。大変なポストですが、そこを目指す人たちは後を絶たない。「権力の魔力」・・・しかし、本人は自ら望んで得た地位だけに、どんな苦労もいとわないのでしょうが、家族が大変。先日も、カーラ・ブルーニ=サルコジ大統領夫人に関する本“Carla et les ambitieux”(カーラと野心家たち)の中で、ミシェル・オバマ大統領夫人が、「ホワイト・ハウスでの生活は、ひどいものよ。もう耐えられない」と語ったという個所があり、「ホワイト・ハウスでの生活は、地獄」とも伝えられ、大きな話題になりました。

この“Carla et les ambitieux”(カーラと野心家たち)と時を同じくして、カーラ・ブルーニ=サルコジ大統領夫人に関するもう一冊の本が出版されました。“Carla, une vie secrète”(カーラ、ある秘められた人生)というタイトルの本で、いわゆる自伝。カーラ夫人の許可は、得ていません・・・著者は女性ジャーナリスト、Besma Lahouri(ベスマ・ラウリ)。2006年には、サッカーの英雄、ジダン(Zinedine Zidane)に関する著作で話題になったことがあり、二匹目のどじょうを狙ったようです。

カーラ夫人の秘められた人生に現れてくるのは、9月16日の『ル・モンド』(電子版)の見出しにあるように、“L’intrigante Carla Bruni-Sarkozy”(陰謀家、カール・ブルーニ=サルコジ)。その陰謀家ぶりや、いかに・・・

と、期待してル・モンドの記事を読みだしたのですが、中心は、どちらかと言えば、ニコラ・サルコジ(大統領就任前・後を問わず)の気に入らない人間に対する強圧的な態度。

まずは、大統領就任前の、2005年。有名人のプライバシーなどをよく紹介するグラフ雑誌、『パリ・マッチ』(Paris Match)が、時のサルコジ内相の当時の夫人・セシリアが恋人(後に再婚するRichard Attias)と一緒の所の写真を掲載。2005年にセシリアとリシャールはアメリカへ恋の逃避行をしており、ニコラとセシリアは離婚かと言われましたが、大統領選立候補に際し、表向きは関係修復。しかし結局、大統領就任後、2007年10月に離婚しました。問題は、『パリ・マッチ』誌のオーナーであり、ニコラ・サルコジの友人でもあるラガルデール氏(Arnaud Lagardère)に、編集長を馘首にするよう要求したことです。実際、編集長(Alain Genestar)は職を追われ、また問題の写真を撮影したカメラマンは、脱税を調査されたそうです。

もうひとつのエピソードは、2008年2月、カーラ・ブルーニとの再婚を目前に控えたサルコジ大統領が、前夫人のセシリアにSMSを送った件。そのメール内容は・・・「戻ってくるなら、すべてをキャンセルする」! この内容が、左派系週刊誌『ヌーベル・オプセルバトゥール』(Le Nouvel Observateur)のサイト上で公表され、それこそ蜂の巣をつついたような大騒ぎに。ルチエ(Airy Routier)編集長は警察の聴取を受けたほど。ルチエ編集長は、“Carla, une vie secrète”(カーラ、ある秘められた人生)の中で、次のように述べています・・・『ヌーベル・オプセルバトゥール』も聴取を受けたが、同じく、当時のマルチノン(David Martinon)大統領府報道官も調べられた。このメール事件の情報源と疑われたからだ。そして、マルチノンは、しくじった。取り調べに対し、私に電話などしていないと、答えたからだ。すぐさま、通信記録を調べられ、私と15分も話していたことが分かってしまった。厳しい取り調べが、法廷ではなく、大統領府(エリゼ宮)で行われた。セシリア前夫人と親しく、サルコジ大統領が長年市長を務めていたヌイイ市の新たな市長候補に取り沙汰されていたマルチノンは、全ての職を解かれ、ロサンゼルス領事として、フランスから追いやられてしまった。

続いては、有名人のゴシップやプライバシーを取り上げるメディアに対するニコラとカーラの反撃。カーラやセシリアに関する記事の多さに、大統領府はついにメディアにブレーキをかけることを決断した。さっそく、“Gala”、“Voici”、“VSD”といったセレブを取り上げる雑誌を発行しているメディア・グループ「プリスマ・プレス」(Prisma presse)のオーナーであるボエ氏(Fabrice Boé)をエリゼ宮に呼びつけ、大統領周辺のプライバシーを報道することは、今後問題になるとほのめかした。状況は深刻であり、メディア側次第で、大統領府はどのような対応でも取ることができる・・・会談後のボエ氏は顔面蒼白だった。

