ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

それでも、ニコラ・サルコジしか、いない。

2011-02-28 21:21:07 | 政治
世論調査と言われるものに、疑いの眼差しを向ける人がいます。対象者はコンピューターによる無作為抽出とは言うものの、本当に偏りがないのかどうか。サンプル数は、客観性が保たれるほどに十分なのか。結果に意図的な操作が加えられてはいないのか・・・さまざまな憶測、あるいは危惧を抱くことさえあり得ますが、されとて現状ではほかにデータがないため、少なくとも参考にするほかはありません。

日本ではメディアが実施している場合が多いですが、フランスでは、調査専門会社が調査設計やら実査、結果の集計までを行っています。その結果をメディアが公表する場合には、実施した調査会社名を明記しますし、依頼主(お金の出どころ、メディアが一般的)も明示することになっています。また、調査方法、サンプル数、年齢・性別・支持政党ごとの割り当て(le quota)なども同時に公表する場合も多くあります。日本よりは信憑性が高いような気がします。

そのフランスでも、大統領府(l’Elysée)が匿名で調査を依頼していたことが会計監査院の調査で分かってしまい、2009年7月、大きな問題になったことがあります。ある世論調査の結果が『ル・フィガロ』紙などに掲載されました。その調査は“OpinionWay”という調査会社が実施したのですが、スポンサー、つまりお金の出所がメディアではなく実は大統領府だった。しかも支払った額が、約40万ユーロ(現行レートでおよそ4,500万円)。その世論調査、結果に何らかの操作が加えられていたのではないか。そう思われても仕方ありません。しかも、メディアによって伝えられる内容が、国民をミスリードしてしまう場合もありますから・・・日本の戦前を振り返っても、頷けることです。

こうしたいろいろな問題をはらんでいるとはいえ、最初に述べたように、他に頼れる客観的なデータがないので、やはり世論調査はそれなりに参考することになります。来年の大統領選挙、誰が勝利を収めそうなのか。24日の『ル・モンド』(電子版)が最新の世論調査の結果を伝えています。

2012年の大統領選挙、59%の国民が再選を望んでいないにもかかわらず、サルコジ大統領は右派陣営の中では最も有力な候補者になっている。メディアグループ“BFM・RMC・20 Minutes”の依頼で調査会社“CSA”が行った世論調査の結果は、このような逆説的なものとなった。それはなぜか。右派陣営では唯一、第1回投票で極右・国民戦線(le Front national)のマリーヌ・ルペン党首(Marine Le Pen)を上回れることができるからだ(第1回投票には、多くの政党から候補者が出そろい、誰も過半数を上回れない場合、上位2名の決選投票になります。現時点での調査結果では、社会党候補としてIMF専務理事のドミニク・ストロス=カンが立候補した場合、トップになるのは間違いありません。従って、もし与党候補がマリーヌ・ルペン候補の後塵を拝するとなると、決選投票に進めない大敗北になってしまいます)。

サルコジ大統領に2期目を目指してほしくないと答えた調査対象者が59%、目指してほしいが33%、どちらとも言えないが8%だった。右派支持者に限っては、69%が再選へ向けた出馬を支持し、29%が反対、どちらとも言えないが2%だった。

もし与党候補がニコラ・サルコジでないとしたら、替わりになりうるのは誰か、という質問に対しては、フィヨン首相(François Fillon)が62%でトップ。続いて18%で与党・UMP(国民運動連合)のコペ幹事長(Jean-François Copé)、13%のボルロー前環境相(Jean-Louis Borloo)、2%は他の誰か、1%は誰もいない、となっている。

もし与党候補がサルコジ現大統領、社会党候補がドミニク・ストロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)IMF専務理事だとした場合、第1回投票で誰に投票するか、という質問に対しては、ドミニク・ストロス=カンが28%でサルコジ大統領を抑えてトップ。2位がサルコジ大統領で23%、続いて国民戦線のマリーヌ・ルペン党首で18%、さらには反資本主義新党(le Nouveau Parti anticapitaliste)のスポークスパーソン、オリヴィエ・ブザンスノ(Olivier Besancenot)が8%、左翼党のジャン=リュック・メランション党首(Jean-Luc Mélenchon)が6%、中道・MoDemのフランソワ・バイルー党首(François Bayrou)が5.5%、新党を立ち上げた前首相のドミニク・ドヴィルパン(Dominique de Villepin)が5%、緑の党の欧州議員、エヴァ・ジョリー(Eva Joly)が4%、サルコジ支持の元国防相で新中道のエルヴェ・モラン党首(Hervé Morin)が1%、極左政党・労働者の戦い(Lutte ouvrière)のスポークスパーソン、ナタリー・アルト(Nathalie Arthaud)が1%。

また、もし与党候補がサルコジ大統領でない場合、与党候補と国民戦線のマリーヌ・ルペン党首との戦いは・・・UMPのコペ幹事長なら12%、ボルロー前環境相でも同じく12%で、18%のマリーヌ・ルペン党首に敗れてしまう。フィヨン首相がようやく同じ18%でマリーヌ・ルペンに並ぶことができる程度だ。この3人の与党候補に対しては、ストロス=カン社会党候補はその差を大きく広げて、楽勝が期待できる。

・・・ということで、与党・UMPはかなり追い込まれています。国民の人気が就任時から大きく下落してしまったサルコジ大統領。もし社会党候補としてストロス=カンIMF専務理事が立った場合、大統領に勝ち目はないようです。しかし、他に強い候補がいない。サルコジ大統領以外では、第1回投票で早くも消えてしまうかもしれない。消去法的に、サルコジ大統領を押すしかない、という結果になっているようです。

一方、ストロス=カン支持者は多く、しかも社会党支持者だけには限らないような気がします。その国際的な活躍がメディアによって頻繁に報道されていますから、その影響もあって中道や右派陣営からも支持者を集めているのではないでしょうか。自分は社会主義者だというストロス=カン氏ですが、経済学博士にしてIMF専務理事を務めた後での国家運営、はたして伝統的な社会主義者としての道を歩むのかどうか・・・

また、ヨーロッパ全体を覆い始めている外国人排斥の機運、国家主義、あるいは民族主義の台頭、そうしたトレンドに乗って支持率を伸ばす極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン代表。極右とはいえ、女性ならではの視点もあり、今までの極右とは一味異なるようにも思われ、支持の裾野を広げているのではないでしょうか。

あと1年少々、大統領選へ向けて、報道も過熱していきます。結果として、どの世論調査が正しかったのか・・・2012年以降の調査会社の信用度、ひいては経営を大きく左右するのかもしれません。