韓国“半導体二流国”に陥落。台湾との圧倒的技術力の差が露呈し、韓国経済は暗黒時代に突入する=勝又壽良
2022年10月9日
“半導体大国”を謳っていた韓国だが、生産する半導体は技術力を要しない汎用品が大部分を占めていた。
一方、高い技術力を要する半導体は、台湾が先行しており、世界市場の中心となりつつある。韓国は“半導体二流国”に成り下がった。
工業生産の大部分が半導体だった韓国経済は、暗黒の時代を迎える可能性が高い。
「半導体がこけたら皆こける」韓国経済構造
韓国経済の屋台骨は、半導体輸出である。韓国は5月以降、貿易赤字に落ち込んだ。半導体輸出の不振が影響している。
最近のウォン相場急落の裏には、半導体輸出不振による貿易赤字という問題があるのだ。
韓国経済は、製造業における一種の「モノカルチャー」的な現象を呈している。モノカルチャーとは、一国の産業構造が1つまたは2~3品目の農産物や鉱物資源の生産 (輸出向け)に特化した経済のことだ。韓国は、工業製品で半導体が圧倒的なシェアを占めている。その意味では、半導体が転けたらコリア経済も転ける構造だ。
韓国は、底の浅い経済である。
こういう脆弱な構造にあるという認識が、ゼロというのも珍しいことだ。
それどころか、GDP10位となって先進国意識に燃えている。
文在寅前大統領のように「日本に2度と負けない」と強烈発言もある。産業構造から見て、これは不可能というほかない。
韓国には、バランスの取れた産業構造へ転換することが、最も必要になっている。
技術力の低さが露呈した韓国産半導体
韓国は、メモリー型半導体で世界一のシェアを誇るが、非メモリー型半導体(システム半導体)では、台湾の後塵を拝している。
一口で言えば半導体技術力の差である。
メモリー型半導体は、パソコンやスマホ、ゲーム機などに大量に使われる汎用品である。非メモリー型半導体は、自動車など一段上の品質を要求される「オーダーメイド」になる。
汎用品半導体の市況は大きく変動するが、オーダーメイド半導体はその性格上、価格は比較的に安定している。注文生産ゆえに、過剰生産にならないからだ。
一口に半導体と言っても、メモリー型と非メモリー型ではこういう大きな差がある。韓国は、メモリー型半導体に依存するゆえに、すでに輸出面で市況下落の影響を受けているのだ。
韓国は、中国への輸出全体の依存度が25%と4分の1も占めている。
韓国半導体輸出額に占める中国の割合は40%。香港を含めると60%にも達している。
だが、中国のメモリー型半導体需要そのものが、大きく落ち込んでいるのだ。これを受けて、韓国からの半導体輸出も落ち込む結果となった。
中国国家統計局によれば、中国の8月の半導体生産は、前年同期比で24.7%も減少した。1997年に統計を始めて以来、最大の減少だ。
7月も前年比16.6%減である。今年1~8月までの半導体生産量は、前年比10%減少である。
この減少は、パソコンなどの需要減を反映したもの。
ゼロコロナで生産が落ちたわけでない。半導体生産は、全自動化であるのでコロナ感染とは無縁である。ただ、停電の影響は受けている。
技術力の高い台湾半導体の輸出は順調
台湾は、半導体の中国輸出で、韓国と全く異なる様相を呈している。
台湾の半導体輸出には、何の変調も出ていないのだ。
中国の半導体生産は、需要減で大きく落込んでいるのに、台湾半導体にはその影が全くないのはなぜか。
それは、台湾半導体が非メモリー型であることだ。
自動車などに使われる「オーダーメイド半導体」であるので、需要先に変調が出ないかぎり、台湾半導体輸出に陰りは出ないであろう。
台湾半導体の対中国輸出状況を見ておこう。
今年1~8月の中国向け半導体輸出が430億ドル。輸出全体の51.8%を占めた。1~8月の半導体貿易黒字は223億ドル。貿易黒字全体の92.7%を占めた。昨年1~8月の半導体貿易黒字は303億ドル、貿易黒字全体の69.8%だった。
込み入った数字だが、言いたいことは次の点にある。
今年は世界的なインフレで輸入物価が上昇している中で、台湾は半導体の貿易黒字で貿易収支全体を支えていることだ。
台湾トップの半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)は、設備投資資金も自己資金で賄うという「スーパー優良企業」になっている。
「オーダーメイド半導体」の採算が、いかに良いかを端的に物語っているのだ。
TSMCは、半導体の進化を支える微細化技術で、世界一の実力を持つとされる。20年春には半導体の性能を左右する回路線幅が5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を世界で初めて量産。製造分野に集中投資し「技術力と生産キャパシティーの両面で、各社はTSMCに頼るほかない状況だ」とまで言わせる存在だ。
半導体工場は台湾が占領
このTSMCに刺激された形で、台湾全島で半導体設備投資が進められている。台湾は、未曽有の半導体の投資ラッシュが起きている。総額16兆円に及ぶ、世界でも例を見ない巨額投資だ。世界から台湾の地政学的リスクが何度も指摘されてきた。それでも、台湾は巨額投資に突き進んでいる。
それは、世界一の「半導体生産基地」になれば、いくら中国でもこれら設備を破壊する侵攻作戦を始めないだろう。また、西側諸国が「半導体」台湾を簡単に見捨てることはあるまい、という思惑に突き動かされているように見える。
台湾南部の中核都市・台南市は、TSMCが一大生産拠点を構えた場所である。世界で最も先端の工場が集まる場所として知られ、今年、TSMCが4つの新工場を完成させたばかりである。さらに、2つの工場が建設されている。