そして、ようやく、カーラ夫人の陰謀家ぶりが・・・まずは、人事介入。ミッテラン(Frédéric Mitterrand)文化相(ミッテラン元大統領の甥)が、未成年者に対する性的交渉で逮捕された映画監督・ポランスキーを擁護した際、サルコジ大統領は文化相の罷免を望んだようだが、カーラ夫人は自分の持っている全ての影響力を駆使して、思いとどまらせた。カーラ夫人はまた、前夫との間の子供の名親(parrain)であるボド氏(François Baudot)を文化行政監察官のポストに就けるのにも大きな影響力を示した、とか。

また、セシリアと親しい前法相のラシダ・ダチ女史(Rchida Dati:現在は欧州議会議員・パリ7区長)との逸話。カーラ夫人はダチ女史をエリゼ宮の私的エリアに呼び出し、国家元首のしるしのある部屋を見せた、この部屋の主になりたいんでしょう、とささやきながら・・・権謀術数というよりは、人の悪さ。

さらに、もう一つ。「カーラ航空」事件。フランス政府には7機の専用機があるそうなのですが、そのうちの1機は、カーラ夫人専用になってしまっている。つまりカーラ航空の所有機。その迷惑を被ったのが、前・協力フランス語圏担当大臣のジョイアンデ(Alain Joyandet)氏。地震に見舞われたハイチでの復興支援会議に参加する際、政府専用機が使えず、民間機をチャーターした。その費用、11万6,500ユーロ(約1,300万円)。この国費の無駄使いが一因で辞任に追い込まれています。

ということで、いろいろな例が出されていますが、このル・モンドの記事からでは、カーラ夫人が「陰謀家」なのかどうか、良く分かりません。ル・モンドの記事も、内容は“Carla, une vie secrète”(カーラ、ある秘められた人生)からの抜粋であり、確証のないものは条件法で書いています。~かもしれない、といったニュアンスですね。ミシェル・オバマ大統領夫人の「地獄」発言などと相まって、カーラ夫人を陰謀家とすることがタイムリーで面白いニュースになるだろう、ということなのかもしれない・・・

「大統領夫人の陰謀」よりも、やはり「大統領の陰謀」の方が、はるかに面白のではないでしょうか。多くのメディアのオーナーと親密な関係にあるサルコジ大統領。そうした背景にもかかわらず、現場のジャーナリストたちが、大統領の陰謀を探り、発表できるかどうか。フランス・メディアの健全性がこの点にかかっていると言ってもいいのではないでしょうか。そして、ふり返ってみれば、我らが日本メディア。その現状や、いかに・・・
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若き中国人ブロガ―、“Diaoyu”を語る。

2010-10-01 20:18:22 | 政治
“Diaoyu”って、何・・・漢字で書くと、すぐ分かります。Diaoyuとは、釣(Diao)魚(Yu)。そう、魚釣島のことなんですね。尖閣諸島沖で海上保安庁の監視船と中国のトロール漁船が衝突した際の様子を撮影したビデオの扱いをめぐっては、国会でいろいろと遣り取りが継続しているようですが、全体的には一応、少し鎮静化してきてはいますね。

日本のメディアを通して紹介される中国の対応は、外務省の女性報道官が発表する公式見解だったり、反日デモだったりしますが、「80后」と呼ばれる1980年以降生まれの若い中国人たちの意見を9月22日のル・モンド(電子版)が紹介しています。

「80后」を代表して取り上げられているのは、作家、レーサーにして人気ブロガ―の韓寒(Han Han)氏。1982年9月23日生まれですから、28歳になったばかりですね。『三重門』(日本でのタイトルは『上海ビート』)は203万部を超えるベストセラー。ブログはすでに4億5,000万回のアクセスがあるそうです。

国を統治する人々に冷めた、皮肉のこもった眼差しを向ける韓氏にとって、今回の領土問題は、大きな関心事ではないそうです。なぜなら、若者たちの愛国的な高揚感はいつも検閲によって押さえつけられるか、当局に都合のいいように利用されてしまうからだ・・・

韓氏は9月13日、魚釣島を守れと掲示板に書こうとしたところ、違法な内容を含んでいるという理由で、書き込むことができなかった。そこで、尖閣諸島と書き込んだところ、驚くべきことに、問題なく書きこめてしまった! 

