ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

笑うエリアと、泣くエリア・・・地域格差の大きい、フランスの失業率。

2011-02-11 21:03:28 | 社会
いろいろな統計数字を見る際、ついつい平均値で理解したつもりになったりすることって、よくありますね。平均寿命はどこの国が長いとか、国民一人あたりのGDPはどうとか。でも、格差の大きな国では、本当の問題が平均値に隠れて見えないこともある。地域ごとに、あるいは集団ごとに、さらには少数単位ごとに見て行かないと、問題を見過ごしてしまうことがありますね。そのためにも草の根の取り組みが必要になっているのですが。

そうした地域格差の例を、フランスの失業率が示しています。伝えているのは、7日の『ル・モンド』(電子版)です。

2010年末のフランスの失業率は、全国平均で9.3%。しかし、こうした平均値は、失業が大きな問題にはならず、経済危機もうまくかわしている地域と、社会問題の中の沈み、苦悩にあえいでいる地域、というフランスのふたつの顔を隠し、その格差に目が届かないようにしている。

失業率を雇用局の管轄エリアごとにマップに落として見れば、そこには大きな格差が浮かび上がり、その差は実に3倍にも達している事がわかる。INSEE(l’Institut national de la statistique et des études économiques:国立統計経済研究所)がフランス本土にある348の雇用局の事務所ごとにまとめたデータを、初めて『ル・モンド』が公表する。

今フランスは不景気と失業問題に意気消沈し、将来への心配から苛立っているが、それでも、失業問題に大きく影響されていない地域は存在している。イル・ド・フランス地方(l’Ile-de-France)、アルザス地方(l’Alsace)、リムザン地方(le Limousin)、ペイ・ド・ラ・ロワール地方(les Pays de la Loire)などだ。これらの地域では、失業率は7%以下で、さらに細かい区分ごとに見れば、完全雇用に近い数字の地域すらある。

失業率の最も低いところは、オルセー(Orsay:パリの南西22kmにある市)とロゼール(Lozère:南部、ラングドック・ルシヨンとオーヴェルニュの間にある県)で、失業率はわずか4.9%。また、ヴェルサイユ(Versailles:ヴェルサイユ宮殿でお馴染み、パリの南西にある市)、ロデーズ(Rodez:南西部、ミディ・ピレネー地方にある市)、モーリアック(Mauriac:中南部、オーヴェルニュ地方にある市)、ヴィトレ(Vitré:西部、ブルターニュ地方にある市)、サン・フルール(Saint-Flour:オーヴェルニュ地方にある市)、ロワシー・アン・フランス(Roissy-en-France:パリ北方、シャルル・ド・ゴール空港のある市)での失業率は5%をわずかに超える程度で、全国平均9.3%の半分程度の低さになっている。

INSEEの担当者は、次のように述べている。フランスの失業率を地理的に見てみると、そこには大きな構造的差異が見られる。リーマン・ショックによる経済危機にもかかわらず、その傾向は基本的には変わっていない。失業問題を他の地域よりうまく処理している地域は厳として存在している。

上記エリアが笑顔のフランスだとすれば、逆に泣くフランス、つまり、失業問題にあえいでいる地域は、主にノール地方(le Nord)、ピカルディ地方(la Picardie)やシャンパーニュ・アルデンヌ地方(la Champagne-Ardennes)の農村部、ラングドック・ルシヨン地方(le Languedoc-Roussillon)やPACA地方(Provence-Alpes-Côte d’Azur)の平均的市町村だ。

特に失業率の高い自治体は、ノール地方のサンブル・アヴェノワ市(Sambre-Avesnois)で、17.1%に達している。次いで、カレ(Calais:北部、ノール・パ・ド・カレ地方にある市)で16.2%、サン・カンタン(Saint-Quentin:北部、ピカルディ地方にある市)が15.0% 、ルベ(Roubaix:ノール・パ・ド・カレ地方にある市)とツゥールコワン(Tourcoing:ノール・パ・ド・カレ地方の市)が14.9%、ランス(Lens:ノール・パ・ド・カレ地方の市)で14.8%となっている。

失業は、あまり目立たず、よく知られていないような地方都市で、より深刻になっている。ベジエ(Béziers:南部、ラングドック・ルシヨン地方にある市)で14.9%、アレス・ラ・グラン・コンブ(Alès-La Grand Comb:ラングドック・ルシヨン地方にある郡)で14.5%、ガンジュ・ル・ヴィガン(Ganges-Le Vigan:ラングドック・ルシヨン地方の市)は14.2%。こうした地域は、金属鉱業や繊維産業といった近代化の遅れた産業に依存した地域であり、不況の影響をもろに受けている。以前から斜陽産業による影響を受けていたところに経済危機が押し寄せ、不況が長引いている地域だ。

・・・ということで、地理の勉強のようになってしまいましたが、美食と文化の国・フランスと言っても、地域による格差は大きい。パリにはもう飽きたから、地方へエコツーリズムに、と言っても、観光地の隣町では高い失業率に悩んでいるかもしれない。モザイク模様のように、さまざまなエリアが組み合わさってできているフランス。奥は、深い、ということですが、なにもフランスに限った話ではありません。

たとえば、タイ。観光客たちは、こんな笑顔の素敵な国はない。食事もおいしいし、ゴルフも安い。言うことなし。そんな感想を持つかもしれませんが、光が強ければそれだけ、影は濃い。数万円で人殺しを引き受ける人たちがいる。事故にあって死んだ人の無残な死骸をおかしがる人たちがいる。でも、こうしたことは、なにもタイに限った話ではありません。光と影。どこの国にもあります。

世界は、広い。しかも、その国一つ一つを知るには、奥が深い。大変ですけれど、だから面白いと思いたい。そう思わなきゃ、世界を少しでも知りたいなんて、やってられませんよね。