ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

17万年、払い続けなさい!

2010-10-09 17:42:01 | 経済・ビジネス
例えば、日本での住宅ローン。その返済期間は一般的には最長でも35年ですね。人の一生には寿命がありますから、そんなには長くできません。それが、17万年。17年ではなく、17万年です!

アメリカの刑期は累積方式なので、時に長期になることもあります。それでも、150年とか300年。では、17万年とは、何のことでしょう・・・

実は、損害賠償の支払い期間。もちろん日本ではなく、フランスでの話・・・ご存知ですよね、2008年の初め、株価指数先物取引で銀行大手ソシエテ・ジェネラルに49億ユーロ(当時の換算レートで7,800億円)もの損害を与えたとして逮捕された同社の元トレーダー、ジェローム・ケルヴィエル(Jérôme Kerviel)被告。彼に言い渡された損害賠償額が49億ユーロ。その返済に必要だろうと言われている期間が、17万年、というわけです。5日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

保釈後、IT関連企業で働いているケルヴィエル被告の収入は、月収2,300ユーロ(現在のレートで約26万円)。この額すべてを返済に充てたとしても、完済するのに177,000年かかるそうです。17万年超・・・気が遠くなります。ほとんど冗談としか言いようがないですね。

背任、文書偽造とその使用、コンピューター・システムへの不正侵入の罪に問われていたケルヴィエル被告への判決公判は5日に行われたのですが、言い渡されたのは、禁固5年(実際に収監されるのは3年)とソシエテ・ジェネラルが被った49億ユーロの賠償支払い。

被告側は、経営陣は利益を出すためにリスクを冒すことをむしろ奨励していたし、どのような取引が行われているのか承知していたはずだとして、無罪を主張していましたが、認められませんでした。裁判官は、度を越した取引について上司の許可を得ていなかったこと、損失が明らかになるにつれ、いかに社内の監督システムを欺かに傾注していたことからも、被告の有罪は明確だと断罪。検察が求刑したのは、禁固5年と罰金375,000ユーロ(約4,300万円)だったのですが、罰金の代わりにそれをはるかに上回る賠償金の支払いを命じたわけです。ただし、速やかに支払わない場合は、即刻収監される罰金とは異なり、賠償支払いですので、刑が確定するまで収監されずに済んでいます。

この判決内容には、裁判官が「偽りの平静さ」、「徹底した冷酷さ」、「不正に対する冷笑主義」と評したケルヴィエル被告の態度も影響しているのかもしれません。この判決は、言ってみれば、モラル喪失に対する償いを求めているのだとも言われています。

ケルヴィエル被告がこの巨額な賠償を、実際、支払っていくことになるのかどうかは、ソシエテ・ジェネラルにかかっています。賠償支払いを取り消すことができるそうです。しかし、実際に支払うとなると・・・

仮に、出所後、働き口があって、月収1,700ユーロを得るとすると、支払うのは448ユーロ。いくら賠償を支払うと言っても、生きていく最低の生活費は保証されるそうで、住居費や食費がこれに含まれ、計算すると支払うのは448ユーロで済むそうです。手元に残るのは1,252ユーロ(約14万円)。この額で暮らしていくことになります。とりあえず生きていくことはできるでしょうが、何しろ49億ユーロ。支払額は、それこそ雀の涙。死ぬまで状況は好転しようがありません。これではまるで終身刑。49億ユーロを、毎月448ユーロずつ支払っていくと、91万年超! 

今までフランスで科された賠償の最高額は、台湾へのフリゲート艦売却を巡る不正な手数料収入によりタレス社(Thales)に対して下された6億3,000万ユーロ(約72億4,500万円)。その8倍にもなる賠償支払が一個人に科された・・・ソシエテ・ジェネラルが実際に賠償請求を行うことはなく、損失額がどれほどになるかを裁判を通して明確にしたかったのだろう、と言われているようですが、はたしてその判断は・・・

リーマン・ショックもすでに昔話。再び億単位や数千万円のボーナスを手にしている金融界。その陰で、すさまじい賠償額を背負い込むことになるかもしれないケルヴィエル被告。彼はしくじった、で済ませてしまっていいものでしょうか。業界全体の体質に問題はないのでしょうか。第2、第3のケルヴィエルを生み出さないという保証はあるのでしょうか。かつて1社員の引き起こした損失で破綻したイギリスのベアリングズ銀行の例もあります。金こそすべて、でいいのでしょうか。「金」がなければ暮らしてはいけない。しかし「金」が生きていく目的の全てになっていいものでしょうか・・・時には、こんなことにも思いを馳せて、自分の生き方を再検証してみるのもいいかもしれません。秋が深まれば、夜長。時間はあるのですから。
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