ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

公務か、プライベートか。外交活動か、利益享受か。

2011-02-14 21:11:35 | 政治
閣僚が外国政府の招待を受けて海外へ。それは、外交活動に当たるのか、それとも、閣僚という地位への利益提供を享受したことになるのか。「法の精神」の国でも、このあたりはグレーゾーンで、意見が分かれるようですが、昨年末のクリスマス休暇での閣僚の海外旅行に関しては、非難が殺到しています。こんなタイミングで、こんな国へ行くなんて、どうかしている・・・8日、9日の『ル・モンド』(電子版)に掲載されていた数点の報道を基に、まとめてみましょう。

最初にやり玉に挙がったのは、アリオ=マリ外相(Michelle Alliot-Marie:略してMAM)。行った先はチュニジア。昨年末のチュニジアと言えば、すでに反政府デモが起きており、当局が実弾を発射して抑圧しようとしていた時期です。そうした時期に、事もあろうに旧宗主国の現職外相がバカンスを過ごしに出かけた。それだけでも「?」マークがつきますが、最終的には反政府の波に押されて海外(サウジアラビア)へ亡命したベンアリ前大統領に近い実業家からプライベート・ジェットの提供を受けて、首都・チュニスと観光地・カルタゴ(象に乗ったハンニバルの故郷ですね)を往復していた。

ベンアリ前大統領の正式招待ではなかったようですが、政府と反政府デモ隊の間を実弾が飛んでいるときに、その国でフランス外交のトップが権力側から利益提供を受けながら私生活でのパートナーと一緒にバカンスを楽しんでいた・・・これは政治的不手際と言われてもしようがないのでしょうね。野党・社会党は、外相のチュニジアでのバカンスはフランス外交にとって大きな汚点になったと非難して、辞任を求めています。

そこに、サルコジ大統領(Nicolas Sarkozy)が、今月初めにブリュッセルで開かれたEU首脳会議の後の週末、5日、6日の二日間、お忍びでニューヨークを訪問したことが明るみに。ニューヨークには末の息子・ルイ(Louis)が暮らしている。会いに行ったのでしょう。プライベートで行くなら、問題はないのでしょうが、パリ―ブリュッセル―ニューヨーク―パリと政府専用機を使っての移動。

ブリュッセルはパリからTGV(Thalys)で1時間半。飛行機で移動するより簡単じゃないか、という声に対して大統領府は、サルコジ大統領は就任以来、鉄道を使っての移動を差し控えている。それは安全面での理由と、多くの随行員ともどもの移動となるので、他の乗客へ迷惑がかかるのを避けるためである、と答えています。

しかし、チュニジア、そしてエジプト、さらにはアルジェリアと、地中海をはさんだ北アフリカで政権打倒のうねりが高まっているときに、いくら週末とはいえ、大統領が息子に会いにニューヨークへ行っていていいのか、という非難は当然起こりえますね。

そこに、追い打ちをかけるように、フィヨン首相(François Fillon)のクリスマス休暇問題が。外相がチュニジアなら、首相はその隣国・エジプトに。ただし、こちらはエジプト政府の招待だったようですが、しかしタイミングが悪すぎた。

エジプト滞在中の宿泊、そしてアスワン(アスワン・ハイ・ダムで知られていますが、アガサ・クリスティが『ナイルに死す』を執筆した場所であり、その舞台となった「オールド・カタラクト」ホテルも有名ですね)とアブ・シンベル(アブ・シンベル宮殿で有名な観光地)間の往復フライトをムバラク前大統領から提供してもらった。ムバラク前大統領にも会っているので、外交の一環と取れなくもないのですが、それでも家族そろっての旅行で、クリスマス休暇期間ということですから、どうなんだろうと首をかしげる向きも多いことでしょう。しかも、そのムバラク政権への国民の怒りが高まったとなれば、やはり問題視されても仕方がない。今ではそのムバラク政権が倒れた訳ですから、タイミングと行く場所が悪かった、と言わざるをえません。

しかし、クリスマス休暇の時点では、エジプトでは大規模な反政府運動はまだ起きていなかったわけですから、さすがの社会党も、フィヨン首相のエジプト行きをアリオ=マリ外相のチュニジアでのバカンスと同列には扱っていません。中近東の要であるエジプトの大統領との良好な関係を示すことで、自分のイメージを高めようとして、運悪く失敗したと見做しているようです。

日本語でも「外遊」というように、政治家の外国行きはプライベートなのか外交活動なのか、判然としないところがありますが、非難の三連発を受けては、サルコジ大統領も何らかの対応をしないといけないと思ったのでしょう、9日に新たなルールを閣議で発表しました。今後、閣僚のバカンスはフランス国内を優先すること。外国政府からの招待があった場合には、フランス外交にプラスになるかどうかを勘案して首相が認可することとする。さらに、宿泊費や交通費に関しても、賄賂性がないかどうか、官房がチェックをすることとする。