TSMCは、最先端品(3ナノメートル=ナノは10億分の1)の新工場建設を周辺4カ所で同時に進め、拠点での集中生産を加速させる。
TSMCが手掛ける半導体の新工場は、少なくとも1工場当たり、投資額が1兆円程度と巨額である。それをTSMCは現在、この周辺だけで実に4工場も同時に進めているのだ。
この慌ただしさは、TSMCだけではない。こんな光景が今、台湾全土で広がっている。日本経済新聞が台湾の半導体各社の投資状況を調べたところ、少なくとも現在、台湾域内で20もの新工場が建設中か、あるいは建設されたばかりの状況であることが分かった。立地も北部の新北から、新竹、苗栗、さらには台南、最南部の高雄にまで全土に及び、その投資額の合計は前述の通り約16兆円にのぼる。
一見すると、無秩序な半導体工場建設に見えるがそうではない。
世界10大ファウンドリ(委託生産)企業のうち4社が台湾に存在している。世界1位のTSMCをはじめとする、台湾ファウンドリ4社の世界市場シェアは、今年の第1四半期基準で64.0%を占めた。ファウンドリは、非メモリー型半導体生産である。
今後、半導体があらゆる産業で不可欠の存在になるのは、この非メモリー型半導体に発展に負う。反面で、メモリー型半導体のウエイトは、次第に小さくなるであろう。
対中貿易で台湾に追い抜かれた韓国半導体
台湾は、「ファブレス(設計専門)─ファウンドリ(委託生産)─後工程」と連なる半導体生産の全段階にわたって競争力のある構造を構築している。台湾政府が、中国へ進出した半導体企業に対して、リショアリング(国内復帰)支援政策を通じて、台湾復帰を促したことも影響した。巨額投資が行なわれている背景である。
台湾は2019年から、ファウンドリ分野の競争力を基に、中国向け半導体輸出で韓国を追い抜いた。今年1~7月、中国の半導体輸入市場で台湾のシェアは35.0%で、米国の対中国制裁開始の時の2018年(28.9%)よりむしろ高まった。同期間、韓国のシェアは24.4%から19.6%に低下している。
メモリー型半導体から非メモリー型半導体へと、市場ニーズが移り変わっていることを示している。
韓国は改めて、非メモリー半導体分野の競争力を育て、半導体市場への対応力を高めなければならないことを浮き彫りにした。そうでなければ、韓国は「半導体大国」などと恥ずかしくて言えまい。
中国の圧力もどこ吹く風。欧米各国の台湾詣で
台湾は、すでに未来産業に欠かせない半導体大国の地位を手に入れている。それだけに、半導体で大きく出遅れた欧州が、台湾への接近を始めている。もちろん、「半導体がほしい」などという品格のないことを口にしないが、中国による「台湾接近反対論」を無視した行動の裏には、「半導体」の3字があるであろう。
バルト三国の1つであるリトアニアは、中国と犬猿の仲である。リトアニアが、外交関係のない台湾と積極的交流をしており、中国はこれを阻止すべく圧力を掛けているからだ。ロシアへも立ち向かうリトアニアである。自由と民主主義の戦いでは中ロに屈しないという強い姿勢を見せている。
リトアニアは、今年6月、8月と立て続けに台湾へ代表団を送った。中国は、制裁措置としてすでに、リトアニア製ピアノ輸入契約を破棄した。これに怒ったリトアニアの富豪が、輸入破棄されたピアノを全量肩代わりして、中国を物笑いの種にした。
中国はさらにドイツへ圧力を掛け、リトアニア製部品を組入れた工業製品の輸入禁止をドイツへ通告。ドイツは、中に入って困惑していたが、フランスがEU(欧州連合)議長国の権利を行使して、中国の不当なリトアニア制裁に反駁した。
台湾政府は、リトアニアが中国政府の制裁をものともせずに関係を強めていることに共感し、工業分野での協力関係を打ち出している。暗黙のうちに、リトアニアへの半導体工場の進出を臭わせているようにも見える。
これに刺激されて、欧州の大国であるフランスやドイツまでが、議員団を台湾へ送るようになった。昨年までは、想像もできないような事態の進展である。従来であれば、中国の目を気にして議員団の訪台は考えられなかったのだ。
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は9月8日、米国のステファニー・マーフィー下院議員率いる超党派の議員団と会談した。
頼清徳副総統も同日、フランス議員団と会談した。
米仏の議員団が、同時期に台湾を訪問する形になった。
8月初め、ペロシ米下院議長の訪台に、中国は大規模軍事演習の実施で反発した。今回は、米仏議員団がこれに強く対抗する姿勢をみせた形である。
ドイツ連邦議会(下院)の超党派議員団10月4日、訪台して蔡総統と会談した。中国が、台湾への軍事圧力を強めるなか、安全保障や環境の分野で意見交換したという。台湾にとっては8月以降、ペロシ米下院議長の訪台をきっかけに独仏の国会議員が顔を連ねて訪台したのである。台湾の世界的な地位の上昇を印象づけている。
ペロシ米下院議長は、訪台中にTSMCの劉徳音会長と面会した。これは、同社が米国アリゾナ州で半導体工場の建設を進めており当時、米議会で審議中の「CHIPSおよび科学法案」について打ち合わせしたと公表されている。ペロシ氏が、中国によるあれだけの反対にも関わらず訪台した裏に、半導体問題があったのである。
ドイツやフランスが、リトアニアに刺激されて訪台したのは、精神的な支援をするだけであるはずがない。米国と同様に半導体で台湾企業と関係強化に動き出したいのであろう。出遅れている欧州の半導体を軌道に乗せるには、台湾企業との提携以外に道はない。
半導体が、外交を動かす大きなテコになってきた。