こうした対応に、韓氏は政府の偽善を見てしまうそうです。政府の忍耐には限度があり、怒りが限界を超えて激しく非難を始めた際には、国民も同じように非難してもいい。しかし、いったん政府が矛を収めるや、国民はそのことに関するいかなる非難も行うことはできでなくなる。もしそうした時期に非難の行動に出てしまうと、罰せられることになる。政府はまるで将棋をやっているようなもので、「歩」の一つにすぎない国民一人一人は指し手の意向を無視して勝手に動くわけにはいかないのだ・・・

9月18日、日本に抗議するデモが予定されていましたが、50名ほどの規模に警察によって規制されてしまいました。韓氏はそこで、もう一度、政府を皮肉る書き込みを試みました。香港の週刊誌『亜洲週刊』によると、韓氏の文章は書き込んでわずか50分後には削除されてしまった!

ル・モンドによれば、韓氏の文章はいつも隠喩と寓話に満ちている。例えば、魚釣島を守るために中国政府が行ったことは、日本の駐中国大使を5回も、そのうちの1回は真夜中に、まるでコール・ガールならぬコール・ボーイを呼ぶかのように、呼び出すことだけだった。

また、デモに参加することについては・・・よそ者が向かってくるようなふりを少しでも見せたら、まるで虐待されるかの如く激しく吠えるよう躾けられた犬になったようなものだ。また、領土問題については・・・中国の庶民には解決できない問題だ。なぜなら、中国では土地の私有は禁止されており、国民は政府の借家人にすぎないのだから。

そして、魚釣島をめぐる領土問題は・・・屋根から落ちた一枚の瓦が原因で隣家と喧嘩を続けている家主のようなものだ。かといって、その瓦を拾いに行く勇気もない。借家人である国民に何ができるのであろうか。土地も持たない国民が家主のために戦う必要があるのだろうか。尊厳を与えられていない国民が、政府の権威のために戦う必要があるのだろうか。

さらに続けて・・・魚釣島に関する反日デモや、聖火リレーの問題に起因する反仏デモに、私も参加したい。ただし、条件がある。強制立ち退きに抗して焼身自殺した唐福珍(Tang Fuzhen)や当局の気に入らない作品を発表したというだけで8月に投獄されたジャーナリスト・Xie Zhaopingを支援するデモに参加できるならば、という条件だ。しかし、唐さんやXieさんを支援するデモができるくらいなら、魚釣島や聖火リレーの問題がそもそも生じることもないだろうし、まして、唐さんの悲劇やXieさんの投獄も起きるはずがない。

国内問題に関して、静かにデモを行うことすら認められていない国では、国外の問題に関するデモにはいかなる価値も見出せない。単なる集団ダンスにすぎない・・・

こんなふうに、「80后」のトップ・ランナー、韓氏は語っているそうです。考えたことを自由に言えない、思ったままに行動する自由がない国に暮らす人々。それでも、勇気を持って発言をしている人たちがいる・・・しかし、日本に暮らす私たちには、その自由があるはずです。自分でしっかり考え、その意見を堂々と発言する自由! 

国として、自国の考えをしっかりと述べ、国家の主権、国民の平和と繁栄を守っていく・・・そのためには、まずは、一人ひとりが自分の意見をはっきり言うことから始めたいものです。何しろ、国民の集合体が国家であり、政治は国民を映し出す鏡とも、国民は自らにふさわしい政治しか持てない、とも言いますから。国民一人一人が変わらないと、国は変わらない。上司のご機嫌や世間様の風向きを気にせず、堂々と自分の考えを述べる。お互いに述べた後で冷静な話し合いを行い、結論を導き出していく。せっかくの言論の自由、活用しない手はありません。

何事も商売、商売と、揉み手で、卑屈な笑いを浮かべながら他国と相対するのは、いい加減に止めたいものですね。だから、「商を持って政を制す」と高圧的な態度に出られてしまうわけです。主義主張をはっきりとさせてから、交渉へ。例えば、GDP第2位の経済大国となった中国に3位に転落した国が支援を続けるのは、いかがなものか。しかも、中国への支援の多い国は、日本、ドイツ、フランス、イギリスという順。日本は最大の支援国。日本以外の国々では、世界第2位の経済大国を支援することはもはや納税者である自国民に容認されないだろうと、支援プロジェクトの削減や規模の縮小を検討し始めたとか。こうした件も、しっかり交渉カードに使ってやっているのでしょうか。何事も、事なかれ主義で、言いたいこともじっと我慢しているのでしょうか。その挙句に、暴発してしまうのでしょうか・・・暴発しないためにも、言いたいことはしっかりと、冷静に言いたいものです、個人でも、その集合体である国家でも。
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