ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

教師、休む。代用教員、いない。父兄、怒る。

2011-02-09 21:26:05 | 社会
以前にも登場しましたセーヌ・サン・ドニ県(Seine-Saint-Denis)。パリの北東から北にかけてすぐ隣接する地域です。郵便番号に因んで“93”とも言われていますが、移民が多く住み、失業率や事件発生件数の多い地域(le quartier sensible)。問題を抱える大都市郊外の典型です。95年の騒乱(les émeutes de 2005)も、この地域で始まりました。

このセーヌ・サン・ドニ県で、新たな問題が持ち上がっています。舞台は、Epinay-sur-Seine(エピネイ・シュル・セーヌ)という町です。パリから北へ12km、セーヌ右岸に広がる人口5万人余りの町ですが、セーヌ・サン・ドニ県の中でも犯罪発生率の高い地域です。2005年の資料ですが、人口1,000人当たりの年間犯罪発生件数が113.70件。住民9人に一人が犯罪に巻き込まれていることになります。セーヌ・サン・ドニ県全体では95.67、全国平均が83.00ですから、その犯罪件数の多さが分かろうというものですね。

この町が今抱えている問題は、幼稚園で休む教員が多く、代用教員も手当てがつかず、朝せっかく子供を幼稚園に送り届けた父兄が、そのまま連れ帰るということが頻繁に起きているということです。同じことの繰り返しに、ついに堪忍袋の緒が切れた父兄たちが幼稚園を占拠。対策を急ぐよう、行政側にプレッシャーをかけ始めました。・・・6日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

2月7日、エピネイ・シュル・セーヌにある28の保育所のうち20校が、怒れる父兄によって占拠された。近くのサン・トゥアン(Saint-Ouen)の町でも14校、同じくセーヌ・サン・ドニ県内の他の町でもさらに数校が、同じく父兄によって占拠された。

父兄たちは、教師が休みのため、子どもをまた連れ帰ることに、もういい加減うんざりしてしまった。例えば、エピネイ・シュル・セーヌにあるジャン・ジョレス(Jean-Jaurès)幼稚園のあるクラスでは、昨秋の新学期からで既に58回も教師が休んでおり、そのうち50日は代用教員も来ず、子どもを連れ帰らざるを得なかった。うんざりした父兄たちは、1月中旬に教室占拠を始めた。当初、町の関係部署は、セーヌ・サン・ドニ県の他の地域よりも代用教員の割り当てが少ないためだと説明していた。

しかし、県内の代用教員の割り当ては子どもの数ごとに均等に配分されている。県内にある7,100クラスに700人の代用教員がおり、およそ10クラスに一人のバックアップ教員がいることになる。しかし、それでも休む教員をカバーできないのには他に理由がある。

パリから12km離れており、交通の便が良くない。しかも、犯罪が多い。従って、エピネイ・シュル・セーヌへの転勤を希望する教員が非常に少ない。この町への転勤辞令を受け取った教員たちも、ほとんどがここへ引っ越さずに、以前からの居住地から通おうとする。冬には、教員の欠席率が16%にも達するが、それはインフルエンザの影響なのか、あるいは長距離通勤に起因する疲労からなのか。他の町から通う若い教員に見られる休みが多いという特徴は、代用教員を割り当てる際、考慮に入れられたのだろうか。

この問題が解決されるとして、それまでの間、教員が休めば子供たちを世話する人間がおらず、子供を連れ帰らざるを得ない父兄たち。苛立ち、怒りに燃えている。文部大臣のリュック・シャテル(Luc Chatel)は以前、パリ市内や他のエリアから代用教員を派遣すると言っていたが、何と美しい約束であろうか。エピネイ・シュル・セーヌの父兄たちは、隣の県、ヴァル・ドワーズ(Val d’oise)から追加の代用教員がやって来るのではと期待しているのだが、今だ誰ひとりとして現れていない・・・

ということなのですが、エリアによっては、教員から見捨てられているところもあるようです。転勤したくない、できるだけ多く休んでしまいたい、問題に巻き込まれたくない・・・教員とはいえ、自らの考えや主張を優先する。その結果、子供をきちんと預かってもらえない幼稚園が存在することになる。幼稚園の先には、小学校、中学校。当然、そうした地域では教育のレベルも下がる。だから、教育に熱心な親の家庭は、そうしたエリアには決して移り住まない。従って、エリアによって、教育レベルに大きな開きができてしまう。

教員の欠席率が高いという点を除けば、何もフランスだけの話ではありませんね。日本でも、他の国々でも。しかも、遥か彼方の昔から。孟母三遷。パリでは、やはり6区、7区の教育レベルが高いようで、ソルボンヌ文明講座の教師も、子供の教育を考えて、7区に引っ越したと言っていました。

また、バカロレア(le baccalauréat:大学入学検定試験)の合格率も、高校ごとに発表になり、親としては当然、合格率の高い高校へ進学させたい。そこへ入るためには、どの中学校が良いのか、小学校は・・・ただ、フランスの場合は、高校の職業コースを卒業して実社会に出るという生徒も多いので、エリート校への進学は日本よりは少数精鋭の競争になっているようです。

移民の多く住む大都市郊外。そこで起きている問題をどう解決していくのか。フランスに突き付けられている大きな課題です。