サルコジ大統領はさらに続けて、公共道徳に関する今日の国民の目は、以前とは比べ物にならないくらい厳しくなっており、政治家はそのことを理解し、自らの行動に責任を持つべきだ。国民の要求は当然のことであり、その要求に合致するようコントロールしなくてはならない。

確かに、アスワンの「オールド・カタラクト」ホテルにしばしば滞在したミッテラン元大統領(François Mitterrand)や、モロッコ政府から厚遇を頻繁に受けていたシラク前大統領(Jacques Chirac)のような例もありますが、当時は問題視されなかった。それが、サルコジ大統領の就任以降、2008年に大統領府での私的夕食会に出席するため、帰国用にプライベート・ジェットをチャーターし、138,000ユーロ(現在のレートで、約1,550万円)の公費を使ったエストロジ議員(下院議員兼ニース市長、産業大臣などを歴任)や、2010年初め、地震に見舞われたハイチで開かれる復興支援会議に出席するために同じくプライベート・ジェットを公費(116,500ユーロ:約1,300万円)で利用したジョワイアンデ議員の例などが非難の対象となり、批判をかわすためにフィヨン首相が昨年、ルールを制定しています。フランス国内の出張の際には鉄道か飛行機の定期便を利用すること、海外へ公務で出かける場合は政府専用機を使うこと、というものです。

『ル・モンド』は、この政府専用機についても、今回、追及しています。

現在フランス政府が政府専用機として利用しているのは、ジェット機が7機、プロペラ機7機、ヘリコプター3機となっています。

まずは、アメリカの大統領専用機「エア・フォース・ワン」に因んだ「エア・サルコ・ワン」(Air Sarko One)。首相や閣僚も利用できるとは言うものの、あくまで大統領に利用優先権があります。機種はエアバスA330-200で、カリブ航空から1億8,000万ユーロ(約200億円)で購入した中古機だそうです。給油することなく世界中どこまでも飛べる航続距離の長さが自慢です。

続いて、ファルコン(Falcon)7Xで2機保有しています。16人乗りの小型機ですが、パリ―ニューヨーク間を十分に飛べ、サルコジ大統領が息子に会いに行った際に利用したのもこのタイプです。2機のうちの1機はカーラ夫人のためにキープされていることが多いので、「カーラ・ワン」と渾名されています。

また、閣僚たちが主に利用するのが、ファルコン50で、老朽化した4機を保有しています。航続距離もあまり長くないそうです。さらには、プロペラ機、TBM700を7機、ヘリコプター、Super Pumaを3機保有しています。これら以外に、老朽化したエアバスA319を2機、ファルコン900を2機保有していますが、これらは売却の対象になっているそうです。

これらの機体を運行するのは、ETEC(l’Escadron de transport, d’entraînement et de calibration:運輸訓練計測航空中隊)に所属する168名の軍人で、国防省の管轄です。こうした人たちの人件費に加え、運行コストも当然発生します。ファルコン900を飛ばすのに1時間9,000ユーロ(約100万円)、ヘリコプターは1時間7,000ユーロ(約78万円)、エアバス330の場合は1時間当たり2万ユーロ(約220万円)かかるそうです。政府専用機の利用は、サルコジ大統領が38%、フィヨン首相が20%、国防相が5%、その他が37%となっています。

また、大統領と首相が政府専用機を利用する場合、故障によるスケジュールへの影響を考慮し、予備機が必ず1機、同行することになっています。コストが大きく膨らみますね。

財政危機の最中、こうしたコストが妥当なものかどうか、『ル・モンド』は他の国々のケースを調べています。

アメリカ大統領の場合は、安全第一で、コストに糸目はつけていないとか。ドイツのメルケル首相はエアバスA310、ブラジルのルラ前大統領は自国製の小型ジェット機エンブラエル190、中国の胡錦濤主席は「エア・フォース・ワン」と同じボーイング747-400機を利用しています。エアバスは英仏共同事業ですし、ブラジルはエンブラエルと自国機のセールスを兼ねているのでしょうね。中国の場合は、アメリカに肩を並べることが、特に国内向けに重要なメッセージになっているのではないかと思います。

では、日本の場合は・・・『ル・モンド』は言及していませんので、別に調べてみると、やはりアメリカに倣えで、ボーイング747-400を2機保有し、首相が利用する場合には「空飛ぶホワイトハウス」に因んで「空飛ぶ総理官邸」と呼んでいるそうです。

さて、フランスですが、外国からの便宜提供に乗りやすいのは、国のトップに公共道徳心が欠けているからだ、と社会党はサルコジ政権を批判しています。サルコジ大統領の“bling bling”(派手派手、成金趣味)が政権の隅から隅まで影響を及ぼしている・・・2012年の大統領選は、どうなるのでしょうか。ブリン・ブリンの継続となるのか、他の政党へ政権が移行するのか。どうなる事でしょう、目が離せません。